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エルドラード帝国建国祭 ~旧友の誘い~

 

 帝都シャングリラにて、建国祭は賑わっていて、人も大勢いた。

 この日のために、地方からやってきている人も多いのだ。

 ラムリーザも、去年まで帝都に住んでいた時は、毎年のように来ていたし、今年も帝都を離れたが、こうしてやってきたのだ。

「人が多くて迷子になるかもしれないから、あまり離れるなよ」

 去年まで、ソニアと妹のソフィリータを連れてきたときは、両手でそれぞれ手を繋いで見回ったものだった。

 だが、今日は少しばかり事情が違う。ソニアは同じだが、残る二人の連れは妹ではないのだ。

「じゃああたしは去年までのように手を繋ぐ」

 そう言って、ソニアはラムリーザの右腕に組み付いてくる。

「これは手を繋ぐと言わない、腕を組むと言うのだ」

「いいじゃないのよー」

 真顔でのラムリーザの突っ込みに、ソニアは甘えるような声で反論する。

「それでは私は左手を頂きますわ」

 そう言って、ユコはラムリーザの左手を握る。ソニアと違って組み付いてこないところは遠慮か?

「ちょっとー、気安くラムと手を繋がないでよー」

 ソニアが剥れて文句を言うので、ユコも言い返す。

「ソニアは私が迷子になってもいいっていうのね、冷たい人ですわ。くすん、くすん」

 わざとらしく嘘泣きを見せ付ける始末だ。

「もー、今日だけだからね」

 ソニアは納得いかないようだが、今日だけは仕方ないので受け入れることにした。もっとも、ユコがラムリーザと腕を組んできたら蹴っ飛ばすつもりで居たが……。

「それじゃあ私は……」

 ラムリーザの左右が埋まってしまったので、リリスは少し考え、「前に立たせてもらうわ」と言ってラムリーザの前に立った。

 そして、後ろで手を組んで、ラムリーザの服をつかんだ。

「……動きにくい」

 ラムリーザはつぶやきながら考える。これって、何てハーレム状態? と。

 スタイル抜群で、妖艶な雰囲気のリリス。まるで人形のようで神秘的な雰囲気のユコ。可愛くておっぱいの大きなソニア。

 三人の美少女をはべらせたラムリーザは、かなり目立った存在になっていた。

 

「何、あのレベルの高い娘をはべらせている男」

「あれって、同伴ってやつだろ?」

 

 などと噂されているようなヒソヒソ声が聞こえる。

 ラムリーザは周りの目だけでなく、動きにくさにも難儀していた。

 あまり足を出すと、前に引っ付いているリリスを蹴ってしまうし、両手は塞がっている。

 

「あれ? あの人、フォレスター家のラムリーザじゃね?」

「ああ、愛人か。身分の高い人はいいなー」

「兄のラムリアースはもっとすごかったもんな」

 

 噂している人の中には、ラムリーザを知っている者も居るようだ。ここはラムリーザが長く住んでいた帝都だし、十分ありうる話だ。

 まあこの世界、偉い人の中には、何人もの女を引き連れるエロい人が居るのも珍しいことではない。

 ラムリーザも例に漏れずか、とか思われているのかもしれないのであった。

 

 

 昼も過ぎたので、四人はお腹がすいてきた。

「どっかレストランでも行くか? それとも屋台で何か買う?」

 その一言を聞いて、リリスとユコの脳裏にピコーンと何かか走った。

「チャンス、高級レストラン……」

「ん? 何?」

「ホテル最上階のレストラン、わお……」

「何言ってんだ、二人とも?」

 リリスとユコは、妙に気分を高揚させている。そんなにお腹が減っていたのだろうか。

「ねえねえ、あたし『いかめし』食べたい、屋台に行こうよ!」

「ちょ、折角の機会なのにそれもったいないですわ!」

「お祭りと言ったらいかめしでしょ? もったいないって何よ!」

「折角ラムリーザさんが誘ってくれているのに!」

「だからいかめしって言ってるじゃない!」

「いかめしなんて、いつでも食べられるでしょ?!」

「左右で僕を挟んで喧嘩するな、いかめしいかめしやかましいなぁ……」

 そもそもこのシチュエーションで、どこに口喧嘩が発生する要素があるのだ……と、ラムリーザは悩む。昼御飯の提案をしただけなのに、何故荒れるのだ……。

 その時、後ろから声を掛けられる。

「あれ? ひょっとしてラムリーザ?」

 ラムリーザが「ん?」と振り返ると、そこには懐かしい顔があった。

「おや、ジャンじゃないか。久しぶりだなぁ」

「ラムリーザもしばらく見ないうちに三人も美女はべらせて……って、一人はソニアか。ソニアも久しぶりだな」

「ジャン、久しぶり」

 ソニアはすぐに挨拶したが、初顔のリリスとユコがぽかーんとしているので、ラムリーザは二人に彼を紹介した。

「えーと、彼はジャン。中学時代にバンド組んでいた仲間なんだ。そしてジャン、こっちの黒髪の方がリリスでも金髪の方がユコだ」

「よろしく、ジャン」

 と二人は挨拶する。

「リリスにユコか、こっちこそよろしく。しかしやるねぇラムリーザも、こんな上玉揃えてさ」

「こほん、友達だよ。もっと言えば、クラスメイトに部活メイト」

「あたしは恋人!」

 ソニアは、二人との差を強調する。

「怪奇、鯉人間の恐怖」

 リリスがボソッと呟き、ソニアは「何か言った?!」と凄んだ。

「まあいい、せっかく会ったんだ。あ、そうだ丁度いい。ちょっと込み入った話がしたいので、えーと、昼飯がまだならそこのレストランにでもいいかな?」

「ああ、別にいいよ」

 ジャンが話があると言うので、ラムリーザは三人を連れてレストランに入っていった。

 三人の娘達は少しだけ不満そうな顔をする。いかめしを食べ損なったのと、期待していた高級レストランの夢が潰えてしまって……。

 

 四人掛けの席に、三人の女の子達を座らせ、ラムリーザはジャンは二人掛けの席に座る。

 そして、適当に駄弁りながら適当に注文して昼食を済ませ、食事が済んだ後はどうするのかという話になった。

「ん~、三人でお祭り回ってきたらいいかな、僕はジャンと少し話があるから」

「えー……」

 ユコが不満そうな声を出す一方で、リリスとソニアは黙っている。

「折角ラムリーザさんが気に入ってるような服着てきたのに……」

「ん? 何?」

「あ、わりい、デートの邪魔だった?」

「三人も女の子連れまわすデートがあるか」

 ジャンがすまなそうに言ってきたが、ラムリーザは別にいいよって感じで答える。

 昼食前みたいに三人をはべらせて歩くのは、流石に周囲の視線が痛かったのだ。

 それに、ネットゲームから解放して外に連れ出すという目的は既に果たされたので、別に自分が一緒に居る必要は無いと考えたのだ。

 それと、デートにならないのなら、久しぶりに会った友人と話をするのも悪くないと思う。

「いいよ、じゃああたしが案内してあげるね」

 ソニアはあっさりとラムリーザの意見に従ってくれた。

「わりいな、ソニア。ラムリーザ借りてしまって」

「いいのいいの、リリスとユコが居たらデートにならないし――っとなんでもないなんでもない」

 デートにならないとソニアは漏らしたが、リリスとユコもそれには同意と言った感じで席を立つ。

 ラムリーザはソニアに、「これで全員分払って来て、残りは三人で仲良く祭りで使ったらいい」と言って金貨を一枚渡した。

 そして、最後にレストランから出ようとしていたリリスを、ラムリーザは引き止めて思い出したかのように言った。

「あー、リリス。何かめんどうな事に巻き込まれそうになったら、『私達はラムリーザ・フォレスターの縁のある者です』と言ってみるといいよ」

「めんどうな事?」

「ナンパされたりするのがめんどくさくなるのならって事だ」

「ああ、そうね」

 リリスはいろいろと察したようで、軽く微笑んで頷いてレストランを出て行った。

 

「さて、話ってなんだ?」

 女の子三人がレストランから出て行った所で、改めてジャンに伺ってみる。

「うん、あの三人の中で本命は誰だ? ソニア以外の二人も、すごい美人じゃないか」

「な、話って恋バナ?」

「とまあ、それはどうでもいいか。君はまだバンドやっているのかい?」

 ジャンの問いに、いろいろと最近微妙だが、とりあえず「うん」と答えておく。その彼の言う美人達が、まさか昨日までネットゲームに「どハマり」で廃人まっしぐらだったとは、想像していないだろうと思いながら。

 やってないと言えばやってない、明日からやると言うことにすれば、やっているのだ。

「よかった。実はうちのクラブで演奏していたグループが一つプロデビューしちまって、どうしても時間的に一グループバンドが足りなくなったんだ。自分は今年から経営に回っていろいろ学ぶ予定だったけど、最悪自分もやる。というわけで、またドラム叩いて欲しいんだ。可能ならソニアもベースやっていいから。あとお前の妹な」

 ジャン・エプスタインは、去年までラムリーザと親友関係にあり、帝都シャングリラで有名なクラブ『シャングリラ・ナイト・フィーバー』の経営者の息子である。

 どうやら今年からは、いずれ後を継ぐということで経営の方も経験しておこうという話だが、バンドの数が足りなくなってしまったということのようだ。

 そこで、ラムリーザに出演を依頼してきたのだ。

「出演料も出るし、悪い話じゃないぞ……って、ラムリーザは金に困ってないか。でも音楽できるぞ」

 ラムリーザは少し考え、これはいい機会だと思った。この話は、ひょっとしたらリリス達のやる気を刺激するかもしれない。

「バンドグループがあれば、ジャンは経営の方を経験することができるんだな?」

「うん、そうだけど」

「よし、一日待ってくれ。明日返事するよ」

 これで、今現在の悪い流れである雑談部を無くすことができるかもしれないと考え、返事を待ってもらうことにしたのだ。

 リゲルやロザリーンも居るところで話をして、みんながやる気を持ってくれるか確認してから決めたかったのだ。

「わかった、それじゃあ連絡先を聞いておきたいのだが。もう帝都には住んでいないのだろ?」

 そう言われたので、ラムリーザは下宿先の屋敷の電話番号をジャンに伝えておいた。

 

 

 一方ソニア達三人は、祭りを十分に堪能していた。

「いかめし、いかめし」

「さっきレストランで食べたばっかりなのに、よく食べるねぇ」

 幸せそうにいかめしをほおばるソニアを見て、くすっと笑ってリリスがからかう。

「そんなに食べるから、胸がそんなに大きくなるのですわ」

「ええっ、そうだったの?!」

 普段から大きな胸に困っていたソニアは、ユコの冗談を真に受けて固まる。

「この調子じゃ、来年にはバスト一メートル超え確定ね」

「……!」

 さらにリリスの冗談を受けて、いかめしを二人に渡そうとするが、二人は「おなかいっぱい」と言って受け取ってくれないのであった。

 時々、軽い感じの男性にナンパされかけたりするが、

「私達はラムリーザ・フォレスターの縁のある者だけど」

 リリスが落ち着いた声で、ラムリーザに言われたことを復唱してみると、あっさりと諦めて引き下がって行くのだった。

 三人はいろいろ見て回り、そろそろ夕暮れになったので引き上げようかなと思い、ラムリーザを探して回ることにした。

「んー、ソニア、ラムリーザの携帯に連絡入れられないの?」

「携帯?」

「キュリオよ、先週買ったでしょ?」

「あー、電話機能使ってない。というか、今日持ってきてない」

「ゲームにしか使ってなかったのね。迂闊だったわ、連絡先聞いておくべきだったかな」

 そういうリリスだが、彼女自身もこの一週間はゲームにしか使っていなかったのだが……。

 結局、三人がラムリーザを見つけたのは、昼食に入ったレストランだった。

 

 

 ラムリーザは、三人がレストランに戻ってきたのを見て、その時初めてそろそろ夕暮れになっていることに気がついた。

「ずいぶん長く話し込んでしまったなー」

「ラムリーザさん、お祭り見て回らなくてよかったのですか?」

「んー、今まで毎年来ていたからなぁ。お祭りよりもジャンと久しぶりに会った方が大きかったかな」

 今回の目的自体が、三人の状態をリセットすることだったので、祭り自体はどうでもよかったというのもあるのだが。それはもう果たせたということで、今日の収穫は十分だったのだ。

 

 そして、ラムリーザはジャンと別れ、三人を連れて帰路につくのであった。

 
 
 
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