home > 物語 > > あの時、もし君が振り返らなかったら

あの時、もし君が振り返らなかったら

 

「こんな夜遅くに呼ぶなんてめずらしいね、一緒に寝たいの?」

「こほん……」

 

 夜も更けた頃、ソニアはラムリーザの私室に呼び出された。そして、部屋に入って早々、ソニアは茶化して言った。これもよくあることだ。

 何時ものノリに、ラリムーザは軽く咳き込む。だが、この軽い感じが好きだった。

 

「ソニア、今日は大事な話があるんだ」

 ソニアはラムリーザの目が真剣なのに気がついた。普段見慣れた、頼りなさげなのんびりした目ではない。だが、口調はいつも通り優しいものだった。

「ソニアって、結婚とか考えたことある?」

「えっ? な、何?」

 ラムリーザは、じっとソニアの表情を伺う。そこに浮かんでいるのは、驚きというか狼狽というか。

「こっちにきて、ここにかけて」

 ラムリーザは、ソニアに自分が座っているベッドの隣に座るよう促した。そして、ソニアはその言葉に素直に従う。そして、ソニアから目を離して語り始めた。

「僕はもうすぐ帝都を離れる。そうなったらソニアとは離れ離れ、たぶんもう会うことはほとんど無くなるだろうね。だけどね、僕はソニアの事が好きなんだ。だからこれからもずっと一緒に居たい。でも、ソニアに好きな人が居るなら、その人と付き合えばいいし、僕もそれがいいと思う」

 そこまで語って、ラムリーザは再びソニアの顔を見て、言葉を続けた。

「僕は今日までの楽しかった日々を終わらせたくないんだ。ソニアと一緒に次の世界を作って行きたい」

「次の世界?」

 言ってからラムリーザは、次の世界って何だ? と、自分は何を言っているのかよくわからなくなってしまった。もちろんソニアにもよく伝わらなかったようだ。

「えーとねー、なんだろうねー」

「……」

「僕はソニアを選ぼうと考えてるんだ、ついてきてくれるかな?」

「ラム……」

 その時、ソニアの表情が硬くなり、ラムリーザの目をしっかりと見たまま言った。

「ダメ、やっぱりラムを恋愛対象として見られない。あたし達は、変わらない今のままの方がいいと思うの」

 そうか、そうだよな、とラムリーザは思った。

 二人の関係は、友人というスタンスが一番自然なのだ。なにしろ十五年の付き合いである。今更この関係を変えるというのも、難しいものがあるということなのだろうね。

「ラムの事はずっと忘れないよ。いつまでも最高の友達で居ようね」

 そう言い残すと、ソニアはラムリーザの部屋から出て行った。

 ソニアがそう思っているのなら、それで十分だとラムリーザは割り切った。これで、これから一人で新天地に向かうことが決まったようなものだ。

 ラムリーザは、これからの事に思いを馳せながらつぶやいた。

「ソニア、さようなら。楽しかったよ」

 

 

 ハッと気がついた。そして、ラムリーザは、今のは何だ? と考えた。

 その結論にはすぐにたどり着いた。

「夢か……」

 それは、この春ソニアに告白した時の場面そのままだった。ただし現実と違うのは、ソニアが受け入れてくれなかったこと。

 だが、ひょっとしたら有り得たかもしれないもう一つの現実。

 あの時ソニアが自分の事を受け入れてくれなければ、新天地にソニアを連れて行く強い理由はなくなっていた。元々使用人の娘であるソニアは、それに適した生き方というものもあったし、本来ならそういうえ道を歩む予定は出来上がっていた。

 その後は、いずれラムリーザはどこぞの名家の娘と結びつき、ソニアも身分相応の相手と結びつく。これが世間一般から見た自然の流れだったのだ。

 それを無理やり自我を押し通して捻じ曲げたのが、今の二人である。

 ラムリーザは、何とも言えない気分になって、自分の脇に目をやる。そこで、腕の中に居る娘に気がついた。

 もう当たり前の事なのだが、ソニアだ。

 ソニアはいつものように、幸せそうに寝息を立てて――いない。

 怯えたような目に、涙を浮かべてラムリーザの方を見ていた。

「なんだソニアも起きていたのか? いやぁ、なんというかリアルな夢を見たな」

 ラムリーザは、軽い口調で語りかけながら、この世界線では恋人となったソニアの身体を抱き寄せる。その時、ソニアが小刻みに震えているのが身体を伝ってきて分かったのだ。

「ん? どうしたんだ?」

 ソニアは何か言いたげに口をパクパクするが、なかなか声に出せないようだ。その表情に浮かぶものは、恐怖?

 そしてしばらく経って、ようやくかすれたような声を出す。

「あ、あたし……、ラムを振った……」

「はぁ?」

「ラムを恋愛対象と見られない、ずっと友達のままて居ようって……」

 ん? と、ラムリーザは怪訝な顔をする。さっきの夢はソニアとシンクロしていたのか? 同じ夢を見ていたのか? と考える。

「どうして……、どうしてあたし、あんなことしたの?」

 ソニアは、ラムリーザの寝衣の胸元をぎゅっと掴み、ぶるぶる震えている。そして、その目から涙が一筋零れ落ちた。

 このままだとダメだな、とラムリーザは思い、ソニアの頭をなでながら優しく語りかけてあげる。

「ソニア、安心して。この世界線では、ソニアは僕のこと受け入れてくれたよ。だから、そんなに怯えないの」

「ほんとうに? ほんとうに?」

「ほら、ソニアは僕の腕の中じゃないか」

 ラムリーザは、ソニアを安心させるために、腕に力を入れてぎゅっと抱きしめる。

「あ、ほんとだ……」

 そしてゆっくり、ゆっくりとソニアの身体の震えが少しずつ治まっていく。

 ラムリーザは、しばらく何も考えずに、ただソニアの頭を撫で続けていた。そうすることで、いつの間にかソニアは、穏やかな寝息を立て始めていた。

 それを聞いて、ラムリーザも安心して、再び眠りにつくのであった。

 

 翌朝、ラムリーザが目覚めたとき、再び腕の中のソニアと目が合った。

「あ、ラム……」

「どうした?」

 ソニアは目を伏せて言葉を続ける。

「ひょっとして今のこれが夢で、目覚めたら、あの告白を断った日の朝、自室で一人目が覚めるってことはないかな……?」

 やれやれ、昨夜の夢をまだ引っ張っているのか、とラムリーザは考え、ソニアにそれ以上の出来事を重ねつけ、その記憶を消し去ることができるようにすることにした。

「もしソニアが言うことが本当なのだったら、目が覚める前に、二人が愛し合っているこの世界線でキスしてくれよ」

 そしてラムリーザは、ソニアに顔を近づけ、その先の流れはキンクリということで。朝っぱらから元気ダヨ。

 

 

 

「おはようございましょうか? ラムリーザ様」

「いや、結構」

「何ですの?! ひどいですわ!」

「冗談冗談、おはようございましょうか?」

「はい、おはようございましょうか?」

「なにその疑問系挨拶……」

 朝の教室、今日もラムリーザとユコは、よくわからない挨拶をしている。過去形だったり否定形だったり、二人の挨拶はいろんな形式がある。そして今日は疑問系である。

「今日はいつもより遅いんですのね」

「うむ、ちょっとね……、庭に爆弾が埋まっていたから、分解作業していたんだ」

 ラムリーザは言葉を濁して適当な物語を作り上げる。まさか朝から交わっていたと言い出すわけにはいかない。

「爆弾? なんですのそれは?」

「怪しいわね。それにソニアの髪の毛濡れてるし、朝シャワー? いつもと違って珍しいわね」

「爆弾が暴発してね、全身すすまみれになってしまったから仕方なく、ね」

 じーっとリリスはラムリーザの目を見つめている。しかしラムリーザは、いつもと違ってリリスに見つめられても何とも思わなかった。妙に冷静に作り話をする自分が居たのだ。それは賢者タイムの賜物か?

「ソニア、あなたラムリーザと今朝何があったのかしら?」

 リリスは、ラムリーザを疑うのをやめて、その矛先をソニアに向けてみた。

「えっ? なっ、何も無いよ? 今朝、今朝ねー、『ブッショウヤマ』で拾ってきた『動く蜜柑』が部屋の中を暴れまわって、捕まえるのが大変だったーよ、あはっ、あはははっ」

 ソニアも、ラムリーザと違って冷静ではないが、よくわからない作り話をしている。ブッショウヤマってどこだろう? それに『動く蜜柑』って何なんだろうね。

「爆弾が出たのって本当?」

「うっ、うんっ。それでね、ラムの股間の爆弾がドッカーン! それに誘爆して動く蜜柑もドッカーン! ね、すごいでしょ?」

 何を言っているのやら全くわからない。ラムリーザは呆れた。

 しかし、昨夜の夢の中の自分のように、一人でこの地に来ていたら、いったいどうなっていたのやら、と考える。リリスかユコと付き合っていたのか、それとも誰とも付き合うことなく、どこぞの令嬢と縁談によって結びついていたのか。

 どっちにしろ、この世界線では考えても意味がない。

 ラムリーザは余計なことを考えるのはやめて、隣の席で大きな胸を机の上に乗せて、頬杖をついてぼんやりしている、青緑色の髪をした娘を見つめるのであった。

 
 
 
Sponsored Links



 
 
 前の話へ目次に戻る次の話へ

Digiprove sealCopyright secured by Digiprove © 2016
新しい記事
古い記事

return to page top

©発行年-2018 らむの夢日記