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紳士淑女に似非お嬢様 その二

 

 今日は、オーバールックホテルで二度目のパーティが行われていた。前回の好評を得て、月一回第一土曜日に毎回集まろうという話になったのだ。親睦を深めたり、将来の展望を語り合う場にすることにしていた。

 

 ラムリーザとソニアは、一旦帝都シャングリラの実家に帰り、そこでパーティに出る準備をしてから出かけた。二人とも衣装は実家に置いてきているからだ。

「ソニア、二度目だしもう無駄に緊張することはなくなったかな?」

「多分、あー、またおいしいご馳走が食べたいなぁ」

「幸せなやつだなぁ」

 ラムリーザは、わくわくしているような嬉しそうな表情を見せるソニアの頭を撫でながら言った。会場に向かう車の中で二人は他愛無い会話をしているのだ。すると、前の席に居たソフィアに話しかけられた。ソフィア・マリーチ・フォレスター、ラムリーザの母親である。

「あなたたち、学校は慣れました? 二人だけで生活うまくいっているかしら」

「うん、大丈夫だよー」

「ソニアが無用の不安で暴走して怪しい時期もあったけど、概ね良好かな」

「もー、その話はもうやめてよー」

 不満と恥ずかしさの混じった顔でラムリーザを小突くソニアだった。

 もっともソフィアは、親戚の屋敷という同じ所で生活しているということしか知らず、同棲しているとは考えていない。普通に二部屋間借りしていると思っているのだ。

 

 そんなこんなをやっているうちに、オーバールックホテルに到着した。

 ラムリーザは前回と同じようにソニアの手を引いて歩き出したが、なんとなく違和感を感じた。

「ソニア、身長伸びた?」

 目線の高さが、なんとなくラムリーザに近づいているのだ。

「ああこれ、前にリリス達と買い物に行った時に靴も買ったのよ。パーティだからハイヒール履いてみたの」

「ほう」

 ラムリーザはソニアの足元を見たが、ドレスの裾に隠れてどんな靴なのか見えない。

「見る?」

 そう言ってソニアはドレスのスカートに手をかけたので、ラムリーザは慌てて止める。

「やめとけ、こんなところでスカート捲くったりしていたら、他の令嬢に白い目で見られるぞ」

 全く、庶民感溢れるソニアはこういう場に出るにはデリカシーが足りない。そういう所が、似非お嬢様である所以でもあるのだ。それでも、ラムリーザは、ソニアのそういう所も嫌いではなかった。

「しかし、そんな靴履いてたら転ぶぞ」

「平気だよー、このくらい」

 と言ってる傍から、ソニアは段差に脚を取られて転びそうになるが、ラムリーザが手を引いていたので、すんでの所で転ばずに済んだ。

「ほら見たことか……」

「靴のせいじゃないもん!」

「じゃあ何だよ」

 ソニアは、ラムリーザの問いには答えずに、ただ俯いて自分の大きな胸をぎゅっと押さえるだけだった。

 

 

 会場には前回と同じく中央のテーブルに料理を並べている。

 そしてソニアは、早速食事に向かおうとしていた。

 その時、「よう」と声をかけられて、ラムリーザが振り返った先にはリゲルが居た。

「ラムリーザさんもリゲルさんも今晩は」

 そしてそこにロザリーンも現れた。

「何だか教室と変わらないな」

 よく知った仲間が集まったので、ラムリーザは気楽な気分になる。

 それでも、新開地の領主予定になる者、鉄道事業家の息子、首長の娘が一堂に会しているのだ。

「リリスとユコは見た目はいいけど庶民だからな――」

 リゲルは選民意識を含んだ物言いでつぶやき、訝しげな表情でソニアを見て言葉を続けた。

「――で、ソニアは何だ?」

「…………」

 ラムリーザが黙っていたら、ソニアはずいと身を乗り出してリゲルに言い放つ。

「あたしはソニア・ルミナス! 皇帝の娘!」

 どや顔のソニアに、一瞬場が凍る。

「真面目に答えろ」

 そしてさらに凍て付くような目で睨みつけてリゲルは凄む。

 その威圧感に押されて、ソニアは「あうぅ」と呻いてラムリーザの後ろに隠れる。

 取り繕っても仕方ないので、ラムリーザは二人の関係をリゲルに話すことにした。

「ソニアはうちの使用人の娘。父親が執事で、母親がメイドなんだ」

「ふむ、使用人の娘か……」

「この機会に言っておくけど、僕とソニアは結婚前提で付き合っているから。まあ、リリスとユコは知っているけど」

 ラムリーザの打ち明け話に、リゲルとロザリーンは驚くというよりは、納得したような表情だった。

「いつも一緒にいるから付き合っているとは思っていたけどね」

「なるほどな。使用人の娘がパーティに参加することは普通ありえないが、そうか、ラムリーザの伴侶という立場で来ているんだな」

「まあそういうこと」

 そう言ってラムリーザはソニアを振り返った。

 だが、すでにソニアはその場に居なくて、料理の並んだテーブルの方に行ってしまっていた。そして、既に骨付き肉に手を伸ばしている所だった。似非お嬢様は食欲旺盛である。

 ああいう所も可愛いだろ、とラムリーザは声に出さずに二人に問いかけてみる。二人に伝わったかどうかは微妙ではあるが……。

「ということは、ソニアさんとはずっと一緒だったのですね」

 ロザリーンはラムリーザとソニアが幼馴染であるということを察したようだった。

「そうだよ。ただ、こっちの『帝立ソリチュード学院』には僕一人が来ることになってたんだよね。だけど、これまでのギリギリで友達以上恋人未満だった関係を、恋人まで持ち上げたんだ。それで連れてくることにしたわけ」

「そうなのですか……」

「告白したときに、意地張られて逃げられたら、そこで関係はおしまいだったけどなぁ……」

 こうして一通り話したことによって、ラムリーザとソニアの関係は、身近な人々に対しては公認の事実となっていったのである。

 

 その時ラムリーザは、母のソフィアに呼ばれた。どうやら誰かを紹介するみたいだ。

 ラムリーザはリゲル達に「ちょっと行ってくる」と言って、母の元へと向かっていった。

 向かった先で紹介されたのは、この地方の領主であった。その領主には娘が居て、ちょうどラムリーザと同じ年代だったのである。

 その娘は、気が強そうで目つきが鋭かった。曲がったことが嫌いで厳しい感じがする。

 そして、力強くはっきりとした口調でラムリーザに挨拶してきた。

「ケルム・ヒーリンキャッツ。お見知り置きを、ラムリーザ」

「ラムリーザ・フォレスター、よろしく。あれ?」

 ラムリーザは違和感を感じた。自分が名乗る前に、ケルムと名乗った娘に名前を呼ばれたような気がしたのだ。

 それぞれの親同士が話をしている間、ケルムは何も言わずにじっとラムリーザの顔を見ていた。その目つきには、威圧感すらある。

「ラムリーザ、あなたは領主となる身です。付き合う相手はきちんと選んだ方がよいですよ」

「うん、わかっているつもりだよ」

 ラムリーザは、この娘とは親しくできないな、と思った。似非お嬢様だが天真爛漫なソニアと比べて、一緒に居て苦痛すら感じていた。ただ、有力者の娘なので、表面上の付き合いだけはやっていこうと考えていたのだった。

「今後ともよろしくです、それじゃあまた」

 ラムリーザは、早々と話を切り上げてソニア達の元に戻ろうと考えた。

 だが、ソニアは食事に夢中で、リゲルとロザリーンはソニアから少し離れた場所に移動してしまっている。

 ラムリーザは少し考えて、食事に夢中なソニアはそのまま置いておくことにして、リゲル達の方へと向かっていったのであった。

 

「誰だった?」

 リゲルに尋ねられ、ラムリーザは「この地方の領主の娘だった」と答えた。

 それに対してリゲルは、「ああ、あいつか」とだけ答えた。知っているようだが、あまり興味は無いようだ。

 ラムリーザもさして興味はなかったので、彼女に対する話はこれ以上発展しなかった。

「それで、アレはいいのか?」

 リゲルは顎をしゃくってソニアを指し示して言った。

「まあいいんじゃない、美味しそうに食べているんだし。食欲を満たしたらこっちに来ると思うよ」

 そんな感じに、淡々と時が過ぎていくのであった。

 

 

 丁度その頃、肉を頬張り料理を堪能していたソニアの傍に、厳しい目つきの娘がやってきた。

「遠慮なく頬張って、はしたないわね」

 その娘の姿と言葉を聞いて、ソニアは咳き込んだ。

「ゲホッ、ゴホッ。ふ、風紀監査委員、何でここに?!」

「そんなことはどうでもいいでしょう。折角服装はきちんとしているのに、何故食事の態度がそんなに残念なのですか……。前にも言いましたよね、ラムリーザに恥をかかせるなと」

 それだけ言い放つと、娘は立ち去って行った。

 ソニアは、その後姿に、「ちっぱい!」と言葉を投げつけるのであった。

 

 似非お嬢様は分かりやすい。

 
 
 
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