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彼女は試験勉強をしない

 

 月初めの週末、本来ならばオーバールックホテルでパーティが行うことになっているのだが、翌週から定期試験ということで、今回は中止となっていた。

 定期試験は、学期毎に二回あり、今回は中間試験という名目になっている。

 

 シャングリラ・ナイト・フィーバーでの、「ラムリーズ」のデビューライブから一週間が過ぎていた。「ラムリーズ」は好評で、ジャンから「定期的に参加して欲しい」と言ってくれるほどだった。ただし、学校との兼ね合いもあるので、参加するのは主に週末ということにしてもらった。

 むろん、ジャンからの要望もいくつかあった。その中の一つが、ラムリーザにとって少しばかり悩ましいものだったりもした。

「あのなぁ、ラムリーザ。お前は忘れているかもしれないけど、クラブの常連にはお前のファンも居るんだ。だから何曲か歌ってくれよ。ほら、去年も何曲か歌っただろ」

 ラムリーザは、グループをソニア、リリスの二枚看板を主軸で行く構想を持っていた。そこに自分も歌って欲しいという要望が入ったのだ。

 そこで、今後は自分も歌に参加できるようなレパートリーも、増やしていこうと考えるのであった。目標は、一人最低一曲は、リードボーカル担当ということで。

 

 そんなこんなで一週間が過ぎた。

 普通に学校に通って、普通に授業を受けて、普通に部活で練習して、普通に帰る。とくに大きな出来事もなく、淡々と日々が過ぎていった。そして、季節は本格的に夏に入り、日に日に暑くなってきていた。

 制服の衣替えもあり、男子はベストを取ってカッターシャツだけになり、ネクタイも不要になった。

 女子もベストを取り、ブラウスも半袖に変わった。

「うーむ、夏になるとそのはだけた胸が涼しそうでいいじゃないか」

「ブラウスなんて着たくないのに……」

 ソニアは、胸が極端に大きい――リリス曰くJカップ様――なので、身体の大きさに合わせたブラウスを着ると、胸が収まりきらないのだ。上から二つほどボタンが留まらなくて、油断していたら気がつかないうちに三つ目のボタンが外れていたり、ボタンが飛び跳ねそうになったりする。

「乳袋付きのブラウスを、特注で作ってもらったらいいじゃないかな?」

「何よチチブクロって、気味が悪い……、あ、ブラウスもだけど、夏になったんだから、裸足許可になればいいのに」

 ソニアは、制服に対していろいろと不満タラタラである。ブラウスに引き続き、制服指定のサイハイソックスを履くのも嫌がっている。制服をここまで嫌がる娘も、珍しいと言えば珍しいのであろうか。

 ラムリーザはいつも、「風紀監査委員に怒られないようにしろよ」とだけ言うのだった。

 

 パーティが中止になった週末、休み明けから試験が始まるので、ラムリーザはテーブルに教科書を広げて復習していた。

 一方ソニアは、テレビゲームの真っ最中である。四月に買ったギャルゲーが、まだ全員攻略できていないので、この休みに一人攻略しておこうというわけだ。

 このゲームは、ソニアが最初に幼馴染、先輩、悪友キャラを攻略してからしばらく放置されていたのだが、ここ最近でラムリーザが、後輩の大人しい娘を攻略していた。まぁその影響で、リリスに「教官と呼べ」などと謎発言をしたりしていたのだが。

 というわけで、ソニアは残った二人のうち、クラス委員の優等生を攻略することにした。

 休み明けから試験なのだが……。

 ラムリーザは、中学までと違って、高校からは試験の結果が悪いとどうなるか、ということを知らなかったので、今まで通り、ソニアの好きにやらせていたのだ。

「ラム、次はクラス委員の優等生を攻略するよ。なんかロザリーンみたいだね」

 確かにロザリーンは優等生のお嬢様で、クラス委員を引き受けている。

「お前も優等生になってくれたら、僕も助かるんだけどな」

 ソニアはラムリーザの呟きには特に何も答えずに、ゲームを進めている。

 しばらく、カリカリというペンの音、カチャカチャというコントローラーの音、そしてのんびりとしたゲーム音楽がしているだけだった。

「ねぇ、ラム。髪の毛サラサラしたい?」

「は?」

 突然ソニアは、ラムリーザの方を振り返って問いかけてきた。

「そうだな――」と言いかけて、待てよ、とラムリーザはあることに気が付いた、というより画面を見てあることを思い出した。

 ゲームの画面は、攻略対象であろう女の子の髪の毛を、主人公がさわっている絵が表示されている。つまりソニアは、またゲームのイベントを実際にやろうとしているわけだ。

 そこでラムリーザは、ソニアの問いに乗った形で、否定するようなことを言ってみた。

「そうだな、綺麗な黒い髪を触りたいかな」

 ゲーム画面の女の子は黒髪である。それでいて、ソニアの髪の毛は青緑色である。

 ラムリーザは緑色が好きなので、言ったことは嘘なのだが、ソニアの脳裏には、いつも自信満々な友人の誘うような顔が浮かんだ。

「むー……髪の毛黒く染める!」

「やめろ……」

 そして、再びラムリーザは勉強を、ソニアはゲームを黙々と進めていく。

「あ、メロンパンが食べたいな。ラム、買ってきて」

「自分で行って来い」

 そしてまたしばらく沈黙後、ソニアが不満げな声を上げ始める。

「ちょっと何この優等生、何か態度が怖くなったんだけど!」

「何か嫌われるようなことでもやったんだろ?」

「知らないよ、手帳拾ってあげただけだよ?」

「勝手に読んだんだろ?」

「ちょっとだけ……」

「見られたくないこと書いていたら、そりゃ怒るわ」

「でもこの人、怒っているというより性格変わったんだけど」

「知らんがな……」

 そして再び沈黙。同じように、ペンの音、コントローラーの音、ゲームの音楽と女の子の声だけが聞こえている。

 その後も、何度かソニアの問いかけがあったが、その度にラムリーザは「知らんがな」と、適当に相槌を打つだけだった。ソニアも特に返事が聞きたいわけじゃなく、ただ話しかけたいだけのようで、特にラムリーザのきちんとした回答を求めている風ではなかった。

「ラムって、猫かぶりする女ってどう思う?」

「信用できな……じゃなくて、知らんがな……、というかソニアも勉強しようよ」

 ソニアの度重なる質問攻めに、ラムリーザはいい加減鬱陶しくなってきて、一緒に勉強するように促した。

 しかしソニアは、「あたしは勉強しなくても点取れるから」と言って、言うこと聞かずにゲームを続けているのであった。

 

 それから、何度もソニアの問いとラムリーザの「知らんがな」の応酬が繰り広げられ、それは週明けからの三日間、試験が終わるまで続いた。

 そして、試験が終わるとともに、ゲームの方も終わったようである。

「ラム、カメさんのこと思ってくれる人ができたよ」

「そうか、それはよかったな」

 こうして、初の定期試験は終わった。

 
 
 
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