逆襲のラムリーズ
1月26日――
ミキマルの連れてきた用心棒であり秘密兵器のヘイホーン、ラムリーザは一人、その巨体と戦っている。しかしあまりにも巨体で重すぎて、ラムリーザの馬鹿力もそれほど効果は無い様だ。
ラムリーザの護衛を自称するレフトールは、ミキマルのスリングショット攻撃に翻弄され、ほとんど追いかけっこみたいになり戦いになってない。
そしてリゲルは、マンハとヒメンの二人相手に関節技を的確に仕掛けて、ようやく二人を追い詰められるかといった所まで追い込んでいた。
しかしそこにハナマとモートンの二人が遅れてやってきて戦線に参加したのだ。位置的にリゲルが狙われ、二人の奇襲攻撃を食らいそうになっていた。
マンハとヒメンはあと少しでやつけられる所だが、二人の奇襲でそれも危うい。一人なら何とかなったかもしれないが、この状況は非常に危うい。
ラムリーザたちの中で戦えるものは三人、それに対して反クッパ同盟は二倍の数である六人で仕掛けたのであった。
「よし、一人片付けろ。ヘイホーンは大将の足止め、妖術も恐れることないぞ。俺はこの荒くれを――おっと危ない。こいつをできるだけ引き付ける。まずはその頭脳役みたいなのを四人で片づけてしまえ」
ミキマルは、レフトールの攻撃をひょいひょいかわして逃げ回りながら指示を飛ばす。
このように、ラムリーザたちはたいしたことが無いと思っていた反クッパ同盟に対して、意外な苦戦の中にいた。
リゲルは、マンハとヒメンを転がした上で、ハナマとモートンの方へ振り返った。しかし、動きの鈍いヒメンと普通の動きをするマンハの二人と違って、新たな二人は同時に襲い掛かってくる。関節技で攻めるリゲルにとって、複数の相手を同時に対処するのは難しい。ここまでか?
「えぇ~いっ!」
そこに、突然甲高い叫び声が上がった。同時に、ハナマの横からぶつかってくる影が。
「うわっ、何だ?!」
突然の体当たりを食らって、ハナマはよろめく。おかげでリゲルに突っかかっていったのがモートンだけとなり、リゲルは難なく腕をひねり上げて転がしてしまった。その上で、チキンウィングフェイスロックに固めてしまった。
突然体当たりを食らったハナマがその方向を見ると、再びぶつかってくる塊があった。
「えぇ~いっ!」
先ほどと同じ声、ソニアだった。ソニアはハナマに駆け寄って、すぐ近くで飛び上がると同時に後ろを向いて尻からぶつかろうとしたのだ。
「食らうかっ!」
しかしハナマは、ひらりと身をかわしてソニアのヒップアタックから逃れた。しかし――
「うわっ!」
その反対側から、またしてもぶつけられたのだった。ユコも同じように、ハナマに対して尻からぶつかっていく。
体当たりを食らったハナマはよろめき、さらに反対側から体当たりを食らってしまった。
ソニアとユコは、二人がかりでハナマを左右から体当たりし続けている。ハナマは片方を捕まえようとしたらもう片方がぶつかってくるのを繰り返して、勝手に一人で翻弄されていた。
「ええーいっ、うっとーしい!」
ハナマはぶんぶんと手を振り回す。するとソニアとユコは、距離を取って身構えてしまった。そのまま三人は睨み合っていた。
「ご苦労さん」
そのハナマの後ろから掴みかかったのはリゲルだった。リゲルはハナマを羽根折り固めで極めてしまった。そのまま力を込めて、腕の関節を外してやる。
「げふっ……」
あとに残されたものは、腕の関節を外されて座り込む四人の姿であった。こうしてヒメン、マンハ、モートン、ハナマの四人は、リゲルの手によって戦闘不能状態に持ち込まれてしまったのである。
「どうやぁ!」
当然のごとく、得意がるソニアはドヤ顔だ。そんなソニアを、リゲルはじっと睨みつける。何よ! と言わんばかりにソニアも睨み返す。必要以上に功を誇るソニアと、助けてもらったのにソニアに礼が言えずに決まりの悪そうなリゲル。まるで仲間割れでも起きそうな雰囲気だ。
「なんばしょっとね!」
予定が狂ってしまったミキマルは、動きの止まった四人を見て驚く。しかし、レフトールに追われているので駆け寄ることはできない。
リゲルはソニアから目をそらすと、次の獲物を見据えた。ミキマルを捕まえてやろうと考えたのだ。しかしミキマルはちょろちょろと逃げ回る。
「待たんかコラ!」
「待てと言われて待つ愚か者はおらんわぁ~あぁ~っ!」
レフトールに罵られてミキマルは別の手を出したようだ。逃げる方向をユコの立っている方向に変えて突進する。レフトールとユコをぶつけてやろうと言うのか?
「おい、そっちに行ったぞ」
リゲルはユコに注意を促す。しかしユコの取った行動は、リゲルにも、そしてミキマルにも想定外の物であった。
「むっ?!」
ユコは突進してくるミキマルの方角へと駆けだした。普通に体当たりでぶつかり合うと、体力負けしてしまう。
しかし、ミキマルの視界から突然ユコの姿が消えた。次の瞬間、ミキマルは何か大きい物に躓いて前方に跳ね飛ばされてしまった。ユコがミキマルの正面で突然かがみこんで丸まってしまったのだ。それに足を取られて、ミキマルは転倒してしまった。
後ろから追いかけていたレフトールはユコを飛び越え、転がっているミキマルの腹部を蹴り上げてやったのだ。
「ぐぼっ!」
とうとう捕まってしまったミキマル、起き上がる前にレフトールの接近を許してしまい、さらに蹴りを入れられてしまった。
「もう逃がさねーぞ」
「くっそおぉぉお~おぉ~っ!」
ミキマルは転がってレフトールの蹴りをかわすと、素早く起き上がろうとした。
「これまたご苦労さん」
その後ろにリゲルが迫っていた。リゲルはミキマルを後ろから捕まえると、腕を首筋に回して締めあげてしまった。
「…………」
声も上げずに白目を向くミキマル、リゲルに首を絞められて意識を失ったか?
とどめとなるレフトールのニーリフトを食らい、ミキマルはその場に崩れた。残るは、反クッパ同盟の用心棒兼秘密兵器、ヘイホーンだけだ。
ヘイホーンはラムリーザを押し込もうとしているところだった。ラムリーザはヘイホーンの重さに押しつぶされそうになっていてピンチである。
「待たせたな! ラムさん! 今、楽にしてやるぞ!」
そこに素早く駆けつけたのがレフトールだ。
「介錯するなよ」
「救援だ!」
リゲルに突っ込まれて言い返すレフトール、組み合っている二人の傍に行き、ヘイホーンの後ろに立った。ヘイホーンはラムリーザと組み合っていて動けない。レフトールは後ろから蹴りつける、ハイキックか?
「フォレスター・キラー!」
そこに飛び出たのは、レフトールのラムリーザ対策の蹴り技、全力でのローキックだった。
「うぐぅ!」
ヘイホーンの身体が傾いた。
「はっはっはっ、巨漢は足を狙えというのは定説だぜ」
レフトールは笑いながら、二発目を仕掛ける。確かにこの巨体ではボディ攻撃は効きそうにない。強靭な肉体を作ったラムリーザとは違ったボディの守り方だ。筋肉の壁で防ぐラムリーザと、脂肪の塊で防ぐヘイホーンだ。
しかし足に関しては並の場合が多い。レフトールは二発目のローキックを放ったところ、ヘイホーンはたまらずよろめいて転がされてしまった。
ヘイホーンは起き上がろうとするが、ラムリーザはまた腕をつかんだまま。これでは立ち上がれない。
そこにリゲルが攻撃に加わった。リゲルは仰向けに倒れたヘイホーンの両足を脇に抱えて捻り上げる。クロスヒールホールドだ。
「痛い痛い痛いまいった!!」
これにはたまらず、ヘイホーンはあっさりと負けを認めてしまったのである。
こうして、さらに反クッパ同盟を迎撃することに成功したのであった。
途中三対六になった時は危なかったが、ソニアとユコも戦線に参加してからは一気に形勢が逆転して、最初はヘイホーンの巨体に驚いたが、力を合わせて勝利をものにしたのであった。
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