カルスタック・ヘイホーン

 
 1月26日――

 
「なんでぇそいつは! まるでお化けカボチャじゃねーかよ!」

 先頭に立っていたレフトールは、思わず一歩下がる。

 ラムリーザの思惑は外れて、ミキマル率いる反クッパ同盟と、もう何度目になるかわからなくもないけど、とにかくしつこいぐらいの回数目の戦いとなった。

 ミキマルが新たに呼び出したヘイホーンという者は、上はラムリーザやレフトールとさほど変わらないが、とにかく横にでかかった。

 そんな巨漢が、ズシンズシンと地響きを立てているかのように、のっしのっしと前に出てきたのだ。

「おいっ、ヘイホーン! あいつらを仕留められたら報酬は思いのままだぞ」

「うむっ」

 ミキマルの雑貨屋ムェット店が儲かっているのかどうかわからないが、用心棒を雇えるほどには繁盛しているのだろう。

 ヘイホーンと呼ばれている巨漢は、ラムリーザとレフトールにゆっくりと迫ってくる。巨漢だけあって動きは鈍いが、捕まったら押しつぶされてしまうかもしれないだろう。

 

 ドウン!

 

 そこに馴染みの轟音が響いた。慣れていないレフトールはびっくりし、敵のミキマルは眉をひそめる。そしてラムリーザは、ヘイホーンにブランダーバスの先端を向けていた。

「なにっ?!」

 しかし、ラムリーザはすぐに驚きの表情に変わる。ヘイホーンは何事も無かったかのようにその場に立っている。外したか?

「いったいぞぉ」

 ヘイホーンは、胸をボリボリ掻きながらゆったりとした口調で語った。肉にめり込んでいた鉄の弾が、浮き出てきてポロリとこぼれた。ブランダーバスの弾丸は確かに命中していた。しかし、分厚い肉の壁に阻まれて、ダメージはそれほど与えられていないのだ。

 ヘイホーンはふたたびゆったりとラムリーザたちに近づいた。

 

 ドウン!

 

 ラムリーザは二発目を放ったが、それはヘイホーンの足を一瞬止めるだけに終わってしまった。めり込んだ肉が元に戻り、弾丸を跳ね返してしまった。

「頭か足を狙え、奴に胴体攻撃は効かないぞ」

 リゲルのアドバイスで、ラムリーザは銃口を移動させる。足を狙って――

 

 ドウン!

 

 三度轟音が響き渡る。しかし――

「効かないだと?!」

 レフトールはさらに一歩下がり、背中がラムリーザに触れて押し戻される。流石のレフトールも、相手がお化けカボチャ過ぎて少し戸惑っている感がある。

 そしてヘイホーンの足は止まらずに、まだゆったりと迫る。

「外しちゃったね、小細工せずに正面からぶつかれってことだね」

 ラムリーザは、落ち着いてブランダーバスを腰に戻す。一度に撃てる弾の数は三発、もう次の弾薬を装填している暇はない。近接戦闘に移行する時が来たのだ。そして落ち着いてヘイホーンを待ち受けていた。

「ぬおっ」

 ゆっくりとした突進だが、重さはかなりのものだ。レフトールは正面からぶつけられて、脇によろめいていった。そしてヘイホーンとラムリーザがぶつかり合う。

 まるでドシン! と重たい音が響いたような気がする。

 ラムリーザは身体を踏ん張って、ヘイホーンの突進を受け止めていた。腕を組み合って、まるでプロレスの力比べだ。ヘイホーンの巨体も並外れだが、サメの突進を受け止めたラムリーザの腕力も相当なものであった。

「あいつが出てこないな、ということはこいつは俺の軍団以下――と」

「こらこらわからんぞ」

 ラムリーザが受け止めたので、レフトールにも落ち着きが戻ってきた。レフトールの言うあいつとは、ラムリーザの護衛だ。ユライカナンの公演では命に関わるような攻撃だったのですぐに飛び出した。しかし今回出てこないということは――である。

 ラムリーザとヘイホーンの力比べは続いている。のしかかってこようとするヘイホーンをラムリーザは押し戻している、そんな図式となっているのだ。

「よし押さえていろよ、俺が一発――あいたっ!」

 ヘイホーンに横から攻撃を仕掛けようとしたレフトールは、頭を抱えて少しよろめいた。何かが飛んできた方向を睨むと、そこにはミキマルの姿があった。

 ミキマルの手には、パチンコ――スリングショットが握られていた。ゴムを使った石ころ飛ばし、ブランダーバスほどの破壊力は無いが、投石に毛が生えたぐらいの威力があるので油断できない。そしてレフトールの頭に石をぶつけられるということは、ミキマルはかなりの使い手だと見えた。

「てめぇ、やりやがったな!」

 レフトールは、ミキマル目掛けて突撃を仕掛けた。するとミキマルは素早く後方に逃げ去っていった。

 これはミキマルの想定通り、ラムリーザの用心棒であるレフトールを自分で引き剥がし、その間に秘密兵器をラムリーザにぶつけた。ミキマルはそれほどヘイホーンの実力に信頼をおいていたのであった。

 しかしラムリーザも、個人の戦闘能力をみてもなかなかのものだ。レフトールに勝っているし、ヘイホーンほどのフィジカル的な威圧感は無くても、その腕力だけはゴム毬を破裂させたり、銅貨を折り曲げたりするそこそこの化け物だ。腕の力だけでヘイホーンの突進を防ぎ、反撃を試みようとしていた。

 ラムリーザはヘイホーンの腕を掴んだまま、その動きを封じようとする。まずは相手の左手を掴んでいる自分の右手を左手に近づけていく。そして自分の左手の指を広げ、相手の左手も片手で掴んでしまった。ヘイホーンは、両方の指先をラムリーザの左手でガッチリと握られる。握力100kgを超える力は相当なもので、ヘイホーンはラムリーザの左手一本で腕の動きを封じられてしまった。

 続いてラムリーザは、自由になった右手でヘイホーンの顔面を掴んだ。得意のアイアン――いや、ドラゴンクローが決まった。この技で、レフトールの顔面に穴を開けたこともある。

 続いてレフトールの時と同じように、その巨体を持ち上げ――られなかった。ヘイホーンはあまりにも重かった。呆れ返るほど重かった。

 そして、ヘイホーンの顔面を掴んだ感触も独特、まるでスライムを握っているかのように、ラムリーザの指は少しめり込んでいた。このように顔面は柔らかく、ラムリーザが力を込めて掴んでもそれほど効いているようには見えなかった。

 そんなわけで、ラムリーザ対ヘイホーンの戦いは膠着状態になっていた。

「よし、俺が何とかしてやろう」

 ラムリーザの援護に回ろうとしたのはリゲルだ。レフトールがミキマルに関わりっきりというのもあって、今動けるのはリゲルだけだ。しかし――

「そうはいかんぞ」

「にょう!」

 リゲルの前に、マンハとヒメンが現れて立ち塞がる。二人はニヤニヤとした笑みを浮かべていて、リゲルは不快感を示してた。

「どけよ」

 リゲルは落ち着いて、ヒメンの右腕を掴んでひねり上げた。リゲルはレフトールのような蹴り技の一撃は無い。そしてラムリーザのような圧倒的な腕力は無い。その代わり、関節を極めるテクニックを持っていた。

 ヒメンはリゲルに腕をひねり上げられてゴロンと回されて倒されてしまった。ヒメンがひるんだ隙に、リゲルは今度はマンハの始末に取り掛かっていた。こうしてリゲルは、一人時間差攻撃で二人の敵を翻弄するのであった。

 その間もラムリーザはヘイホーンと力比べをしていた。しかしこいつの存在がそれほど脅威ではないのは、護衛のレイジィが動かない時点で察せられる。それでもヘイホーンは重さを利用してラムリーザを追い詰めていく。少しずつ押されているのだ。

 それは単純に重さの差、押し合いとなると巨体のヘイホーンが有利なのだ。ただし、押し込むぐらいしか戦闘能力は無いのか、ただぐいぐいと押すだけなのが救いと言えるのだろうか。

 一方レフトールは、ミキマルを追い回していた。接近戦ではレフトールに敵わないと見ているミキマルは、レフトールをラムリーザから引き離すためにスリングショットで挑発しては、ちょろちょろと逃げ回っている。レフトールは頭に血が上ったのか、ひたすら追い回すだけとなっていた。

 その間も、リゲルはマンハとヒメンを交互に捻っていた。一方を転がしたらもう一方が起き上がる。倒されても倒されても起き上がるが、その間隔は少しずつ広がっていて、その内起き上がる体力も尽きるだろう。

 しかし――

「遅れてすまん。いや、遅れても問題なかったか?」

 そこに、ハナマとモートンの二人が駆けつけた。そういえば、最初はこの二人はこの場所に居なかった。

「ぬ、まずいぞ」

 リゲルは、新たに加わった二人を合わせて、四人の乱暴者に囲まれていた。これでは流石に対処できない。ラムリーザは用心棒と力比べ中だし、レフトールは追いかけまわしている。

 ラムリーザ側は五人、戦闘に耐えうる力を持つものは三人。対して反クッパ同盟は六人、二倍の敵にラムリーザ側は翻弄されつつあった。

 たいしたことないと思っていた反クッパ同盟。

 しかしラムリーザたちは、意外な苦戦の中にいたのであった。
 
 
 
 




 
 
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Posted by 一介の物書き