山菜ソニアにつくしソニア

 
 3月8日――
 

 今日は、めずらしくハイキングのようなものを楽しむことになっていた。

 昨日のパーティの時に、ごんにゃ店主から山菜集めをしようと誘われていたので、今日は昼前からごんにゃの店前に集合することになっていた。

「お腹がすいた」

「ハイキングが終わったらな」

 ソニアは相変わらず腹を空かせているし、ラムリーザとの会話は微妙に成り立っていない。

 そんなことを話しながら、ラムリーザはソニアと妹のソフィリータを連れて店先へと向かっていった。

 最初に地元のフォレストピア組が集まった。そして待っている内に、ソフィリータの呼んだミーシャが、彼女と一緒にリゲルとロザリーンが現れる。ロザリーンが来ると言うことで、兄のユグドラシルも集まり、ユコが呼んだレフトールが、バイクにまたがって現れて全員集合となった。レフトールは山菜という食い物に釣られて、今日は子分よりもラムリーザたちとつるむのを選んだようだ。

 そんな感じで、ラムリーズ・フルバージョンが揃ったのである。こうなると、これは部活の延長、親睦会のようなものだ。

「今日は何をするのかしら?」

 集まったものの、何をするのかよくわかっていないらしいリリスが尋ねた。

「領主さんには昨日話したのだが、今日は山菜を集めにいこう」

 ラムリーザに変わって、ごんにゃ店主のヒミツが説明する。リリスも山菜がよく分からなかったようで、ごんにゃは昨日ラムリーザに話したのと同じようにリリスに説明した。

「山菜ソニア」

「何よ!」

 説明を聞くや否や、食べ物のことだと知るとすぐにこれである。ソニアも煽り耐性無さすぎ。やはりこの二人を混ぜるのは危険だ。呼吸をするようにソニアを煽るリリスと、すぐに挑発に乗るソニア。これで騒動が起きないはずがない。

「ツクシもおいしいぞ」

「つくしソニア」

「リリスの馬鹿!」

 ちょっと空気を読まない感じに店主が言うものだから、さらに騒動が大きくなる。

 リリスは今ではもう先に言うようになっていた。以前にも聞いた気がするが、どうせソニアが一番たくさん食べるから、先に言っておくのだそうだ。

 

 さて、メンバーが集まったところで、フォレストピアの駅へと向かうこととなった。

 店主の話では、隣のつねき駅から少し山に入ったところで、山菜がよく取れるとのことだった。ずっと前に気晴らしに出かけた際に、山菜が成長した物が多く存在していたので、春先になると十分に取れると判断したようだ。

 そこはフォレストピアを半包囲するように連なっている山脈の西側である。東の山脈は街から離れているし、木が多くて日影が多い。逆に西の山脈は、草原が多くて日が良く当たっていて暖かい。避暑地の東に、ひなたぼっこの西といった感じだ。

『つねーきー、おかえりなさいませソニア様』

 ラムリーザとソニアが乗っていれば、特別なメッセージの流れる仕様になっているつねき駅。元々ラムリーザの住む屋敷が近かったため、ラムリーザに呼びかけていたのだが、恥ずかしいということでソニアということになった。むろんメッセージを無くしてもよかったのだが、ソニアが聞きたいというのだから仕方がない。

 そのメッセージを聞いて、リリスやユコはソニアに冷めた視線を向けるのだが、当の本人はそんなものは全く意もせず得意げだ。帝国唯一の女爵様は、並みの女の子ではない。

「つねきソニア」

 リリスの煽りも、これに関してはソニアには通用しないようだ。

 一同は、つねき駅を出てラムリーザの住む屋敷方面へ通じる道を進んでいった。

「この辺りでぎんなんソニアが出現したわね」

 思い出話という名を借りた、リリスの煽りがまたしても炸裂。

「じゃあリリス、ぎんなん百個食ってみろ。怖くてできないんだろ、やーいやーい」

 その返しとして、ソニアは殺しにかかった。ごんにゃ店主の話では、確かぎんなんを百個とか食べるとかすれば死ぬとのことだった。それを覚えていたソニアは、リリスを煽り返す。百個食べるのが怖いリリスは臆病者と言いたいのだろう。

「それならぎんなんを食べ続けて、どちらが先に死ぬか勝負よ。生き残った方がぎんなんの称号を名乗るのよ」

「馬鹿なことはやめるんだ」

 時々勢いでとんでもない勝負をやろうとする困った娘だ。ラムリーザは今日も二人のブレーキ役に徹する必要があるだろう。

 そんなくだらない煽り合いを聞きながら、ごんにゃ店主に続いて道を逸れて少し山の方に入っていく。二人の口論はうるさいが、春の暖かな風は心地よい。ラムリーザは、山菜集めよりもひなたで昼寝する方が気持ちいいだろうな、とか考えていた。

「ところで、山菜ってどのような種類があるのですか?」

 食材と聞くと興味津々なロザリーンが、店主に話を聞いている。

「そうだなぁ、ワラビとかゼンマイ、フキやツクシなどだな」

 外野で「ぜんまいソニア」とか聞こえたような気がするが、ロザリーンは気にせず店主と話をしている。

「春の山菜は、健康や美容によいと言われているぞ。山菜の成分が細胞の若返りを促したり、ストレスを軽減するのだ」

「それはすごいですね」

 二人は山菜の調理の仕方などを話し合っている。調理は料理好きのロザリーンに任せるのが一番だろう。そして一番たくさん食べるのは、ソニアだとリリスは予言している。

「ふきリリス」

「せりソニア」

 別の二人は、山菜の名前と相手の名前を組み合わせたものを交互に言っているだけだ。

 そして開けた場所に到着した。

 そこは芝生のようになっていて、所々に白っぽい筆のようなものが生えている。ユライカナンでは土筆とも呼ばれているそうで、その言葉の通りまるで地面から出てきた筆のようになっていた。

「以前見た時に、この辺りにはスギナが生えていたからな」

「すぎなリリス」

 店主の言葉に、今度はソニアが素早く反応する。そして得意顔なのだから、どうしようもない。

「残念ながら食べるのはスギナではなく、その胞子茎であるツクシの方だ」

「つくしソニア」「つくしリリス」

 今度は見事に声がハモった。もう言ったもの勝ちで、何が何やら……

「騒いでないで、ツクシを集めるぞ」

 ラムリーザに促されて、ソニアとリリスは籠を片手に草原へと駆けだした。何やらどちらがたくさん集めるか勝負になったらしい。よく見ると、二人は雑草まで集めているようだが、気にしないでおいてあげよう。

 しばらく自由時間となり、ラムリーザは店主とロザリーン、ユグドラシルと一緒にツクシを集めるのに夢中になっていた。レフトールは草原に寝転がり、ユコはその傍らに座っている。ジャンはリゲルに植物学の講義を受けているような感じになっていて、そういった光景を、ソフィリータとミーシャは撮影して回っている。このように、みんな自由な時間を楽しんでいた。

「集まったよ!」

 数分後、店主の所に籠を何かで一杯にしたソニアとリリスが戻ってきた。ツクシ集めのはずだが、何だかよく分からない草がたくさん入っている。

「それは食べられないから要らないな」

 店主に払われて、ソニアは「リリス、これ食べろ」と言って、自分の取ってきた雑草をリリスの持っている籠に追加してやった。入りきらない雑草が、リリスの足元に落ちていく。

「雑草ソニアが食べなさいよ」

 リリスは怒って、籠の中の雑草をソニアにぶちまけるのであった。

「馬鹿な事やってないで、これを集めてくるんだ」

 ブレーキ役のラムリーザは、自分の取ったツクシを一本ずつ二人に渡して、再び野に放つのであった。

 真面目に山菜を集めているラムリーザたち四人は、今度はワラビとゼンマイを集めにかかった。

 ワラビは草原から一本ずつ長い茎がひょろっと出ていて、その先端がくるりと垂れている感じだ。そしてゼンマイは、数本がまとまった形で生えていて、その先端は渦を巻く感じになっていた。

 店主から見本代わりに一本ずつ受け取って、ラムリーザたちはそれらを集めていくのだった。

 この辺りはまだ未開の地だったようで、そろそろ昼食といった頃には、籠一杯の山菜が集まった。

 他の山菜であるフキなどは、ここにはあまり生えていなかったようで、それに関しては後日また集めてきて披露してくれるそうだ。

 ソニアとリリスも、今度はちゃんと籠半分ぐらいのツクシを集めて戻ってきた。

「十分集まったな。今日の昼食のおかずにしてあげよう」

 そろそろ引き上げることにして、ごんにゃの店で昼食を頂くことにした。おかずは取ってきた山菜を、店主が調理したものとなる。

「どう調理するのかしら?」

 既にロザリーンが聞いていることだし、リリスは手伝わないだろうと思われるのに尋ねた。

「そうだなぁ、てんぷらにでもしようか」

 店主の返事に、リリスはあははと笑った。そんなリリスを、ソニアは蹴とばしてくるのだった。

「何すんのよ、てんぷらソニア」

「リリスはてんぷら食べるな!」

 再びこの調子である。その内、全ての食材がリリスの手によってソニアに対する煽りと化すだろう。

 

 来た道をそのまま戻って、フォレストピアの街へと帰った。

 そのままごんにゃには寄らずに、てんぷら専門店のカブトへと向かう。てんぷらにするものは、そこで作ってもらう予定なのだ。

「ツクシもてんぷらにするのですか?」

 ロザリーンは手伝おうとしている。新しい食材を調理してみたいようだ。

「それは茹でて味付けするかな。はかまはおいしくないから取ってしまおう」

「はかまとはどれですか?」

「茎の途中にあるビラビラな物、と言えば分かるかな?」

「ああこれですね、わかりました」

 こうしててんぷらはカブトの店主が、ツクシはごんにゃ店主とロザリーンの手によって、おひたしと呼ばれる煮て味付けしたものへと調理されていく。

 ソニアは待ちきれないのか、料理する様子を近くで見ていたが、てんぷらを揚げる際に危ないからと追い払われてしまった。

 

 十数分後、温かい白米と一緒に、てんぷらと化したワラビやゼンマイ、そしておひたしへと化したつくしがテーブルに並べられた。

 どれもこれもおいしそうだし、たくさん取ってきたので大所帯でもみんな腹いっぱいになれるだろう。

 例にもれず、ソニアはたくさん食べたわけで、リリスにまたてんぷらソニアだのつくしソニアだの言われているのであった。

「山菜かぁ、適当に生えている草も、こうして美味しい料理になるのですね」

 ラムリーザは、感心してそう言った。食文化は間違いなくユライカナンの方に一日の長がある。食べたことのない珍味にありつけることになるとは、ユライカナンと交流できて良かったと考えるのであった。

 今日食べた山菜も、ちょっとした苦味があるが、それがまた米に合っていて、ご飯が進むという奴である。

「これからもいろいろと教えてやるぞ」

 ごんにゃ店主も、山菜を堪能してもらえたので得意げになっている。

「楽しみですね。次があるのですか?」

「そうだなぁ、もうしばらく後に、また取れる物があるぞ」

 しばらく後、具体的には五十日後ぐらいらしい。春から夏へと変わり始めるころ、今度は何で楽しませてくれるのだろうか。

 とにかく今日も、ソニアは美味しいものをたくさん食べられて幸せだったようだ。
 
 
 
 




 
 
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Posted by 一介の物書き