命中したよおい!
1月13日――
翌日、コトゲウメの運転する車で、クッパ国の跡地へと再び赴いた。
パタヴィア南部地方を西に走り、西門から外へ出る。すると、先週とは違う光景が見られたのだ。
先週は町の外では人気が全然無かったが、今日はポツポツと人が居て、みんなどこかへ向かっていた。
「あの人たちは何をやっているのですか?」
念のためにラムリーザはコトゲウメに聞いてみた。やはり違いとなると気になる物である。
「鉱夫ですよ。町から少し離れた場所にある炭鉱に向かっているのです」
「なるほど、この国の主なエネルギー源は石炭か」
参謀みたいな役として、フォレストピアのいろいろな状況を管理しているリゲルが言う。フォレストピアでも、つねき駅から少し行ったところにあるトモロゥ・ネバー・ノウズ炭鉱で石炭を採掘しているが、南の島マトゥール島で取れる石油を主なエネルギー源としている。
「そうですね、原油は少ないのでガソリンは貴重品です」
そういえば、このパタヴィアでは自動車はそれほど多くない。コトゲウメの家のように、結構お金のある家しか持っていないのかもしれない。
「油、売ってあげようか?」
そこにソニアが口を挟んできた。
「何でお前が言ってるんだ」
当然のごとく、リゲルは突っ込んでくる。
「南の島に原油はたくさんあるって聞いたよ」
などと、原油を飲まされそうになった娘が言う。
「それがどうした? お前の物じゃないだろ?」
「ラムのものはあたしのもの、あたしのものはあたしのもの」
「いや、あの島の原油は僕の物じゃないからね」
確かにフォレスター家が管理してその富の多くを手にしているが、基本的に帝国の所有物である。
「じゃあ責任を持って飲んでみろ」
ラムリアースと同じようなことを言うリゲルであった。
「ほら、あれがイログ炭田です」
コトゲウメが示した方角を見ると、小さな山があってそこに取りつけられた入り口から、つるはしを持った鉱夫が入っていっている。炭田と名付けられているのもあって、規模は大きなものなのだろう。
「イログ炭田、イログかぁ。変わっているけどそんな名前もあるかぁ」
などと思いつつも、ラムリーザはフォレストピアの施設に付けられた名前の方が妙だなと考えていた。
「元々は違った名前だったのですが、トラブルがあって名前を変えたのです」
「名前でトラブルが発生するんだ。何でまた?」
そう言いながらもラムリーザは、不安を感じていた。妙な名前の施設が多いフォレストピア、名前を発端とするトラブルが発生しませんように。
「名前が似ているからという理由で、所有権を主張してくる者が居たそうで……」
「なんだそりゃ? それで、元の名前は何ですか?」
「クリボーイログ炭田です」
「クリボー?」
「はい。俺の名前がついてるから俺の名前だと」
「あほだな」
ここでもリゲルは短く答えた。
わかるような、わからないような、なんとも妙な話だ。それにしてもクッパ国では、いろいろな所で妙な話を聞くものだ。クリボーもクリボーで、何かと問題があるみたい。
「それじゃあ、例えばてんぷらソニア炭田があったら、ソニアが所有権を主張するってことですの?」
ここでまたユコが要らんことを言う。リリスが居なければユコが言う。当然のごとく口論が発生、困ったものだ。
その時、上空からバタタタと音がして、大きな飛空艇が姿を現した。
「おや? あの船は?」
コトゲウメは運転しながら窓から乗り出して空を見上げる。危ないぞ。
「あれに乗って帝国から来たのですよ。巡航艦だから、それなりの速度が出て、そして巡航艦だからそれなりの――」
そこまで言いかけて口をつぐむ。武装の話はしなくてもいいだろう、余計な警戒心を生み出してしまうかもしれない。
巡航艦ムアイクは、ラムリーザたちを降ろした後はパタヴィア南部辺りで町の上空に入らないよう外れた場所を旋回している。主に周辺の調査と、ラムリーザたちの護衛を兼ねているわけだ。ずっと真上に居たらうるさいので、たまに近くにくるぐらいではある。
パタヴィア周辺は、あまり調査が進んでいないのもあり、ついでにという意味合いもあった。
そうこうしている内に、クッパ国跡地の壊れかけた城壁が遠くから見えてきた。
前回までいつものように入っていた東門跡に車を止める。クッパ国跡地は廃墟で道も荒れているので、車での走行には適していないのだ。
車から降りて門の前に辿りついた時――
「わっはっはっはっ、また来たな。待ってたぜ」
「またお前らかー、飽きないねぇ」
そこには顔なじみの三人、ハナマにモートン、そしてマンハーの三人だ。顔なじみだけどあまり会いたくない、反クッパ同盟御一行であった。
「こらっ、観光客に迷惑かけるんじゃないっ」
今日はコトゲウメも一緒なので、彼は率先して注意してくれる。市民に注意される野盗、荒くれも妙な話だが、三人の中の一人であるマンハは、パタヴィア南部にある猫目石の竜宮城の客引きであり市民のようなものだ。何だろうか? 客引きだけでは生活できないので、副業で野盗をやっているのだろうか? 野党なんかやっていて、本業の方に影響は出ないのだろうか? ――などと思うが、割とどうでもいいことだ。ラムリーザたちには関係ない。
「君たちは何で毎回僕たちに絡んでくるかなぁ?」
ラムリーザは、いい加減困ってしまい、三人にめんどくさそうに話しかけた。
「俺たちは旅人から金品を巻き上げているのさ。しかし最近は評判が悪くなってしまったのか、あまり旅人が近寄らねぇ。だからあんたたちは丁度いいカモなのさ」
カモに毎回撃退されている三人は、何の悪びれることもなく言ってのけた。そもそも評判を下げているのは自分たちなのだろうが、恐らくそこまで気が回っていないのだろう。
「旅人か、それなら町の人は襲わないのだな?」
リゲルは何か考えがあってか、三人にそう尋ねていた。
「町の人を襲えば足がつくだろ? だが旅人ならばれないってわけだ」
「ほーお」
身も蓋も無い返答だが、リゲルは落ち着いている。
「そういうことなら、二度と俺たちを襲う気が失せるぐらいギタンギタンにしてやるぜ」
逆にレフトールは盛り上がっていて、一歩前に出る。元々こういう抗争に慣れている立場、これもある種の縄張り争いみたいな感じに映るのだろう。反クッパ同盟から、クッパ国跡地を奪ってやろうと。
「マンハーの兄貴、今度こそたのんまっせ!」
そう言ったのは、モートンという奴だったか。赤いのに激励されて、客引きっぽいのが出てくる。いや、実際に客引きをやっているので客引きだ。
「おおっ、任せとけ。前は轟音に驚かされたが、今回はそうはいかんぜよ」
「それはこっちの台詞だ、一万返しやがれ!」
一部個人的な事情が飛び交っているが、またしても抗争が始まってしまったようだ。それぞれの陣営から、代表者が一人出て戦う。これはラムリーザたち対反クッパ同盟の代理戦争か?
リゲルは落ち着いて腕組みしたまま、コトゲウメの後ろ側に回り込む。ラムリーザは腰に吊るしたブランダーバスに手を伸ばし、ソニアとユコはいつものようにラムリーザの後ろに隠れるように移動してしまった。
マンハーはレフトールに飛び掛かり、レフトールは思わず飛びのいた。
「そう言えば見覚えある顔があるなと思えば、コトゲウメだな?」
その一方で、残る二人とラムリーザたちは舌戦(?)である。
「こんなことやめようよ。この人たちは、帝国から来た客人なんだよ」
コトゲウメは、諭すように言う。しかし反クッパ同盟は聞き入れない。
「客人も旅人も同じだぜっへぇ~」
「いや、全然違うよ」
残念ながら、どうやってもお互いの主張は平行線のままだろう。
「安心しろ、こんな奴ら俺が一人で片づけてやんよ。三人ぐらい、たいしたこと無い無い」
レフトールとマンハーの戦いでは、レフトールが押している。マンハーの攻撃はレフトールの巧みなステップワークでかわされ、その隙にレフトールは蹴り技を叩きこんでいる。ロキック、ミドルキック、ハイキック、上手く使い分けでマンハーを追い詰めていた。
「まずい、押されているぞ」
戦況が不利なのが、反クッパ同盟側のモートンは気がついたようだ。
「いかん、加勢だっ」
そこにハナバが飛び掛かろうとしたところ――
ドウン!!
「ぐわっ!」
周囲に轟音が響き渡ると同時に、ハナマは跳ね飛ばされていた。
レフトールとマンハー、そしてモートンの三人はいつもの轟音に少し動きが泊まった程度だが、ハナマは倒れて腹を抱えて悶絶している。
「なんだ?!」
モートンはびっくりして、倒れているハナマに駆け寄る。
「おっ、当たった?!」
そして何よりも、使ったラムリーザ自身が一番驚いているのだった。
「こっ、こいつ、妖術を使うぞ?!」
モートンが立ち上がったところで、ラムリーザは再びブランダーバスを構える。銃身に新たに付けられた照準器を覗いて、モートンに照準を合わせて引き金を引く。
ドウン!
「ぶふぇやっ」
変な悲鳴を上げて、モートンは肩を抑えてしりもちをついた。今度は肩に命中したようだ。
「ま、マジで妖術を使いやがる!」
「なんだよ、音だけじゃないのか?!」
モートンは悲鳴を上げ、レフトールと交戦中のマンハーもうろたえている。
そしてその隙を見逃すレフトールではなかった。
「やるな、ラムさん! おらよっ!」
レフトールは調子に乗り、そう言いながらマンハーを蹴り上げた。
「はんまー」
マンハーも妙な悲鳴を上げながら、モートンとハナマが倒れている傍へと飛ばされた。
反クッパ同盟の三人は、最初の威勢はどこへやら、三人固まって動きが止まってしまった。
ラムリーザは、最後の一発をいつでも打てるように三人の方へと向けていた。ブランダーバスの弾薬は、一度に三発まで込められるようになっている。
「おっ、覚えていがれっ!」
しかし三人は戦意喪失したようで、ありきたりな捨て台詞を発する。そこにラムリーザは、当てようとはせずに上空に向かって引き金を引いた。轟音が響き渡り、三人は慌てて逃げ出してしまった。またしても追い払うのに成功したのである。
こうしてラムリーザは、反クッパ同盟の三人に対して「妖術師」と認定されたのであった。確かに離れた位置から攻撃を食らったのでは、妖術でも使ったのかと思われても不思議ではないだろう。
「ラムリーザの武器はともかくとして、レフトールも守役として板についてきたな」
珍しくリゲルが人を褒める。ようやくレフトールを認めたということか。
「あたり前田のクラッカーよ、熱き蹴撃手なめんな」
「なんだそれは、プロレスでもやるのか?」
リゲルはあえて前半部分には触れずに、後半部分のまるでレスラーの二つ名みたいな部分に突っ込んだ。確か南の島キャンプでのプロレス大会でも、そう名乗っていた気がする。
「おう、やろうぜ。俺はラムさんと組むから、リゲルお前はソニアとでも組んで、ユコはレフェリーで」
「あたしもプロレスするの?」
別にプロレスを嫌っているわけではないソニアだ。彼女も南の島キャンプで、ソフィリータと試合もしている。
「お前負け役な」
そう言うリゲルは、自分のチームが負ける気のようだ。
「なんであたしが負け役なのよ! 勝ち役!」
「いや、俺とラムリーザ、そしてレフトールのヘビー級揃いの中で、お前だけあまりにも見劣りしすぎる」
冷静にリゲルはソニアの弱さを指摘する。というより、男女混合の時点で無茶があるというものだ。この場ならせめてコトゲウメにすればいいのに。
「僕がソニアと組むから、レフトールはユコと組もうよ」
話が荒れそうなので、ラムリーザは素早く別の案を提示した。このままだと誰かが、おっぱいはヘビー級だと言いかねない。――とそう考える自分もダメだなとか考える。
「嫌ですの!」
だが別の所から不満が巻き起こる。なかなか思い通りにはいかないものだ。
なにはともあれ、反クッパ同盟を再び追い返した一同は、改めてクッパ国跡地の探索に乗り出したのである。