メインヒロイン争奪戦 何? エロゲだって?!
10月13日――
授業中にて。
そろそろ定期試験の結果が返ってくる頃だ。果たして勉強会の成果は出たのだろうか。
ラムリーザは、自分の結果を見てひとまず安心する。ソニアたちの勉強を見ながらでも、なんとか平均点は維持できたようだ。
一応普通に授業は聞いているし、ノートは取っていたし、直前に復習も少しはやった。これで平均点が取れなければ、試験の難易度が高すぎると言えるかもしれない。
前回と同じく、ユコは振り返ってきて勝負を挑んできた。
「あ、一点負けましたわ。何でも申し付けてくださいですの」
「だから君はなんでいちいち勝負したがったり、負けたら負けたで身を捧げるんだね? あ、命令できるのね。なんでもかんでも勝負事にしないこと、はい」
「あーあ……」
ユコはしゅんとして見せるが、知ったことではない。
ラムリーザにとって、ユコは何の問題も無い。試験で問題があるとしたら、彼女ではなくて看板娘の二人だ。
「ソニア、結果はどんなだ?」
早速ラムリーザは尋ねてみたが、ソニアはまたしても答案用紙を隠そうとする。
「隠しても無駄だぞ、補習になったらがっかりするだけだ」
ソニアは「むー」と唸ったが、仕方なくラムリーザに答案用紙を手渡した。
相変わらず罰点が多い。
だが、若干前回より丸が多い気もする。
「あっ、ソニアは39点ね、また勝ったわ」
リリスはうれしそうに答案用紙を見せてくる。
こちらは41点。決して良くは無いが、前回の二倍近い点が取れている。いや、前回が悪すぎただけ、一応進歩はあったと見てあげよう。ソニアは前回は十点台だった気がするし……。
問題は、今回の赤点基準だ。前回は35点だったが、今回は?
その時、担当の教師は同じような感じで宣言した。
「えー、今回は38点未満の者は補習を行うので、放課後集まるように」
これまた同じように、クラスの一部から不満そうな声が上がる。
「やったーっ!」
一方ソニアは、答案用紙を掲げてその場に勢い良く立ち上がった。
ああ、一点ギリギリでパスしたね、おめでとう。
リゲルとロザリーンは問題ないので、今回は誰も補習に引っかかることは無く……って、やめなさい!
ソニアは、うれしさのあまり、席を離れて不思議な踊りを踊っている。
まあいい、今は好きなだけ踊らせておいてあげよう。
放課後、今回はみんな揃って部活に行くことができる。
カラオケ喫茶を文化祭のクラスでの出し物としてやることになったので、即席でもいいから一曲でも多く演奏できるようにしておいた方がいいだろう。
その前に演奏できる曲のリストを作ることをレルフィーナに頼まれたっけ……、などとラムリーザが思いながら座席を立とうとした時である。
クラスメイトのデドロワとガーディアの二人が急いでラムリーザの傍にやってきた。
「ラムリーザ君とその皆さんっ」
「なんぞ?」
「文化祭の出し物でエロゲ出すから協力してくれ。あ、俺たち電脳部なんだ、よろしくな」
「お、おう……。でもなんでエロゲ?」
「君たちは以前校庭ライブで、エロゲソングやってたから、そっちに理解あると思って」
「いや、理解があるのはユコだけなんだけど……、いや、リゲルもか?」
ラムリーザは、ユコに話を振ったところ、ユコは乗り気で「任せてください」と言うのだった。
だが、リリスは「冗談じゃない」と否定的だ。そりゃそうだ。
「あたしがメインヒロインなら引き受けるよ! 引き受けるよ!」
いや、オファーは演劇じゃなくてエロゲだぞ? ソニアは話をちゃんと聞いていたのか?
だがソニアは、以前ギャルゲーのイベントをなぞっていておもしろかったようで、快く引き受けている。ギャルゲーじゃなくてエロゲなんだけどな。エロゲなら、えーと、その、見せられないようなこともやるのだろう。いいのか?
ラムリーザは瞬時にそのような考えを巡らせ、慌てて口を挟んだ。
「待て、エロゲーはいかん。せめてR15に……、というか、文化祭でR18な出し物をしてOKなのか?」
「これは然り……。仕方ない、R15までに抑えておこう」
「大丈夫ですの!」
ユコが割って入る。余計なこと言うなよ……。
「見せられないよがありますわ!」
…………もういい。
こういうわけで、電脳部の出し物になる予定のゲームは、登場人物のイメージとしてラムリーザの周りの女の子が選ばれたのだ。
理由は単純で、エロゲソングを歌っていたから……。
話を進めていくうちに、電脳部の二人はとある事柄に難色を示し始めた。
「ところで、ソニアをメインヒロインにするのはちょっと……」
当然ソニアは反発する。
「何で?! あたしのどこがいけないの?!」
「いやその……、ソニアは爆乳過ぎる……。やるなら爆乳粋で……。メインにするとゲームの方向性が極端になってしまう……」
ぼそぼそと言葉を選ぶように説明するが、そんなことで納得するソニアではない。
「何よ! 『強まったソニア姫と雑魚のちっぱい集団』っていうタイトルにすればいいじゃないのよ!」
「それはちょっと……」
まぁ、そうだろう。ラムリーザは、自分は関係ないよ、といったポジションを取っていながら、しっかりと聞き耳を立てていた。
「というわけで、メインヒロインはロザリーンにしたいのだけど、いいかな?」
「仮面優等生がそんなにいいの? あんた騙されてる!」
一人ソニアがわめきたてるが、電脳部の二人に通じるはずも無い。二人ともきょとんとした顔で聞き返してくる。
「かめん? かめんって何だ?」
「ローザはね、表では真面目な優等生だけど、裏では攻撃的で怖いのよ」
「まじで?」
「ソニアさん、変なイメージ作るのはやめてください」
「攻撃的で怖いのはお前だろうが」
ロザリーンとリゲルは口々にソニアを非難してくる。
それに対してソニアは、「攻撃的で怖いのはリゲルだ」などと言い出して、もう何が何だかわからない。
結局、何の話だかわからなくなったので、ラムリーザはもう一度尋ねてみた。
「えっと、僕の仲間をスカウトしてどうするんだい?」
「それはだねぇ、文化祭に向けて作るエロゲ――あいやいやいや、ギャルゲのオープニングテーマやエンディングテーマ。それと台詞のアフレコをお願いしようかなってね」
「台詞? 声優の仕事ですの?」
ラムリーザと電脳部とのやり取りに、ユコが乗り出した。
「まぁ、そういうことになるかな」
それを聞いて、ソニアが調子に乗ってくる。
「へー、すっごーい。こんな感じ? えへん――、赤子の方が歯応えあるわ! 力無き者は見るのも汚らわしい!」
ソニアの芝居がかった啖呵を切って、ラムリーザとリリスとユコの三人が、それぞれ別の事を頭に浮かべて顔をしかめる。
リリスとユコは、試験勉強会の日にラムリーザを怒らせて、ゴムマリを破裂させたのを思い出して。一方ラムリーザは、対戦で何度その台詞を見たことか。
ラムリーザは、ソニアを押しのけて話を進めた。
「それで、イメージとか言ってたけど、実写でソニアたちを撮影するのか?」
「いや、グラフィックはCGで描くよ。ただ、キャラのモチーフになってもらいたいだけなんだ」
「あとテーマソングだけど、うちのメンバーに作詞能力持った人は居ないよ」
「それは以前校庭ライブで歌ってくれたアレでいい。あの歌結構良いし、イメージにぴったりだ」
「そりゃあ元々エロゲの歌らしいし――」
「あっ、大事なこと忘れてた!」
今度はソニアがやり取りに割り込んでくる。
「そのゲームの主人公は誰? 誰のイメージ?」
「クラスのイケメンのスカイテイルをイメージしようと思って――」
「降りた!」
ソニアは、さっきまで乗り気だったのに、突然降板を申し入れた。
「待ってくれ、スカイテイルはかっこよくていいじゃないか?」
「ラムが主役じゃないとやらない」
「……巻き込むな」
「あ、それもそうね。私もラムリーザが主役じゃないとやらないわ」
「私もですの」
ソニアに続いてリリスとユコも降板宣言する。
「お前ら……」
「ついでに言うなら、リリスルートがメインになるようにしてね」
いや、メインはロザリーンで行くと言っていたのだが、もうどうでもいいことになっている。
「うーん、まあいいか。こういったゲームの主人公の顔は出ないし。じゃあラムリーザ君、主人公のイメージになってくれていいかな?」
「えー、僕も台詞しゃべるのか?」
「いや、主人公はイメージだけ。こういうゲームには主人公の声は入れないんだよ」
そういえば、ソニアが買ってきたギャルゲー、ドキドキパラダイスも、主人公の台詞は一言も音声は入ってなかった気がする。そういう物なんだろう。
そういうわけで、ラムリーザはしぶしぶ電脳部の依頼を引き受けることにした。しかし、ちゃんと断りも入れておく。
「わかった、好きにしていいよ。でも先日のクラス会でカラオケ喫茶することになったのは知っているよね? 僕たちは、それに向けて準備する必要もあるから、時々空いた時間にってことで頼むよ」
ラムリーザの申し入れに、電脳部の二人は「大丈夫」と答えた。
「アフレコ作業は、録音できる場所が必要なんだよね。でも放送部は遊びで使わせてもらえないから、軽音楽部のマイクを借りようとか思ってたんだ。つまり、スタジオは軽音楽部部室を借りるということにしようかな、とか思ってたんだ。歌の収録もあるから、部室も貸して!」
ラムリーザは、それなら演奏の合間にアフレコさせてもいいか、とか思った。気分転換にもなるだろう。
「あまり邪魔にならないようにね」
「ありがとう、恩に着る」
話がまとまった所で、ラムリーザはふと思うことがあって、他の人に聞こえないように電脳部の二人に近寄って小声で聞いた。
「ところで、リリスはいいのか?」
「え? なんで?」
「いやほら、印象とか……。なんというか、昔……」
「昔? リリスを知ったのはこの学校に入ってからだけど。美人だと思うよ」
「そうか、ならいいよ」
この二人は、たぶん今まではリリスとは違う学校に通っていたのだろう。
こうして「ラムリーズ」の女性陣は、文化祭での電脳部の出し物であるギャルゲーにイメージと声として登場することになったのである。