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ソニア三段奇行の謎

 

「ラム、膝の裏にキスしていいよ」

 移動教室で化学の授業の後、理科室でラムリーザは、他のクラスメイトが全員出て行くまでソニアに足止めを食らっていた。

 大事な話があると言うので素直に残っていたら、二人きりになったとたんにこの台詞である。

「は?」

 訝しむラムリーザをよそに、ソニアは後ろにクルリと向き、机に手を突いてお尻を突き出してくる。

「え~と……」

 ラムリーザはソニアがなぜ急にそんなこと言ってくるのかさっぱりわからなかった。

「キス……して欲しいのか?」

「えっ? したくならないの?」

「えっ?」

 ラムリーザは何の冗談かと思ってソニアの顔を見るが、首だけ振り向いた彼女は至って真面目な顔をしている。

「……それはいいとして、靴下の上からキスしろと?」

「え、ああ、ちょっと待ってね」

 そう言ってソニアは、右足のサイハイソックスを太ももの半ばからふくらはぎの位置までずり落とす。

「これでいいでしょ?」

「…………」

「ほらほらー」

「……うむ、それじゃあ」

 ラムリーザは、全く訳が分からなかったが、ソニアがやって欲しそうにしているので、かがみこんで膝の裏に口をつけた。

「……これでいいかな?」

「どう? うれしいでしょー?」

「…………?」

「えへへ、またなにか喜びそうなことが出てきたらやってあげるね」

 喜びそうなこと? 僕が? そもそも何で膝の裏? 普通に口じゃダメなのか?

 教室に戻りながら、したり顔で嬉しそうに隣を歩くソニアを見て、ラムリーザは不可思議に思っているのであった。

 ラムリーザはじーっと隣を歩くソニアの顔を見ていたが、その視線に気がついた彼女は、にっこりと笑顔で微笑み返してくるだけだった。

 階段に差し掛かったとき、ソニアはラムリーザの肩にまわされている腕の中から抜け出していった。そして胸を手で押さえ、壁に背を預け横歩きのような感じで階段を下りていく。階段を下りきると、再びラムリーザに擦り寄ってきて、肩に手を回してもらうのだった。

 ラムリーザは、ソニアの階段での謎の行動を見た時に、あることに気がついて話しかける。

「靴下、ずらしたままでいいのか?」

 ソニアの右足の靴下は、先程キスしてもらうためにずらしたまんまだ。

「いいの、せっかくキスしてくれたんだから」

「そ、そうか……」

 ラムリーザは、どうでもいいことなので、そのまま放っておくことにした。

 

 教室に戻り自分の席についたラムリーザは、ふう……とため息をつくが、すぐに思い直して後ろのを振り返って言った。

「なあ、リゲルは膝の裏にキスしたことあるか?」

「は?」

 天文学の雑誌を読んでいたリゲルは、目をあげて怪訝な顔でラムリーザを見ている。

 その目つきは、先程ソニアに「膝の裏にキスしていいよ」と言われたときのラムリーザと酷似していた。

「いや……なんでもない、忘れてくれ」

 ラムリーザは、その反応が普通だよな……と考え、この話は切り上げることにした。

「何の話か分からんが、脚を舐めるってのは、その相手を屈服させるときに使うのではないか?」

「…………」

「ま、お前に脚を舐めさせる奴が居るとしたら、相当な大物ぐらいだな」

「……仮にだ、仮にリゲルに彼女が居るとして、脚を舐めるのを強要して来たらとうする?」

「ふっ、そんな変な奴はポイだな」

「…………」

 ソニアは変な女の子なのだろうか……。

 ラムリーザは、遠くの席に座っているソニアの方を見てみた。斜め後ろから見る形になるので表情まではわからないが、机にひじを突いて手を組んで口元に当ててじっとしている。

 以前ラムリーザは、母にソニアと付き合うことにしたと話した時に、「三年間様子を見ます」と言われた真意がわかったような気がした。

 それはソニアに実は変な性癖があった場合に対処するためなのだろう、と。

 勘弁してくれと心の中で呟く。これまでずっと一緒にいて、こんな変なことはなかったのに、ここにきて突然豹変するのはやめてくれ……。

 そう願うのであった。

 ラムリーザの心中とリンクするように、外の天気もだんだん怪しくなってきていた。

 

 

 

 放課後、ラムリーザはいつものように教室の窓の外の景色を眺めていた。

 空はどんよりと曇っていて、今にも雨が降り出しそうな雰囲気を漂わせている。

 今日は部活に行かずにさっさと帰ったほうがよさそうだな、とラムリーザは考えた。朝は晴れていたので傘を持ってきていないのだ。

「ラムリーザ、今日はもう帰った方がいいぞ」

「そうだな」

 帰宅準備が終わったリゲルは、そう言って席を立ち帰っていった。

「私達も部活やらずに帰るわ。また明日ね、ラムリーザ」

 リリスとユコも連れ立って、今日は早く帰ることにしたようだ。

「また明日」

 と言ってからラムリーザも遅れながら帰宅準備を始めた。下宿先まではそう遠くないので、そんなに慌てる必要も無いだろうと余裕を持って行動しているのだ。

 

「らあむ♪」

 気がつけば、帰り支度を済ませたソニアが目の前に来ていた。何やら嬉しそうな顔をしている。

 何かいいことでもあったのか? とラムリーザは考えたが、ソニアが次に言った事は予想の範囲を超えていた。

「ねえ、繁華街に買い物に行こうよ。ねえ、行こうよ」

「な……」

 この天気だぞ……と思ってラムリーザは言った。

「明日とかじゃダメなのか?」

「うん、今日じゃないとダメなの」

 どうやら急ぎの用事みたいだけど、そんな急ぎの用事ならラムリーザにも前もって話しているはずだ。

「じゃあ一度帰ってから傘を準備してだな……」

「それじゃ間に合わないの!」

 えー、そんなに急ぎの用事って何なんだ。そもそも寄宿舎に傘を取りに戻ってもそんなに時間が変わるわけじゃないのに、とラムリーザは訝しんだが、ソニアは手を取ると強引に引っ張っていった。

 

 繁華街に向かう途中、ラムリーザはソニアにおそるおそる尋ねてみた。

「えーとなー、ソニア。脚を舐めさせて、僕を屈服させたいのかい?」

「え、屈服?」

「今日理科室でやらせたじゃないか」

「違うよー、舐めるじゃなくてキス。犬がじゃれつくみたいな感じでー……」

 途中で考えていることが途切れてしまったのか、言葉が止まる。

 屈服させたいとか考えているわけじゃないみたいだが、ソニアが結局何がやりたかったのか理解できなかったラムリーザであった。

 

 繁華街に着いた頃には、空はますますどんよりとしていて、いつ降りだしてもおかしくない状況になっていた。

「なあ、こんなに急いでいったい何を買いに来たんだ?」

 ラムリーザの問いに、ソニアは「えーとねー」と答えただけで言葉を濁す。見た感じ用事というより何かを待っているような感じに見える。

「早くしないと降ってくるぞ……というか降ってきたよ!」

 ポツリと水滴が額に当たるのを感じた。

「まったく仕方ないな、どこか喫茶店でもいいから雨宿りしよう」

「こっち!」

 近くの手頃な店でも探そうとしたラムリーザの腕をつかんでソニアは走り出した。

 雨粒はだんだんと多くなってくる。

 喫茶店があったが、それを素通りして腕を放さずにどんどん駆け続けるのであった。

 そして、とある場所で「ここに入ろう」とソニアは言ったのだ。

 

「…………」

 眉をひそめて、すぐ傍に立っている連れの様子を見るラムリーザ。

 一方ソニアは上手く行ったと言わんばかりのしたり顔でにこにこしている。

 外では雨が強く降っているが、二人はとりあえず雨宿りはできているようだ。だがしかし……。

「えーとね、ソニアさんや。何でこんな所で雨宿りするのかね?」

「ウキウキしてこない?」

「せんよ……」

「えー」

 二人は電話ボックスの中で雨宿りをしていた。雨が酷くなる前にここに入ろうと、ソニアは提案してきたのだった。

「さっき喫茶店あったのに……」

「ここの方が絶対いいと思うんだけどなー」

「僕はソニアが何故そう思うのかさっぱりわからんわー、わからんわー」

「そう?」

 少し俯き、不満げに眉を寄せて上目遣いにラムリーザを見るソニア。

 いや、この状況で不満気にされても困るのだが……と困惑するラムリーザ。

 既に通りには誰も居なくなっていた。電話ボックスの中で二人は無言で見つめあったままで、打ちつける雨の音だけが周囲に響いていた。

 

 日が暮れるまでに帰れるかな? とラムリーザは空を見上げて小さく呟いた。

 ソニアがおかしい……、今日は奇行だらけだ。

 

 膝にキス、階段の横歩き、そして雨が降りそうなのにわざわざ出掛ける。

  

 この日は結局雨が上がるまで電話ボックスで過ごす羽目になった。そして雨が上がったあとは、特に何もするでもなくそのまま帰宅することになったのだから、ますますわけが分からない。

 そして部屋に帰ると、ソニアはまたギャルゲーに熱中するのだった。

「(お前はいったい何がしたいのだ……)」

 ラムリーザの心の呟きは、ソニアに届くことは無かった……。

 
 
 
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