パタちゃんクエスト

 
 1月8日――

 

 休み明けの学校。昼休み、教室にて――

 ソニアとリリス、ユコの三人は雑談中。リゲルはクッパ国についてさらに詳しい情報を収集中で、ロザリーンはその補佐役。ラムリーザはいつものように、引っ付いてきているソニアに持たれてぼんやりと外の景色を眺めていた。

 ソニアがラムリーザに引っ付いてくるように、今ではリリスとジャンもくっついている。そのおかげか、リリスのソニア煽りが少なくなって助かる。

「パタちゃんクエスト、どこまで進みましたの?」

 今日の雑談内容は、とあるゲームの話題でユコの持ち出したものだ。

 ユコの言うパタちゃんクエストとは、帝国産のゲームではない。パタヴィアのゲーム屋で見つけたもので、新しいゲーム機とソフトである。先週のパタヴィア旅行の土産として、リリスの物も含めて三台購入してきていた。帰ってくるなりそのゲームで遊んでいたようで、どこまで進んだか? というごくありふれた雑談であった。

「プロローグがいきなり牢屋の中なのよねー」

「ラスボスはやっぱりクリボー王なのかな」

「主人公は、パルパタとトゲトコの二人の少年だったね」

 なんだか聞いた名前が出てくる。ゲームの話なのか、パタヴィアでの出来事なのか、いまいち混同してしまいそうな内容だ。

 パルパタはパタヴィアを治めている長老で、トゲトコはその参謀役であった。パタヴィアでコトゲウメに聞いた名前だ。

 ラムリーザはその雑談が耳に入ったということもあり、ソニアがプレイしていたところをそんなにじっくりと見ていたわけでもないし、パタヴィアのドキュメンタリーゲームかな、などと考えた。パルパタとトゲトコという二人の少年が主人公か。まるでクッパ国の滅亡だな、などとも考えた。

 ソニアたちの話では、ゲームを開始すると牢屋の場面から始まるらしい。プロローグは「クリボー王がこの世に出現してから、たった三日でパルパタとトゲトコによって退治されようとしていた。しかし二人のミスで捕まってしまい、牢屋に入れられた。最悪の事態となった。パルパタとトゲトコの死刑はまぬがれん」というものであった。

 この辺りは、始まったばかりの出来事なので、ラムリーザもソニアがプレイしているところを見ていたりする。ソニアのおかげで、ラムリーザの部屋はゲーム機だらけだ。帝国とユライカナンとパタヴィアのゲーム機に加えてマイコンまである。

「これ、成功していたらクリボー王の支配って三日で終わってたのね」

「クリボーってあの老人でしょ? なんで魔王扱いされているんでしょう?」

 実際にクリボー老人に会っているユコは不思議がる。それまでは、クッパ国滅亡の歴史が一部だけ知られている状態で、クリボーと言えば厄介者の代名詞という扱いであった。だからソニアやリリスは、何かとつけて相手に「クリボーと付き合え」などと言っていたのだ。

「でもクリボー王って怖そう。凝尿攻撃とかしてくるわ、きっと」

 なぜかリリスの知っている凝尿も、クリボー関係でなぜか広まっている事柄の一つだ。

「ソニアも似たような攻撃してきますの」

「あたし凝尿なんて知らない」

「変な液体かけてくる癖に」

 ユコが言うのは、ブタガエンの事だ。製法はもう割愛。何の毒にもならない、ただの嫌がらせ液体だ。ソニアはブタガエンの入った小瓶を持ち歩き、口論のたびにリリスによくぶっかけている。

「ま、少年二人のほのぼのとした冒険物語にしたかったのでしょうね」

「その割には、牢屋にぶち込まれたり処刑になったりしましたわ」

 ユコの言う通り、多少の抵抗はできるが、物語早々二人の少年は処刑される展開となっていたのだ。これはたとえ子供でも容赦しないという、クリボー王の残忍性を表現したのだろうか。

「処刑で死んだのに物語が続くのが斬新ですの。処刑される寸前にドラゴンが現れて、グダグダになって助かるってゲームはあったけど」

「ソニアも一度死んでみたらどうかしら、くすっ」

 前言撤回。リリスはジャンと付き合うようになってもリリスだった。ソニア煽りは止まらない。

「何よ! 吸血鬼は一度死んでいるようなもの!」

 ソニアはそう言いながら、腕を素早く振るう。その手にはガラス製の小さな小瓶があり、リリスとその傍にいたジャンに何かが降りかかった。

 ラムリーザと付き合っているソニアは、いつも通りだ。

「それから、どういう展開だったかしら?」

 リリスは液体を振りかけられても、何も臆することなく話を続けている。結局ブタガエンは無味無臭で毒性もない。ただ、衝撃を与えたら「エンッ」と音がするだけ。何も触らないでいたら、そのうち気化して無くなるのだ。

「死後の世界で、竜大王に復活させてもらえましたわ」

「牢屋、処刑、死後の世界、復活で自由の身。そりゃクリボー王も油断するよね。まさか処刑した相手が復活するなんて、普通有り得ないもん」

「ま、ゲームだから」

 そこから先は、普通のRPGと同じ。ただし敵に負けたら再びクリボー王に捕まり、また処刑されてしまうし今度はゲームオーバーになってしまう。

「やっぱりクリボー王って、あのクリボー老人と関係があるのかしら?」

「クッパ王って世を欺く姿で、本当はクリボーが王様だったのよ」

 ソニアは適当なことを言うが、その話を傍で聞いていたラムリーザは、何かハッとさせられるものがあった。

 これは新しい説ではないか?

 もしもクッパ王とクリボーが同一人物なら、クッパ王は、存在しない架空の人物に全責任を押し付けていたことになる。この場合は、誰も困ることは無かった。犯罪検挙率を高めるために、全て架空のクリボーという人物に責任を押し付けて国費で保証していたとすれば?

 ――やっぱり馬鹿だ。

「このゲームのことも、今度パタヴィア言った時にクリボーから聞いてきてね」

 リリスは旅行には参加しないので、ソニアとユコに宿題を出している。どうやらこのゲームは、パタヴィア住民――というより、クッパ国の住民がモチーフになっているらしい。設定の裏事情や元ネタなどを知れたら、物語もより面白くなるというものだ。

 それから三人は、レベルがなんぼまで上がっただの、あの敵は危ないなどといった、情報交換を始めたのであった。

 しかし他のクラスメイトが聞いても、意味不明の会話だろう。何しろ帝国で売っているゲームではない。遠く異国の地で売られているゲーム、プレイしているのもこの辺りの地域ではこの三人ぐらいだろう。

「全く、珍しいゲームが来たせいで、リリスと遊ぶ時間が減ったぞ、どうしてくれるんだよラムリィ~」

 リリスの傍で話を聞いていたジャンだが、やはり話についていけなくてラムリーザの傍にやってきて文句を言った。

「別に僕はソニアのプレイを見ているだけで面白いから、ジャンも何も問題ないはずだよ」

「そうかその手があったか。今日からリリスのプレイを見ていてやろう」

 しかしそこに不満を示すものが一人。

「なんかずるいですの。リリスとソニアだけギャラリーが居るなんて」

「動画を作って解説なり実況なりしてくれたら見るぞ」

 ユコに助け舟を出したのはレフトールだった。しかし普通ならこれも手なのだが、黒歴史が身近にあるユコには効果が無かった。

「嫌ですの。ゲーム実況の動画なんて黒歴史を作った人が居るし」

 それはソニアとリリスだ。以前リードボーカルの座を賭けてゲーム実況対決を行ったが、その結果は意味不明の物であった。

「くっ、嫌なこと思い出させるわね」

 黒歴史の当の本人が、顔をしかめる。

「ユコが動画サイト立ち上げたら、あたしアカウント百個ぐらいつくって、全部で低評価つけてやる」

 もう一人の黒歴史ソニアは、さらに黒歴史を上塗りするようなことを言っている。

 とにかくここに居る娘たちにとって、ゲームの動画をどうこうするというのは鬼門でしかなかった。全て自業自得というものではあったが。

「それで、リリスはどこまで進んだんですの?」

 少しわき道にそれたが、再び異国のゲーム、パタちゃんクエストの話題へと戻る。

「アオカバと流砂で戦ったところよ」

「あれは放置していたら、一人で勝手に沈むんですの」

「そう、助けようとしたら、自分も流砂に巻き込まれるよ」

「助けてくれーって言ってくるけど、俺を入れるな、と突っぱねてやればいいのよ」

 どうやらその世界には流砂も出てくるらしい。

「でもその流砂、ウジ虫まで入っていたわ」

 ちょっと衛生環境に問題のある流砂だった。

「あたしはバトルゾーンで戦っている所。雑魚クリボーとかは簡単に勝てたけど、『みっ』とか言う敵に負けたら、突然ゲームオーバーになったよ」

 ソニアの言うバトルゾーンとは、闘技場みたいなものらしい。相手を選んで戦って、勝ったらアイテムが貰えるというものだ。

「ニャンニャンって敵は罠よね。あれを選んだら、負けイベントみたいな戦いになってゲームオーバーになったわ」

 さすがに彼女たちの話している内容、固有名詞までは独特過ぎて聞いている分にはわからない。「みっ」とか「ニャンニャン」という敵が出てくるらしい。前者はよくわからないが、後者はネコみたいな敵かな?

 するとリリスは、「こいつがニャンニャン」と言って、ノートの切れ端に何かのキャラクターを書いた。全然ネコみたいではなく、楕円形に顔がついているだけの単純な生き物のようだ。

「あれは事前にニャンニャン語を習得していないから負けイベントになるのよ」

 どうやらリリスは、謎の言語をマスターしているようだ。

「ニャンニャン語? 家はニャンニャン語で何?」

「何だったかしら、ドーブドブだったかな?」

 ゲーム内で適当に作られた言語らしい。覚えたところで、現実世界では何の役にも立たない。せめて宗教学で学ぶ竜語とかなら役に立ったというものだ。

「それじゃあユコはどこまで進んでいるの?」

「私はベリランに勝てないので、レベル上げをしているところですの」

「あれ、負けイベントっぽいよ。逃げるのが正解みたい。なんだか追いかけっこみたいなイベントが始まったし」

「えー、そうなんですの?」

 どうやら一番進んでいないのはユコのようだ。一番進んでいるのはリリスっぽい。こんな時、リリスのゲームに対する熱中度はすごいものがある。

「金貝のリングとか、サンゴ光石とか、本物が欲しいね」

「私は魔光石が欲しいわ」

「赤魔石は?」

「赤より緑がいい」

 緑と言えば、ソニアの髪の色とユコの目の色。赤と言えばリリスの目の色だ。

「ダイヤ光石とか普通に落ちているのね」

「ミンナヨシってアイテム持ってたら転んでばかりだから、さっさと預けたわ」

 今度は、ゲームに出てくるアイテム論議のようで、石系が多いみたいだ。

 そんなソニアたちを見ていたジャンは、思いついたように手をポンと鳴らしてラムリーザに言った。

「なぁ、次にクッパ国行った時、俺にもそのゲーム機買ってきてくれよ」

「ええ? まぁそれは別に好き好きだけど」

「リゲルも買っとけよ、俺たちのぶん全員分買ってくるんだ。そしたら話についていける、なんだっけ? パタちゃんクエスト? 俺もやる、お前もやれ」

「いや、僕はソニアのやってるの見ているだけでいいよ」

「駄目だ、買うんだ」

 これがソニアが別の部屋に住んでいるのなら良いのだが、ラムリーザの部屋に住み着いている内は、同じゲーム機が一つの部屋に二つあることになってしまう。まぁでもジャンに合わせて、スペアとして買っておくのも悪くないかなと考えるのがブルジョアなところか?

「そうだな、そうするのも悪くないだろう。あいつらの話を聞いていると、そのゲームはクッパ国の時事ネタを盛り込んでいるっぽい」

 そう評したのはリゲルだ。

「だろ、そう思うだろ。よし決まり、次は俺のとラムリィのと、リゲルとロザリーンので四つな」

「ロザリーンに買うならミーシャもだ」

 あくまで二人を平等に扱うリゲルであった。

「ミーシャに買うならソフィリータにも与えた方がいいな。レフトールは――あっちで欲しいと言えば買おう」

 そんなわけで、次に行った時にはゲーム機を六台も買うことになってしまった。まるで転売師だ。

 週末が楽しみなような、ちょっとめんどくさくなったなと思うラムリーザであった。

 そして三人娘は、延々とゲームの論議を展開しているのであった。
 
 
 
 




 
 
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Posted by 一介の物書き