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ユートピアだと思っていたら、幼馴染が殺された?!
- 公開日:2016年3月17日
プロローグ
青い空、白い雲、木々のざわめきに、目の前にはどこまでも続く大草原。
ラムリーザは、気がつくとそのような世界にたたずんでいた。
何もかもがフリーダムな世界、ユートピアとでも言うのだろうか。
「驚くほど理想郷だな……」
周囲を見渡すと、すぐ傍に建物が一つ建っていた。建物は、二階までが角ばった形になっていて、その上は円形の塔になっている。まるでつくしんぼの様な風貌だ。縦に並ぶ窓の数から判断して、建物と塔を含めて、五階ぐらいだろうか。
ラムリーザはその建物に向かおうとして、五人の人物とすれ違った。男性一人、女性四人、しかしそのうちの一人しか、見知った顔は無かった。だがその人たちを見ても、何故か不安は感じなかった。
みんな親しげな顔を向けてくれる。その表情を見てラムリーザは、この人達は多分仲間なんだろうと思った。
仲間の中の唯一の男性は、銀色の髪と冷たそうな銀色の瞳が特徴であり、何があっても動じないようなクールなイメージと、特徴的なモノクルか知的な雰囲気を感じ取れた。彼は四人の女性の一人――濃い金髪をポニーテールにしていて、茶色の瞳に眼鏡をかけたこれまた知的なイメージの人――と一緒に、水辺に行って釣りを始めた。
そしてラムリーザの傍に、腰まで伸びたプラチナブロンドが印象的で、神秘的なイメージを持った美少女が近づいてくる。彼女は、「ラムリーザ様」と言いながら、その淡い緑色をした瞳でこちらを見上げてくる。その視線には、敬意というものが感じられた。
残る二人の女性は、剣を片手に大草原に駆け出していった。
その内の一人は、腰まで伸びた黒髪と赤い瞳が特徴で、いかにも美少女だ、といったイメージだ。妖艶な微笑みに、ラムリーザは思わずドキリとしてしまう。
そして最後の一人が、背中の半ばまで伸びた青緑色の髪と、青色の瞳を持った娘。ラムリーザは彼女だけ知っていた。彼女は幼馴染で、ソニアという名前だ。
大草原に駆け出していく二人を見送った後、ラムリーザは建物の中に入っていった。建物の中はがらんどうで、家具の類は一つも置いていない。殺風景な張りぼての中に入った感じだ。
ラムリーザは周囲を見渡した。部屋の中央部に、螺旋状の階段が上へと続いている。他に見る物も無いので、その階段を上がって行った。
建物の屋上に到達すると、そこからは遠くまで見渡すことができる。幼馴染のソニアと黒髪の美少女は、草原で牛と羊を狩り続けている。なぜ家畜を剣で狩り続けているのかまでは分からない。
この時ラムリーザは、傍にプラチナブロンドの美少女がついてきていることに気がついた。相変わらず好意的な視線を向けてくるが、いったい誰なんだろう……。
だがラムリーザは、幼馴染のソニア以外は誰だか知らなかったが、不思議な絆を感じていた。
そのうち辺りは暗くなり、やがて夜が訪れた。
そして、暗闇の中から、何とも形容しがたい異形の魔物が姿を現した。
魔物の群れは、大草原で狩りをしていた二人の娘に襲い掛かっていく。そして、黒髪の美少女は、その餌食になってしまったのだ。
ラムリーザが、「あっ」と思ったときは遅かった。
魔物の群れは、幼馴染のソニアにも群がっていく。
「ラム! 助けて!」
彼女の断末魔の叫び声が聞こえたが、ラムリーザは何もすることができなかったことを悔やんだ。
というか、この展開って何?
ラムリーザは混乱していた。なぜいきなり幼馴染が殺されるのだろうか?
だがしかし、いつまでも混乱しているわけには行かなくなった。
建物の中にも魔物は侵入してきて、気がつけば屋上に居るラムリーザとプラチナブロンドの美少女だけになってしまっていた。
ここまで来たら、致し方ない。
ラムリーザは隣で不安がる娘に、「楽しかったよ」と呟いて、自ら魔物の群れに飛び掛っていった。
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