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使命の為に幼馴染と別れなければならないわけで

 
 ハッと気がつくと、そこは屋敷――フォレスター邸――にある自室のベッドの上だった。

 ラムリーザは、まだドキドキしている胸を押さえ、部屋にある柱時計に目をやった。

 午前三時十五分、ということは三月十九日だ。

 先程までの出来事は、どうやら夢だったようだ。

 それでも楽しかったな、とラムリーザは思った。最後は酷いものがあったが、それまでは本当に和んだのも事実だ。

 あんな仲間と出会えたら、ほんとうに楽しいだろうな。などと思うのだが、それもうまくいかないだろうと考える。

 幼馴染のソニアもどうなるかわからないのだ。それは、先程の夢が暗示していたとでもいうのだろうか。

 この時ラムリーザは、昨夜の母との会話を思い出していた。

 

 

 

 

 窓から満月の光が差し込む夜更け、ラムリーザは屋敷の談話室にやって来た。

 談話室には、先端がカールしている長い金色の髪と、それに会わせたような金の瞳の女性がテーブルの奥の席に静かに座っていた。黒いガウンを着ていて、まるで魔女を連想させるような格好をしている。

 ラムリーザの母親であるソフィア・マリーチ・フォレスターだ。

 その時のソフィアは、普段の恍惚としたような目つきではなく、鋭い目つきをしていたので、ラムリーザはその目を見て、重要な話が来ると悟った。

「今後のことを話しておきましょう」

 ソフィアの声を聞きながら、ラムリーザは向かいの席に腰を下ろす。

「前から言ってた、帝都から離れるってことかな?」

「そうです」

 現在エルドラード帝国は、隣国であるシロヴィーリとの国交強化が進められている。

 その第一歩として、国境都市の開発が決まり、路線開発が行われているところだ。都市構想として、貿易施設の中継地点というコンセプトを中心に造られることとなっている。

 そこで、新たに創られる国境都市の領主として、将来的にラムリーザを据えるという話を進めているというのだ。

 ラムリーザの父はエルドラード帝国の宰相である。息子をそのような地位に就けさせるぐらいの権限はあった。ラムリーザには兄が居て、跡取りはその兄に決まっている。そこで弟を国境都市の領主に据えることで、弟の将来、そしてフォレスター家の勢力増大を考えているのだ。

 今年に入った頃に、ラムリーザはソフィアから「来年には国境都市に住むことになるでしょう」と聞いていた。

 

 そういうことで、帝都シャングリラの高校には進学せずに、国境に近い田舎町ポッターズ・ブラフにある高校に進学することになっていた。

 そして、新たに国境都市に建てる屋敷が完成するまでは、フォレスター家の遠縁関係にある者の屋敷を、寄宿舎として間借りして住むという話も決めていた。屋敷は一年もすれば出来上がるだろう。

 ラムリーザは、家の事情というものを理解しているので、そのような動きを特に不快とは思っていなかった。

 ただ一つ、楽しいところだといいな、という希望はあった。

 

 だが、ラムリーザは、ひとつ気になっていることがあることに気がつき、思わず呟いていた。

「ソニアと別れちゃうのかなぁ……」

 ラムリーザにはソニアという物心がついた頃から常に一緒の幼馴染が居る。

 ソニアの父はフォレスター家の執事であり、母はメイド長だ。

 ラムリーザが生まれたのと同じ年にソニアは生まれ、同じ屋敷の中で双子の兄妹のように育てられてきた。

 勝気ででしゃばりなソニアと、そんな彼女を大らかな心で見守るようなラムリーザ。二人はそんな性格で、関係は今までずっとうまくいっている。

 

「それはあなたが決めることです」

 ソフィアは話を続けた。

「今はまだ辺境の地方でしかありませんが、これからはシロヴィーリとの国交の最先端となります。国の重要な拠点として発展して行くでしょう。ラムリーザ、あなたはその地の領主となるのです。そのために、ラムリーザも社交の場に出てもらいます。意味はわかりますね?」

「……縁談?」

「そのとおり、もう三年もすれば伴侶を決めなければなりません」

「伴侶……」

 家の事情というものを理解しているラムリーザは、その言葉の意味することが分かっていた。それは、その地方の名家の令嬢との縁談だということを理解するのは難しくなかった。また、それが政略結婚と言われるものだということも。

 そして、そのために国境に近い街に引っ越すということだ。その街の名家と結ばれることで、その地方での足掛かりを強化するために。

 

 だが、伴侶という言葉を聞いて、ラムリーザはソニアの事を思い浮かべた。

「そうなったら、ソニアはどうするんだろう」

 ラムリーザは考えた。使用人として雇うことで、これからも一緒に居られるのだろうか、と。

「それはあなたが決めることです」

 ソフィアの言葉は先ほどのものと変わらなかった。そして軽く微笑み、そしていつもの恍惚としたような目つきに戻った。

 

 

 

 

 現在、ラムリーザの身近には、二人の女の子が居る。

 一人は妹のソフィリータ。ラムリーザの一つ下で、彼のことをお兄様と慕い、従順で大人しい。それでいて、すこし甘えている面もある。

 だが、とある事情で格闘技を学び、今ではそれなりに強く、並の男なら軽くやつけてしまうぐらいの腕前になっていた。

 もう一人はソニア。ラムリーザとは家族ではないが、同じ年に生まれた時から一緒の幼馴染で、そういうこともあって妹のソフィリータより付き合いは長い。

 というのは、まず、ラムリーザの家であるフォレスター家は名家であり、執事やメイドといった使用人が普通に居るところである。そしてソニアは、そのフォレスター家に仕える執事とメイドの娘なのだ。

 だから、同じ屋敷内で、物心がつく以前から兄妹のように一緒に育てられてきたのだ。

 ラムリーザにとっては、血の繋がりの無い双子の妹と、一つ下の実妹が居るような感覚で過ごしてきた。

 いつも二人を大切にしようと考えていたし、二人もラムリーザを慕っていた。

 だが、その関係はこの春で一つの区切りを迎えようとしていた。

「こうして三人で演奏するのもあとわずかだな」

「そうですね、お兄様はもうすぐ帝都を発たれますし」

 フォレスター家の屋敷の一部屋は、セッションルームとして使用している。そこでラムリーザ達は、息抜きとして何度も即興演奏をやったり、曲を決めて演奏したりしてきた。

 ラムリーザのドラム、妹のソフィリータはギター、そしてソニアがベースをプレイしている。これは、二年ほど前にソニアの気まぐれから始めていて、将来メジャーデビューするならグループ名は「ラムリーズ」にしようとか冗談で言ってたりした。

 それでも、メジャーデビューとまでは行かないが、ラムリーザの友人の親が経営しているクラブで、その友人と一緒に演奏したことは何度か合ったが。

「寂しくなりますね、お兄様」

「僕も一人で帝都を発つのだからお互い様かな」

「ソニア姉様はこちらに残るのですか?」

「まぁ……そうなるかな。帝都の女学校に通うことになるとか言ってたし」

 その時、ソニアはため息をつき演奏を止めた。

 ラムリーザはソニアの様子を見て、少し元気が無さそうだなと感じた。今日はなんとなく口数が少ない。それに、いつも強気であふれている青い瞳が少し沈んでいるようにも見えた。

 いや、よく考えたら今日に限った話ではない。

 これまでは、活発で明るい――というよりちょっとうるさいときもある――女の子だったが、中学を卒業する時期が近づくに連れて、彼女は何か考え込むような仕草が増えてきた。そして、不安な目つきでラムリーザの方を見ていることも多かった。

 ただ、こっちがその視線に気がつくと、いつも作ったような笑顔を見せるのだったが。

「ソニア姉様、どうかされましたか?」

「え?あ、いや、なんでもないわ」

 ソフィリータに声をかけられソニアは我に返り、慌てたように笑顔を見せる。いつもの作り笑顔だ。

 ラムリーザはソニアの母から、彼女はこの春から帝都の女学校に通うことになるという話を聞かされていた。

 そこでは花嫁修業のようなものを学ぶことになり、その先はどこかに嫁ぐという流れになっていて、それはこの国での平民の娘が辿る道筋の一つであった。そして使用人の娘であるソニアも例外ではなかった。

 それはそれで、自然の流れだと思うのだが……。

 

 ラムリーザはソニアと一緒に居られる時間も残り少ないので、明日少し一緒に出かけてみようかなと考えた。それに、話をしておきたいこともあったのだ。
 
 
 
 
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