第十回フォレストピア首脳陣パーティ

 
 3月7日――
 

 月初めの週末となり、十回目となるフォレストピア首脳陣会議と称したパーティが始まった。これが本年度最後の会議となるだろう。フォレストピアが始まって、一年間いろいろあったも、といったところだ。

 さて、この一年の間に、フォレストピアで何があったか思い出してみよう。

「ソニアがてんぷらを食べたわ」

 ラムリーザたちが集まって話題を提供したところ、リリスが真っ先に答えた。確かに間違っていないが、あまりにも限定的過ぎる。

「リリスがリョーメンをリバースした!」

「あなたもしたでしょう?」

 ソニアとリリスは、その後もお互いに何を食べたかとか、そんな話を繰り広げているのであった。

「ユコは何があったかな?」

 ラムリーザは、無用の争いをしている二人を他所に、ユコに尋ねてみた。

「そうねぇ、ゲームセンターができたこと?」

「それも建てたね」

 ユコにとって、フォレストピアのゲームセンターは、治安が良くて安心して行ける場所らしい。もっとも、レフトールを用心棒として呼び出すことは止めていないようだが。

「あ、『クッパの』をクッパに取られましたわ」

 そう言えば「クッパの」の被害はどうなったのか。ラムリーザは、ユコに一旦別れを告げて、住民に聞いて回ってみた。

 どうやら先月の中旬辺りから、街で「クッパの」を見ることは無くなったというのだ。クリボー老人とクッパ王の亡霊を引き合わせることで、もう「クッパの問題」は完全に無くなったと言えるだろう。

 話題は変わり、春になったということで、今年の農作物を育て始めるといった話となった。物によっては、既に栽培が始まっている物もある。

 さらに話題は変わり、ラムリーザにとって頭痛の種となっている「施設の名称決め」が始まった。

 これは全てラムリーザが決めても良いのだが、流石に全てを考えるとなると大変だ。だから、民主的に住民に投票で名称を決めてもらおうといった話になったのだが、住民が揃いも揃って独特な感性持ちだったため、不思議な名前しかつかない。

 そして今回の話し合いでは、まずは完成した病院の名前を決めることとなった。帝都から呼んだ新しく院長先生となる人物も、今回のパーティに出席している。

「医師のコッパー・トードリアです、よろしく」

 少し前に来ていたのだが、ラムリーザは改めて挨拶を済ませておく。

 そしていよいよ、病院の名称のリストアップが始まった。

 まずは龍の山ということで、龍山病院というものが挙げられる。なぜ病院が龍の山なのか不明だが、ちょっとこれは不吉過ぎる。意味を変えると「流産」病院にならないだろうか?

 そんなわけで、珍しくラムリーザの却下令が発布された。

「コッパークリニックというのはどうでしょうか?」

 院長先生からの案が出されたが、普通過ぎて面白くないということで不評だった。もっとも、この時点でラムリーザにそれと決める権利はあったが、この頃になると、住民が出して来る突拍子もない名称を楽しみにしている自分が居る。

 ヘルター・スケルターとか、超人病院とか、首をかしげるような名称が挙がったりもしたが、最終的には緑十字という名前に決まってしまった。

 続いてもう一つ、街の図書館に名前がついていないという指摘が挙がったので、それも決めることとなった。

 えっほん! という適当なものから、アカシックレコードという厨二チックなものまで挙がったが、結局それに決まってしまった。

 フォレストピアの住民は、厨二病だ。ラムリーザが適当にやった妙なポーズ――目の前に右手の人差し指と中指を揃えて敬礼のポーズを取った後、指の間を広げる動作――すら、挨拶として定着してしまうのだから、その素質はあったのだろう。

 さらに、先月から作成中だった下水処理施設も完成したということで、それの名前を付けようという話になった。

 結果的にユリシーズという名前を付けられたが、その由来は不明であった。住民は下水処理と言えばユリシーズだろうと言うが、何のことだかさっぱりわからない。幸運がどうのこうのと言っているが、下水処理施設に幸運を求めること自体が意味不明である。

 その後は住民からの要望を聞く時間だ。

 まずは、映画館を作って欲しいとの要望が挙げられた。これまでは、ポッターズ・ブラフ地方に向かい、エルム街にある映画館に行っていたが、そろそろフォレストピアにもあっても良いのでは? といった話になったのだ。

「いいねぇ」

 その話を聞いたリゲルは、何だか嬉しそうに口元を上げる。リゲルに管理を任せたら、恐怖映画専門の映画館になってしまうだろう。かといって、ジャンに任せたら桃色映画館、ソニアに任せたら前衛的な映画ばかりが流れるかもしれない。

 館長の人選は慎重に、だ。

 続いて以前から話題に上がっていた動物園の話も挙がった。どうやら大半の檻が完成したというので、後は動物を集める段階に入ったらしい。そこはハンターを雇って、いろいろな場所から捕まえるだけだ。

 その中には、恐らくオオグンタマやヘンコブタも入るだろう。手始めに、ラムリーザの屋敷で飼っているヘンコブタを寄贈するか?

「ダメ! あれはあたしの!」

 すぐにソニアに反対されてしまった。ブタガエンを製造し続けるソニアは、ヘンコブタを手放そうとしない。

「あんなの動物園に入れてしまえばいいのに」

 ブタガエンの被害に一番遭遇しているリリスは、放棄派に一票を投じた。

「二度と手に入らないかもしれない貴重な研究材料よ」

 それに対して、ソニアは反対票を投じる。確かにヘンコブタは珍しい動物である。

「何の研究よ」

 もっともな質問だ。

「ブタガエンを作るためよ!」

 ソニアは懐に手を突っ込んで瓶を取り出し、リリスは素早く距離を取る。パーティ会場に怪しげな液体を持ってくるなよ。

 その一方で、動物園の名前を決めようといった話になっていた。今回の話し合いでは、名称決めがやたらと多い。

「それではゴジリさん」

 ラムリーザは、バクシングジム改め、格闘技ジムの経営者に聞いてみる。

「そうだなぁ、パンダさん動物園で」

 ゴジリは嬉しそうだ。普段は厳ついトレーナーなのに、名称を決める時はみんな妙に嬉しそうな顔になる。

「パンダはまだ入れてないよ」

 まるでパンダを主役に据えることを決めているような名称だ。

「いずれは入れるだろう」

「他にも動物を入れるからね、ではツォーバーさん」

 今度はスシ屋の店主に話を振る。

「ああ、動物園の名前はピッギーズで」

「何故ですか?」

「ブタを入れるとさっき聞いたからな」

 たしかにブタと言ったが、ヘンコブタはヘンコブタであって、ブタではない。学者の中には、ゾウの仲間だと言う説を持っている者がいる。ヘンコブタはブタかゾウか、それは動物学者の中で、なかなか結論の出ない永遠のテーマとなっているのだ。

「だからブタ以外も入れますので、特定の動物を名称にするのは――」

「コールドターキー」

「死んでるし!」

「猫」

「捨てる気だろ!」

「人間」

「お前が入れよ!」

「ドラゴンとかも入れようぜ」

「居るのかよ!」

 ラムリーザは突っ込み役になりっきりであった。

 ドラゴンも遠くに居るらしいが、見たものは誰も居ない。

 結局今回は、動物園の名前は決まらずじまいであった。まだ完成していないということで、その名称は次回までに考えてきておくということで、宿題にするのであった。

 そして再び新しい施設の話となる。

 ロブデオーン山脈の頂に、風力発電所を作ろうという話になった。

「リゲル、どう思う?」

 ラムリーザは、いつものように参謀役リゲルに意見を求めた。

「風力だと、公害はほぼ出ないからな。問題は――」

「問題は?」

「一つだけだと電力はたかが知れている。あと、近くに行くと風車が回る音がうるさいぞ」

「それは可能な限り作って並べるのと、山の頂上だから街にはそれ程音は響かないよ」

「その山脈には天文台も建設中だ。風車の位置は離せよ」

「わかった、そこは気をつけておく」

 フォレストピアでは、発電力の向上にも力を入れている。これから人が増えていくと、消費電力はどんどん増えていくだろう。それに合わせて発電所の確保も大事になるのだ。

「ゴミを焼いて発電するのも作ろうよ」

 そこにソニアが、何だか抽象的な案を出した。

「造れるのか?」

「エネルギー焼却炉ってのが、ゲームに出てきたよ」

「ゲームの話かよ……」

 しかしソニアの言うそのゲームに出てくる施設も、発電所の原理としては理に適っている。

 ゴミを燃やしてその熱で蒸気を作り出して、それを使って発電するというのだ。火力発電所の燃料がゴミになっているだけで、それ以外は何も変わらない。

 結果的にソニアの案も取り入れられ、風力発電所と、暫定的にゲームから名前を取ってエネルギー焼却炉を作ることとなった。

 以上で、今回の会議で話し合うことは全て終わり、後は食事と談話を楽しむ時間となった。

 住民の中では、こういったパーティの中での談話から、新しい事業の話が挙がったりするので、ただ楽しんでいるだけでは済まされない。

 ラムリーザたちの間でも、まだ新しい施設を作って欲しいといった話が続いていた。

「意見の中に、てんぷら屋をもう一軒建ててください、というものがあったわ」

 リリスは、ソニアの顔を見ながら言った。むろん、そんな意見は目安箱には無かった。たった今、リリスが思いついたのだ。まるでソニアが意見したかのように。

「そんなこと書いていない!」

「ぎんなん屋が欲しいとか言ってなかったかしら?」

「言ってない!」

 その話を聞いたラムリーザは、ぎんなん屋というものができるのなら見てみたいと思っていた。ひたすらイチョウを栽培して、ぎんなんを百個も二百個も提供する店。確か食べ過ぎると死ぬのではなかったっけ? そんなことを考えていた。

 この分だと、そのうち「やきとり屋」だの「なっとう屋」だのが出ることだろう。

 そこにごんにゃ店主がラムリーザの所へやってくる。ごんにゃ店主は、今日の話し合いで病院に「五心病院」という誤診を連想させるような名前を挙げたつわものである。迅速、正確、安心、円滑、献身、医療従事者としての五つの心構えを持った病院だよとかっこいいことを力説するが、逆に不安を連想してしまうのだから仕方がない。

「明日、店に連れ添って集まってくださいな」

「何をするのですか?」

「暖かくなってきたし、山菜でも集めに行きましょう」

「三歳? 幼稚園?」

「いえいえ、山の菜と書いて山菜です。春の珍味とかいろいろありますぞ」

「それは楽しみですね」

 とはいえ、また食べ物の話である。ソニアとリリスの二人が騒動を引き起こすのは間違いない。さしずめ山菜ソニアと先にでも言っておくか。

「それではお待ちしております」

 去って行く店主の後姿を見ながら、ラムリーザは明日の騒動を不安でもあり楽しみにしているのであった。

 以上、本年度のフォレストピア首脳陣パーティはおしまい。
 
 
 
 




 
 
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Posted by 一介の物書き