TRPG第九弾 エーリアンハンター 中編

 
 3月11日――
 

 クルクルランド王国のとある村にて――

 廃屋の前から続いている血痕を辿って、中へと入っていった。

 エーリアンの幼生体なるものに襲われたりもしたが、しっかりと返り討ちにして地下への階段へと進む。

 すると奥の部屋にも何かが存在して動き回っているようだが、リリスを先頭にして部屋に入るのであった。

 

「ほーら、幼生体が二匹飛びかかってきたぞ」

「回避専念しているわ」

 リリスは回避専念でダイスロールを行う。そのおかげで、敵の先制攻撃は回避できたのであった。

「ほら、二匹目は天井を伝わって、背後に回り込んできたぞ」

「なに、こっちに来たのか?」

 最後尾はソーサラーのラムリーザだ。

 ラムリーザは魔法を詠唱している暇はないので、持っているメイジスタフで攻撃を試みた。

 ファイター技能の心得もあるので、何とか命中させて攻撃ロールに入ったところ、14ポイントのダメージを与えて気絶させるのであった。

 プレイヤーの能力を再現するキャラクターということで、ラムリーザの筋力値は最大だ。

 その筋力に合わせた特注のメイジスタッフは、まるで丸太ってところなのだろう。

 丸太の一撃で、エーリアンの幼生体は一撃で気絶したのだ。

 残るは正面に居る一匹のみで、そいつはソニアとリリスの連続攻撃で退治してしまうのだった。

「こらこら、捕獲を忘れているぞ」

「タイミングが悪かっただけよ」

 ラムリーザに指摘され、リリスは困ったような表情を浮かべる。

 確かにソニアとリリスが二人掛かりで攻撃するとなると、一人目の攻撃で気絶させても、既に行動宣言しているのでリリスがとどめを刺してしまうことになってしまう。

 その辺りの加減が難しいのも、ゲームならではだ。

「さて、一匹はまだ生きているが、どうするか?」

 リゲルは、気絶した幼生体の扱いを尋ねた。

「あなた、食べてみなさいよ」

 すぐリリスはソニアを煽る。すぐ煽る。

「いやだ」

「食えっ」

「ふえぇっ!」

 どこかで聞いたような流れをまた展開しているが、そんな二人は置いておいて、残ったラムリーザたちで処置を考える。

「では捕獲するとして、どこに保管しておこうか」

「小屋の中に頑丈な容器があれば、それに入れておきましょう」

 その辺りはゲームマスターであるリゲルの裁断で、特に細かいことは気にせずに捕獲していくと決まった。

「国王は、こんな生き物を集めてどうするのでしょう」

「気にしても仕方ないさ。僕たちは依頼されたからこなす、それだけさ」

 ラムリーザとユコが組んでいるが、ソニアはリリスの対応に夢中になっていて気付いていない。

「部屋はどのような感じになっていますか?」

 そして物語を進めるのはロザリーンの役目だ。

「巨大なワニの死体が横たわっている以外、何もないな。しかし調べるなら、シーフかレンジャーの技能を使って知力ロールをしてみようか」

 リゲルは再びダイスロールを促すが、それらの技術をもった二人は、

「エーリアンソニア」

「幼生体リリス」

 などと、ゲームをプレイしていない。

 ラムリーザは再びいつもの「馬鹿なことはやめるんだ」を発動して、それぞれシーフとレンジャーを働かせるのであった。

 ソニアはダイスを転がすが、二と四の目が出て低かったため、何も気づかない結果となってしまった。

 しかしリリスが、四と五を出したので、リゲルの設定したポイントに到達したのであった。

「リリスは、巨大なワニの死体の向こうにある壁に、亀裂を見つけたということになる」

「人は通れますか?」

「ラムリーザには窮屈かもしれないが、通れないことは無い」

「でもソニアはおっぱいが引っかかって通れない」

 話が進むたびに、リリスは新しいネタでソニアを煽る。

 結局ダイスロール以外は、ソニアとリリスは喧嘩、ラムリーザとユコとロザリーンで物語を進めることになる。

「ではこの怪しい亀裂で――、まずは聞き耳かな?」

「そうしましょう」

 ラムリーザとロザリーンは、聞き耳判定をリゲルに求めた。

 しかしリゲルが提示したのは、シーフ技能とレンジャー技能を要するもの。こういった探索系は、その二つの技能が重要なのだ。

 その度に二人を引きはがしてゲームに戻すのはめんどくさいが、その技能を持っているのが前衛二人なので、そうするしかない。

 ダイスロールの結果、二人とも聞き耳判定に成功し、亀裂の奥で「ヒタヒタ」と音がしているのがわかった。

「なんだろうな、これは?」

 その音だけでは、ラムリーザは何も判断できなかった。

「裸足の人が歩いているのでしょうか?」

 ユコの予想も、この場合は考えにくい。

「亀裂は自然にできたものですか? それとも人の手が加えられていますか?」

 慎重派のロザリーンは、亀裂の様子もうかがっている。

「そうだな、亀裂は自然にできたものではないが、人間が開けたものにも見えない」

 リゲルの答えは曖昧だった。自然でもない、人工でもないとすれば?

「どうしたの? 入らないの?」

 突然ソニアが聞く。先程までリリスと口論していたのに、急にゲームに戻ってこられても困るというものだ。

「ではソニアが先頭で亀裂に入っていってもらおうか。ヒタヒタという音は、どんな感じですか?」

 ラムリーザは、前衛を動かしつつリゲルに状況を聞く。

「亀裂の中の音は、その中でうろうろしているだけのように聞こえるぞ。音からして、四本脚だ」

「聞き覚えは?」

「この濡れたような足であるく音には聞き覚えはない」

「まさかワニがまた出てくるとか――まぁいいや。ソニア覗いてごらん」

「はーい」

 ラムリーザは、ソニアを上手くコントロールしている。

「明かりを灯さないと、何も見えないけどな。ちなみに通路の広さは、人が一列になって進める程度の広さだ」

 しかし真っ暗だったため、何もわからなかった。

「松明を投げ込んでみるとかどうでしょうか?」

「あまり藪をつつくような行動は避けた方が……」

「ではファイアボルトを放つとか」

「同じことです」

 ユコとロザリーンの話し合いもまとまらない。

「その通路を足音の主はうろついているようだが、まだこつらに気がついていない。どうするか?」

 リゲルは、行動の決定を促した。

 結局、入ってみなければわからないということで、前衛組のソニアとリリスに回避専念しながら入ってもらうことにしたのである。

「とりあえず戦闘になっても、この二人ならなんとかなるからね」

「ソニアから入りなさいよ、おっぱいが引っかかったら押し込んであげるから」

「リリスから入りなさい」

 また荒れそうになるので、ラムリーザはすぐに指示を出して話を進めた。

 亀裂の中は一列で通れるぐらいの広さしかないので、そうするしかないのだ。

 続いてロザリーン、ユコ、ラムリーザの順番で亀裂の中を進んでいく。

「リリスの前に、犬のようなものが徘徊しているのが確認できた」

 ここは判定無しでの確認となった。

「見つかってないのかしら?」

「その時、犬のようなものはリリスに気がついて襲い掛かってきたぞ」

「ちょっと待ってよ」

 リゲルとリリスだけで、物語が進んでいく。

「攻撃する!」

 一番に攻撃宣言したのはソニアだった。しかしリゲルは「後衛はリリスが邪魔で手出しできないからな」と言った。

「じゃあ勝手にリリスがやられたらいいよ。あたしはリリスの屍を超えていくから」

「ちょっと待って、なんで私だけなのかしら?」

「通路はが一列で通れるぐらいの幅だからだ」

「くっ、おっぱいとか言ってないで、ソニアを押し込めばよかった」

 リリスは悔やむが、後の祭りである。仕方がないので、攻撃判定を始めることにした。

「まぁ回復魔法や援護魔法はやってもいいからな」

「それなら、プロテクションをかけてあげよう」

 ラムリーザは、最低限の援護魔法をかけてやる。敵が犬みたいというのならば、物理防御だけでいいだろう。

「ところで、犬みたいなものは何ですか? 野良犬が襲い掛かってきたのかしら」

 ロザリーンが尋ねたところ、リゲルは「犬型エーリアンだ」と答えた。どうやらこのエーリアンは、何でもありのようだ。

 しばらくの間、リリスだけがダイスを転がして戦闘を続けていた。ソニアはリリスの足を払うなどと宣言するが、ことごとく無視されている。

「弓攻撃や魔法攻撃がやりたければ、攻撃する前に運試しをすることだな。そこで六以下が出ると――」

 他の人が暇になるのを防ぐため、リゲルは攻撃を許可した。

「六以下が出ると?」

「前の人に当たったということで、目の前の人に攻撃すること」

 残念ながら、リスクを支払うこととなる行動になりそうだ。しかしそのリスクをリスクと捕えないソニアは、早速ダイスを転がすのであった。

「これでリリスを堂々と攻撃――って七が出ちゃったよ面白くない」

「堂々と攻撃しなくていいからね」

 ソニアは持っていた弓で攻撃する。放たれた矢は、リリスの脇を通り過ぎて犬型エーリアンに命中した。

「折角リリスのケツのど真ん中に矢をぶち込んでやろうと思ったのに」

「さすがレンジャーだね」

 余計なことを言うソニアに、ラムリーザは褒めることでそれを流そうと試みるのであった。

「それでは僕も――」などと、後に続こうと調子に乗ったのが悪かった。

 ラムリーザの転がしたダイスは、二つとも一の目が出てしまったのだ。

「――うおあ?!」

「よし、ラムリーザはユコに攻撃な」

 リゲルは嬉しそうに命令した。

「なんですのそれは?!」

 ユコも驚くが、最初にルールを決めていたのだから仕方がない。ラムリーザはユコに対して魔法攻撃を仕掛けるのであった。

「ほんと、申し訳ない」

「き、気にしないで……」

 なんだか気まずいムードになっているのを、リゲルは面白そうに見つめていた。

 そんなハプニングが起きながらも、なんとかリリスは犬型エーリアンを気絶させることに成功したのであった。

「よし、捕獲するわ」

「さて、その通路はくねりながら前方へと進んでいるぞ。まるで洞穴のようだ」

「魔物が穴を掘ったのかしら……」

「とにかく、早く広い所に出よう」

 ラムリーザは、先程の誤爆事件を気にしているのだ。このような狭い通路では戦いにくい。

「しばらく進むと、先ほどの地下室と同じくらいの広さのところに出てきたぞ。違いは、壁質が土であるということだな」

「そこには何がありますか?」

「その広間に、人間が倒れている。ずいぶん前に死んでしまっているようだがな」

 ラムリーザとロザリーンとリゲルの三人で話が進んでいる。

 どうしても戦闘パートでしか、ソニアやリリスは活躍できない。シーフ技能やレンジャー技能が必要な場合でも、ラムリーザに促されて動いている。

 その二人は、物語を進めたり考えたりするのが苦手なのかもしれない。

「死体を調べてみましょう」

 その二つの二人組の中間点だと考えられるユコは、話を進めたりソニアたちと遊んだり半分半分だ。

 ゲームマスターとしてユコは面白い話を作ってくれるが、プレイヤーとしては無難な所であった。

「死体は見たところ、胸を突き破られて死んでいる」

「これはまた変わった傷だなぁ」

「よし、セージ技能を基準に知力ロールしてみろ。十二以上で成功だな」

 今度は違ったスキルを要求した。セージ技能となると、ラムリーザとロザリーンが所持している。

 二人はダイスを転がすが、残念ながら十二以上にはならなかった。

「その目だと、どう見ても胸を突き破られて死んでいる、ぐらいしかわからないな。それとこの人は、クルクルランドの住民で、一般市民のようだな」

「なんだろうね、成功させてみたかったけど仕方ないや」

「それで、この空間は行き止まりですか?」

「入口と反対側に、先へと続いている通路になっている」

「先に行きますか?」

 先に進もうとするユコをラムリーザは制した。気になることがあったのだ。

「この空間を調べたいけど、何かないかな?」

 死体だけが転がっているのはおかしい。胸を突き破られて死んでいるのだと、先程の犬型エーリアンの仕業だとは考えられない。

 つまり、別の何かが潜んでいるのではないか、と。

「周囲を見渡してみると、何かの卵らしきものが二つあった」

「卵? やっつける!」

 何かが出てきたら戦わずにいられないのか、ソニアは卵相手に攻撃宣言をしてしまった。

 リゲルは「好きにしろ」と言ってソニアの自由にさせたところ、簡単に卵は潰れてしまうのだった。

「いきなり叩くなんて、ちょっと様子を見ましょうよ」

 ユコはソニアの行動が軽率だと非難する。

「だってこんなところにあるの、どうせ敵の卵か何かじゃないのよ」

「騒ぐな喧嘩するな、一つ残ったから捕獲しよう」

 卵も研究対象になると考えたラムリーザは、一緒に捕獲することを考えた。

「で、これは何の卵なにですか?」

 ロザリーンは尋ねるが、リゲルは「初めて見るもので、何の見当も付かない」と判定もなく知らないことを告げるのだ。

「卵ね、ソニアあなた食べなさいよ」

「いやだ食べろふえぇはそこまでね」

 また同じ流れになりそうなのを、ラムリーザは先に封じておいた。

「さて、捕獲しようとラムリーザが手を伸ばすと、卵が震え出した」

「え? それってちょっと待てよ――あ、回避専念します」

 ラムリーザは、危険を察してすぐに回避専念の宣言をした。

「次の瞬間、卵の中から先程遭遇した幼生体が現れたぞ」

 リゲルはすぐにラムリーザ相手に攻撃判定を仕掛けた。

 ラムリーザは回避専念の宣言をしていて、回避判定にボーナスを得ていたが、前衛に比べてファイタースキルが育っているわけではない。だから、攻撃を食らってしまった。

「ラムの仇はあたしが取る!」

「いや、まだ死んでないからね」

 とりあえずこの場は、ソニアの攻撃が綺麗に決まって、幼生体は気絶して捕獲されたのであった。

「なるほど、さっきのはエーリアンの卵だったのですね」

「卵があるということは、たぶん奥にボスがいるはずだね。よし、奥に進むぞ」

 ラムリーザの号令がかかり、

「じゃあ、あたしが先頭!」

 ソニアを先頭に進軍が再開された。

「その前にラムリーザさん、回復は要りますか?」

 慎重派のロザリーンは、プリーストとしての役割を心得ている。

「まだ一撃食らっただけだから、生命力には余裕があるよ」

 というわけで、奥へと通じている道を進むのであった。

 

 続く――
 
 
 
 




 
 
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Posted by 一介の物書き