クッパの製品を発見、クッパに遭遇
1月17日――
ラムリーザは、未だに「クッパの」に関しては半信半疑であった。ソニアやユコは、クッパが現れてクッパのを取られたと言うが、今のところ他には聞かない。
ソニアやユコは、あったと言い張る。しかしラムリーザは、それを見たことが無い。
そしてパタヴィアで得た情報では、クッパ王は二十年も前に既に亡くなっていると言う。
これはもう、クッパの名を借りた愉快犯の仕業であろう。ラムリーザはほとんどそう考えていた。ソニアやユコに被害届を出させ、クッパの名を語る者を捕まえる方針で行った方が早いかもしれない。
そんなことを考えながら、ラムリーザは学校からの帰り道、フォレストピアの町を歩いていた。
今日は、ソニアとリリス、ジャンの三人がラムリーザに同行している。ユコは、レフトールを引き連れてゲームセンターに行ってしまった。
「私、ソニアのを買ったらソニアに取られたわ」
リリスは、ソニアの身の回りに起こったことなら全てネタにする。
「何よ! あたしの物なんだから返してもらって当然!」
ソニアはそんな事実は無いのに、リリスに乗せられていた。しかしこれは、リリスの仕掛けた罠であった。
「じゃあクッパにクッパのを取られるのも、クッパの物なんだから返して当然じゃないのかしら?」
くすっと笑って、いつもの妖艶な笑みを浮かべてソニアを煽ってくる。言っていることは間違っていない点が厄介だ。
「リリスのいじわる!」
そう叫んでソニアはリリスの太ももに手を伸ばすが、今はもうリリスはソニアの行動を読んでいてひらりとかわす。続いてソニアは懐から小瓶を取り出すが、振り撒かれた瞬間リリスは距離を取っていた。靴下ずらしもブタガエンも、不発に終わったソニアはリリスを追いかけるが、二人はラムリーザとジャンの周りをグルグル回るだけとなった。
「なんだよお前ら、バターになる気か?」
ジャンはそう言うが、周囲をグルグル回ることがバターに繋がる意味が分からない。
「馬鹿なことやってないで、ちょっとここで休憩していくぞ」
ラムリーザは、丁度辿りついた駅前の雑貨屋に入ることを提案した。
「やだ、またクッパのを取られる」
「次クッパが出たら捕まえてやるよ」
そう、本当に「クッパの」が存在してクッパが奪いに来るなら、そこで捕まえてやればいい。その力は自分にはある。ラムリーザはそう考えて雑貨屋の入り口をくぐった。
雑貨屋にはいろいろな物が売ってある。弁当や飲み物を始め、お菓子やちょっとした日用品も売っている。あとはお酒とか、雑誌も置いてある。
ラムリーザは、一直線にインスタントリョーメンコーナーへと向かった。一つずつ並んでいるのを見ると、クッパタ、メットゲ、ゲップク、クリジュゲの四種類だけであり、クッパのなどはどこにも置いていない。
「本当にここにクッパのがあったのか?」
ラムリーザは、ソニアを呼びつけて確認する。
「うん、ここで見つけた」
「どれだ?」
「ん~……」
ソニアは棚を見て回る。しかしクッパのは無いようだ。
「店長が隠し持っているんだ。そしてあたしにしか見つからないようにこっそりと置くんだ」
「そんなことやる意味がわからないよ」
ソニアは仮説を立てるが、今度のはちょっと当てが外れているようだった。
しばらくリョーメンコーナーを往復していたが、見つからないことに飽きたソニアは雑誌コーナーへ行ってしまった。そこでリリスと合流して、ゲーム雑誌を読みふけっている。さっきまで喧嘩していたような気がするが、この二人は気まぐれなところが多すぎるものだ。
やはりクッパのは、ソニアの妄想なのだろうか?
それでもラムリーザは、ソニアの仮説も検証しておくためにレジに向かい、そこにいる店長に話を聞いてみた。
「何かお探しでしょうか?」
「クッパのを探しているのですが」
ラムリーザは、自分でも恥ずかしいなと思いながら、それでもクッパのを所望してみた。もしも店長が隠し持っているのならば、例えば「おっと旦那方、誰から聞きました? これはちょっと値が張りますよ、いいですか?」などと言って、こっそりと売ってくれるかもしれない。
「クッパタでしたら、あちらのリョーメンコーナーにありますよ」
「いえ、クッパタではなくクッパのをお願いします。探しているのですよ」
「クッパの――ですか?」
店長は首をかしげて不思議そうな顔をする。その表情を見て、ラムリーザはますます恥ずかしくなった。
「クッパのというリョーメン、やはり無いですか」
「聞いたことないですねぇ」
「ああ、やはりそうですか」
ラムリーザは、これはソニアとユコの嘘かな、などと考えた。これが普通である。クッパ国やパタヴィアで噂になるのならともかく、こんなに遠く離れたフォレストピアにクッパが現れるわけがない。以前も思ったが、侵略してくるのにその手始めにクッパのを奪うというのも意味が分からないものである。
それでも、ソニアを信じてやりたいラムリーザは、ひょっとしたら別のコーナーに混ざり込んでいるかもしれない、そう考えて店内をうろうろと見て回り始めた。買うために手に取ったが、やはり要らないと考えて、それでも元の位置まで戻すのがめんどくさくて元の場所ではなく今いる場所に置いて知らぬふりをする客も、たまに居るものだ。
そこまでして「クッパの」を追い求める必要も無いが、パタヴィアに行く理由にもなってしまっているので、見つけられるならみつけたいものだ。それに最近、風呂探しとか意味の無いことをやっていて、パタヴィアに行く理由がわからなくなっているのも事実だ。
ラムリーザは、入り口か付近に戻り、一つずつ棚を見て回る。窓際の雑誌コーナーでは、まだソニアとリリスは雑誌を読んでいる。
雑貨屋には色々な物が売っていて、まずは化粧品や下着コーナー、ここにクッパのが紛れ込んでいる可能性は低い。
続いて文具コーナー、クッパの鉛筆とかあったら困る。そういえば、ソニアが六十色入りの色鉛筆が欲しいと言っていたことがあった。何かの機会があったら買ってやることにしようと考えるが、そんな大がかりな物は雑貨屋には売っていない。本格的な文房具屋ではないここには、精々十二色入りの小さな色鉛筆が置いてあるだけだ。
クッパ色とかあるのかな? ラムリーザは、少しずつおかしなことを考え始めていた。
奥まで行くと、トイレの入り口がある。丁度ジャンが出てきたところだ。そのままジャンは、トイレの入り口から見て隣にある飲み物コーナーを見始めた。そこは酒売り場だぞ、とラムリーザは突っ込まなかった。飲み物に混ざってさりげなくクッパのが置いていないか、そんな都合の良い話は無かった。
二列目に入ると、そこは先程見ていたリョーメンコーナー。クッパタとメットケ、ゲップクとクリジュゲしか置いていないのは同じである。やはりクリジュゲが一番売れていない。リョーメンと栗の組み合わせはいまいちだろう。
さらに隣の列に入ると、そこはお菓子コーナー。飴だの団子だの、ソニアの好きそうなものが並んでいる。少し前に買った、アクマ式ドロップスも置いてある。
買おうかなと思って手を伸ばしたが、少し考え直して手を戻した。ソニアがおいしそうに飴をなめる姿ではなく、「またハッカが出たー」と文句を言う姿が浮かんだのだ。それはそれで見ていて面白いものだが、困る姿を無理に見なくてもいいだろうと考えて、いや、また見ようと思いなおして結局手に取るのであった。
おそらくまた、最後に残ったハッカ飴を舐めるのはラムリーザになるだろう。
飴のと団子の隣には、新製品かもしれない見慣れない物が置いてあった。
「リョーメンばあ?」
それは、見た感じではインスタントリョーメンを四角く固めたようなお菓子であった。
ラムリーザは、物珍しさにそれも手に取ってみた。何やらおまけでシールが入っているようだ。ソニアなどがハマれば、また集めだすかもしれないと思いながらも、なんだか面白そうなのでこれも手に入れることにしたのであった。
最後のコーナーは、パンや弁当売り場。ここは特に気にしなくてもよいだろう。ラムリーザは、新製品のリョーメンばあでも食べながら一休み――
その時ラムリーザは、雑貨屋の中に違和感を感じた。どう表現したらよいだろうか? 先ほどまではザワザワした感じが少しはあったものだが、今は全くしていない。店内は、シーンと静まり返っている感じだ。
飲み物売り場を振り返ったが、ジャンの姿は無い。書籍コーナーにソニアとリリスの姿も無い。みんな一旦外へ出たのだろうか? ラムリーザもレジで清算を済ませて、みんなの後を追おうと考えた。
レジに居る人は、先程雑談した店長と同じだ。ただし、ラムリーザからリョーメンばあと飴の缶を受け取ってレジを通す間、一言も声を出さない。黙ったまま代金を受け取り、そのまま清算は終わった。この間も、雑貨屋の中はシーンと静まり返ったままであった。
雑貨屋の外に出て、ラムリーザは驚いた。ここにも違和感は続いている。人の気配が全然しないのだ。通りは誰一人歩いていないし、道路には車一台走ってないし止まっていない。町の中心地に近い場所だというのに、横断歩道にも人一人居ない。ソニアもリリスもジャンも居ない。まるで誰も居ない世界に迷い込んでしまったような、ラムリーザはそんな不思議な気分にさせられてしまうのであった。
「おかしいな、みんなはまだ雑貨屋の中かな」
ラムリーザは、また入りなおすのも妙なので、リョーメンばあでも食べながら、雑貨屋の外で待つことにした。袋の中からリョーメンばあを取り出して、ラムリーザはそれを見て固まった。
「クッパのばあ?」
その袋には、そう書かれていた。
ラムリーザは、確かにリョーメンばあを買った。しかし今、手元にあるのはクッパのばあ。これもクッパの製品か?
間違い確認のために、店長に話をしておこうと考えて雑貨屋に再び入ろうとした瞬間――
「おいっ、お前っ」
「はぁ?」
ラムリーザは、背後から突然声を掛けられた。振り返ると、一人の男性が立っていた。先程まで人の気配一つなかったのに、どこから湧いてきたと言うのだろうか?
「それ、何を持っている?」
「リョーメンばあですよ」
ラムリーザは、その話しかけた相手に見覚えがあった。誰だったのだろうか? つい最近、見たはずである。しかし思い出せない。
「リョーメンばあ? そうは見えないぞ、そこにはクッパのばあと書いているじゃないか」
「間違えたみたいで、これから店長に話して交換してもらうのですよ」
「そんなことはどうでもいい。それは誰のだ?」
相手のその言葉を聞いて、ラムリーザは思い出した。この男性はクッパ王だ。トゲトコの屋敷で見せてもらった写真の人物と同じだ。そう、若いころのクッパ王の姿と。
「僕が買ったので、僕の物です」
こんなところでクッパ王に会えるとは、これはチャンスかもと思いながらラムリーザはきっぱりと正論を述べた。ただし、ソニアやユコの言っていることが本当ならば――
「そうは書いていない。何を書いているか読んでみろ」
ラムリーザは、なるほどソニアの言うことは本当だったのか、と考えた。
ここでクッパのばあです、などと答えたら、クッパの物だと主張するのだろう。だから、こんな奴は放置して店に戻り、そして憲兵を呼んで検挙させて一連の混乱を――
「クッパのばあです」
ラムリーザは、頭で考えていることとは違って、口では素直に答えていた。
「クッパのか、俺のじゃないか、返せ!」
そう言うと、その男性はラムリーザが持っているクッパのばあをひったくるように奪い取ると、そのまま立ち去って行った。
目の前にある通り、ガードレールの向こうを一台の自動車が通り抜けた。すぐに逆方向から二台の自動車が通り過ぎていく。信号機の色が変わり、横断歩道を何人かの人が渡っていく。
「ラム、何してるの?」
ラムリーザは、ソニアの声にハッと気がついて振り返った。
「あれ? どこに居たんだ?」
「えー、あたし今店から出てきたのに。気がついたらラムが店から居なくなってて」
「んんん?」
どうもラムリーザの体験がソニアの話と合わない。店の中には誰も居なくなっていたので、外で待っているのかなと思って出てきたはずである。しかしソニアが言うには、先程まで店の中に居て今出てきたばかりだという。
ラムリーザは今気がついたかのように、袋の中を見た。アクマ式ドロップスの缶だけで、リョーメンばあは消えていた。もちろん、クッパのばあなどは所持していない。
ソニアは、ラムリーザを不思議そうに見つめている。その表情を見て、ラムリーザはいたたまれなくなって再び雑貨屋に入っていった。
「また行くの?」
ソニアはそう言って付いてくる。ラムリーザは何も言わずに、再びお菓子コーナーに行ってリョーメンばあを手に取った。
「あ、それあたしも欲しい」
「別に良いけど」
そこでラムリーザは、二つ手に取ってレジへと向かった。
「クッパのはありましたか?」
店長は、ラムリーザから商品を受け取って気さくに話しかけてくる。
「あったような、なかったような……」
ラムリーザは上手く答えられず、曖昧な返事をしておいた。しかしこれが本来の店長の姿のはずだ。先程の無言は一体何だったのだろうか?
「ところで気になるのですが、先程僕自身がここで買い物しましたよね?」
それよりも、気になることがあったので聞いてみる。さっきの買い物はどうなっているのだろうか?
「妙なことをおっしゃる。飴の缶とリョーメ――クッパのばぁ? ありゃ、機械のミスだ」
店長は覚えているような、機械には証拠が残っているような、そんなところであった。確かにラムリーザは、ここでクッパのばあを買っている。そして店の外で、クッパらしき者に奪われている。
しかしラムリーザには、先程の出来事がどういった理由で起きたのかはわからなかった。ただ、ソニアやユコの言うように、クッパ製品を掴まされて奪われるという事件は事実のようだ。
少なくとも分かったことは、クッパ王は実は生きていて、今もフォレストピアに潜入してクッパ製品を購入した者に嫌がらせをしている。その意図までは分からないが――
この日ラムリーザは憲兵隊に連絡を取って、フォレストピアに潜入しているのかもしれないパタヴィアのクッパ王を、指名手配するよう伝えたのであった。
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