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恋愛物語ならこれでハッピーエンドというわけで

 

 この日、ラムリーザはソニアを連れて敷地内の庭園を歩いていた。

 本当は出かけようかと思ったけど、ソニアが落ち込んでいる感じがしていたので、あまり出歩くのも気が乗らないと考え直し、庭の散歩にしておくことにした。

 そしてラムリーザは、少し前を歩くソニアを見つめていた。

 

 ソニアは普段からトップスは大き目のゆったりとしたのを着ていて、ボトムスは際どい丈のミニスカートのスタイルが多い。

 今日も、上に着ている物は、明らかにサイズが合っていないだろうと思われる、白いふわふわニットだ。胸の位置から腹の辺りにかけて膨らんでいて、ぱっと見太っているように見える。

 それでいて下半身は、プリーツの入ったミニスカートで、足先も素足にサンダルという感じだ。

 日頃から「脚線美に自信があるから」と豪語していて、脚を思いっきり出すスタイルに拘っているそうだ。

 髪は青緑色で昔は短く切り揃えていたが、中学に入ってから伸ばし始め、今では癖毛のないストレートで、背中の半ば辺りまで伸ばしている。

 モコモコした上半身と対照的に、スマートな下半身がアンバランスだ。

 しかし、ラムリーザはそんなソニアをいつも可愛いなと思っていた。

 ふと、ソニアが足を止め振り返る。

「ラム……」

「ん?」

「ラムはいつ帝都を離れるの?」

「そうだなぁ……、入学前にパーティを開くことになってるので、それまでには向こうで落ち着いてないとね。だからここに居るのはあと一週間ぐらいかな」

 ラムリーザの言うパーティは、顔合わせのようなものだった。ラムリーザがこの春から通う学校には、地元の有力者の子息も通うことになる。それで、パーティを事前に開いて顔合わせをしておこうというわけだ。「まぁ、今後ともよろしく」というのが最初に開かれるパーティの目的と言った所か。

 こういったパーティは今後も何度か開催されることになっていて、それが先日母のソフィアが言っていた縁談、伴侶探しの場となっていくのだ。

「ねぇ、あたしたちこれで最後かな?」

「いや、時々は戻ってくるよ」

「そうじゃなくて……」

「ん?」

 ソニアはそうじゃないとでも言いたそうな表情を見せて、何かを言いかける。

「ラム、あたしは……」

 そこまで言ってソニアは言葉に詰まったようだ。

 ラムリーザは、ソニアの次の言葉を静かに待った。今日はいろいろと確かめるために、二人で出かけたというのもあるのだ。聞けることは全て聞いておこう。

「ラムはどうしたいの?」

「ん~……」

 ラムリーザもソニアのことを考えていた。ソニアが離れたくないと思っていることはなんとなくわかる気がしている。それは、離れ離れになる日が近づくにつれて元気がなくなっている様を見ればわかることだ。

 どうしたいかと言われたら……。

「連れて行く……か」

「えっ?」

「いや、やっぱりソニアの脚は綺麗だな、とかね」

 おもわず本音をつぶやいてしまったため、とりあえず適当に話題を逸らした。

 いまはまだ本音を語る時期ではない。

「うむ……もったいないな。脚は綺麗なのになんでいつも上着はそんなダブダブにしているんだろうってね。ブラウスとか着たらもっと可愛いと思うのに」

「そ、それは……」

 ソニアは顔を赤らめてそむける。まあ、上半身太りをごまかしているんだろう、とラムリーザは思いながら言ったのだ。

「まあよい、ちょっと考え事する」

「え?」

「後で確かめる……その時は素直な気持ちで受け止めて欲しい……かな」

 ラムリーザは最後に小さくつぶやき、それ以上何も言わずに草むらの中に寝転がりそのまま目を閉じる。

 こうなるとしばらく動かなくなるということを知っているソニアは、黙って傍に座り込み起き上がるのを待ち続けた。

 

 ラムリーザはソニアのことについて、見た目も性格も好きだった。そういう意味で、できることならこれからも一緒に居たいと思う。

 立場というものがあるのだ。将来、ラムリーザには領主としての生き方があり、使用人の娘であるソニアにも、身分相応の生き方がある。

 だから、意味も無く連れて行くことはできないだろうなと考える。幼馴染だから、友達だから一緒に居たい、これでは理由として弱い。やはりそれなりの理由が必要だろう。

 そこでラムリーザはじっくりと考える。

 幼馴染でも友達でもダメ。一線を越える必要があるのでは……と。

 昨日の夜に母と話した内容では、今後伴侶を決めるための社交の場に出ると聞いていた。

 伴侶……もし、その相手をソニアにするのならば? だがソニアにその気はあるのか?

 そのためには、まずはソニアと恋人同士になることか……? ひょっとしたらそれだけでは足りないかもしれないが……。

 

 ラムリーザは目を開けて、ちらりと傍に居るソニアを見る。彼女は寂しそうな目で遠くを見ている。何を思っているのか……。

 いかんな、とラムリーザは自分を奮い立たせる。

 このままではいつも考えている自分のポリシーに反する。

 近いうちに話を持ちかけてみよう。そして、その結果に全てを委ねてみようと考えた。

 その行為というものは、一般的に言えば「告白」という行為なのであったが……。

「よし、決めた。もう帰るぞ」

 ラムリーザはそう言って立ち上がり、屋敷に帰ることにした。

「え、決めた?」

「うん。今夜、いつでもいいから僕の部屋に来て。その時大事な話をするから」

「ん、わかった」

 二人は散歩――というよりほとんど寝転がって過ごしたが――を終えて、屋敷に帰った。

 

 

 

「こんな夜遅くに呼ぶなんてめずらしいね、一緒に寝たいの?」

「こほん……」

 夜も更けた頃、ラムリーザが自室で何もすることなくぼんやりと過ごしているところにソニアがやってきた。

 二人が夜遅く会うのは、別に初めてのことではない。これまでも何度も夜更かしをして遊んでいては、ラムリーザの母や、ソニアの父である屋敷の執事に怒られてきた。

 今夜は部屋に入って早々、ソニアは茶化して言った。これもよくあることだ。何時ものノリに、ラリムーザは軽く咳き込む。だが、この軽い感じが好きだった。

「ふう、これまで楽しかったな」

 二人の思い出は、たくさんありすぎて簡単に書き出せるようなものではない。物心がついたときからの関係は、二人の歴史と言っても過言ではない。

「だけど、このままだと僕達はいつまでも一緒にはいられないんだ、わかるね?」

「……うん」

 ソニアには分かっていた。名家の子息であるラムリーザと、その使用人の娘である自分。いつまでも一緒に笑いあいながら遊んでいられる関係ではないということを。

 それに、この春からラムリーザが遠くに行ってしまうことも知っていた。

 でも、それは仕方ないことである。

 

「ソニア、今日は大事な話があるんだ」

 ソニアはラムリーザの目が真剣なのに気がついた。普段見慣れた、頼りなさげなのんびりした目ではない。だが、口調はいつも通り優しいものだった。

「ソニアって、結婚とか考えたことある?」

「えっ? な、何?」

 ラムリーザは、じっとソニアの表情を伺う。そこに浮かんでいるのは、驚きというか狼狽というか。

「こっちにきて、ここにかけて」

 ラムリーザは、ソニアに自分が座っているベッドの隣に座るよう促した。そして、ソニアはその言葉に素直に従う。

「ソニアは、好きな人とか居る?」

「う、うん……居るよ」

 ラムリーザの問いに、ソニアは小さな声で答えた。

「それで、その人と結婚とか考えたことある?」

 そこで、再び先程の問いをぶつけてみる。

 するとソニアは、目を見開き、顔を赤らめて小さく頷いた。

「そうか、それならいいんだ」

「え……?」

 ラムリーザは、ソニアから目を離して語り始めた。

「僕はもうすぐ帝都を離れる。そうなったらソニアとは離れ離れ、たぶんもう会うことはほとんど無くなるだろうね。だけどね、僕はソニアの事が好きなんだ。だからこれからもずっと一緒に居たい。でも、ソニアに好きな人が居るなら、その人と付き合えばいいし、僕もそれがいいと思う」

 そこまで語って、ラムリーザは再びソニアの顔を見て、言葉を続けた。

「僕は今日までの楽しかった日々を終わらせたくないんだ。ソニアと一緒に次の世界を作って行きたい」

「次の世界?」

 言ってからラムリーザは、次の世界って何だ? と、自分は何を言っているのかよくわからなくなってしまった。もちろんソニアにもよく伝わらなかったようだ。

「えーとねー、なんだろうねー」

「……」

「僕はソニアを選ぼうと考えてるんだ、ついてきてくれるかな?」

「ラム……」

 そこでソニアは気がついた。今夜、何のためにここに呼ばれたのかを。

「告白ってムードじゃないね」

 ソニアはクスッと笑って言った。それもそうだろう、ここは見慣れたラムリーザの自室である。

 でもそれでもいいと思った。二人の間には、もうムードとか必要ないのだ。それに、ここで拒否でもしたら、二人の関係は終わってしまうのだというのも分かった。

 そう思いつつも、いつも通り強気な態度に出てしまう。

「好きだし、て言いたいのでしょ?」

「大好きだし。というか、さっきも言ったよ」

「大がついてる……」

「だめかな?」

「ううん、あたしも大の分だけ大好き! さっき居るって言った好きな人って、ラムのことだったの、ずっと好きだったよ!」

 そう言って、ソニアはラムリーザに飛びついて行き、そのまま二人はベッドの上に倒れこんだ。

 ベッドに入ってきたソニアをラムリーザは抱きしめてみる。その時に、ちょっとした違和感を感じた。

 太っているとと思っていた上半身だが、ぶかぶかのふわふわニット越しに伝わってくるソニアの身体は、胸の位置はちゃんとした肉体を感じるのだが、腹の部分は生地がだぶついているだけで中身はスカスカなのだった。

「ソニアも連れて行けるよう、明日母さんに話してみるかな」

「うん、いつまでもずっとついて行くよ」

 ボーン、ボーン……。

 部屋の柱時計が夜の11時を告げる中で、二人はどちらからともなく、唇を重ねた。

 

 友達から恋人に一歩進みだしだという、二人の新しい時が刻み始めた瞬間である。

 
 

 
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