home > 物語 > > グリーン・フェアリー

グリーン・フェアリー

 
 
『ソニアに制裁をッ! ウォルスタに栄光あれッ!』

 

「あ゛ーーーーーっ!!」

「やかましい」

 朝食後の二度寝を楽しんでいたラムリーザは、ソニアの悲鳴に叩き起こされた。ソニアの声は高く、よく響くため、大声を出されると大半の人が振り返る。

「……暗殺された」

「誰が?」

「あたしが……」

「……」

 何を言い出すのやらと考え、ラムリーザはベッドから身を起こす。

 ソニアは、今日もラムリーザの部屋でゲームをしている真っ最中だ。今ではもう、自分の部屋に戻ることはほとんどない。ずっとラムリーザの部屋に入り浸っている。

 そしてテレビの画面を見てみると、そこには『BADEND』の文字が書かれていた。

「……ゲームか」

 やれやれ、とため息をつく。

「まあ、同胞虐殺したしなぁ」

「そ、それはラムが勝手に! ラムのせいでバッドエンドになった!」

「騒ぐな。これを反面教師にして、現実では精々善行を積むことだな。ふっふっ」

「もうやだ、このクソゲー!」

 ソニアはそう叫び、ゲーム機の電源を高速でON/OFFを繰り返した。そしてカセットのイジェクトボタンに指を叩きつける。その勢いでゲームソフトは20cm程飛び上がった。それを見て、ソニアは少し涙ぐむ。

「乱暴するなよ、壊れるぞ」

「だってー……」

「まあよい」

 ソニアの騒ぎ声を聞いて、ラムリーザの二度寝をしようという気はどこかに吹っ飛んでしまう。下手な目覚まし時計より、ソニアに耳元で叫んでもらった方が、よっぽど効果的な目覚ましになる。

 窓の外を見ると天気もいい。こんな日はちょっと出かけるのもいいのかなと考えた。

 バッドエンドという形だが、ゲームも一段落ついたようだし、二人は連れ添って出かけることにした。

 

 

 帝都の繁華街は、ラムリーザ達の住む居住区から離れた隣町にある。そこで、メイドに車を出してもらい隣町までやってきた。

 並木道の桜はすでに散ってしまった後で、木々は緑色に染まっている。

 特に予定も決めてなかった二人は、ぶらぶらと繁華街を歩いて回る。

 二人で出かけるということに対して、デートという感覚はすでに無くなっていた。これまでどこに行くにしても、いつも一緒に居たので、それが当たり前な気持ちになっていた。

「ラム、今日はどこに行くの?」

「そうだな、特に決めずに出てきたけど……ん、よし、もうすぐ帝都を離れることになるし、この繁華街ともしばらくお別れだ。何か記念になるものでも買うかな」

「記念品?」

「そうだ、服を買ってあげよう。いい加減そのモコモコニット見飽きたし。」

「……服はいい。どうせ……」

 ソニアは少し俯き、声を落とす。

「ん?」

「……サイズが合わないから、それに……」

 ソニアは、胸をぎゅっと押さえながら、小さな声で何かをボソボソとつぶやく。ラムリーザには、「胸」という単語だけが、かろうじて聞き取れた。

「どうした? 胸が苦しいのか?」

「な、なんでもないわ。あたし、アクセサリーがいい」

「ふむ、腕輪はもうしているから、今度は鼻輪とか?」

「なんでよ」

「じゃあ首輪がいい?」

「ネックレスって言ってよ」

 というわけで、二人は宝石店に入り、陳列棚を見て回ることにした。

 平日の昼間ということもあり、店内に人は少なく静まり返っていた。

 学生にとっては春休みだが、一般の学生が入るような店ではない。それなりに値段がする宝石店だったりするのだ。

「記念ってなると、何記念になるのかな?」

「うーむ、帝都の繁華街の思い出かな。当分来ることはなくなるだろうし」

 そこでラムリーザは、指輪を選んだ。その指輪には、エメラルドが五つ並んでいて、それを囲むように小さなダイヤモンドがついている。ラムリーザは緑色が好きだったりする。

「エメラルドとダイヤモンドファイブストーンハローリングか……緑色がやっぱりいいよな」

「あたしの髪も?」

「ちょっと青みがかかっているけど、十分OKだ」

「てへっ」

 そう言って、ラムリーザはソニアの青緑色の髪を撫でる。青色の瞳が残念だ。瞳の色も緑だったら完璧なのにな、とか思ったりすることもあった。

 そして、会計を済ませて、早速ソニアに指輪をつけてあげようとした。

「ほら、この指輪だ。お前を緑色でいっぱいにしてやる。さあ、右手出して」

 ラムリーザはソニアの右手を掴んで持ち上げる。手首には、去年買ったエメラルドが数珠繋ぎになっているブレスレットがはめられている。

 そして今回ラムリーザがつけようとしたのは、右手の人差し指である。落ち着きのないソニアに、集中力が生まれますように、と。

「わあ、きれい。ありがと、ラム」

 だがソニアは、ラムリーザから指輪をひょいっと奪って、すぐに自分の左手の薬指にはめる。そして、少しの間その指輪を眺め、ラムリーザの目の前に左手を差しかざして、うれしそうに言った。

「見て、これでラムと永遠の愛!」

「お、おう」

 まだ婚約したわけじゃないが、まあよいと思うラムリーザだった。結婚前提の付き合いをしているわけだし、同じことかと考えた。

 どうもソニアと一緒に居ると、厳かな儀式となるべく行為も、その場のノリと雰囲気に流されている、ような感じになってしまう。だが、その雰囲気は悪くない。

 そしてラムリーザは、ソニアとの間に生まれるそんな雰囲気が好きだった。
 

 活気あふれる緑の妖精と、この雰囲気をずっと続けていきたい、そう思うのだった。

 
 
 
Sponsored Links



 
 
 前の話へ目次に戻る次の話へ

Digiprove sealCopyright secured by Digiprove © 2016
新しい記事
古い記事

return to page top

©発行年-2018 らむの夢日記