鬼は出ていけ福は入ってこい

 
 2月3日――
 
 
 
 この日は、ラムリーザたちは、ごんにゃに集まる話になっていた。

 昨日のパーティで、ごんにゃ店主からちょっとしたイベントを行うと言うことで、友達と一緒にと誘われていたのだ。

 ラムリーザは、午前十時頃にみんなに連絡した。

 ちなみにレフトールは、ラムリーザの屋敷に二晩も泊まっていっていた。着替えはラムリーザに借りる厚かましさ、ここに引っ越そうかななどと言う始末であった。

「番長が住み着いたら、屋敷がスラムになる」

 昨夜ソニアは、レフトールを追い出しにかかっているが、番長に対する風評被害も甚だしい。

 しかしリリスなどは、既に風船おっぱい屋敷になっているから手遅れなどと言って、事態をさらにややこしくしていた。

 この辺りの話はグダるだけで長くなるので割愛。

 リゲルはミーシャを連れてくると言って、ロザリーンと共に一旦地元に戻っていった。

 

 そこでラムリーザはこの日、ジャンとリリスとユコは、現地集合という話で呼び出した。最近はラムリーザは週末となるとパタヴィア旅行に行っていたので、休日にジャンと遊ぶのは久しぶり、ひょっとしたら今年に入って初めてかもしれない。

 集まったのは、大学受験対策中のユグドラシルを除く全員、ラムリーザ、ソニア、ジャン、リリス、ユコ、リゲル、ロザリーン、レフトール、そして後輩のソフィリータとミーシャだ。レフトールが町に戻らなかったので、マックスウェルとかは来ていない。

「イベントって言っても何だろうね?」

 ごんにゃの店に近づいたときに、ラムリーザはみんなに聞いてみた。

「リョーメンの半額セールとか?」

 ソニアの食いしん坊発言だ。

「おっぱいもいっぱいリョーメン新発売記念よ」

 要らんことを言うリリスと、あっさりと挑発に乗るソニアが以下省略。

 店の前に着いたが、とくに新しい看板が出ている風でもなく、イベントの雰囲気は出ていない。いつもと同じ光景だ。

「しかし何かあるぞ」

 リゲルは、何も変わっていないところを不信に思ったのか、店の外観をじっくり見て回っている。

「そんなことよりもリョーメン食おうぜ」

 レフトールは先陣を切って店へと向かい、扉を開けた。

「あ、待て」

 ラムリーザは警戒しているリゲルを見て、レフトールに様子を見るよう言おうとしたが、遅かった。レフトールは店へ足を踏み入れた。

 その瞬間――

 

「鬼は出ていけーっ!」

 

 店の中から元気のいい声が響いた。

「ぬおっ?!」

 そしてレフトール目がけて、何やら小さな粒がたくさん飛んできてぶつかった。

「どうした?」

 続いてラムリーザも入ってみる。

 すると、「また鬼だな」の掛け声とともに、ラムリーザも小粒の洗礼を受けるハメとなってしまった。

「何ですか?!」

 ラムリーザは小粒を投げつけた人物を見た。するとそこには、何だか小さな箱を持ったごんにゃ店主が立っていた。

 続いてソニアも入ってくるが、同じように店主に箱に入ったものをぶつけられていた。

 ラムリーザは足元に転がっている小さなものを手に取った。これは豆だろうか? 大豆にも見える。

 その後、一同が店に入ってくると同時に、一人ずつ豆をぶつけられていた。

 リゲルはぶつけられたものを受け取っているし、ソニアは落ちた豆を拾って食べている。

 リリスとユコは、ジャンを盾にして店に入ってくるし、ソフィリータとミーシャは豆をうまく避けていた。

 最後に入ったロザリーンは、空気を読んで豆の洗礼を正面から受けていた。

 

「それで、この豆が何ですか?」

 全員が店に入り、店主の持っていた箱の中も空に近くなったのか、ようやく意味不明の状況はなりを潜めたのであった。そこでラムリーザは、この混乱を店主に尋ねてみる。これはどちらかと言えば、ソニアやリリス的な混乱だ。

「今日はユライカナンでは、各家庭ごとに小さなお祭りをするんだ」

 店主は楽しそうに答える。そしてお祭りと言う言葉に、何人かが反応したようにも感じ取れた。

 ただしソニアは、ずっと豆をポリポリやっているだけだ。よく見ると、リリスも豆を食べている。相変わらずこの二人は、やることが同じだ。気が付けばレフトールも食べているようだ。

「年齢の数以上は食べるなよ」

 そんな三人を見て、店主は忠告めいたことを言う。

 それを聞いたソニアは、動きをピタリと止めた。どうやら現在十四個程食べているようだ。彼女は今は十七歳だから、あと三粒だけ食べられることになる。

「吸血鬼は百歳ぐらいだから、一杯食べられていいなぁ」

 そこで要らないことを言うのがソニアの悪い所。

「あなたはおっぱい年齢二十万歳以上でしょう?」

「はいそこ喧嘩おしまい」

 まだ口論になっていないが、その後の展開が読め過ぎるので、ラムリーザは先制攻撃しておいた。

 ソニアとリリスはお互いに睨み付けたまま硬直することとなった。

「それで、これが何でお祭りなのですか?」

 ラムリーザは拾った豆をジャンに投げてみた。ジャンは受け止めるとそのまま投げ返してくる。それが丁度ラムリーザの顔の前に来たので、うまく口で受け止めて食べてやった。

「それはな、ユライカナンでは暦の上で冬と春を分ける日が丁度この日と定められているからだぞ。その日に悪いものを追い払って、良いものを入れるために、悪い奴に豆をぶつけるんだ」

「悪い奴って吸血鬼だよね」

 ソニアはリリスに豆をぶつけながら言った。口論は起きていないが、一部で豆のぶつけ合いが始まっている。

「まあ鬼だな」

 ラムリーザは店主の話を聞きながら、ソニアを抱きかかえて混乱を収拾させた。

「それでなぜ豆なのですか?」

「そうさなぁ……、昔とある英雄が豆を使って鬼を退治したとか言われているが、勇者店で作っておる豆吐き人形を並べて撃ったことが起源とされておるが、弾になるなら何でもよいさ」

「それで炒った大豆なのですね」

「そういうことになるな」

 どこにでもありそうな、それでいて独特な風習であった。ユグドラシルが居て、まだ生徒会長をやっていたら、ひょっとしたら学校でもイベントとしてやったかもしれなかった。

「年齢以上の豆を食べたらどうなるの?」

 ソニアは十八個目の豆を拾っていて、食べようかどうか悩みながら恐る恐る尋ねた。

「そうだなぁ、腹の中で破裂すると言われているぞ」

「ふっ、ふえぇっ――!」

 ソニアは慌てて豆を投げ捨てた。

「はっはっはっ、まぁ炒った大豆なら食べられるから、一石二鳥だろう。ただし食べ過ぎると――」

 ごんにゃ店主はソニアの顔を覗きこんだ。

「なっ、何よ」

「――おっぱいがまた膨らむ」

 ラムリーザは、店主の言葉に適当に続けておいた。こう言っておけば、ソニアは食べ過ぎない。

「豆ソニア、くすっ」

 すかさずリリスは、新たな二つ名をソニアに付ける。てんぷらソニアから始まって、これでいくつ目だろうか。

「リリスは食べ過ぎるとお尻が膨らむ――って何よっ」

 リリスは飛びあがって、ソニアに尻からぶつかってくるのであった。

 

 しばらくしてから、妙な話になってしまった。

 ジャンの提案で、二手に分かれて豆のぶつけ合い戦争をしようという話になったのだ。

「いいか、ユライカナンの伝統に沿って、正義役と鬼役に分かれて戦争だ」

「鬼役は吸血鬼以外考えられない」

「風船おっぱいお化けを退治する話にしましょうよ」

「それでいいよ」

 ジャンはすました顔で答えた。

「えっ?」

 ソニアとリリスを目がけて、ジャンは豆をぶつけ始めた。唐突にゲームは開始されたのだ。

「これ面白そう」

 レフトールも一掴みの豆を二人の鬼にぶつけた。さしずめ正義の番長と言った所か。

「ふえぇっ――!」

 ソニアはラムリーザの後ろに隠れてしまった。

「リリスの前はジャンが守る」

 最初に急に豆をぶつけ始めたくせに、ジャンはリリスの前に立って守りだす。

 一方ラムリーザは、持っていた豆をレフトールにぶつける。ソニアを狙って投げた豆の一部がラムリーザにぶつかったからだ。

「なっ? ラムさん?」

 突然のラムリーザからの反撃に、レフトールはびっくりした。

「僕も鬼側で参戦するよ」

 ここに鬼側としてラムリーザとジャン、ソニア、リリスという聖鬼軍が結成された。聖なる鬼とは矛盾した存在だが、悪者軍団ではないといった抵抗の表れでもあったかもしれない。

 その一方で、リゲルとロザリーン、ユコの三人がレフトール側に付き、ラムリーザ超えを掲げたとかなんだとか。

 それらの四対四の抗争を撮影するソフィリータと、実況するミーシャ。まるでプロレスだ。

 こうしてごんにゃの店内で、二つの勢力に分かれて壮絶な豆のぶつけ合いが始まった。

「ふえぇっ――!」

 そのうちソニアの悲鳴が再び上がる。どうやらユコの投げた豆が口の中に飛び込んでしまい、十八個目を食べてしまった模様。幸い腹は破裂しなかった。

 怒ったソニアはユコを捕まえると、背中の中に箱から豆を流し込んでしまう意味不明。それを見たレフトールは、ソニアを捕まえてパンツの中に豆を流し込むさらに意味不明。

 店の中でテーブルを並べて作ったバリケードが向かい合い、そこから豆が飛んでくる謎の戦い。制限時間内に相手の陣地に多くの豆を投げ込んだ方が先とか、そんなルールがあったわけではないが、とにかく豆が飛び交っていた。

 ジャンなどは椅子を盾にして特攻を仕掛けるが、すぐにリゲルの作戦指示の元で半包囲殲滅を食らって豆まみれにされてしまう始末。

 そのうち戦いは、泥沼の消耗戦へと切り替わっていった。双方ともテーブルに隠れて豆を投げるしか手段が無い。少しでも前に出ると、前後から集中砲火を食らってしまう。前後から集中砲火を食らってしまう。そこには敵も味方も分からぬ混沌だけが残されていた。

「何だか違うが、これはこれで楽しそうだしこれでいいか」

 ごんにゃ店主は、離れた位置からこのどうしようもない戦争を眺めながらつぶやいた。

 この日の日中は商売にならなかったが、店主はお祭りの日と考えて納得させていた。

 

 こうして、ユライカナンの影響で、この日は豆をぶつけ合うお祭りとして定着――するのかな?

 

 

 その日の帰り道では、いろんな店の前に豆が散らばっていた。

 ユライカナン産の店では、全て豆まきをやったようだ。

 ただしフォレストピアでは、ラムリーザの影響で二手に分かれて豆をぶつけ合う戦争ごっこがしばらく流行ったとか、流行らなかったとか――
 
 
 
 




 
 
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Posted by 一介の物書き