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席替え ~座席争奪戦~

 

 一日の授業が全て終わった後に毎日行われているホームルームの時間。

 普段は連絡事項等の、担任の先生からの話があるだけなのだ。

 だが、入学してから約一ヶ月が過ぎた今日、ちょっとしたイベントがクラスで行われた。

 

 ――席替え

 

「それでは、それぞれ喧嘩しないように、お互い話し合って自由に決めてよし」

 先生の合図で、教室内はザワザワと、そしてバタバタとみんなそれぞれ思うままに移動を始めた。

 

 さて、ラムリーザとリゲルの二人。

「俺達は別にこのままでいいな」

「ああ、外の景色は見渡せるし、移動は無しでいいや」

 この二人は、動き回っている他の生徒を、自分の席から動かずに観察して――ない。

 リゲルは既に、「我関せず」とばかりに、天文学の雑誌を広げて、席替えが終わるまで読書をすることにしたようだ。

 ラムリーザも、窓の外を眺めるまったりモードに移行していた。

 ラムリーザとリゲルの隣に居るリリスとユコも、「とくに移動する必要ないね」と話し合っている。

 この四人にとって、席替えというイベントはとくに大事な物ではなく、そのまま何事も無く終わろうと……していなかった。

 

「自由に決めてよし」

 先生のこの合図で、まったりとしている四人組に飛び掛ってくる者が居たのだ。

 ソニアだ。

 ソニアは、大きな胸を激しく揺らしながら猛烈な勢いで駆けて来て、ユコ――ラムリーザの隣の席――の傍に立ちはだかった。

座席争奪戦 ソニアvsユコ

「あら、これはこれはソニアさん、ご機嫌麗しゅう。あなたはどこの席に行くのかしらねぇ?」

 ユコは、ある程度この流れは読めていた感じで、意地悪気に芝居がかった台詞を言う。

「そこどいて! あたしがそこに座るの!」

 ソニアは、ユコが座っている席の机をこぶしで叩きながら大声を張り上げた。

 ラムリーザも、ソニアが自分の隣の席を強く要望してくる展開は予測していた。しかし、いつ聞いてもソニアの大声は甲高くてやかましい。

「ゆずって!」

 鼻息荒く、ソニアはユコに詰め寄る。

 対するユコも胸を張り、右肩に左手のこぶしを当てて何やらわからない敬礼ポーズを取って力強く言った。

「ラムリーザ様の隣は私の聖域、何人たりとも侵すことは許されませんわ!」

「なんやそれ……」

 ラムリーザはボソッとつぶやく。『ラムリーザ様』とか、『聖域』とか、いろいろと突っ込みたい気分になったが、あえてここは静観してみることにする。

「なによそれ……」

 同じようにソニアもつぶやく。しかし、すぐに次の行動に出てきた。

「ラム!」

 ぐるりと回ってラムリーザの隣に来て、服をつかんで引っ張りながら言った。

「ラムが来て! 空いてる所に行こうよ!」

「あー、僕は外の景色がよく見えるここでいいや。リゲルも近いし」

「あたしと外の景色、どっちが大事なの?!」

 泣きそうな顔になってソニアは訴える。

 同時に後ろからチッと舌打ちが聞こえた。うるさい女だ、と言わんばかりにリゲルは明らかに嫌そうな顔でソニアに冷たい視線を投げかけるが、ソニア自身はラムリーザに夢中で気がついていない。

 ラムリーザは、自分がユコに代わってくれと頼めばそれで済むことだろうと思ったが、懇願してまでソニアと隣同士の席になろうとは考えなかった。別のクラスになってしまうならともかく、同じクラスなのだ。席ぐらいどうでもいい。

 そもそも、同棲しているのだ……。

「ね、ほらそのね、僕はこの場所以外に行くと蕁麻疹が出て困る、とかなんとかかんとか、ね」

「なによそれ……あーもう! ユコ!」

 のらりくらりとかわすラムリーザにソニアは何も言えなくなり、再び机を回り込んでユコの横に行く。

「やっぱりユコが移動するべき! あたしがそこの席になるべき!」

「いやですわ」

「代わって!」

「いや」

「代わってよ! お願いだからぁ……」

 ソニアの態度が、高圧的な態度から懇願するような感じに変わってきた。そこまでラムリーザの隣に行きたいのね、必死だな。

「そうねぇ、条件次第では検討してあげますわ」

 実際の所、ユコはそれほどラムリーザの隣の席であることにこだわりはなかった。ただ、必死なソニアを見ているのが面白いので、からかっているだけなのだ。

「条件言ってよ!」

「そうねぇ、今日これから喫茶店に行って、ジャンボパフェを奢ってもらおうかしら。ずっと食べたいって思っていたけど、あれ高いのよねぇ」

 ユコは、この機会を利用して『聖域』と『スイーツ』のトレードを申し込んできた。

「うー……わかったわよ」

「まいどありがとうございます」

 そう言って、ユコは席をソニアに明け渡し、そのまま空席となっていたラムリーザの前の席に移動してきた。というわけで、ソニアはパフェを奢るということを条件に、『聖域』を譲ってもらうことができたのだった。

「あまり騒がない方がいいよ、ほら、みんな注目している」

 いつの間にか、ロザリーンがソニアの前の席に座っていて言ってくる。ソニアの甲高い叫び声は教室中に響いており、何人かの生徒はソニアに冷たい視線を投げかけている。

「あー、ロザリーン。私と席代わりましょう」

 リリスはそう言ってロザリーンと席を代わってもらうことにした。ユコがラムリーザの前に移動したので、その隣に行くことにしたのだ。

 こうして軽音楽部六人衆の席順は、ラムリーザの前にユコ、その隣にリリス。ラムリーザの隣はソニアで、後ろにリゲル。リゲルの隣はロザリーンという形で決着がついたのだった。

 

「さあソニア、行きましょう」

「うーん……」

「何ですの?! あなたは約束を守れない人なのですか?」

「わかったよぉ」

 約束した以上付き合わなければならないので、ソニアはユコに連れられて、喫茶店に向かうために教室を出て行き、それにリリスもついて行く。

 三人が帰って行くのを見て、リゲルとロザリーンは連れ立って天文部に行ってしまった。

 ラムリーザは一人、軽音楽部の部室に行ってみたが、他には誰も来ていなかった……。

 他に誰も居ないのならば、部室で練習するのも家で練習するのも同じことだ。

 だからラムリーザは、ソニアも居ないことだし、今日の所はさっさと帰宅することに決めたのであった。

 
 
 
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