マイン・ビルダーズ中編 ~ナイト・オブ・ザ・リビングデッド~

 
 6月24日――

 

 青い空、白い雲、木々のざわめきにどこまでも続く草原の生える草の香り。

 そこまでリアルな表現ではないが、ゲーム内の世界にラムリーザは開放感を感じていた。

 何もかもがフリーダムな世界、ユートピアとでも言うのだろうか。

 分身となるキャラクターは自分に似せて作ったので、さほど違和感は感じない。

 ラムリーザは、寝転がる機能がないのを残念に思った。あくまでゲームだが、ここにもたっぷりと堪能したい自然があり、寝転がってのんびりしたいと考えているのだ。

 

 突然目の前に画面のブレが生じて、黒い皮ジャケット、黒のレザースカート、黒髪と黒ずくめの美少女が姿を現した。

「おまちどおさま。あら、まだラムリーザしかログインしてないのね」

 リリスの声は、ゲーム内ではなくヘッドセット越しに聞こえてくるボイスチャットである。

「えっ、ラムリーザ様がリリスと二人きり? これは由々しき事態ですわ!」

 ボイスチャットは、コミュニティ全体に聞こえているので、ゲームにまだ現れていないユコも会話だけはできるのだ。ユコは何に対して慌てているのか不明だが、やたらと忙しない感じがヘッドフォン越しに伝わってきた。

 ラムリーザとリリスが、特に何もするでもなくぼんやりと待っていると、再び画面のブレが生じて、水色のスーツを着た銀髪のすこし冷たい雰囲気を受ける男性が姿を表した。

「ふむ、この世界は割りと丁寧に創られているようだな」

「ああっ、ラムリーザ様とリゲルさんの二人にリリスが襲われてしまいますわ!」

「なんでそうなる、襲わないってば」

 一人で興奮しているユコをラムリーザは宥めるように言った。そう言いながらも、現実だとアウトだけど、ゲーム内で襲ってみるのはどうなのだろう、などと考えたりもしていた。そもそもこのゲームに、そんな機能は付いていない――と思う。

 そして、さらにその場に人物が現れた。白いワンピースに薄い金髪で神秘的なイメージの美少女だ。

「お待たせしましたわ。みなさんお手柔らかに」

「くれぐれも、勝負事を切り出すなよ」

 ラムリーザは先に釘を刺しておいた。

 前回のネットゲーム騒動は、元はと言えばユコが「一番勝った人が何でも命令できる」などと言う無茶な勝負を提案したのが発端だったことを、ラムリーザは覚えていたのだ。

「これはそういうゲームではないですわ!」

 そこにさらに人物が現れる。白いブラウスにスリムなジーンズを身につけた、濃い金髪をくくってポニーテールにしている、知的な雰囲気の娘。

「こんばんは、こうやって集まって一緒にゲームするのは初めてなので、いろいろ教えてね」

「うむ」

 ロザリーンに対してすぐに返事したのはリゲルだった。同じ天文学部というのもあって、リゲルはロザリーンに対しては親切な部分があるのだ。

 そして、そのリゲルが珍しく音頭を取る。

「よし、全員揃ったので、本格的に開始するぞ」

「ちょっと待って! あたしがまだ!」

「ん? 聞こえんな、もっと大きな声で言え」

「リゲル、あなた……」

「リゲルさん、マジでソニアの音声しぼってる……」

 リリスとユコは苦笑するしかなかったのである。

「だいたいソニア、お前は何を手間取っているんだよ」

 ラムリーザはゲーム画面から目を離して、自分の居るテーブルからすこし前にあるソファに座って、リビングの大画面モニターでプレイしているソニアの画面を見る。画面を見る限り、キャラクターセレクトで手間取っているようだ。

「こんなちっぱい、あたしじゃない……」

「そんなことどうでもいいじゃないか……」

 というわけで最後の一人、黄色いキャミソールに緑のミニスカート、青緑色の髪をした少女が現れた。

 いよいよゲーム開始だ。

 

 

「異世界ヤッホー!」

「さあ、狩にでかけるよ!」

 ソニアとリリスの二人は、歓喜の叫び声を上げながら大平原に駆け出していってしまった。

「なんてフリーダムなやつらだ……」

 ラムリーザはそうつぶやき、自分は素直にチュートリアルモードを始める。

 道具を作ったり素材を集めたりするのだ。最初にすることとして、拠点となる建物を造らなければいけないようなので、木材を集めて重ねて家のように組み立てていく。

 リゲルもユコもロザリーンも、おのおの自分のペースでチュートリアルをやっているようだ。

 折角なので、拠点となる建物は協力して造ることにした。

「そっち積んで」

「ん」

「あ、木の斧が壊れたわ」

「また作ってあげるよ」

 こんな具合に、四人は平和的なプレイをしていた。

 その一方で、ソニアとリリスはというと、大平原で狩りばかりやっている。

 リリスは羊を追いかけて殴り続ける。しばらく殴り続けると、羊は羊肉と羊毛を残して消えていくのだった。

「羊狩りって、ラムリーザ狩りになるのかな?」

「なんでそうなる……、というか君たちはどこで何をやっているんだ?」

 またラムリーザのことを羊と言う。以前、ラムだから羊と言っていたこともあったけど。

 ヘッドセットのおかげで会話はできるが、リリスとソニアは遠くまで離れていってしまい、キャラクター自身を確認することはできないのだ。見えないけど会話できる状態に、ラムリーザは違和感を感じていた。

「じゃあ、あたし羊は狩らない。代わりに牛を狩るわ」

 ラムリーザ狩りとか言われて、ソニアは羊を攻撃するのをやめてターゲットを牛に切り替える。こちらは、牛肉と皮を残して消えていくようだ。

「共食い?」

 リリスの小さく笑う声が、ヘッドセット越しに聞こえる。

「なんで共食いなのよ、あたし牛じゃないわ!」

「君たちはなぜ家畜を狩っているんだ? これってそんなゲーム?」

「これはそんなゲームだ」「これはそんなゲームだ」

 ソニアとリリスは、口を揃えて自分たちの行動を正当化するのだった。

 

 しばらくして、拠点となる建物が出来たので、平和的な四人はそれぞれ自分のやりたいことを始めていた。

 ラムリーザは全体を監視できるように、建物を上方向に増築して塔のようにしている。

 リゲルは棒と糸とを使用して釣竿をつくり、拠点の近くにある水辺で釣りを楽しんでいる。

 ロザリーンは、近辺の草を刈って作物の種を手に入れ、畑を作ろうとしている。

 そしてユコは、新しい部屋を造っていた。そして、部屋が完成するなり、早速ラムリーザを誘ってくるのだった。

「ラムリーザ様、私たちの愛の巣ができあがりましたわ。ベッドも作成しましたので、どうぞおいでなさいませ」

「あんぽんたんめが」

 突然ユコがとんでもないことを言い出すので、思わずラムリーザは口走ってしまった。

「あっ、ユコ聞こえてるぞ! どさくさにまぎれてラムを寝取るな!」

 ちなみに、この場に居ない二人は、相変わらず羊狩りと牛狩りに精を出していた。

「しょうがないですわね、それじゃあ私は動物保護でもやろうかしら」

 そう言って、ユコは拠点の近くに柵を造り、動物を集めて牧場のようなものを作りはじめた。

 そのようなみんなの様子を、ラムリーザは一人、塔の上から眺めているのだった。ここからだと、大平原の遠くで狩りをしている二人も、点のようだが確認することは出来るのだ。

 

 

 そうこうしているうちに、やがて日が暮れて夜になってきた。

 リゲルは黙って建物の中に戻ってきて、ロザリーンもそれに習う。

 周囲が暗くなったので、ラムリーザは塔を降りてきて、松明を作り、建物の入り口付近を明るくするために設置していた。

 そしてユコは、夜になっても動物の連れ込み作業を続けていた。

「ユコ、夜になったからもう帰ろうや……ってゲームだから別にいいか」

 と、ラムリーザがつぶやいた時である。

 建物の周囲に、ドロッとした人型の何かが沸いてきた。

 例えるならゾンビだ。

 そのゾンビは、動物を引き連れていたユコに襲い掛かってきた。

「ちょっと、何ですのこれは?!」

「なっ、何よこれ!」

「うわっ、何これ!」

 ソニア、リリス、ユコの三人が同時に驚きの声を上げる。

 どこに居るのかわからないが、狩りをしていた二人も襲われているようだ。

「ユコ! とりあえず家の中へ!」

「はいっ、ラムリーザ様!」

 ユコはそう言うと、襲い掛かってくるゾンビを振り切って建物の中に飛び込んできた。

 そしてラムリーザは素早く入り口の扉を閉め、入り口から少し離れて様子を見る。ゾンビの群れは扉に群がり、ドンドンと叩いているが、どうやら扉を開けることは出来ないようだ。

「とりあえず家の中に居れば安全みたいだけど……」

 ラムリーザは自分のモニターから目を離し、ソニアのプレイしている画面を見てみた。

 

 ソニアとリリスは、ゾンビの襲撃から逃げ惑っていた。

 無抵抗な動物と違って、ゾンビに素手で立ち向かうのは無謀とも言えるし、二人にそんな度胸は無いようだ。

 そして、気がついたらゾンビの群れに囲まれているのだった。

「ラム! 助けて!」

「無理!」

 ソニアは悲鳴を上げてラムリーザに助けを求めるが、ラムリーザから見てどこに居るかも分からないのに救助に行くなんて無理な話だった。

「あっ……、ああっ!」

 結局ソニアはゾンビに蹂躙されてしまうのであった。

 

ソニア DEAD

 

「くっ……、ソニア……」

 残されたリリスも、風前の灯だ。

 リリスは、何度もゾンビの攻撃を避けていた。そして迫り来るゾンビを振り切って駆け出そうとした瞬間――

「えっ? まさか骸骨が矢を放つなんて……」

――リリスの胸に白い矢が刺さっていた。

 

リリス DEAD

 

 

 プレイしていたソニアは、後ろを振り返り涙目でラムリーザを睨み付け、口を尖らせて文句を言った。

「どうして助けてくれないのよー」

「お前が何も考えずに遠くまで行くからじゃないか……ってか、夜になったらこんなことになるのな」

 ソニアは、まだぶつぶつ言っていたが、コンティニューを選び再びゲームの世界に戻ってきた。

 しかし、復活したのはラムリーザたちが建てた建物の傍。

 建物の入り口に群がっていたゾンビが、今度は近くに現れたソニア目掛けて襲い掛かっていくのだった。

「なにこれ?! もうやだーっ!」

 ソニアの悲痛な叫び声が響く中、再びゾンビに蹂躙されるのであった。

 

ソニア DEAD

 

 穏やかなユートピアが、悲惨なディストピアに変貌しつつあった。
 
 
 
 




 
 
 前の話へ目次に戻る次の話へ

Posted by 一介の物書き