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日々徒然と、ダラダラと、楽しく面白く

 

「暇だからどちらが先にキレるか勝負しよっか」

 唐突にソニアの前の席に居るリリスは振り向き、何かをたくらむような目でソニアを見ながら提案してきた。

 あの日以来、放課後はきちんとバンドの練習をすることになったので、雑談は休み時間の方がメインになっているのだ。

「キレる?」

「先に怒った方が負けってルールで会話しましょ」

 暇つぶしに、よく分からない勝負をソニアに挑んでくるリリス。

 常に冷静なリリスに、感情が表に出やすいソニアが勝てるわけないだろうに、とラムリーザは思う。まああれだろう、いつも通りからかっているんだろう。ソニアはからかい甲斐があるというかなんというか……。

 少し前にも、ヴァージンなんたらとか持ってきて、ソニアをからかったこともあった。

 

「いいわ、やるね」

 あっさりと勝負を受けるソニア。

「ブス」

 ソニアの単純な煽りから開幕された。

 きょとんとするリリスと、ぷっと吹き出すユコ。ラムリーザはソニアの単純さにやれやれと思う。

 リリスに対してブスと言うのがとにかく単純すぎる。リリスがブスなら、世界中の女性の大半は化け物になってしまうだろう。

「サキュバス」

 さらにソニアの追撃……だが、言いたいことがなんとなく分かる程度であまりリリスには効いていない。

 そもそも、外見を例えているだけであって、悪口になっているのかどうかも怪しい。

「黒豹」

「夜の魔女」

「高慢ちき」

 矢継ぎ早に悪口を言ってるつもりなのだろうが、リリスは腕を組み目をつぶりうんうんと頷きながら聞いているだけでちっとも効果は現れない。

「吸血鬼」

 この時、初めてリリスの眉がピクッと動いた。閉じていた目を開いて、ソニアの様子を見ている。明らかに何か動揺しているようだ。

「黒猫」

「黒髪ロング」

「ぎっちょ」

「デブ」

「ハゲ」

 だんだんわけが分からなくなってきた。ソニアは、明らかに適当に言っている。

 そんなソニアの態度に、リリスは再び落ち着きを取り戻して、目を閉じて聞きながす。

「ちっぱい」

 それは比較対象としてソニア自身と比べた場合であって、リリスもそれなりに大きいのだが、ソニアが規格外なだけだ。それに、ソニアは「ちっぱい」という言葉が口癖のようになっているが、ソニアと比較したら、世界中の大半の女性が貧乳になってしまうだろう。

 リリスは「ふっ」と軽く笑い、再び目を開きソニアを見ながらさも自信有りげにはっきりとした口調で言い放った。

「今日、学校終わったらラムリーザとデートするから」

 えっ? とラムリーザが驚くよりも早く――。

「な、何言ってんのよ、ふざけないでよ!」

 ソニアがキレた……。

「はい、ソニアの負け」

 くすくすと笑いながらユコが判定を下すが、ソニアは納得いかないようだ。

「ずるいわよ、ラムを利用するなんて!」

「あら、私何か言ったかしら? 何怒ってるの?」

「もうリリスなんて嫌い!」

 ソニアはぷいとリリスから顔を背けるが、その拍子にラムリーザと目が合ってしまい、恥ずかしそうにうつむく。

「何をやってんだか……」

「あ、そうそうラムリーザ、キュリオはどうしたの?」

「あれはもう封印したから持ってない」

 リリスの問いに、ラムリーザは素っ気無く答える。スマートフォンの様な携帯型の情報端末キュリオは、あまりソニアによろしくないので、極力使わないようにしているのだった。今さっきやりあったばかりのソニアは、ラムリーザがリリスと話をしているのが気に入らないのか、ラムリーザに小さく体当たりを繰り返している。

「折角買ったのだから使わなくちゃ」

 そう言うリリスを、ラムリーザは眉をしかめながら答えた。

「またあのゲーム始めるのか?」

「あー、あのゲームはもうアンインストールしたわ。約束した通り、もうやらない。でもね、メールとか通話に使うぐらいはいいでしょう?」

「ああ、そっちの機能か……」

 キュリオを買って、その日のうちからゲーム三昧が始まってしまったので、ラムリーザはそっちの機能があることをすっかり忘れていた。

「アドレス交換とかやりたいから、明日は持ってきてね」

「ん、わかった――って痛っ、痛いって!」

「どうしたのかしら?」

 リリスは不思議そうに、突然叫びだしたラムリーザの顔を覗き込む。

「ソニアが――って、こら離れなさい!」

 ソニアは座ったまま自分の左足をラムリーザの右足に絡めてきて引っ張ってきた。そしてさらにソニアは右足も使って両足をクロスさせて、ラムリーザの右足をがっちりと掴んで離さない。ラムリーザは股関節は広げられるは、膝関節は極められるわで散々だ。

「何をしているの?」

 リリスは、身を乗り出してラムリーザとソニアの足を覗き込んできた。ラムリーザの右足は、ソニアの左足と絡み合っている。

「ラムが魔女に引き込まれないように繋いでいるの」

「繋ぐとかじゃなくて、痛いって!」

 ラムリーザは、絡み付けてきているソニアの左足の太ももを掴んだ。そしてぎゅっと力を込める。

「痛い!」

 ラムリーザに掴まれて痛がったソニアは、足をこわばらせて絡みつかせている左足に力を込めることになってしまった。

「いやだから痛いって!」

 こうなったらラムリーザも、ソニアの左足を引き剥がそうと、掴んでいた手に力を込めて引っ張る。

「痛いよラム!」

「いや、痛いのはこっちだって! 離れろよ!」

「やだ! リリスなんかとお話しするのが悪――痛い!」

「痛いから離れろって!」

 リリスは、ぽかーんと二人を見ている。傍から見たら、二人の男女がお互いに痛い痛いと言い合っているだけなのだ。

 なんのことやら……。

 

 

 部活中、ユコは演奏はあまりせずに、もっぱら楽譜の手入れをメインにしている。キーボードを叩きながら、ひたすら何か書き込んでいるのだ。

「ユコ、もうできてるのだから楽譜はいいんじゃないか?」

「だめですの。これは聞いた曲をそのまま書き出しただけですから、私達のグループとは編成が違うのが多いんですの」

 この六人のグループである『ラムリーズ』のメンバーは、ラムリーザのドラムス、ソニアのベースギター、ロザリーンがピアノとオカリナ、ユコがキーボード。そしてリリスとリゲルがギターである。

「例えばピアノが入っていない曲、これをそのままやるとロザリーンがやることなくなっちゃいますわ。だから、ピアノのパートを新しく追加するのです」

「ユコはそんなことまでできるの?」

「無ければ創ればいいんですの。それとか、この『ルシア』って曲。メインフレーズを演じているのはサックスですが、サックスを吹く人がメンバーに居ないので、リリスのギターにアレンジさせる、とかやらなくちゃね」

「す、すごいね」

 ユコは、曲を聞き取って楽譜に起こすだけではなく、アレンジすることもできるという才能を持っていたようだ。

「はいこれどうぞ。『奇跡の大海原』ですが、パーカッションの部分もドラムスに組み込んでアレンジしておきましたわ。やってみてもらえます?」

 ラムリーザはユコから楽譜を受け取ると、早速演奏を始めた。この曲では、フロアタムとリムショットの組み合わせがメインフレーズになっているようだ。タンタカタンタンタッカッ、タンタンカタンタンタッカッ――。

「パーカッションの音が、フロアタムとリムに近いと思われますの。うんうん、間違いではなかったみたいですわね」

「ちょっと待て……、これ無理だって。タムとリム叩きながら、どうやってハイハット連打するんだよ。腕が四本無いと無理だぞこれ……」

「あ、やっぱりそこダメですかそれ……。ん~、その曲ボツ……、いややっぱりもったいない。大幅にドラム部分アレンジしますわ。あ、待って、スティック四本持つとかどう?」

「無理言うなって」

 ラムリーザにステッィクで小突かれて、くすっとユコは笑った。

「あ、そうそう。ウィンドチャイムも用意してくれたら助かりますわ。ドラムのスティックで音出せると思うので、ラムリーザ様の担当ということね」

「打楽器は全部僕に押し付けるんだね」

「そういうこと、銅鑼とかもお願いしますわ」

「演奏中に伏兵を呼ぶんだね」

 このようにラムリーザとユコは、いい感じになって談笑している。そうなると、気に入らないのが約一名居る。

 

「ラムとユッコがまたいい感じになっている、なんでだろー、なんでだろー」

 

 ソニアの口から、先日と同じフレーズがまた飛び出すのであった。

「げえっ、ソニア!」

「銅鑼ネタ引っ張らなくていいから」

 うん、残念ながら雑談部は完全には一掃されていないようですな。

 でも、それはそれでいい。日々徒然と、ダラダラと、楽しく面白く過ごしていきましょう。

 
 
 
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