反クッパ同盟の解散
1月26日――
パタヴィアとクッパ国跡地の中間地点に当たる場所、冬の平原に人が数人集まっている。
五人の男女が輪になっていて、中央で正座して座っている五人を取り囲んでいた。そして輪の外に、山のような大男が倒れていた。
ラムリーザたちは、もう何度目になるか分からない反クッパ同盟の襲撃を辛くも撃退し、戦後処理に臨んでいる所だ。
輪の外に倒れているのはヘイホーンといって、ミキマルの連れてきた秘密兵器の用心棒だ。巨体に驚かされたが、みんなで力を合わせて退治できたのである。もっともこの者だけは正式な反クッパ同盟のメンバーではなく、ただ雇われただけなので今回の尋問からは外されていた。
「こらぁ、参ったか!」
ミキマルに脅しをかけているのはレフトールだ。こういった状況になると、まるで水を得た魚――とまではいかないか。
「むろん参った」
「何ふてぶてしく参っとるんや!」
レフトールは、妙に堂々としているミキマルの目の前で、大きく足を踏み鳴らして見せる。何かまだ奥の手を用意しているのか?
「ひーん」
そんなことはなさそうだ。レフトールの剣幕に押されて、お饅頭の様に丸まってしまった。
「それと今度はお前! 客引き!」
「なんでしょかお客さん!」
客引きのマンハも、最初は強気のようだ。
「ちゃんとした女を用意しとけや!」
「なんですのそれは!」
レフトールのマンハに対する脅しに、ユコが噛みついた。
「とまぁ、そんな感じだから――ラムさん交代」
ラムリーザは、レフトールに脅させてばかりでは効果が無いと考え、こんな街の外でダラダラ過ごすのも無駄だと判断した。そこで、一旦街に行って、そこでミキマルたちを反省させるというか改心させるというか、もう馬鹿なことをさせないよう説得させようと考えた。
「とりあえず、街に戻ろう」
正確に言えば戻るのではなく、これから行くのだが、細かいことは気にしない。
本当はクッパ国の跡地でクリボー老人を探したかったのだが、反クッパ同盟の襲撃で疲れてしまったので、少し休みたいところだった。それに、反クッパ同盟とのくだらない争いはここまでにしておこうと思っていた。
ラムリーザが促すと、ミキマルはふてくされた顔で立ち上がった。リーダーが動くと他の者もついてくる。妙なところできっちりと繋がっている集団だ。
こうして、十人を超える大所帯になったところで、パタヴィアの街へと入っていった。
ラムリーザを先頭に、ミキマルを人質として捕まえているレフトールが続き、その後ろに反クッパ同盟のメンバー、用心棒のヘイホーンと続き、最後にリゲルとその左右にソニアとユコといった陣形で街の中を進んでいく。
「ところであの護衛はどうしているんだ? 全然出てこなかったぞ」
レフトールは、ラムリーザに尋ねた。護衛とはレイジィのことだ。
「たいしたことの無い相手の場合は、出てこないようにお願いしているんだ」
ラムリーザは、この旅を冒険したいとも考えていたので、自力で対処できる部分は自力で対処したい。護衛にはそのようにお願いしている。つまり、ラムリーザたちの手に余る相手の場合のみ手を貸すようにしているのだ。ひょっとしたら裏で密かに葬られている者が居るのかもしれないが、それはラムリーザたちの知ることではなかった。
「だな、反クッパ同盟はちょろちょろしているだけでたいしたことねーや」
レフトールにそう言われて、ミキマルはむっとした顔を向ける。しかしこれ以上反撃する気力は無いようだ。
「待てよ――、俺の時には出てきたじゃねーか?」
「レフトールの軍団は危なかったからね、仕方ないさ」
「へっへー、どうだミキマル! 俺の軍団はラムさんの護衛も恐れたが、てめーらは眼中に無しだとさ」
「あまり煽るなよ。ま、今はその大将が仲間だからね、気楽だよ」
ラムリーザに持ち上げられて、レフトールは気分をよくしていた。
その一方で、行列の後部ではリゲルが両手に花だ。だが、普段から二股のリゲルにとって、ちょっと妙なところのあるユコやソニアでは、特に思うところは無いようだ。
「ねー、リゲルってあたしたちのおかげで命拾いしたよねー」
しかもそのソニアが、恩着せがましいことを言い続けているのではなおさらだ。
「黙れ」
「そんなこと机をドンとでも叩いて言われないと怖くないもーん。それにあたしが居なかったら四人相手にどうなっていたかなー」
リゲルは答えなかった。今回はソニアの言うことが事実なので、強く出られない分言われるままになっている。今は珍しくソニアがリゲルに勝っているので、かなり調子に乗っている。
パタヴィアの街をしばらく歩いて、ミキマルのムェット店に到着。そこはラムリーザたちがパタヴィアに初めて来た時に立ち寄った、一見普通の雑貨屋に見える場所だ。
「ほー、野盗の本拠地にしてはいい店じゃねーか」
レフトールは、前回訪れた時の事はあまり覚えていないようで、ミキマルに対して皮肉を投げかける。
「こんな立派な店があるのに、なぜ野盗なんかやってるんだよ」
ラムリーザも問いかける。
「あまり儲からないんだよ~おぉ~っ!」
ミキマルは悔しそうだ。いつもの独特な語尾で、不満をまき散らす。
そこに通行人が通りがかる。ムェット店に人だかりができているのを珍しそうに見ていた。そしてラムリーザと目が合った時に、一言忠告めいたことを言った。
「そこ、不良品ばかりだから気をつけな」
通行人はそのまま立ち去って行った。
不良品、確か最初に訪れた時も、近くの弁当屋で聞いたような気がする。
「そう決めつけることも無いだろう」
だがラムリーザは、好き好んで不良品を売りつけることも無いだろうと考えた。そこで、ソニアに何かを買ってあげようとしたのだった。
そう思って店の売り物を物色してみたが、ガラクタの様なものばかりで欲しいと思うものはなかなか見当たらなかった。遊べそうなものと言えば、パズルぐらいかもしれない。
「よし、土産にこのパズルを買おう。五百ピース? ああ全体の大きさだね、このぐらいが丁度良いかな」
ラムリーザは、ソニアにパズルをやらせて忍耐力を身に付けさせようと考えたのだ。熱中してくれれば、その間は大人しくしてくれるだろう。
「あ、またハメられてる」
店の前を通りかかった通行人が、不穏なことを言っている。パズルに不良品などありえるのだろうか?
「こっちの二つ目も買った方がいいぞ」
ミキマルも、どさくさにまぎれて同じパズルをもう一つ売りつけようとした。
「一つで十分」
「知らんぞ」
押し売りにも屈せず、ラムリーザはパズルを一つ購入した。二つ買わされそうになったが、まずは一つ完成させられるかわからないのに二つも買うのは危険だ。しかも箱に描かれている絵はどう見ても同じ物だ。
「さてと――」
雑貨を購入してやって気分もほぐれたところで、ラムリーザはここでミキマルに対する本題を述べる。
「反クッパ同盟は今日で解散するんだ。こんなことやっていても何も良いことはないぞ」
「う、うむぅ……」
当然のように、ミキマルは決断を渋る。
「何だ? 半殺しにしないとダメかぁ?」
次にレフトールが脅しをかけた。
「わ、わ、わかったよ」
「よし、二度と旅人を襲わない、復唱」
「に、二度と旅人は襲わない」
「よし、約束だからな」
半ば脅す形で、反クッパ同盟の解散を認めさせてやった。これで今後は安心してクッパ国跡地の探索ができるだろう。
ミキマルはがっかりしたのか、大きくため息をついた。
「なんだ? 未練があるのかコラ」
レフトールがさらに脅すと、ミキマルはレフトールを睨みつけて言った。
「これで反クッパ同盟の歴史は終わったんだ」
「よいことじゃねーか」
「創立者のラギーとイリー、そして初代盟主のチヨロ、すまーん!」
ミキマルは、天を仰いで頭を抱えて叫んだ。誰だよチヨロって、適当な名前の奴だと思うが、ここでは何も言わないでおく。
「でも折角だから、盟主とか聞いてみようかな?」
ラムリーザは、どうでも良さそうな情報が重要な情報になるかもしれないと考えて、ミキマルを刺激しないような言い方で尋ねてみた。
「ラギーとイリーはクッパ王の実の息子で反クッパ同盟の創設者兄弟。そしてチヨロはパルパタを裏切って反クッパ同盟に参加して、初代盟主となった者だ」
パルパタ老人と関わりがある話とは意外だった。
「二人の兄弟は腹が立つという理由だけで、クッパ王から投獄されて反抗し始めた。そこでチヨロを加えて決起したのだ」
その話はコトゲウメから聞いたような気がする。チヨロの話以外についてだが。
「パルパタ老人の仲間だったチヨロという者は、今はどうなっているのかな?」
「チヨロは最初は反クッパ同盟に積極的だったが、その内飽きたのか『俺は悪くない』と言い残してさっさと脱退してパタちに戻りやがったんだ」
「主義主張をコロコロ変える人だったんだね」
パタちと言えば、これもコトゲウメからパルパタたちというグループ名を省略した名前だと聞いた気がする。チヨロという者がパタちに戻ったと言うことは、今はパタち議事堂に勤める一員となっているのだろう。
ミキマルの話では、その後はラギーとイリーを中心にして反クッパ同盟の活動は続いて勢力を拡大した。主な内容としては、クッパ王に対して不満を叫ぶのみだったとかどうとか……。しかし、クッパ王が没するとともにその活動にも陰りが見えてきて、二人が現役を引退すると同時に活動は小規模になってしまったのだ。
そして今現在はミキマルがその盟主を引き継いだ形になっているが、その活動はこれまでの内容と違い、郊外で旅人を襲っては金品を巻き上げる野盗集団と化していた。
「でももう止めだ。反クッパ同盟は解散、これからは別の道を探すさ」
「よし!」
ラムリーザは手を打ち鳴らし、ミキマルの正しい選択を褒め称えた。
こうしてミキマルを説得でき、ここに無用な集団である反クッパ同盟は、歴史の表舞台に登ったことは無いが、その長い歴史に幕を下ろしたのであった。いや、クッパに反抗する集団としては、クッパ王が没した時に既に終わっていたのかもしれない。
とにかく旅人を襲うごろつき集団というクッパ国における負の遺産がまた一つ消え、パタヴィアはよりまともな国となっていくだろう。