妹に嫉妬する幼馴染
- 公開日:2016年3月25日
3月25日――
今日もラムリーザは自室にあるリクライニングチェアでのんびりとした時間を過ごしていた。そして、いつの間にか日も暮れた頃になっていた。
今日は妹のソフィリータもラムリーザの部屋に来ていて、ラムリーザの足に覆いかぶさるように、じゃれつきながらくつろいでいる。
そしてソニアは、昨日に引き続きゲームの『T.O.』に夢中になっている。ラムリーザの部屋に入り浸って、ずっとやっている。
これからも一緒に過ごせるということが確定してから、ソニアの表情が変わった。というか、元に戻った。
ここ最近は、不安を抱えたような頼りない表情をしていたが、本来の力強い勝気な表情に戻ったのである。
と言っても、その輝いた視線はテレビゲームに向けられている。それでも、ラムリーザはソニアのその表情が好きだったのだ。
「あっ、姉さんが!」
突然ソニアが大声を出す。
テレビの画面を見ると、小さな部屋に二人の男女が居て、台詞は『迷惑かけて……ごめんね……』と表示されている。
「なんでよー、置き去りにしたわけじゃないのに」
ソニアは、画面を見ながら不満そうに口を尖らせて呟いた。
「知らんがな」
「ソニアお姉様、大丈夫ですか?」
「ソフィリータ、ソニアはシスコンみたいだから気をつけろよ。もっともこの場合は妹の間違いだが、ソニアは姉や妹が、ものすごく大事らしい」
ラムリーザはニヤニヤしながら、画面の前で固まっているソニアを見て冷静な感じで言った。
「誰がシスコンよー、ゲームの話だってば。それを言ったらシスコンはラムの方じゃないのよ」
「そうかそうか、それならソニアの代わりにソフィリータを連れて行くことにしようかな。そしてソニアはただの幼馴染、恋人になるのは妹のソフィリータだ」
「なんでそうなるのよ! この変態シスコン!」
「そう望んだのはお前だろ?」
「望んでない!」
必死な形相で怒鳴り散らかすソニアを、ラムリーザは飄々とかわしていて、その二人を不思議そうな表情で見ているソフィリータ。
「ソニアお姉様、元気になられてよかったです。ここのところずっと気分が沈んでいたみたいですが、もう大丈夫になられたのですね」
「え、ああ、うん。あはっはのはっ」
ソニアは変な笑いでごまかした。
この春からラムリーザと離れ離れになるということになりそうだったので、ソニアは気分が沈んでいたのだ。それが、いろいろあって今後とも一緒に居られることが確定したので、本来の雰囲気を取り戻せたのだ。
「はぁ、でもお兄様にソニアお姉様がついて行くことになったのなら、今年から私一人になっちゃいますね……」
ソフィリータは寂しそうに呟いた。
去年までは、ラムリーザの兄も居て、四人で仲良くしていたのだが、その兄も去年の春から城勤めのために家から離れていった。
そしてこの一年は、三人で仲良くしていたのだが、今年からラムリーザとソニアが家から離れることになってしまい、ソフィリータは一人取り残される形になったというわけだ。
「大丈夫、時々戻ってくるから」
ラムリーザは、ソフィリータの頭を撫でながら、優しく言ってあげた。
「……シスコン」
ソニアは、その様子を見てボソッと呟いた。
「なんだ?」
「なんでもないよー」
ラムリーザがソニアの方を振り返ると、ソニアはぷいっと顔を背ける。妹に嫉妬するなよ……と、ラムリーザは思った。
「……で、妹、じゃなくて姉を失った傷心のソニアはこれからどうするのかな?」
「もちろん、理想のためにもう止まるわけにはいかないのよ!」
「理想……か、同胞虐殺に加担して自分の手を汚してまで貫いた理想だからな、貫き通せよ」
「そっ、それはラムがあたしの居ない間に勝手に話進めたからじゃないのよ!」
「組織には従え、長い物には巻かれろ……だ」
「あっ、ねえちょっと。あたしのクラスがロードになったわ」
「君主か、出世したなぁ。僕をソニア王国の宰相にでもしてくれるかな? 手を汚すのはソニアの仕事で、美味しい所だけもらってあげるから」
「よくわかりませんが、ソニア姉様がんばってくださいね」
「みなさん、夕食の支度ができましたよ」
その時、部屋の外からメイドのナンシーの声が聞こえた。
ラムリーザは「今行く」と言って部屋を出て食堂に向かった。ソニアとソフィリータもそれに続いていった。
食卓には既に、母のソフィアが腰掛けていた。
ラムリーザには父と兄も居たが、帝都の城に住み込みで働いているので、めったに帰ってくることはなかった。だから兄が去ってからこの一年間、食事の時はソフィア、ラムリーザ、ソニア、フィリータの四人であることがほとんどだった。ソニアは使用人の娘で家族ではないが、幼い頃からラムリーザとは双子の兄妹のように育てられてきたので、食事もいつも一緒だった。
食事中、ラムリーザは正面のソニアをチラチラ見る。ソニアは食事をしているときに、とても幸せそうな表情で食べていて、ラムリーザはその表情が好きだった。いつでもこの娘にはおいしいものを食べさせてあげようという気になったりするのだ。
「お兄様、食事が終わったらまたいっしょに演奏しましょうよ」
「ん、わかった」
そんな具合に、平和に一日が過ぎて行くのだ。
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