TRPG第九弾 エーリアンハンター 前編
3月11日――
――――クルクルランド王国物語「エーリアンハンター」――――
ある日、好奇心旺盛な冒険者一団ラムリーズは、国内のまだ未開である王城の裏山の西のふもとのある場所で、崩れかけた廃屋を発見した。
その廃屋の地下に何者かの気配を感じたロザリーンは、おそるおそる降りていった。
しかしその気配は、凶暴な異型の魔物のものだった!
慌てて逃げ出そうと試みたロザリーンであったが、その魔物は予想以上のスピードで追撃を仕掛けた。逃げ出すことに失敗した彼女は、魔物に追い詰められ絶体絶命であった。
彼女のその危機を救ったのは、仲間のリリスとソニアであった。
ロザリーンに襲い掛かることに気を取られていた魔物は、背後からのリリスの打撃をまともに食らい、意識を失ってしまった。
生きたままの捕獲に成功したリリスは、その魔物を国王に届けて処理を委ねた。
魔物はエーリアンと名付けられ、国をあげての研究が始まったのである。
そして数週間が過ぎた――
ジャンの店にあるスタジオにて。
練習中の休憩時間、一ヶ月前ぐらいにプレイしたリゲルがゲームマスターをする物語の続きをやろうといった話になった。
「なんでリリスがそんなに目立っているのよ!」
リゲルが前回の物語を振り返ってプロローグ風に語ったところ、ソニアが噛みついた。
「緑髪は不人気だからなぁ」
リゲルはニヤリと笑って答えたが、ソニアはますますいきり立ってしまう。
「誰が不人気よ! ラムの一票は五億票の価値があるという前提で人気投票しろ!」
「なんやそれ」
突然自分を引き合いに出されて、ラムリーザは眉をひそめてしまった。
「その結果、たとえリリスが千票であたしが百票でも、五億百票になってあたしの圧勝! リリス不人気過ぎ!」
「了解了解、それでいいぞ」
ソニアは早口でまくしたてるが、リゲルは軽くいなして物語を始めることにした。
ま、無茶な設定であるが、ソニアにとってはそれが真理であるかもしれない。例えソニアが一票しか入らなくてもそれがラムリーザならば問題ない。逆に一万票入ったが、ラムリーザがリリスに票を入れるような事態になると、ソニアにとって死活問題になる。
それはそれとして、物語の続きが始まった。
「いつの頃からか、城下町に奇怪な魔物が出現して人をさらって行くという噂が流れ出した、ということにするぞ」
「それって、犯人は吸血鬼リリスじゃないの?」
「いいえ、風船おっぱいお化けが、乳袋に気の毒な被害者を閉じ込めて回っているのよ」
「何よそれ!」
相変わらずワンパターンな煽り合いだが、どうもリリスに一日の長がありそうだ。まるで乳のような巨大な袋を持ったソニアが、水面を歩いているような感じで不気味である。
「国王の耳には別の情報も入っていたので、事態を重く見てお前らに再びその廃屋の調査を命じた、ということにしておくぞ」
リゲルは、二人の罵り合いを無視して話を進めていった。二人以外がちゃんと話を聞いているので、この場合は問題ない。
「そうだな、国王はそのエーリアンの研究を進めて、そいつらに効果的な武器を作ったぞ」
「わぁ、それかっこいい! それあたしが使う!」
「雌雄一対の剣という名前にしておこうか」
「あたしが女の方使う。リリスは男だからそっちを使え」
「長い方が雄で、短い方が雌だけどな」
「あたしが男!」
ソニアの暴走が続き、もう何が何やらで話が全然進まない。
ここはユコの提案で、わかりやすく「エーリアンバスター」という名前にしておくということで話がまとまった。
「よし、準備が整ったということにするぞ」
「報酬の話が聞きたいわ」
そう言ったのはリリスだ。一番冒険者らしいと言えば、こういった態度なのだろう。
「欲深リリス」
「ボランティアじゃないわ」
「国王の依頼なのだから、そんなみみっちい事を言うんじゃない」
ラムリーザの一言で、話は先に進んだ――ように見えたが、
「で、報酬は?」
「一人当たり金貨十枚で」
「それでいいわ」
などと、ゲームマスターのリゲルではなく、ラムリーザとリリスの間で会話が繰り広げられていたのである。
「研究のために生け捕りに出来たら、報酬追加な。死体は要らないということだがな」
リゲルからの捕捉で、リリスが気にしていた報酬問題は解決したのであった。
「というわけで、廃屋のあった集落に辿りついたということにするぞ」
「周囲を見渡してみます」
ロザリーンの行動に、リゲルは「辺りに人の気配は全然無い」と答えた。
「では物とか家とかどうなってます?」との問いには「かなり傷んでいる」と答えた。
「家も壊れているのか」と呟いたのはラムリーザだ。
「怪しい足跡とか残っていませんか?」
ユコの問いには、「レンジャー技能と知力判定でロールしてみろ」と答えた。
「レンジャー技能持っている人は誰かいるのか?」
ラムリーザは、自分がソーサラーとファイターとセージしか持っていないので、他の人に頼るしかないのだ。
「私はファイターとシーフよ」
「泥棒リリス」
「うるさいわね」
ソニアとリリスがまた妙な感じになる中、ユコはシャーマン技能とバード技能だし、ロザリーンはプリースト、ファイター、セージだけだ。
「レンジャー技能無いぞ?」
「そのアホが持っているじゃないか」
リゲルは、みんなのキャラクターシートを確認しているので、誰がどの技能を持っているか知っていた。
「あたし? それじゃあ調べるよレンジャー!」
ソニアはなんだか変な気合の入れ方をしてダイスを転がした。それが聞いたのか、六と三という少し大きな目が出たのだ。
「それだと血痕を見つけたな。その血痕は廃屋の方に続いている。その廃屋は、前回のとは別の場所な」
「結婚? あたしラムとしかしないよ」
「好きにしろ」
折角手掛かりを発見できたのに、ソニアは何だか勘違いしているようだ。
「えーと、ソニアさんが見つけたので知っているのでよいですよね? 魔物を特定できそうな痕はありますか?」
ロザリーンのフォローで、話は先に進むようだ。
「その辺り一面で何かと争ったような跡があるだけで、足跡は特定できないな」
「そうですか、何か戦闘があったみたいですね」
「血痕の量はどのぐらいですか?」
発見者のソニアを置いてきぼりにして、ロザリーンがどんどん質問して話を進めてくれるので助かる。
「血は僅かで、大した怪我ではないようだ」
「なるほど、まだ生きているかもしれませんね」
「では血痕の後を辿ってみましょう」
グループのリーダーであるラムリーザの一存で、メンバーは血痕の続いていた廃屋へと向かうのであった。
「隊列はどうなっている?」
リゲルの問いかけで、またしてもソーサラーを先頭に立たせようとするソニアが出現したが、それは却下というわけで、前回の戦いの時と同じ隊列で進むこととなった。
すなわち、ソニアとリリスが前衛担当で、ロザリーンが中衛、ラムリーザとユコが後衛という陣形だ。
「何気にハーレムだな」とリゲルは突っ込んで来る。
「女の子に守られていて、どんな気持ちかしら?」などとリリスは煽って来る。
「じゃあ泥棒リリスは守らなくていいから。ラムはあたしにだけ援護魔法かけてね」
「そんなことはどうでもいいから、何の血か調べてみろよ」
ラムリーザはめんどくさくなって、守るとか援護とかそういうことは流して調査を進めることにした。
「ソニアあなたちょっとなめてみなさいよ」
「何でよ! 血だったら吸血鬼がなめたらいいじゃないのよ!」
「えーと、廃屋の入口はどのようになっていますか?」
ロザリーンの問いにリゲルは「入口は破壊されているな」と答えた。
「ほら、入るぞ前衛の二人」
ラムリーザは喧嘩する二人を押し込むような形で、廃屋の中へと送り込むのであった。
「よし入ったな。エーリアンの幼生体が突然飛びかかってきたぞ。ほらソニア、回避判定してみろ」
すると、リゲルは待ってましたとばかりに、魔物をけしかけた。
「なんであたしが!」
文句を言いながらもソニアはダイスを転がした。その結果、ギリギリで回避できた感じとなった。
すかさず反撃に出る前衛二人、幼生体はそれほど強くないのと、特効を持った武器のおかげであっさりと退治するのだった。
「ちっ、早いな。ちょっと武器が強すぎたか……」
喜ぶ二人と、不満そうなリゲルが対照的。
「これも、あの生物の仲間なのでしょうか?」
ユコはそう尋ねるが、リゲルは「エーリアンの幼生体だからな」と答えて納得する。
「それよりも捕獲は?」
ラムリーザに指摘されて、リリスは「あっ」と小さく呟いた。
「あーあ、リリスのせいで賞金が減った」
「あなたがとどめを刺したんじゃないのよ」
「で、幼生体とはどのような見た目ですか?」
ロザリーンの問いに、リゲルは「そうだな、大きな手みたいな感じだ」と答えるが、すぐに「セージ技能を使うまでもなく、誰も知らない魔物だからな」と追加した。
「知らない魔物だけど、弱かったねということで」
ラムリーザは、メンバーの無事を第一優先するので、捕獲できたかどうかは二の次だ。
「さて、廃屋の一階は、部屋の奥に通じる廊下と、地下室への階段があるぞ」
「幼生体は他には居ないのですか?」
「居ないことにしておいてやろう」
「いや、それ大事だからね」
「魔物の気配はもう無いようだ」
「血痕はどっちに続いていますか?」
いつも通りに、ラムリーザとロザリーンが物語を進める役となっている。
「血痕は、廃屋の中が薄暗くて見えにくい」
「吸血鬼のリリスは暗視を持っているよ」
隙あらばお互いを攻撃する二人、今度はソニアから仕掛けた。
「では暗視の効くリリスは、血痕が地下に続いているのが見えたということで」
「ちょっと待って、勝手に設定盛らないでくれる?」
「ではライトの魔法を使います。ほら、血痕は地下に続いているぞ」
この場はラムリーザが魔法を使うことで、収めることに成功したのであった。
「そう言えば、メンバー全員人間にしたのですよね。種族とかバラバラにした方がよかったかも」
ユコはそう言うが、元々自分たちを再現するのが目的だったので仕方がない。
「ソニアってドワーフだよね」
「何よヴァンパイア!」
何か話題が出ると、すぐに煽る二人であった。
「そのように雑談しながら、地下へと降りて行きます」
今度は現実の喧嘩を物語に組み込んで、話を作り上げてしまった。
ラムリーザは、割とこの二人の扱いに慣れたのかもしれない。
「その前に地下へ聞き耳したいです」
ユコの提案に、リゲルは「それではレンジャーかシーフの技能で、知力ロールしてみろ」と答えた。
「ほら、ダイスを振るんだ」
ラムリーザは、すぐに前衛の二人にロールを促す。レンジャーとシーフの技能を持っているのは、その二人なのだ。
「シーフなんて嫌よ、レンジャーのあなたがやりなさい」
生まれ判定でシーフ技能を持ってしまったリリスは、今でもその技能を疎ましく思っているようだ。
それならばとダイスを振ったソニアは、四と六の目を出した。割と大当たりだ。
「ソニアは、何かが床を這っているような音が聞こえた。カサカサカサ――とな。ちなみにその音は、一階でさっきも聞いた音と同じだな。しかも二匹いるぞ」
出目が良かったので、リゲルはいろいろな情報を提供してくれた。しかし、
「流石聞き耳頭巾。あなたはラムリーザの屁の音すら聞き漏らすまいといつも耳を澄ませているからね」
「だっ、誰がそんなことするのよ!」
「私は聞いたわ、ラムリーザが二部屋先に居たのにあなた、ラムがおならしたって言ったじゃない」
「言ってない!」
「フェイス・ハガー!」
ラムリーザは、二人の顔面を両手で鷲掴みにするのであった。
「ふっ、ふえぇっ!」
「痛いわね!」
これまで何度も二人の暴走を止めたが、自分が屁をしただのなんだの言われたのでは、実力行使で痛めつけるしか思いつかなかったのだ。
「えーと、二匹動いているってことだよね」
ラムリーザは、ソニアがゲームとして機能しないので、彼女が知ったということ前提で話を進めた。
「先程も普通に退治できましたし、大丈夫でしょう」
ユコはそれほどエーリアンを脅威だと考えていない。
「まぁあの程度の敵なら、何匹いても平気よ」などとソニアも強気だ。
「ところがさっきのやつはかなり素早いから、そのまま入ったら絶対に先制攻撃されるけどな。ほらソニア、入ってみろよ」
リゲルは、今の所情報を出し惜しみしない。つまり、ダイスロールに成功さえしていれば、大抵はうまくいくのだ。
「何か策はあるのでしょうか?」
こういった場合、ロザリーンは慎重派だ。
「回避に専念しながら突っ込むとかどうだ?」
ラムリーザは、前衛二人に策を授ける。
しかしソニアはまたしても「ラムが先に入って」と言い出すのだった。
「あいつ地面這っているから、ソニアだと足元見えなくて回避専念できないからね」
そしてリリスは、隙あらばソニアを煽る。
「甘く見ない方がいいですよ。特別な特性を持っているかもしれないから」
場が荒れかけたのを、ラムリーズ最後の良心ロザリーンが抑えてくれた。
「ではリリスが先頭で」
「仕方ないわね」
ラムリーザの指令で、仕方なくリリスは回避専念で部屋に入るのだった。