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雑談部の始まり

 
 4月11日――

 

 放課後、ラムリーザは背もたれに深く腰掛けてぼんやりと外の景色を眺めていた。

 窓の外には、裏山の景色が広がっている。特に考え事をしているわけではない。ただ、何も考えず、自然を眺めているのが趣味だった。

 眺めていると、時には面白い物も見られる。例えば屋根の上にスズメが十匹ほど止まっていたりする。しかし二匹のスズメが喧嘩を始めてしまい、揉み合いながら屋根から転がり落ちてしまった。その瞬間、残りのスズメたちが、まるで落ちたことを心配するかのように、並んで下を覗き込んだ時には思わず吹き出しそうになってしまった。

「さてと、俺は行くぞ」

 後ろの席に居るリゲルがそう言って立ち上がる。帰りのショートホームルームが終わってから、リゲルは何かの雑誌を読んでいた。それが丁度終わったのか、切りの良い所まで進んだということか。

 ラムリーザはまだもう少しゆっくりしていたかったので、外を眺めたままリゲルに問う。

「そういえば、リゲルは部活とかやらないのかな?」

「俺は天文部に入った。天文学に興味があるのでな」

「それって星占術とか?」

「少し違うな。宇宙の構造を研究するとかだな」

「なんだか難しそうだね」

 ラムリーザは、リゲルは天文学に興味があるのかと知ったが、先日のパーティでギターを弾いていたのが印象に残っていた。下手とか並とかではなく、お世辞抜きで上手と言えるだろう。

「ところでさ、ギター上手いのだからバンドに来たらいいのに」

 だから、やたらと女の子が多い軽音楽部に誘ってみた。

「そうだな、検討しておく。それじゃあまた明日」

「ああ、また明日」

 しかしリゲルは、誘いにすぐには乗ってこず、ラムリーザと別れて天文部の部室に向かっていった。

 

 ソニアは離れた位置にある自分の席でラムリーザを見つめていた。

 ラムリーザが休憩モードに入ると、てこでも動かないということは長年の付き合いで知っていたので、そのまま待ち続けるしかなかったのだ。かといって、一人で部活に行く気にはなれなかった。それに、ラムリーザのすぐ後ろにいるリゲルが、なんとなく怖いと感じて近寄りたくないと思っていた。

 

「さてと、そろそろ自分も行くかな」

 大きく伸びをしてラムリーザは立ち上がる。周囲を見回すと、ほとんどの生徒は教室から居なくなっていた。

 一人ぽつんと残っているソニアを見つけて、「ああ、そうか、まだ友達居ないんだったな」と思い返し、ソニアの所に向かう。ソニアはラムリーザの前では天真爛漫に振舞うが、誰それ構わずそう接するわけではない。特に仲良くなった人にしか見せない、特別な一面であった。

「ソニア、部活行かないのか?」

「えーと、うん、行く……」

「んー、何か元気無さそうだな。どうしたんだ?」

「そ、そんなことないよ。行こう、行こう」

 実際の所、ソニアは部室に行きたくなかった。もう少し正確に言うなら、リリスとユコの居るところにラムリーザを連れて行きたくなかった。ラムリーザがその二人になびくのではないかと不安になっていたのだ。

 一方ラムリーザは、ソニアがリリスやユコと友達になればいいのにと考えているのであった。

 

「今日は遅かったですわね、何をされていたのですか?」

 部室に入ると、先に来ていたユコが話しかけてきた。育ちが良いのか性格なのか、いつも丁寧な言葉で話している。

「うむ、空の理について考察してたら、時間経ってた」

「何ですの、それは?」

「あれでしょ、私達が教室出ようとしていた時、ラムリーザはずっと外見てたし」

「まあいいや」

 ラムリーザはとりあえず話題を変える事にした。リゲルから天文学のことを聞いて、それっぽく振舞ってみようと思ったが、思うように言葉が出てこない。

 部室の中央に置かれているソファーに腰をかけ、ソニアを手招きする。ソニアはラムリーザの隣に座り、リリスとユコはその正面にあるソファーに腰掛けた。

「さて、一年生カルテットが揃ったわけだが……」

 ラムリーザはそこまで言って三人の顔を見回して言葉を続けた。ソニアを馴染ますためには、こうして会話するのが手っ取り早い。

「親睦を深める意味で、みんな普段家で何をしているか聞いてみようかな」

「ギターの練習とゲームね」と、リリス。

「ゲームやりながら気に入った曲のスコア作成ですわ」と、ユコ。

「家では大体ゲームかな」と、ソニア。

「だいたいゲームだね。軽音楽部じゃなくて、電脳部でもよかったんじゃないかな」

「ラムリーザはゲームをやらないの?」

 リリスは間に置かれたローテーブルにひじを突いて身を乗り出してきて尋ねた。

「僕は大体ソニアがやっているのを見ているぐらいかな。木こりのアンドレとか、キックボーイならいろいろ語れるけど」

「ふーん」

 ラムリーザの返答にリリスは何か引っかかる部分を感じたが、とりあえず追求せずに流すことにした。

「最近やったゲームと言えば、何になるのでしょうか?」

「あれじゃない? 戦略シミュレーションゲームの『タンブリンの輪』でしょう?」

 ユコの問いかけにリリスはサラッと答える。それを聞いたソニアがぴくっと反応するが、誰も気がつかなかった。

「やっぱりカオスルートですわね。主人公が自分の力で道を切り開いていく。それがやっぱり王道ですわ」

「いやいや現実を見ないと。あ、でも虐殺は見逃せないからニュートラルルートね」

「ソニアさんはこのゲームやりませんでしたか?」

「……知らない」

 折角盛り上がりかけたのに、ソニアはぶすっとした顔で答える。そこでラムリーザは、助け舟をと軽く語った。

「ソニアもプレイしていたよ。なんか見ていたら暗殺されていたけど」

「ラム!」

 だがすぐにソニアは怒り出す。ソニア的には、酷い終わり方をしたので話したくなかっただけだった。

「うわぁ、そんなバッドエンドもあるのですねー」

「同胞虐殺もしていたしな」

「そ、それはラムが勝手に選択したんじゃないの……」

 それはそれで会話が盛り上がるのだが、ソニアは不満な表情を浮かべてラムリーザの袖をつかんで引っ張る。

「ソニアさんって、ずいぶん思い切ったプレイするのですね」

「あたしそんなプレイしてない! 勝手にそうなった!」

 何だかソニアにいつもの雰囲気が戻ってきたので、ラムリーザはようやく安心できた。

「それはそうとして、たぶん明日には僕とソニアの楽器が届くと思うから、リリスとユコも明日は自分の楽器持参ね」

「わかったわ」

「それよりも、四人でできるゲームとかやってみたいですわね」

 今のユコは音楽よりもゲームの方に興味が向いているようだ。リリスもどちらかと言えばゲーム寄りかもしれない。ラムリーザが音楽の話に軌道修正しても、すぐにゲームの話題になってしまった。

「あのカートでレースするあれかな? ほら、風船ぶら下げて、体当たりして相手の風船を割っていくの」

「いいですわね、みんなでプレイできるように部室にゲーム機置きましょうよ」

「いやちょっと待って、それだとマジで電脳部になっちゃうぞ。というより、学校にゲーム機置いてたら没収されるよね」

 話をしながら、ラムリーザはやっぱりソニアに元気ないと感じていた。いつもの様子が戻ってきた気がしたが、それは一瞬のことであり、その後はあまり口を開かなくなってしまった。

 ソニアの方は、リリスとユコの二人を警戒していて打ち解けることができずに居るだけなのだが……。

 

 結局この日は、楽器の準備ができていないこともあり、夕方の下校時間になるまでずっと雑談をして過ごしたのである。

 雑談と言ってもゲームの話ばかり。ラムリーザは早く楽器が届いてくれと願うしかできなかった。

 これが、軽音楽部とは名ばかりの雑談部の幕開けであった。

 
 
 




 
 
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