TRPG第八弾 謎の生物
2月20日――
ジャンの店にあるスタジオにて。
今日はバンドの練習はお休みにして、久しぶりにテーブルトークゲームをやって遊ぶことにした。
ユコの物語は一段落ついたということで、今日はリゲルがゲームマスターをすることになった。
夏ごろにラムリーザがゲームマスターをやったストーリーがあったが、そのうちやるよの連発で、ラムリーザ自身も普段は忘れているといった困った状況だ。
そんなわけで、リゲルの物語は初めてテーブルトークゲームで遊んで以来だ。最初の話では、ゾンビっぽいものが出てくるホラー物だったが、後にそれは「ヨンゲリア」という映画を流用したものだと分かった。
さて、今回のリゲルストーリーは、どうなるだろうか。
「さあ、百エルド賭けなさい。何が出るかな? 入ります!」
このゲームを始めようとすると、リリスはすぐにダイスゲームを始めてしまう。
「入らなくてよろしい」
この場合、リゲルは静観するので、すぐにラムリーザはリリスからダイスを取り上げてしまう。こうでもしないとゲームが始まらないからだ。
「入れてもいいのよ」
そんなラムリーザに、リリスは色目を使う。
「君は入れられる側――じゃなくて、リゲル始めてくれ」
「では始めるぞ。お前ら転生したって設定だったな。とりあえず導入部をやるから、ダイス振ってくれ」
こうして、テーブルトークゲームとしては、八回目のストーリーが始まった。
キャラクターは最初に自分たちを模して作り上げたものをそのまま使っている。だからメンバーも、その時と同じラムリーザ、ソニア、リリス、ユコ、ロザリーン、そしてリゲルの六人である。
おさらいすると、ラムリーザは冒険に憧れていた魔導士学校の生徒でクラスはソーサラー。ソニアとリリスは、前衛であり盾でありアタッカーであるファイター。ロザリーンは竜神テフラウィリスに仕えるプリースト。ユコは精霊魔法を駆使するシャーマン、そしてリゲルは便利屋のシーフだ。
そして活躍する国の名前は、クルクルランドなどという脱力系だった。
ダイスの目はバラバラだったり重なったり、一番大きいのはロザリーンの出した五の目だった。
「よし、それではある日の話だ。ロザリーンは、国内のまだ未開である王城の裏山の西のふもとのある場所で、崩れかけた廃屋を発見した。この家の地下から何かを感じるのと、さらに便所から大量の血が湧き出している。どうする?」
リゲルの状況説明、多少唐突に物語が始まった感じだが、こうして新しい物語は始まった。
ロザリーンは、どこかに降り口は無いか探し、とりあえず血を塞ぎ止めようとした。
そして、落ちていた雑巾ともタオルとも言える布きれを詰めることで、なんとか血は止まったようだ。
「地下への入口は見つかりますか? でも入って血の海だったらまずいですね。そんなことはないですか?」
ロザリーンの問いに、リゲルは「それならば、冒険者レベルと知力で判定してみればよい」と答えた。
そこでロザリーンは、知力を基準にダイスロールをしてみる。その目は、五と六を表していた。
「その目だと、地下へ通じる階段は見つかるな。地下からは水音はしないが、何やらズルズル引きずるような音がする。どうやら何かが地下に居る模様」
「ではこっそり入って調べてみます。ランプは携帯しますが、明かりはつけません――じゃなくて、ラムリーザさんたちを呼びます」
こうして、メンバーは全員集まることとなった。一人で猪突猛進しないのが、ロザリーンの賢いところだ。
「ロザリーンから話を聞いたということで、ソニアかリリス、先頭になって進むんだ」
「やだ、ラムが先頭!」
「だからソーサラーを前衛にするなって」
そんなわけで、ソニアが先頭になって通路を降りて行った。
「地下室に降りたところで、奥のほうに何か大きなものが動いているようだ」
「こっそり覗く」
「もう遅い、においに気がつかれた」
「何よそれ!」
リゲルはソニアが先頭になったということで、強引に話を進める。
なんと、巨大なワニのような生き物が、のそのそとソニアたちの方へと向かってくるのだ。
「ソニアが臭いから見つかったじゃないの」
「違う! リリスがおもらししているからその臭いでバレた!」
仲の悪い前衛二人だが、功を競って譲らずおびただしい戦果を挙げているかは不明だ。
「そら、巨大ワニが攻撃してきたぞ」
「回避する!」
しかしダイスロールの結果、ソニアは回避しきれずに四点のダメージを受けたのであった。
「もーっ! 反撃する! このマインド・スマッシャーの餌食にしてやるんだ」
「するんかい」
リゲルは笑みを浮かべている。モンスターの様子から、ソニアを殺しにかかっている様にも見える。
ちなみにマインド・スマッシャーとは、ソニアが冒険中に手に入れた魔剣の名前である。
「いや、ここは撤退した方が……」
ラムリーザは進言するが、ソニアは既に攻撃ロールをしてしまっていた。
しかしその結果は、巨大ワニの鱗で弾かれる結果となってしまった。
「やっぱ無理! 次の一撃を食らって逃げる!」
ソニアは、素直に撤退を選んだようだ。
「その時、奥からもう一体の何者かが現れ、巨大なワニに攻撃を仕掛けた。その攻撃で、ワニの動きは止まった」
多少物語が自動で進んでいる感もあるが、とりあえずソニアはピンチを免れたようだ。
「そのモンスターは、ワニを食っている。どうするか?」
「その魔物は何ですか?」
ユコの問いに、リゲルは「そうだな、エーリアン」にしておこうか、と答えた。エーリアンとは、ユコが作った物語にも出てきた魔物の名前だ。こうしておけば、同一世界だと実感できるだろう。
リゲルの話だと、どうやら魔物王国みたいな場所で、狩りをする話かのように見える。
リゲルはソニアに逃亡判定を促すが、ダイスの目は一と三、足を引っかけて転んだ結果となってしまった。
「風船おっぱいお化けは足元が見えないから逃げ出せないのよ。だから私が攻撃するわ、このエア・フィールド・ソードでね!」
ソニアは不満そうだったが、リリスは勇猛果敢に謎の生物に飛びかかっていった。
こうして、リリスとエーリアンの戦いが始まった。
「その前に、ソニアとリリスにプロテクションをかけておこう」
「では私はエーリアンにウィークポイントを放ちましょう」
ラムリーザとロザリーンの援護魔法も発動し、ソニアも逃げるのを諦めてリリスと並んで再攻撃を仕掛けていった。
「このエーリアン、やっちゃって捕まえましょうよ。そして見せ物小屋に売るのよ」
リリスは金儲けする気満々だ。
ソニアとリリスが組んでエーリアンと戦うこと数ターン、その間ダメージを受けて危なくなるとロザリーンの回復魔法が飛び、良いタイミングでラムリーザの攻撃魔法が炸裂する。
そしてリリスの攻撃の時だった。ダメージ判定で六ゾロを連発し、なんと二十六点ものダメージをエーリアンに放ったのであった。
「む、やるな――。この判定だと、エーリアンは死亡判定を回避して気絶したな」
「よし、生け捕りにするわ」
リリスは、当初の目的通り、エーリアンを捕まえて見世物小屋に送るつもりらしい。
「それでは器用度を基準に縛り上げるということで。この判定以下だとエーリアンは気が付いて襲い掛かってくるからな」
ソニアとリリスは、一緒にダイスロールを行う。二人はそこそこ器用度が高い設定になっているので、難なく縛り上げることに成功したのだ。
「では見世物小屋を開くわ」
「開くんかい!」
リリスの宣言に、ラムリーザは思わず突っ込む。てっきりお金稼ぎをするつもりだと思ったのに、自ら経営するとは予想していなかった。
「で、運べるのかしら?」
「筋力基準で判定だな。運ぶ人の人数分ダイスロールして、そうだな、これ以上出たら運べると言うことにしよう」
リゲルの設定する判定はどんどん進む。縛り上げるのが器用度判定で、運ぶのが筋力判定とは理に適っている。
「じゃあラムリーザ、あなたにもやってもらうわ」
「ソーサラーに肉体労働させるのな」
「何を言うのよ、あなたがパーティーの中で筋力が一番高いじゃないの」
元々現実世界の能力を再現しようという話だったので、確かにラムリーザの筋力が一番高くなっている。
そしてロザリーンを除く三人でロールしたところ、リゲルの設定した基準を満たしたのであった。
「この小屋をそのまま見世物小屋にしようよ」
ソニアはそう提案するが、ロザリーンは最初に便所から血が流れていたのが気になって、乗り気ではないと言った。
「じゃあどうしようか」
「そうだな、お前らが相談している所に、この国の王様がやって来たということにしよう。それは一体何かな? とか言っているぞ」
どうやらクルクルランドは王国だったらしい。
「突然王様が現れるのも不自然だけど、まあいいか」
「やあおっさん、あたしの大活躍で、いい見世物を捕まえたよ」
ソニアはキャラになりきって嬉しそうに発言するが、いろいろと突っ込みどころが多すぎる言葉だ。
まず、とどめとなる一撃を放ったのはリリスだ。そして――
「ほっほっほっ、打ち首だ」
リゲルは、ソニアの顔を笑みを浮かべた状態で見つめながら、当然のごとく死刑を命じた。
「だからそれダメだってば。国王陛下、エーリアンを発見しましたと言います」
ラムリーザは、ソニアの発言を無かったことにして、話を進めることにした。
「――流しているけど、エーリアンって何?」
「モンスターの一種でよいが、土着ではなく別の惑星から飛来したモンスターということにしておこう」
その名前はユコが急に出したものだったわけで、ここに来てようやくリゲルによって形がしっかりしたのであった。
「ということは、宇宙人? 精密に調べてもらいましょうか」
戦闘が終わると、ラムリーザとロザリーンの出番となる。
「このギトギト感、間違いないでしょう」
そこにユコも加わり、どんどんエーリアンの設定が肉付けされていくのである。
物語では、国王によって招集された研究員がエーリアンを預かることとなり、ラムリーザたちはかなりの報酬を頂いたのであった。
「でも所有権は私にあるのを忘れないでね」
捕まえるのに一番活躍したリリスは、ことさらに所有権を主張する。このまま国に取られてたまるか、といった感じだ。
「それよりも、食料にならないかな?」
一方ソニアはソニアだった。エーリアンですら、食べてみないと気が済まないようだ。
「えーりあんソニア」
「じゃあリリスが試食をしてみて!」
またいつものパターンで、場が荒れ始める。
「毒に当たったらキュアーポイズンかけてあげますから食べてみてくださいな」
ロザリーンまで悪乗りするから困ったものだ。ラムリーズ最後の良心がこれではどうしようもない。
「さて、話を進めるぞ。国王は、この生物をどこで見つけたのか? と聞いてくる」
「先程の小屋にある地下室で見つけました。巨大なワニはどうなったんだろう?」
「ワニは瀕死のまま逃げたということで、この生物の親玉が地下室の奥の奥にいるかもしれないな、と国王は続けている」
「親玉を捕まえに行くの? やろうよ!」
ラムリーザとリゲルが物語を進めている所にソニアが入ってきた。この場合は話を進める方向へ向かう発言なので問題ない。
そんなわけで、ラムリーザたちは小屋の地下をもっと調べてみることとなった。
国王が言うには、エーリアンとやらも下っ端を一匹捕えても、何にもならないと考えたのだ。さらに言うと、親玉を捕まえて飼いならせば、養殖も容易いとのことである。
ついでにワニも捕まえたらよいだろう。巨大なワニがうろついているのも危険だと言えるのだから。
「ワニの肉も美味しいかもしれないし」
「わにソニア」
「では知力基準にダイスロールしてもらおうか」
ソニアとリリスの話はサラッと流したリゲルの進行で、物語は第二幕を迎えたのであった。
真っ先に振ったソニアは一と一が出て自動的失敗。リリスはニと三の目を出し、ロザリーンは一と五を出した。
「ふむ、前衛の目が悪いな」
「僕たちもやろうか?」
前衛はダイスロールに失敗したが、まだ後衛のラムリーザとユコが控えている。
「いやいい。一ゾロを引いたソニアに犠牲になってもらおう」
「何よそれ!」
ソニアは文句を言うが、ゲームマスターには逆らえない。今回の冒険では、ソニアはひどい目に合ってばかりだ。
「突然悪党――アーサーという名前にしておこうか。悪党アーサーが現れて、ソニアに向かって発電装置を使用して電流を放ってきたぞ。ほら、抵抗判定をしてみろよ」
「発電装置って何よ!」
ソニアはぶつぶつ言いながらも、ダイスを振る。その結果、電撃は受け止められることになった。
「発電装置は身体の前に背負った箱のような物で、そこから左右に二本伸びたコードの先に棒がついていて、その棒と棒の間に電流が放電している感じだ」
リゲルの説明に、リリスは「ソニアの両親が襲われていそうね」などと、よく分からないことを言った。
「何か光っただけ! そんなの全然効かない!」
攻撃を受け止めたソニアは強気になっている。
「その悪党アーサーは、お前ら何者だ! と言っているぞ」
「ワニが出てきたりエーリアンが出てきたり、悪党が出てきたり、いろろいろ混ざってないか?」
ラムリーザの突っ込みに、リゲルはじろっと睨み付けただけで何も答えようとしなかった。
「あなたこそ誰よ!」とリリス。
「自分から名乗れ!」とソニア。
「私はエルド――じゃなくて、クルクルランド――でしたよね? クルクルランド神官戦士のロザリーンです。また、衛視も兼任しています」
これがあらくれ戦士の二人と、礼儀正しいロザリーンの違い。
クルクルランドが脱力系なのが残念だが、そう設定してしまったのだから仕方がない。
「さて、もう一度知力基準のロールをしてもらおうか。失敗したら面白いことになるぞ」
リゲルの進行により、再び前衛三人はダイスを転がした。
今度はソニアが六と二、リリスが二と三、ロザリーンが一と六を引いた。
「ちっ、ソニアはアーサーの背後に忍び寄る生物、エーリアンに気がついたぞ。先に見つけたから、先制攻撃か隠れるという行動を先に認めてやる」
「悪党ごと先制攻撃する!」
大方の予想通り、ソニアは突撃を選んだのであった。
そんなわけで、エーリアンとの戦闘が再び始まった。
「悪党はエーリアンに驚いて逃げていったことにしておこう」
「そもそも悪党を出す必要があったか?」
ラムリーザの突っ込みに、リゲルは「前衛がダイスロールに失敗するから救済ルートに入っただけだ。本来ならエーリアンに気が付いてもらうつもりだったからな」と答えた。
それだとラムリーザも納得するしかない。再び前衛にプロテクションをかけて安全策を取るのであった。
ソニアとリリスの使っている武器が、最初から魔法のかかっている魔剣なので、エンチャント系は重複して効果がないのだ。
「それでは私がブレスをかけておきましょう」
ロザリーンのかける魔法は聖なる加護なので、魔剣だろうが関係ないのだ。
「攻撃ロールしまーす」
ソニアは嬉しそうにダイスを転がした。その結果、エーリアンに五点のダメージを与えたのだった。
「よし、エーリアンは悪党にしか気づいていなかったが、これで襲い掛かって来るからな」
続いてリリスが攻撃して八点のダメージを与え、ロザリーンも一点のダメージを与えた。
さらにユコが火の精霊を扱って火を放ち、七点のダメージを与えたところで、リゲルはエーリアンの生死判定をする。
その結果、エーリアンは気絶したのであった。
「よし、捕獲するわ」
すかさずリリスは捕獲宣言。これで二匹捕獲したことになる。
「そうだね、国王の依頼でもあるし、基本的に退治せずに捕獲の方針で」
下っ端は一体千エルドで、親玉は一万エルド出すというので、やりがいはあるだろう。
「よし、ここで国王は、エーリアンハンターとして専属契約しないかと提案してきたぞ。どうするか?」
リゲルの話に、ソニアは「する! あたしエーリアンハンター!」とすごく乗り気になっていた。
ユコも「面白そうだから、私も乗りますよ」と答える。
「話が大きすぎるが、ファンタジーだからそのぐらいはいいかな。じゃあそういうことで」
ラムリーザは、どうしても現実と照らし合わせて考えてしまっていた。国王との専属契約、それは親衛隊に匹敵する立場ではないか。エルドラード帝国の皇帝専属の親衛隊となると、エリート中のエリートだ。そんなものに、一介の冒険者がなれるのだから、やはりファンタジーって素晴らしいね。
リリスもロザリーンも異存なしということなので、ここでラムリーザたちは、国王直属のエーリアンハンターとなったのであった。
「よし、これで物語は始まったということで、続く――だ。タイトルは序章、謎の生物とでもしておこう」
「えー? これから面白いところなのに~」
リゲルが物語を一旦切ったので、ソニアは不満そうに口を尖らせた。
「練習の時間だ」
リゲルは冷たく突き放したが、今日、急にゲームマスターをやることになったので、行き当たりばったりにやっていたことを誤魔化しているのだ。
こうしてリゲルは次までに続きを考えておくということで、今回のテーブルトークゲームは解散となったのである。