クッパにしてやられた者たち
1月26日――
そろそろパタヴィアでの調査も一ヶ月になろうとしていた。いい加減クッパの騒動を解明して解決したいと考えているが、未だにこれと言った具体的な解決策が見つからない。
もしもクッパが生きていたのなら「やめろ」と注意して終わらせられるのだが、話では既に亡くなって二十年は経過しているという。
それならばクッパの事件は気のせい、ソニアとユコの早とちり――ではない。ラムリーザもしっかりと被害にあっている。
「やはりクリボーだね」
「ああ、クリボーがキーパーソンな感じがする。もしも違っていたらますますわからない」
作戦会議では、ラムリーザとリゲルの意見が一致。二人の言うクリボーとは、クッパ王が生きていた時の証人である。
パタヴィアを現在取りまとめている長老の、パルパタとトゲトコは、かつてクッパ王に寵愛された少年である。しかし現在では、すでにクッパ王には関心が無さそうであった。
こうなると、今でもクッパ王のことを思い続けているクリボーの方が、何かの手掛かりになりそうというものである。
しかしラムリーザは、ソニアからの指摘でもう一つの可能性も探ってみるつもりであった。
それは昨夜、パタヴィアに向かう戦艦ソフィア内の自室にて。
ラムリーザとソニアは、用意された部屋に泊まっていた。そこは戦艦の中とは思えないほど立派な作りの部屋であり、まるで屋敷の一室に通された感じであった。
軍で使用するのが目的の飛空艇だが、フォレスター家専用というのもあり、立派な居住区を設けているのだ。
「うわぁ、先週までの巡航艦よりいい部屋~」
なんだかソニアは楽しそうだ。ふかふかのカーペットの上でゴロゴロしながらご満悦だ。しかし――
「でも、巡航艦ムアイクより、ずっと遅い」
窓の外を眺めての感想は、これであった。機動力重視の巡航艦と比べて、戦艦が遅いのは仕方がない。
その空の旅の途中で、ラムリーザとソニアは反クッパ同盟の話となった。
「ねぇ、反クッパ同盟って反クッパなのになぜあたしたちを襲うんだろう」
「言われてみたらそうだなぁ。反クッパというからにはクッパに反抗しているはずなのに」
「実は反クッパ同盟も、クッパについて詳しかったりして」
「なるほど、そこには気がつかなかった」
時々ソニアは意外な発想を披露してくれるのだ。
反クッパ同盟、クッパ王に反抗する集団ならば、クッパ王についていろいろ知っているはずである。パルパタ、トゲトコ、クリボー以外にクッパ王に関わりの深そうな者たち。その者たちに会うつもりでもあったのだ。
戦艦の食堂で朝食を取り、そのまま倉庫に行ってリゲルの車に乗り出発する。やはり自分たちで自由にできる車があると、移動はかなり楽になる。
飛空艇は町の郊外に残し、一同はそのままクッパ国跡地へと向かった。跡地までの道のりはリゲルの車で向かい、三十分もしないうちに門の近くに辿りついた。ここからは歩きの探索となる。
ラムリーザは、周囲に注意しながら廃墟を進んでいた。懲りない奴らはすぐにでも現れるだろう。
「ふっふっふっ、今週もやってきたな。週末旅行者め~えぇ~っ!」
「出たな、反クッパ同盟め」
ラムリーザの予想通り現れ、今回はリーダーのミキマルが既に登場している。
「おおっと、今日は俺たちだけじゃねーぞ~おぉ~っ!」
ミキマルは、前回やられたこともあって慎重だ。それでも妙に堂々とした感じで、ラムリーザたちの動きを制するようにいつもの独特な語尾で言い放った。
ラムリーザはその様子を見て、また新しいメンバーを揃えたのか? などと考えた。しかし今現在ミキマルの脇に控えているのは、マンハとヒメンの二人だけだ。ハナマとモートンはどこかに潜んでいるのか、陽動作戦を取っているのか。
「リゲル、警戒――しなくても平気かもしれないけど警戒しとこう」
「ああ」
今ではラムリーザもリゲルも、反クッパ同盟はそれほど脅威とは思っていない。ただ、ソニアやユコにとっては危ないので、警戒しておくに越したことは無い。
「さて、今回こそは雪辱を~おぉ~っ!」
ミキマルは息巻いているが、ラムリーザは警戒した所で切り出してみた。
「それなんだけどさ、もうそろそろやめないか? 僕もいい加減呆れ――あいや、困ってきたよ」
「んんん? なんだと?」
「君たちと争っている必要性を感じないって言っているんだよ」
徹底的に叩く前に、平和的解決を模索してみるものだ。それと同時に、ソニアが言った反クッパ同盟のあり方について尋ねてみる。
「それよりも君たちに聞きたいことがあるのだけど、いいかな?」
「なんだよ?」
「反クッパ同盟って、クッパに反抗している集団だよね?」
これを聞いてみるのが、今回の目的に加わっていた。クッパ王没後も、なぜ反クッパ同盟なのか。
「そうだ! 我々は、クッパ王に裏切られた二人の息子、ラギーとイリーによって結成された――いや、意思を引き継いだ集団だ!」
やはりクッパ王に反抗する集団だった。二人の息子の話と言えば、以前コトゲウメから聞いたものである。その二人は父親に牢獄に突き落とされたのだ。理由はどうであれ、恨みを抱くのは十分にあり得る話であった。
「ラギーとイリーか」
ラムリーザはリゲルを振り返った。リゲルはうなずいてみせる。間違いではない。
そしてミキマルは、演説めいたものを続けている。
「その通り。ラギーとイリーは腹が立つという理由だけで投獄されたのだ、クッパ王は許さん! 我々反くっかこーけーは――」
なんだかろれつが回っていない。噛み噛みだ。
「――反クッパ同盟は! クッパ王の悪行を広めるのだ! その兄弟の名誉を回復させ守るために!」
ミキマルは握りこぶしを作って、空を見上げながら言い切った。
その話を聞いてラムリーザは、やはり反クッパ同盟と争う意味は無いなと考えた。
「その話なんだけど、実は僕もクッパにしてやられたんだ」
だからラムリーザは、落ち着いて語り掛ける。それを聞いてミキマルは、ラムリーザに不思議そうな目を向けた。
「何? クッパ王に?」
「そう、クッパのばぁを買ったら取られた。そっちの二人の女の子は、クッパのを買ったら取られた」
ミキマルは、黙ってラムリーザの話を聞いていた。その表情には最初に驚きが現れ、やがて微かな笑みに変わっていた。
「そうか、お前もやられたか、異人よ」
「異人って何だよ、僕はラム――」
ラムリーザの台詞は、リゲルの咳払いによって中断された。この妙な連中に本名を名乗る必要は無いということだ。
「――たえ。異人じゃない、ラムタエだ。僕たちの中にもこうしてクッパに迷惑をかけられた者が居るんだ。クッパのばぁとかクッパのとか」
ミキマルは再び黙り込んで、ラムリーザの顔を見ていた。マンハとヒメンの二人も、どうしたものかと自分たちのリーダーと、ラムタエと名乗った者を交互に眺めていた。
「クッパのばぁか……」
ミキマルは考え込んでいた。
「僕たちもクッパに困っているんだ。クッパを何とかする方法を、反クッパ同盟の君たちなら知っているんじゃないのかなぁ」
「ぐぬぬ……」
さらにミキマルは考え込む。どう接したら良いものか迷っている感じだ。
その間にラムリーザはいつもの陣形に移動していた。レフトールは前方に、リゲルは後方に、ラムリーザを中心としてソニアとユコはラムリーザの後ろ。これが五人のポジションである。
「やっつけたらいいのによ」
ミキマルが考え込んでいる中、レフトールはラムリーザに耳打ちする。
「これまでの感じからして、彼らは諦めないと思うよ」
「だったら半殺しにしてやれば二度と手出ししてこないだろ? 覚えてろーとか言わせて逃がすからしつこいんだぜ」
「そこまでするほど悪い連中じゃないんだよね」
ラムリーザとしては、レフトールの半殺し作戦は最後の手段。反クッパ同盟は、どう考えても怖いとは思えない。どちらかと言えばギャグ要員? やんちゃな住民がふざけているようにも見える。根っからの極悪人には見えないのだ。それに、クッパという共通の敵が生まれたら、仲間にできそうでもあった。しかし――
「いや、ダメだ」
ミキマルは顔を上げてそう言った。その顔には決意のようなものが込められていた。
「なんで?!」
ラムリーザは上手くいくと思っていたのに、こう切り返されると困るものだ。
「痛かった」
「は?」
「痛かったんじゃ~あぁ~っ!」
ミキマルは、胸に手を当てて吠える。そこはブランダーバスの弾が当たったところか?
「嘘をつくな、お前は撃たれていない」
そこにリゲルが静かに突っ込みを入れる。
「「えっ、そうだったっけ?」」
ラムリーザとミキマルは、同時にリゲルの方を見て言った。リゲルはフッと軽く笑い続けた。
「前回の戦いではそいつは撃ってないぞ。仲間が撃たれたら真っ先に逃げていったからな」
「逃げたのではない! 転進だ!」
「同じやん」
「黙れ黙れラムタエ! 仲間を撃たれたこの痛み、返さずして世の理を測れるか~あぁ~っ!」
「知らんわ! すまんかった!」
「すまんではすまんわ~あぁ~っ!」
ラムリーザはめんどくさくなって、戦うことに決めた。ミキマルも同じで、交渉決裂となったのである。
ミキマルは数歩下がって、身構えて言った。
「出てこい出番だぞ! ヘイホーン!」
その掛け声と同時に、ミキマルの背後から巨大な影がせり上がった。まるでズズンと地響きでもしているかのような重たい足音。そこに現れたものは、とにかく巨大であった。
ラムリーザよりも少し背が高いかな?
それよりもとにかく横に大きい。まるでお化けカボチャだ。