第九回フォレストピア首脳陣パーティ
2月2日――
新年二度目となるフォレストピア会議、これで通算九回目となる。
今回は、いつものメンバーに加えてレフトールも参加している。しかしこれは、完全に身内特権となり、コネ参加のようなものだ。
そのレフトールも、ソニアと一緒にごちそうに群がっている所を見るに、やっていることは同じような物だ。そこにジャンと結ばれたリリスと、元々参加資格のあるユコも集まっていた。
ユグドラシルは、大学受験の準備で忙しくて参加していない。それにこれまでは、生徒会長としてイベントネタの仕入れのために参加していたのだが、任期も終わり、その必要が無くなったということもある。元々フォレストピアの住民でもないのだから、その辺りの融通は効く。というより出ないのが普通で、これもラムリーザの身内特権であった。
そして普通に会議でいろいろと話を聞いているのは、ラムリーザとリゲル、それにロザリーンとジャンの四人だけだ。リゲルとロザリーンもフォレストピアの住民ではないが、ラムリーザの参謀的ポジションで、ラムリーザ自身から参加してくれと要望していて二人も快く引き受けてくれた。
今回のパーティという名の話し合いでは、まずは帝都から憲兵隊のまとめ役が派遣されたことに対する紹介から始まった。
名はウルフリック・ゲスラと言い、がっしりとした体格の中年男性だ。元々帝都の憲兵隊本部で、地味な小役人の立場に甘んじていた者だったが、つい先月頃にちょっとした功績を立て、栄転と言う形でフォレストピアの憲兵隊隊長の地位を与えられたのであった。
簡単な自己紹介が終わり、ラムリーザとの挨拶も済ませた後で、早速今現在フォレストピアを騒がせている問題の話となった。
問題の話とは、「クッパの騒動」について。多くの民衆が、クッパと名乗った者にクッパのを取られたという報告が多数挙げられていることだ。ここまで来ると、ソニアやユコの戯言ではない。ラムリーザもリゲルも被害にあったわけだし、これはもうフォレストピアの大問題へと発展していた。
それに勇者店の店長もパーティに参加していて、ほとほと困り果てていることを意見として提出していた。言い分としてはこれまでと同じで「クッパの――、そんなもの入荷していないのですけどねぇ……」というものだ。
そして未だにクッパという者は、憲兵隊に捕捉されていないのだ。
クッパによる勇者店に対する嫌がらせか、それともクッパは勇者店を潰そうとしているのか。
ラムリーザたちのパタヴィア探索で、出没しているクッパと思われるクッパ国の国王クッパは、ずっと昔に亡くなっている。しかし実は生きていて――といった線も考えられるのだ。
しかしなぜ死後何年も経ってからここに? 謎は深まるばかりだ。
さらに別の意見が飛び出して、別に勇者店を狙い撃ちにしているわけではないこともわかった。
つねき駅方面にある炭鉱トモロゥネバーノウズで働いている鉱夫のリーダーであるエコムスが、炭鉱の近くにある雑貨屋でもクッパの被害が発生しているとの報告をしたのだ。
さらに、フォレストピアにあるもう一つの帝国産雑貨屋からも、同様な被害報告があった。
フォレストピアには、今の所三か所に雑貨屋がある。一つはユライカナンからの勇者店、そして帝国産の雑貨屋が町に一つ、炭鉱の傍に一つある。そしてその三か所で、クッパの騒動が起きているのだ。ということは、別に勇者店を潰そうとしているわけではない。
それでは何か? フォレストピアの経済を混乱させるためか?
憲兵隊の報告では、やはりクッパという者は町には住んでいないし見つからない。そして浮浪者の類も居ない。できたばかりのフォレストピアは、まだクリーンな町なのだ。
クッパという者は、クッパの事件の時だけ姿を現しているらしい。そして不思議なのは、これだけ被害が多発しているのに、誰一人として抵抗した者は居ないのだ。人によっては二度も取られた者が居る始末。
「そう言えば、リゲルも引っかかったんだってな」
ラムリーザは、昨日の出来事を思い出して聞いてみた。何故抵抗しなかったのだと。お人よしのラムリーザと違って、合理的なリゲルはクッパなどに屈しないはずだ。
「ん~、論理的とは言えないが、あの時はなぜか奴の言い分が正しいと思えた――と思う」
リゲルにしては曖昧な物言いだ。
「なんだかリゲルらしくないぞ?」
「ん~」
リゲルは考え込むが、他の人も同じだ。二度取られた人も、何故かクッパには素直に接してしまうのだ。
「超常現象だな」
少しの間黙っていたリゲルは、次にこう切り出した。
「超常現象?」
「この世の出来事ではないだろう、という話だ」
「そんなゲームみたいな……」
ラムリーザはソニアみたいだと言いそうになったが、とっさのところでゲームと表現できていた。
「考えても見ろよ。クッパは十年以上も前に亡くなっているという話だ。実は生きていたという説か、それが成り立たないのならはフォレストピアに現れたクッパは幽霊ということになる」
「幽霊ねぇ……」
ラムリーザは別に超常現象否定派ではないが、実際に間近で起きていると考えると疑ってしまう。
「それ以外に考えるとしたら、クッパ国がフォレストピアにテロを仕掛けた――と言ってもクッパ国自体滅亡しているし、テロにしてはやることがせこすぎるな」
「じゃあパタヴィア?」
「数日間過ごしてみたが、そんな動きは無かった。それに国の最高指導者であるパルパタ爺やトゲトコも、お前に好意的だった。……んや、それ自体フェイクとも考えられるが……」
ラムリーザは、リゲルの話を聞きながら周囲を見回してみた。
すると当然の流れのごとく、パーティ参加者はクッパの事件の話をし続けているようだ。中には「クッパを倒せー」などと、過激な発言も飛び交っている。クッパ国のクッパ王なら既に滅びているのだが。
「クッパ国の滅亡で述べられているように、クッパ王とはとんでもないやつですなぁ」
ラムリーザとリゲルの間に入ったごんにゃ店主はそう述べた。クッパ王が既に亡くなっているのかどうかは、犯罪歴史学の教科書では述べられていない。
「クリボーが悪いですか?」
ラムリーザは、少しふざけた気分でそう返してみた。
「クッパ国滅亡の話だったら、そういうことになるよなぁ」
ごんにゃ店主は、クリボーの現状を知らないからそういう返事になる。
「そんなことよりもクッパをなんとかして下さい!」
そこに勇者店の店長も加わった。今回の騒動で、一番迷惑を受けているのは彼女かもしれない。
「私はクッパのを二つ取られたんだよ!」
「早くクッパって奴を捕らえて下さい!」
気が付けば、ラムリーザの周りに人だかりができていた。一通り不満を述べ合った住民一同は、自然とラムリーザに解決を求めたということだ。
「え~、落ち着いてください」
ラムリーザは、どんどん詰め寄ってくる住民を両手で抑えて制しながら、なるべく平静を装って答えた。
このままでは対クッパ自警団なるものが結成されそうな雰囲気だ。しかしリゲルの予測の一つである超常現象説が正しいとなれば、これは未解決事件を生み出すだけとなってしまうだろう。それとも、オカルト対策班と言った、ファンタジー的な組織が発足するかもしれないのだろうか。
「クッパの事件でしたら、近いうちにある方法を試してみますので、今はがまんして下さい。それと、クッパのを見つけても、絶対に購入しないで下さい」
まさか雑貨屋に行かないでくださいとは言えない。ここは住民の意志力に頼って、「クッパの」に触れないよう呼びかけるしかなかった。さらに、「クッパのばぁ」などという物も出回っているとかいないとか。とにかくクッパの製品には厳重な警戒を、と呼びかけるのが精いっぱいだ。
そして本来ならば、この週末にパタヴィア訪問でクリボー老人を連れてくる予定だった。そしてクッパ王の亡霊に彼を対峙させて、何が起きるか試してみるはずだった。
「それまではどうすればよいのですか?!」
「『クッパの』で受けた被害は、僕が補償します。だから、今は気を付けていてください」
そう述べながら、ラムリーザはクッパ王のやり方を思い返していた。
今現在、クッパの亡霊が騒動を起こし、その補償を領主たるラムリーザ自身が行っている。しかしかつてのクッパ国では、犯罪が起きた時にはクッパ王は責任を取らずに、全てをクリボーの責任にして罰金という形で補償させた。
これはクッパ王に試されているのかな? ラムリーザは、一人そんな考えも浮かばせているのであった。
長々と論議していても始まらないので、クッパの問題についての話はここらで一旦終了。次は提示報告会に移行した。
この一ヶ月でのフォレストピアで変わったこと、新しく作ったこととして、念のために十分な貯水のできる給水塔を町の東西南北、そして中央に大きなものを造っていた。
「給水塔いいね~」
なぜかジャンは良い機嫌だ。
「いいのか? まぁ水不足対策にはなるかな」
フォレストピアでは程々の降水量もあるし、山からの豊富な湧き水でダムを作っているので、水の確保は十分だ。しかし念のためというのもあるので、数日間は給水塔だけで暮らしていけるよう建設したのであった。備えあれば憂いなし、豊富な施設は有るに越したことはない。
「それもあるし、幼馴染の思い出の場所にもなる」
「そうなのか?」
ラムリーザは、ソニアと給水塔で何か語ればよいのかな? と考えた。あまりムードのある場所とは思えないのだが……
そこで給水塔にも名前を付けようという話にもなった。ラムリーザは、給水塔に名前を付けるなどという発想は出てこない。精々東給水塔だの、中央給水塔で良いとさえ思っていた。
しかし妙にネーミングに拘る住民、今回もまた妙な名前を付けられるのだろう。
はい、東西南北の給水塔は、それぞれ青龍、白虎、朱雀、玄武。中央に至っては、盤古などと大層な名前を付けられました。
これは、ユライカナンにおける方角の神、四神に当たるものらしく、珍しくまともな名前が付けられた――給水塔に付けるような名前でもないような気がする――ものであった。
大層な名前の給水塔で、思い出の一つや二つを作るのも悪くないだろう。
しかし、この分だと下水処理施設にも名前が付きそうな勢いでもある。町の規模が小さいうちは、下水は河川に流してきていたが、大きく発展したのでそろそろ下水処理場を作ろうという話になって現在建設中である。来月には出来上がっていると思われるので、どんな名前が付けられるものやら……。
さらに、新たな計画についての話が上がった。
フォレストピアの北側にも未開の地が広がっている。
そこで、フォレストピアを囲んでいるアンテロック山脈とロブデオーン山脈の北側に、防衛拠点を作ることになった。
フォレストピアの町自体は山脈という自然の防壁で北からの侵略は防がれているようなものだ。
しかし自然に任せるだけでは心もとないと考え、人工の防壁も作ることにしたのだ。
そこでまずは、山脈を北に抜けるトンネルを作成することになった。そして開通次第、北の拠点を作ることになった。
そういう計画の話についても、今回話し合うことになったのだ。
「ところで領主さん」
一通り話し合いも終わり、そろそろパーティもお開きと言ったところで、ごんにゃ店主がラムリーザに話しかけた。
「明日、ユライカナンのささやかなイベントを店でやるので、ぜひ友達を誘っておいでよ」
「わかりました、行ってみます」
ここからパタヴィアの旅に出かけても日帰りになるので、明日の休みはフォレストピアで過ごすことにした。
何かイベントをやってくれるというのなら、退屈することは無いだろう。