強引で無茶すぎる商売

 
 1月27日――

 
 今日は、朝からムェット店を訪れていた。

 昨日反クッパ同盟と戦い、その後のごちゃごちゃ後に店を出た時には、すっかり日も暮れていた。

 つまり、休日を一日丸々反クッパ同盟に潰されたわけだ。しかしいろいろあって、反クッパ同盟は負けを認めて解散し、ここにもう同盟の脅威は無くなった。パタヴィアのわけのわからない一面が解消されたわけだ。

 しかし一晩明けてみたら、またムェット店に立ち寄っている。もうわざわざ近寄る必要は無いのにそうしているわけは?

 

「こらぁメット! パズルが合わない!」

「知らんがな、あと俺はミキマルテツマロな」

 ソニアはすごい剣幕でミキマルに詰め寄っている。

 昨日と違って店の中にはミキマルが一人だけ。元反クッパ同盟のメンバーは、専業の野盗ではなく副業の野盗。それぞれ街の中で仕事を持っていた。そしてオフの時に集まって悪さをしていたのだ。たとえばミキマルはこのように雑貨屋の主人だし、マンハはキャバクラの客引きだ。

 ソニアとユコの二人は、昨夜宿に戻った後で、二人で協力してムェット店で買ったパズルにチャレンジしていた。しかし、夜遅くまで頑張ってみたものの、1ピースすら合わせられなかったのだ。それが悔しくて、売主だったミキマルに詰め寄っている。自分たちのセンスの無さを棚に上げて、ミキマルに不良品だと文句を言い続ける迷惑な二人であった。

「お前らが下手なだけだろうが~あぁ~っ!」

「いいえ、明らかに合わないようにできていました!」

「そうか? ならばこっちも買えば合うかもしれんぞ」

「合わないパズルなんて二つも要らない! そっちと交換で!」

「両方買った方がよいぞ」

「交換してください!」

 ソニアとユコ二人に詰め寄られても、びくともしないミキマルであった。しかもさらに追加で売りつけようとするのだから、たいした商人である。

「まーええわ、交換してやる。ただし、それでも合わなかったら下手だと認めて両方買うんだな」

 何故か二つ売ろうとすることに固執するミキマルであった。しかし、不良品と思われるものと交換してもらえて、ソニアとユコはひとまずは満足したようであった。

 ソニアの買ってもらったパズルは500ピース入りで、クッパ城の全盛期に撮られたものか、立派な城の絵の写真が描かれている物だ。500ピースは少なくはないが、多くもない。初心者でも完成させてもらいたいが、ソニアにはユコに手伝ってもらっても難しいというのだろうか。

「500ピースぐらい完成させてみろ~おぉ~っ!」

「なんかこいつむかつく~!」

 煽るミキマルと、簡単に挑発に乗るソニア。

「こっちのも買え~えぇ~っ!」

 そして、相変わらず同じパズルをもう一つ買わせようとするミキマルであった。

 

「ところでミキマルくん、クリボー老人について聞きたいことがあるのだが、いいかな?」

 ソニアとユコとミキマルの言い合いが終わったところで、ラムリーザは問いかけてみた。

「俺はクリボーとは何の関係もないぞ」

 しかし残念ながら、ミキマルはクリボー老人と関わっていなかったようである。老人の住み着いていた場所と、反クッパ同盟の活動場所がたまたま同じだったのだろう。

「反クッパ同盟の先人は?」

 そこで、過去に関わりがあったかどうかも聞いてみる。

「クリボーはクッパ王に『頭おかしい兵隊だ』と評されてたからなぁ、どうにも近寄り辛かったんだよね」

「クッパ王に疎まれたいたのなら、反クッパ同盟に加わってもおかしくないと思うよ」

「クリボーはクッパ派だったからなぁ……」

「えっ?」

 そのミキマルのつぶやきにはラムリーザも驚く。ラムリーザの知っている情報では、クリボーはクッパ王に全ての責任を押し付けられて、その結果クッパ国が滅亡したようなものだ。そんなクリボーがクッパ派とは如何に?

 ラムリーザは、振り返ってリゲルの意見を求める。

「クリボーはクッパに夢中だったと聞いたぞ」

「そうだよなぁ」

 それは以前コトゲウメかごんにゃ店主からか聞いた話だ。クッパ信者だったクリボーが、反クッパ同盟に参加するはずがない。

「なのにクッパはクリボーを嫌っていたのだろう?」

 ラムリーザは再びミキマルに聞いてみる。

「クリボーはクッパ王の熱狂的なファンだったからな。クッパは逆に鬱陶しがって、全ての責任を押し付ける嫌がらせに出たんだ」

「理由として成り立ってよいものかどうかは試案のしどころがあるような、ないようなだけど、やはりこれは使えるような気がするな」

 ラムリーザはミキマルから話を聞いて、やはりクッパの問題にはクリボー老人が使えると考えた。つまり、クッパ王の亡霊のようなものにクリボーを押し付けたらどうなるか?

「使えるよな?」

「ありだな」

 リゲルに再び確認を取ってみても、同意してくれる。これはアレだろうか? 例えば毒を持って毒を制す――とは違うか? フォレストピアに巣くうクッパの亡霊、とにかくクリボーを持ってクッパを制してみよう。そう考えたのであった。

 うまくいけば、クリボーを嫌がってクッパが逃げ出してくれるかもしれないではないか。

 クリボー老人で厄払いができるのなら、一度連れて帰ってみるのもよいだろう。

「試してみる価値はありそうだな」

 こうして、クリボー老人をフォレストピアに招いてみることに決定した。駄目で元々、当たれば儲けである。

「ミキマルくん、ありがとう。うまくいきそうな気がしてきたよ」

 ラムリーザは、ミキマルにお礼を述べて、握手をするために手を差し出した。

「待った。良いことを教えてやったのだから、少し仕事に付き合えよ」

「なんだそりゃ?」

 ラムリーザはミキマルの突然の申し出に驚いた。そのままソニアの方を見る。

 すると、他のみんなもラムリーザの視線を追いかけて、そのままソニアの方へと目を向けた。

「な、なによ?」

「ソニアって、客引き向いてそうね」

 ユコは何を思ったか、勝手にそう決めつけてしまった。

「ちょっとやってみてん、そのパズルでも売るつもりで」

 ラムリーザはなんとなくソニアにやらせてみようと考え、適当に設定を作り出して課題を与えてみた。

 最初は不満そうな顔をしてたソニアだが、おもむろにパズルを掲げると、客引きのまねごとをやってみた。

「へいらっしゃいらっしゃいらっしゃいらっしゃい!」

 ソニアはみんなの期待に応えるかのごとく、元気に掛け声を発しだした。

「ムェット店のパズルだよ、一ピースもはまらない不良品だよ~っ!」

「こらっ! そんなこと言うならもう一つこっちのも買ってから言え~えぇ~っ!」

 勝手に不良品扱いされて、ミキマルは怒り出す。

「なんだか威勢のいい雑貨屋ですね」

 ユコは冷静に評価するが、目が笑っている。ソニアは似非お嬢様などやってないで、田舎で八百屋をやっているのが似合うのだろうか?

「これでいいのかな?」

 ラムリーザはミキマルに尋ねてみる。

「違う、訪問販売に行くぞ」

「訪問販売?」

「客先に出向いて、商品を売るんだ」

「へー、そんな商売もあるんだね」

 ラムリーザは自分で商売をやったことが無いので、ミキマルの行動が珍しくて興味深かった。

「押し売り――」

「違う!」

 リゲルは何か知っているようだったが、ミキマルは強く否定してさらに言葉を続けた。

「俺は嫌がっている相手に強要はせず、穏便に静かに済ませるんだ」

「ほう、そんなことができるのか」

「まぁ見てなって」

 リゲルは少々――といってもいつもどおりだが――冷ややかな言葉を投げかけるが、ミキマルは品物の入った鞄を手に取ると、店をお休み状態にして出かけて行った。ラムリーザたちは、ミキマルの後についていってみる。

 ミキマルはムェット店を出て、大通りではなく裏通りへと入っていった。そこは住宅街となっていて、ターゲットとなる家を探っているようだ。

「これにするかな」

 その中の一軒、周囲から少し離れた場所にある少し隠れた家、ミキマルは訪問販売先をここに選んだようだ。

 最初は遠慮がちに、二度目は少し強めにドアをノックする。しかし、反応はない。どうやら留守のようだ。

「留守かな? 居留守かな?」

 ラムリーザは次の場所へ向かうと予想してみた。しかしミキマルは何を思ったか、一言「よし」と呟いて、懐から針金のようなものを取り出した。そして、ドアのカギ穴にそれを差し込んだのだった。

「あ――」

 ユコが小さく呟く。テーブルトークゲームでゲームマスターをよくこなしていたユコは、ミキマルの行動が何であるかをすぐに察したようだ。

「うむ」

 リゲルも呻いて腕組みをした。

「何をしているのかなぁ」

 しかしソニアは分からないようだ。

「あ、俺もあれやったこと――痛っ」

 レフトールが何かを言いかけて、ユコに小突かれた。

 そう、ミキマルはいわゆるピッキング――すなわち不法侵入しようとしているのだ。

 ラムリーザたちが遠巻きに見ている中、ミキマルは扉を開けて中に入った。そして少しの間静かな時が流れ、表に戻ってきた。それから再びピッキングで扉の鍵を締めて、何事も無かったかのように戻ってきたのだ。

「どうだ、売れたぞ」

 ミキマルは、なんだか得意顔だ。

「留守だったようだが?」

 ラムリーザは不思議に思って尋ねてみる。

「大丈夫だ、ちゃんと売ってきた」

「どうやって?」

「品物を置いてきて、代金を頂いてきた」

「それって、注文販売か何か?」

「いや、訪問販売だ」

「でも留守だったのだろう?」

「関係ないね」

 ラムリーザは、ミキマルが何を言っているのかよく分からなくなってしまった。一見泥棒のようにも見えるが、品物を置いて代金を取っただけ。これはいったい何なのだ?

「なるほど、家に人が居なくても、品物を置いていく。そしてその代価を取っていく。確かに商売の流れはできている」

 リゲルは、ミキマルのやったことが分かったようだ。

「その通り、これが俺の考え出した新たな訪問販売だ」

「ただし、流れだけだ。そこに買い手の意思は存在しない。つまり、盗みだな」

「盗みではないっ! ちゃんと品物を置いてきとるんじゃ~あぁ~っ!」

 リゲルに盗みと言われて逆上するミキマル。しかしリゲルの言うことが正しい。たとえ適正価格を取ったとしても、それは静かな押し売りであってまともな商売ではない。まさに強引で無茶な商売だ。そんなことばかりやっているので、店の評判が悪くなるのだろう。

 やはり反クッパ同盟は、解散しても反クッパ同盟であった。

 ラムリーザは、ミキマルとの交流はあまりよくないと考えて、今後ムェット店にはなるべく立ち寄らないようにしようと考えるのであった。

 

 この日、ミキマルは窃盗容疑で逮捕されたと聞くが、当然のことだろう。

 そして、クッパ国では崩壊していた犯罪検挙が、パタヴィアでは正常に機能していることを示す例となったのである。
 
 
 
 




 
 
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Posted by 一介の物書き