生徒会長ユグドラシルおつかれさま会

 
 1月14日――

 
「――というわけだ。フォレストピアからパタヴィアまで、飛空艇で二時間ぐらいで行き来できるよ。クッパ城の隠された風呂は六つ見つけて、青く輝く鉱石の欠片を三つ集めたあとは反クッパ同盟を、ブランダーバスで迎撃した」

 クッパ城で隠された風呂探しをした翌日、学校昼休み――

 ラムリーザは、ジャンにパタヴィアでの出来事を語っていた。傍ではソニアとユコが、リリス相手に有ること無いこと武勇伝を語っている。ほとんど冒険の自慢だ。

 ラムリーザの語った通り、夕方近くまでクッパ城を探索して、そのまま夜に数時間飛んだだけで帰ってこられたのである。

「それで何なのだ?」

「それで何がわかったのかしら?」

 ジャンとリリスは、ほぼ同時にそれぞれラムリーザ、ソニアとユコに対して答えていた。

「お風呂が見つかった」

 ソニアは何の迷いもなく答えた。確かに風呂は隠されていた。九つ隠されていると言われている内の六つを見つけたのだ。頑張った方だろう。

「パタヴィアに何をやりに言っているんだよ。風呂なら帝都の方がよくね?」

「お、わかるわかる」とレフトールはジャンに続く。

 すかさずユコから「不潔」と言われてしまう。清潔にするために風呂――じゃなくて二人の言う風呂はちょっと違っていて――いやまぁそれはここではどうでもよい。

「問題はそこなんだよな」

 ラムリーザ自身も、パタヴィアでの行動には疑問を感じている。元々はクッパの事件が発生し、それを解決するためにクッパに会いに行くといった話だったはずだ。しかしクッパは二十年ほど前に亡くなっており、その時点で捜査は打ち切りとなるはずであった。これ以上、何を調べると言うのだ……。

「それを言われると辛い。そもそもソニアとユコが――、まぁ飽きるまでパタヴィアには言ってやろう」

 ラムリーザが不平を言いそうになるのをソニアはすぐに感づいて、不満そうな顔を向けて制してくるのであった。

「で、隠された風呂で?」

「ああ、こんなのを見つけた」

 ラムリーザは、机の上に袋から取り出したものを並べた。それは、青く輝く鉱石で、形は整っておらず何かの破片のようになっていた。

「あら奇麗」

 すぎにリリスは興味を示して乗り出してくる。青い宝石と言えばサファイアだが、これは一体何だろうか?

「同じような材質だな」

 ジャンは、その内の二つを手に取って、比べるように眺めて述べた。その破片は、平らな面とごわごわの面とがある。元々は一つの塊だったのだろうか?

「私はこれをもらうわ。ラムリーザ、いいでしょう?」

 リリスは残っている一つの破片を取って、ラムリーザに色目を使ってくる。その魔力の虜になってしまった――わけではないが、欲しいなら譲ってもいいというわけで、ラムリーザは破片を一つリリスに提供した。

 こうなると黙っていないのが、ソニアとユコである。

 ソニアはジャンの持っている破片の一つをひったくると、「これあたしの」と宣言をかました。ソニアに遅れたが、ユコもジャンの手から奪い取る。破片を三つ手に入れていて助かった。これが一つや二つだったら、またしても不毛な争いが始まるところであった。

 リリスに対する土産となったが、今回はゲーム機とゲームも数セット土産で持ち帰っている。特にジャンからの強い要望で、リリスと同じゲームがやりたいのだとかなんだとか。

 そんなわけで、パタヴィアへの旅はほとんど観光と化していた。

「ちょっとラムりんー?」

 そこにクラスメイトからの呼び声がかかる。

「ラ、ラムりん?!」

 ラムリーザが妙な呼ばれ方に戸惑っていると、そんな呼び方をしたレルフィーナがやってきた。

「生徒会長、いや元生徒会長になるのかな。話があるんだって」

 レルフィーナと一緒にやってきたのは、ユグドラシルだった。

「ラムリーザくん」

「ユグドラシル先輩、教室までやってくるのは珍しいですね」

「あ、モテないロザ兄だ」

 ソニアはからかってくるが、ユグドラシルがラムリーザの妹のソフィリータと交際していることは公認となっている。

「わざわざ何の用でしょう?」

「生徒会だよ、自分はこれで任期が終わるんだ。後任は君でどうかな? ――ってね」

「生徒会ですかー」

 ラムリーザは、なんだか去年も誘われていたような記憶があった。ただラムリーザ的には、学校のことよりもフォレストピアのことに専念したいわけで、それは今年も同じであった。

 生徒会は今月の上旬――となると今まさにその時だが、新しい人選が決まる。そして一週間後に演説があって、その後投票で決まるのだ。

 去年はユグドラシルとケルムの一騎打ちで、それを制したのはユグドラシルであった。

「えっと、一年間お疲れさまでした。楽しかったよ、ありがとう」

 ユグドラシルの成果として、毎年行われていた恒例行事以外では、まずは学食を充実させ、フォレストピアに入ってきたユライカナンの料理をいち早く取り入れたことだ。さらにユライカナンの料理人も学食に雇い、本格的に異国の料理を楽しめるようにしたことである。その弊害で、学校でも時々「てんぷらソニア」が発生したのだが、それはまあよい。

 それから夏休み前の、ミルキーウェイ・フェスティバル。新しい祭りとして定着するかどうかは、後任に委ねられている。

 もう一つの大きな行事として、冬休み前の降竜祭。なんだか祭りに大きく傾いている気もするが、ユグドラシルの残したものは学校で大きく輝いている。

 それ以外のものとしては、ラムリーザの身近な物に絞り込むと、夏休み明けぐらいにプロレス同好会の立ち上げがあったところか。

「ユグドラシルさんのイベント、すごく楽しめましたよ。ジャンも感謝しているよな?」

 ラムリーザはジャンに話を振る。しかしジャンは「ん~、どうだろ?」などととぼけている。

「忘れたのかな? 降竜祭でリリスと結ばれたじゃんよ」

「あ、そうか。ユグドラシル先輩のおかげだったというのもあるな」

 降竜祭の実行委員に、ジャンはリリスと一緒に参加していた。最終日にユグドラシルと共謀して、ジャンはリリスと二人きりの状況を作り上げた。そこで、リリスに自信を植え付け、ジャンはめでたくリリスを獲得したのであった。

「なぁに、君たちの愛を竜神テフラウィリスが導いてくれたのさ」

「なんだかかっこいいこと言っているよ、この生徒会長様は」

 そんな話もあり、今日は学校が終わった後で、ジャンの店に集まってユグドラシルお疲れ様会を実施しようという話になったのだ。

 

 放課後、ラムリーザたちはいつものグループで軍団を作って、フォレストピアにあるジャンの店へと向かっていった。

 場所はいつも使っているスタジオで、ラムリーザたちが到着した時には、テーブルの上にケーキやお菓子などが用意されていた。

「いつの間に?!」

「学校から連絡して用意させといたよ」

 ラムリーザの驚きに、ジャンは飄々と答えた。そんなに凝ったものではない、パン屋で売っているような簡易ケーキに、雑貨屋で売っているようなお菓子の集まりだ。念のために調べたが、「クッパのバー」は紛れ込んではいなかった。

「それじゃあ集まったところで、ユグドラシル先輩の生徒会長としての働きを労う会を行います」

 ラムリーザの司会で、行き当たりばったりな宴会が始まった。ソニアなどは、もうすでにお菓子に手を付けている。

「クッキーソニア」

 またリリスの要らん一言で、まったく落ち着く様子を見せない。

 ラムリーザはソニアたちに「静かにしろっ!」と怒鳴りつけてから、言葉を続けた。

「んじゃみんな、先輩に一言ずつ労いの言葉を捧げよう」

「そんな、ラムリーザくんっ。照れくさいからそこまで――」

「いーえ、大事なことです。はい、ソニアから」

 今日はクッキーに目を付けたソニアは、既にそれをほおばっている。ラムリーザにいきなり振られて、クッキーを口に入れたまま「モテない先輩お疲れ様」などとモゴモゴさせながら言い放った。

「いや、先輩はソフィリータと交際しているよ」

「いいのっ!」

 何がいいのか分からないが、ソニアは次のお菓子に手を伸ばしている。

「次リリス」

「パップラドンカルメソニアがご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」

 見ると、ソニアが二番目に手を伸ばしたお菓子は、未確認お菓子物体というCMで人気を集めている、主に卵白を使用したお菓子であった。リリスはそれを見て、とっさに――と言っても単純なものだが、ソニアと結びつけてしまったわけだ。

 リリスはまるでソニアの保護者でもあるかのように振舞う。ラムリーザは、ソニアが気づいていないのを良いことに、さっさと次へと進めた。

「次は僕ね、ミルキーウェイフェスティバルよかったよ。竜神が天に昇るのが美しかった」

「ありがとう、ラムリーザくん」

「次はジャンの番ね」

「そうだねー、俺は降竜祭の方がよかったかな。なぁリリス?」

 ジャンはリリスに問いかけるが、リリスはいつもの笑みを浮かべただけだった。

 そしてユコ、ロザリーンと続き、リゲルの番になった。そのリゲルは「よくやった」とだけ言い、まるでなんだか偉そうだ。

 続いてソフィリータとミーシャの一言が終わり、自由時間となった。レフトールは基本的にイベントに出ていないので、「知らん」とだけ答えていた。

 自由時間に入っても、ソニアはお菓子にばかり手を伸ばしている。最初は防寒気味だったリリスだったが、このままではソニアに独り占めさせてしまうとお菓子争奪戦に加わっていた。

「それじゃあ最後に、自分の思いついたゲームで生徒会としての仕事を終わりにしよう」

 ユグドラシルは、何かを思いついてきていたのか、一同を見渡して宣言した。ゲームと聞いて、ソニアとリリスはお菓子を食べる手を止めた。口は動いていたが。

「それぞれ一人ずつ、自分クイズを出してもらおう。お手本として、自分から行くぞ。そうだなぁ、自分はバイオリンが得意だけど、何歳から始めたでしょう?」

「四十五歳ぐらい?」

 すぐにソニアが適当に答えてくる。

「今が十八歳なのに何でそうなる?」

「じゃあ十八歳かしら?」

 続いてリリスが答える。

「いや、去年もやっていたの見たよね?」

「じゃあ十七歳?」

 そうユコが続ける。一歳ずつ下げていったらいつかは当たるだろう。

「四歳ぐらい?」

 ラムリーザは逆から攻めていくことにした。幼稚園に入るのが四歳だから、早くてもそのぐらいだという考えがそこにあった。

「当たり!」

「えー?」

 リリスの逆をついてみただけなのに当たってしまい、ラムリーザは困惑する。自分がソニアにドラム役を押し付けられたのは数年前、十四歳ぐらいだったかな。そんなものだと思っていたのに、意外であった。

「私がピアノ習ったの三歳でしたわ」

 それにユコが対抗する。ラムリーザは、みんな早いなと思っていた。

「じゃあそこで問題、私が初めて楽譜を書いたのはいつでしょう」

 二番手に乗り出したのはユコであった。

「四十五歳ぐらい?」

 すぐにソニアが適当に答えてくる。さっきと同じだ。

「今十七歳ですの!」

「じゃあ十七歳?」

 リリスの答えも同じだった。

「あなたは知っているはずですの!」

 ソニアとリリスに期待してはいけない。

「じゃあ十四歳で」

 ラムリーザは今度は自分がドラムを始めた歳と同じことを言ってみた。

「当たりですの」

「えー?」

 あっさりと答えに辿りつき過ぎていて、三人しか答えていない。これでは簡単すぎて盛り上がらないな――というわけで、ラムリーザはちょっと難しめの問題を出してみた。

「それじゃあ僕が行くよ。えーと、僕がソニアを口説いた時のメッセージは何でしょう」

 ラムリーザは、これならなかなか答えに辿り着かないし、ちょっと照れくさいが盛り上がるだろうと考えた。

「四十五歳ぐらい?」

 ラムリーザは黙ってソニアを手招きで呼び寄せる。なぁに? と近寄ったソニアの顔面を、指を広げてグワッと掴んでやった。

「ふえぇっ――!」

 お仕置きとばかりに、掴んだ手を離さない。

「十七歳――じゃなくて、僕は風船が好きなんだ。だからその二つの風船を愛し続けます」

「全然違う」

 リリスの答えはたんなるソニア煽り。そもそも風船という言葉は去年の夏休み明けに登場したはずだ。

「ただの幼馴染みじゃ嫌、世界中の誰よりもあなたが好きです。どうせこんな感じだろ」とジャンが言ってくる。

「なんだかそっちの方が恥ずかしいな」

 こうして聞いてみると、一人一人の性格が見えてくる。

「リゲルの答えが聞きたい」と、無理矢理話を振ってみた。ここがスタジオと言うこともあり、リゲルは最初からギターで背景音楽役になっていた。

「黙って俺についてこい」

「か、かっこええ……」

 ラムリーザは思わず感嘆の声を漏らす。ぶっちゃけて言うと、この一言で良かったかもしれないと思うのであった。

「じゃあミーシャの答え」

 次に答えたのは、ミーシャだった。彼女は一同を見回した後、やや早口で一気にまくし立てた。

「親愛なるソニア、あなたを自分のものにしたい。あなたに私――いや、僕の洋服と、僕の細い金色の髪を洗ってもらいたい。僕の家のコンロで料理をしてもらいたい。そして僕がいない間、家の手入れをしてもらいたい」

 なんともまあ、いろいろと突っ込みどころの多い口説き文句だ。

「それだったらこっちの方がいいぞ。今夜君に会うまで待ちきれない。俺の毎日は次に君に会うことばかりに費やしている。すぐに俺たちは結婚して、そして永遠に一緒に居ることだろう、どや」

 ミーシャに続いたのはレフトールだ。告白の言葉がプロポーズの言葉にいつの間にかすり替わっている。

 ラムリーザの出した問題は、次第によく分からない告白大会かプロポーズ大会の様なものに変わってしまった。

「ところで昼も聞いたけど、次の生徒会長はラムリーザくんでどうだろうか?」

 ラムリーザが喧騒を避けて、簡易ステージの隅へと退避していたら、そこにユグドラシルがやってきて尋ねた。

「僕はフォレストピアでいろいろやることがあるからね。それにパタヴィアにも行くし、学校のことにそんなに構ってられないんだよ」

 しかしラムリーザは、生徒会には興味は無かった。実際フォレストピアでのイベントが多いので、そちらの方が大事であった。

「そうなんだ。それだったら、次期生徒会はケルムくんで決まりかぁ」

「それでいいと思いますよ。こういうのは、やりたい人に任せていたらよいのです」

 こんな具合に、ユグドラシルお疲れ様会はいつも通りの雰囲気で進んでいった。

 

 しかしこの時ラムリーザは、少しばかり生徒会のことを軽く考えていた節があったかもしれない。

 後日、生徒会におけるこの人事が、ラムリーザの周りに大きな厄介事を生み出してしまうことを、この時点では知るものはこの場に誰も居なかった――
 
 
 
 




 
 
 前の話へ目次に戻る次の話へ

Posted by 一介の物書き