TRPG第九弾 エーリアンハンター 後編
3月11日――
クルクルランド王国のとある村にて――
廃屋の奥では、エーリアンなる未知の存在がうろついている魔境だった。
地下室の奥で村人の遺体を見つけたが、それは何かが胸を突き破って出てきたようなものだった。
さらに奥へと通じる道があったので、ラムリーザの号令でソニアを先頭に進軍が再開されたのである。
「さて、奥へと進んだところ、そこは結構広い洞穴になっている。そして、ここの村人らしき大勢の人々が、繭のようなもので固められていた」
「リゲルきもい」
ソニアは、最近リゲルに対して時々使う言葉を、ジト目で叩きつけた。
ただしこの場合、リゲルの作った物語の表現や内容が気持ち悪いだけであり、ミーシャに対してデレデレしている場面とは違う。
「ああ、この村人たちは全滅ですね……」
ユコは諦めたようなことを言うが、ラムリーザは「繭から取り出して助け出そう」と言って、救出する旨をリゲルに伝えた。
「取り出そうとしたが、繭のようなものは全然びくともしない」
しかし、どうやら救出は無理なようであった。
「この場所は一体……」
ラムリーザには、どうすることもできなかった。
「村人は生きているのですか?」
ロザリーンの問いにリゲルは「死んではいないが、全員昏睡状態のようだ」と答えた後、
「そうだな、無理矢理取り出すなら、ファイター技能を基準に筋力ロールをしてみようか」
とロールプレイを要求した。
「生きているなら助けよう、まずは僕から行くよ」
ラムリーザもファイター技能を一レベルだが所持しているので、ダイスを転がして救出を試みる。
しかしその目は、両方とも一だった。
「ラムリーザは、失敗して繭に顔をつっこんだ」
今日のラムリーザは、失敗ばかりしている。
「僕は隅っこに控えているよ、君たちに任せた」
「そんなラムリーザ様気落ちしないで」
ユコは慰めるが、彼女はファイター技能を持っていないので、ラムリーザと一緒に待機することを宣言した。
しかしそれを気に入らない者が当然出る。
「また寝取り人形が、ねっとりラムに引っ付いてくる!」
「人をスライムみたいに言わないでください!」
「僕がスライム人間でいいから、ソニアは救出ロールしなさい」
ラムリーザに言われて、ソニアは不満そうな顔をしながらも、ダイスを転がした。
その目が両方とも六だったので、
「バリバリと音を立てて、馬鹿力でソニアは一人繭から解放した」
などと、大袈裟な表現をされてしまうことになった。
「回りには、この繭だけですか?」
「この洞穴の中はそうなっているな」
続いてリリスもファイター技能で救出を試みるが、ダイスの目が少し足らずに失敗してしまった。
「何人ぐらい捕えられていますか?」
「住民の村人は、ほぼ全員が捕らえられているようだな」
ソニアとリリスが救出を試みている間、ロザリーンは状況確認に専念していた。
「次、二人目行くよ」
ソニアは再びダイスを転がし、宣言通り救出に成功するのだった。
「もうあなた一人でやりなさい」
逆に二人目も失敗したリリスは、ふてくされてソニア一人に任せてしまった。
「人数が多すぎるね。ボスが居たら、そいつを倒せば繭も無くなるかもしれないぞ」
「そうですね、村人たちが無事な間にボスを探すことにしますか」
ラムリーザとロザリーンは、救出はソニアに任せてリリスを先頭にしてボス探しをしてみることにした。
するとリゲルはなんだか嬉しそうに状況を語った。
「その時、先ほどソニアが救出した村人に異変が生じたぞ。昏睡しているが、妙に息苦しそうにしだした」
「え? 何だそりゃ? 様子がおかしいのか?」
「あなた何かしたでしょう」
ラムリーザは驚き、リリスは普通にソニアを煽って来る。
「あたし何もしていない!」
ソニアが文句を言ったところで、
「いきなり村人は吐血して、次の瞬間胸が張り裂けて、ヘビ型エーリアンが現れた!」
「繭に戻せ!」
ラムリーザは慌ててソニアに次の行動を促す。戻したところでどうにかなるようなものではないのだが、人間は慌てた時は行動がおかしくなるものだ。
ソニアとリリスは、急いで攻撃態勢に入るが、最初の命中判定で二人ともダイスの目を一ばかり引いてしまうのだった。
「二人とも攻撃失敗だな」
リゲルは嬉しそうにしゃべり、ラムリーザは「うろたえるな」とうろたえながら言っている。
「また新しい敵ですか」
「それでは私がやります」
落ち着いているのはロザリーンとユコだった。
ユコは、ヘビ型エーリアンを目がけて、炎の精霊サラマンダーの力を借りてファイア・ボルトを放った。
それがクリティカルヒットして、敵は一撃で気絶するのだった。
「うーわ、さっきの誤爆でクリティカルが出なくてよかったよ」
「捕獲しますね」
ユコは、今回の敵も捕獲しようとした。しかしリゲルは、
「その時、周囲から妙な唸り声がいくつも上がりだした」
などといって、雰囲気を煽り立てた。
「まさか捕えられている住民全てが?」
「そうだな、レンジャー技能を基準に、知力ロールしてみようか」
「ん、ソニア頼むぞ」
「なんだかよくわからないけど、はい」
ソニアは物語の展開についていけていないようだが、レンジャーとしてダイスを振ることはできる。
しかしその出目は、一と二であった。
「ダメじゃん!」
「リリスが邪魔したから!」
「敵が足元に居るからね!」
「喧嘩している場合じゃありません!」
どうやら、ロザリーンを除いて恐慌状態に陥ってしまった模様だ。
「明らかに、周囲に何か得体の知れないものの気配がたくさん、ソニアだけでなく、全員がいとも簡単に感じ取れる程――」
リゲルはいつもと違って高揚した感じで物語を進め、周囲に転がっていた小物を五つ程並べた。
「それって、さっきの繭の全てからたくさんの敵が住民から出てきたのですか?」
ロザリーンも流石に動揺したのか、言葉遣いがおかしい。
「そら、お楽しみはこれからだ。これ全部エーリアンだからな、好きな奴から攻撃してよいぞ」
「ハックアンドスラッシュものですね」
敵がたくさん出てきたのを見て、ユコはこのストーリーはストーリーを楽しむものではなく、敵を倒して戦闘に勝利することに重きを置いたストーリーだと理解したようだ。
「それならば、前衛の二人にプロテクションをかけておくね」
ラムリーザは、すぐにソニアとリリスの防御力を上げる。
一匹目のエーリアンは、ソニアのクリティカルヒットで、一撃で気絶させられたのであった。
乱戦でも捕獲することは忘れない。それが報酬に繋がるのだから。
エーリアンも次々に攻撃を仕掛けてくるが、プロテクションで守られている二人は、攻撃を受け止めているし、喰らってもダメージは微々たるものだ。
ここで出てきたエーリアンはただの兵士扱いのようで、これまで出てきた個体よりは強くないようだ。リリスも続いて仕留めている。
しかし、リゲルはさらに小物を二つほど追加して、「犬型エーリアンも出てきたぞ」と言っている。
「きりがないな……」
ラムリーザは、増え続ける敵に対して、最近取得した魔法をぶっ放すことにした。
これまでの初級魔法と違って精神力の消費は大きいが、初めて覚えた範囲攻撃――というよりは、直線攻撃だ。
「いくぞ、ライトニング・ボルト!」
「ダメ!」
「なんでやねん」
折角ここぞという時に放ったというのに、ソニアはダメ出しをするのだった。
「ちゃんと詠唱しなくちゃ!」
「それが聞きたいだけだろ……」
ラムリーザはそうは言ったものの、後衛のソーサラーはこういったときぐらいしかなかな見せ場はやってこない。ならば厨二と呼ばれようが、ソニアのお気に召すように動いてあげようではないか。
「我、ここに雷神に問う! なぜこの雷で敵は滅ぶのか! 淘汰だからさ! ライトニング・ボルト!」
ラムリーザの詠唱センスを問われる内容だが、とにかくそれっぽい詠唱をしたことで、ソニアはお気に召したようだ。
ライトニング・ボルト、ラムリーザの放ったレーザー光線みたいな電撃魔法は、エーリアン二匹と犬型エーリアン、まとめて三体を串刺しにしたのだった。
「お、やるな。それならこうだ」
リゲルは、さらにヘビ型エーリアンも登場させる。周囲に捕らわれていた住民から、一斉に出てきたのだとか。
「またぁ? もう、飽き飽き」
ラムリーザは、折角退治したのにまた増えて、うんざりしてしまう。
やはりこういった戦いの場では、ファイターが輝くと言うものだ。
ソニアとリリスはお互いに功を譲らず、次々にエーリアンを撃破している。
時々大きく被弾するが、その都度ロザリーンが治癒の魔法を飛ばしていた。
「きりがありませんね、それでは私が」
今度はユコが動いた。バード技能を生かして、ララバイの呪歌を詠唱した。
しかし今回も、ソニアが呪歌なら歌を歌ってと注文を付けた。
「そんなの嫌です!」
「歌って!」
「寝る寝る寝るねは、寝れば寝るほど、こうして眠れ! てーれってれー、眠ってすやすや寝る寝る寝ーるね!」
何だか歌なのか、魔女の詠唱なのかわからないフレーズが出たが、ゲームマスターであるリゲルの判定では三体ほどエーリアンを眠らせたのであった。
むろん、寝ている隙に全て捕獲する。
しかし、その間にも、次から次へとエーリアンが現れる。
ラムリーザやユコはうんざりするが、ソニアとリリスはすごく楽しそうだ。
どうやらシティアドベンチャーで活躍する人と、ハックアンドスラッシュで活躍するメンバーは、真っ二つに割れているようだ。
こうして、しばらくの間、エーリアン狩りが続くこととなったのである。
………
……
…
「そろそろいいかな」
ソニアとリリスの集中攻撃で、最後のエーリアンが始末された時、リゲルはそれ以上の敵は場に出してこなかった。
「大漁ね、懸賞金ガッポガッポだわ」
リリスはなんだか嬉しそうだ。
ソニアも十分飽きるほど戦闘をしたということで、すっかり満足しているようだ。
「よし、喧騒が一段落ついた時、どこからともなく男が現れて、おや……? と言っている」
「誰だ? ソニアの彼氏が現れたのかしら?」
戦闘に満足しても、リリスはソニアを煽ることは忘れない。
「だったらクリボーでリリスの嫁だ!」
ソニアは戦いで興奮しているのか、いろいろと間違っている言い返しを放つ。
「その男は、全部やつけてしまったのか、なんてことだ、と言っているぞ」
「誰だろうか、逃げられないように回り込めませんか?」
ロザリーンは、落ち着いて状況確認しているが、お互いに近くには居ないとのことだった。
リゲルの話では、その男は何かの研究をしていたようで、その成果をラムリーザたちが始末してしまったことに腹を立てているようだ。
「へー、村人を殺しての研究ね、こいつは……」
ユコは少し憤っているのか?
「その男は、貴様はラムリーザ、またしても俺の邪魔をするのか?! と言ってきたぞ」
「えっ? 僕? 何かしたっけ? リゲルの話だと、死体が蘇る話?」
「あ、この人はドップスじゃないかしら?」
ロザリーンは、リゲルのストーリーを覚えていた。確か以前プレイしたゾンビ物だと、その黒幕はドップスという者ではなかったか。
「やっつけた気がするけどなぁ、また蘇ったのかも。それよりも、研究について詳しく知りたいな」
「男は、貴様らに話すことは無い、と言っているぞ」
「それなら今回の黒幕みたいだし、やっつけるか。ソニアさん、リリスさん、やっておしまいなさい」
ラムリーザは、何故か演技をしているような口調で、二人をけしかけようとした。
「その男は、全滅させられたのなら仕方ないと言って、その場を立ち去ってしまったぞ」
「追いかける!」
ラムリーザの指令に従って、ソニアは後を追う宣言をする。しかし、
「敵はファイアーボールを放ってきたぞ、抵抗判定してみろよ」
といった流れになり、追跡は断念せざるをえないのであった。
ソニアとリリスが抵抗判定からダメージ判定をしている間に、敵は姿をくらましてしまった。
「あーあ、最後っ屁で村人の遺体が燃えてしまったかな」
「そうだな、最後の特大のファイアーボールで、広間にあったものはすべて燃え落ちてしまったということで、後に残ったものは、燃え尽きてしまった繭にされた住民たちだけであった」
「捕獲したものは無事よね?」
「それは大丈夫だ」
リリスは何が何でも報酬を大事にしている。
「燃え尽きたってことは、みんな死んでしまったのでしょうか」
その一方で、ロザリーンは囚われていた村人を気にかけている。
「残念ながら、謎の男はここでの研究の痕跡を残さないために、最後の一撃をはなったようだな。それ以前に、繭にされてやられていたのだけどな」
「そうですか……」
ロザリーンはいろいろと思う所があるようだが、ラムリーザは
「これ以上奥は無いみたいだから戻ろうかな」
と帰還を提案した。
リゲルもこれ以上のストーリーは作っていなかったようで、街に帰ってもいいぞ、と言った。
「最後に、ここの村に、村人たちの墓を作っても良いですか?」
ロザリーンのプリーストらしいロールプレイか、それとも本心か。おそらく両方だろう。
ということで、謎は多かったものの廃屋のエイリアンは全て退治するなり捕獲するなりして片付けたのであった……
――― クルクルランド王国物語「エイリアンハンター」 完 ―――
「いやぁ~、楽しかった!」
ソニアはすごくうれしそうだ。
ユコのストーリーと違って、リゲルのストーリーは戦闘がメインになりがちだ。
それだけファイターの活躍の場が増えるので、ソニアやリリスは十分に活躍できるのだ。
逆にユコが作るシティアドベンチャーでは、二人は地蔵と化しやすい。
人それぞれの物語が楽しいのだよな。