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お嬢様と幼馴染、どっちを選ぶ?

 

 自動車教習合宿での生活は、一週間程過ぎていって、みんなそれなりに上達していっていた。

 最近では、教習所内に留まらず、実際に公道に出て運転する練習も始まっていた。

 

 夕食後、ラムリーザはリゲルと二人で、夜風に当たるために教習所の敷地内を散歩していた。教習所のコースを囲むように、草原が広がっているのだ。二人は、そこをぐるりと回っていた。

「なあ、ラムリーザは車を手に入れたら何がやりたい?」

「そうだなぁ……うーむ、まだその先は考えてないや」

「それならば、まずはシロヴィーリに向かって伸びている鉄道路線に沿って、行ける所まで行ってみるってのはどうだ?」

「いいね、もう半分ぐらいまでは伸びたかな」

 そこでリゲルは、声を落として言ってきた。

「ソニアは連れてくるなよ」

「な、なんで?」

 思わず聞き返してみたが、ラムリーザはリゲルがソニアを拒絶しているのは、なんとなく気が付いていた。やはり落ち着いた感じのリゲルには、ソニアの明るい能天気さは鬱陶しいというわけか。

「そんなこと言ったって、ソニアが行きたいと言えば連れてくるよ」

「ふぅ……、女は一人までだぞ。車に六人も乗せるとなると、ミニバン以上が必要になる」

「ああ、そういうことね」

 ソニアを連れて行くとなると、リリスやユコもついてくるかもしれない。そうなると、大きなサイズの車が必要になるわけだ。

 気が付けば草原を一周して、建物まで戻ってきていた。

 建物に入る前に、ラムリーザはリゲルの方を振り返って、「それはそうとして、ソニアもうるさいけどいい子だぞ。そんなに嫌悪しなくてもいいと思うけどな」と言った。

 それに対してリゲルは、ラムリーザから視線を逸らして答えた。

「ソニアを見ていると、腹が立ってくる――」

「わかったよ」

 ラムリーザは、リゲルの言葉を遮り、最後まで聞かずに建物の中に入っていった。

 一人残されたリゲルは、自虐的な笑みを浮かべ、「――とは少し違うな」と呟く。

「一途なソニアと、それをしっかり受け止めているラムリーザを見てると、俺自身に腹が立ってくる……」

 その言葉をかき消すかのように、一筋の風がさっと流れていった。

 

 

 ラムリーザは建物に入って、談話室を通り過ぎようとしたら、中が騒がしいのに気が付いた。

 なにやら幼馴染がどうだの、キャラクター性能がどうだのと言い合っている。そしてその声の主は、ソニアとリリスだ。

 ラムリーザが、「さと、ここはどうするか。仲裁するかスルーするか」と考えていると、遅れて建物に入ってきたリゲルに肩を叩かれて言われた。

「ハーレムの住人が荒れていたら、主人が治めるべし」

「な、なんだそりゃ……」

「俺は部屋に戻る。あまり騒がせていたら周りに迷惑だぞ。それじゃあな」

 リゲルはそう言い残して、一人でさっさと個室に戻って行ってしまった。

 一人残されたラムリーザは、仕方なくハーレム――じゃなくて、騒ぎの中に飛び込んでいった。

 

「これは丁度いい所に来てくれましたわ、ラムリーザ様!」

 ユコは、ラムリーザの姿を見かけて、はやく何とかしてと言わんばかりに声をかけてきた。

「君達はさっきからいったい何をギャアギャア騒いでいるのかね?」

 ラムリーザは、やれやれと言った感じで二人に問う。

 ユコとロザリーンは困ったような顔で聞いているだけで、ソニアとリリスの二人だけが顔を真っ赤にして口論していると言ったところか。リリスも大分ソニアに感化されてきたな……。

「幼馴染!」「お嬢様!」

 よく分からないが、ソニアは幼馴染推し、リリスはお嬢様推しと言ったところか。しかし、これでは何が何やらさっぱり分からない。

「えっと、二人は何の言い争いをしているんだ?」

 ラムリーザは、ユコとロザリーンに聞いてみた。

「えっと、ゲームの話なのですが……」

 それは、とあるRPGの話だった。魔物使いの主人公が、勇者である息子と一緒に魔王を倒すというゲーム。二人は、そのヒロインについて口論をしているのだ。

「ああ、そのゲームならソニアがやっているのを見たことあるな」

「そのゲームには、妻を選択する場面があるでしょ?」

「あったかな……、あったような気がするけど……」

 ラムリーザは、実際にプレイしたわけでなく、ソニアがプレイしていたのを見ていただけなので、細かいところまではあやふやだ。ソニアが息子に「ラム」、娘に「リーザ」と名前をつけていたのはなんとなく覚えている。

「それで、幼馴染とお嬢様とどっちを選ぶのが正しいか、ということで揉めているんですの」

「やれやれだ……」

 ラムリーザは困ったような視線を、口論中のソニアとリリスに向けた。

 その時、ようやくソニアはラムリーザが近くまで来ていることに気が付いて、大声ででまくし立ててきた。

「ラム! ラムはもちろん幼馴染を選ぶよね?!」

 リリスもラムリーザに気が付いて、ソニアに負けじと言ってくる。

「ラムリーザは、やっぱりお嬢様がお似合いよね?」

「いや、話が見えんて。えーと、どちらを選択するのが正しいか判断しろってことかな?」

「「イグザクトリィ!」」

 ソニアとリリスは、声を揃えてラムリーザの問いに答えた。

「と言ってもな、僕はその幼馴染とお嬢様がどういったものかわからん。二人ともそれぞれの利点を述べてくれ。それを聞いて判断する」

 そういうわけで、ソニアとリリスの二人は、それぞれの推すヒロインについて交互に語り始めた。

 

「幼馴染は、子供の頃一緒に冒険した思い出があって、固い絆で結ばれてるの!」

「お嬢様は幼馴染と違って、回復魔法を使うことができるわ」

「幼馴染は気が強くて、主人公のことをぐいぐいひっぱって行ってくれるの!」

「お嬢様は、幼馴染の使えない最強の攻撃魔法が使えるわ」

「幼馴染は、結婚前夜にいろいろと気になって眠ることができないの!」

「お嬢様を選ぶと、富豪の父からいろいろなアイテムやお金がもらえるのよ」

 エトセトラ、エトセトラ……。

 

 ラムリーザは、二人の言葉をうんうんと頷きながら聞いていた。

 だが、やっぱり正直めんどくさいと思っていた。なぜこんなことで二人は争わなければならないのだろう……。

 そういうわけで、二人の推しが止まったところで、ラムリーザはどうでもいいことを聞いてみることにした。

「えーと、おっぱいの大きさは?」

「そりゃあもちろん幼馴染の方が大き――」

「このゲームにおっぱいの設定はないわよ」

「髪の色は?」

「どっちも緑じゃないわ」

 髪の色に対するリリスの答え方が、いろいろとラムリーザに対してうまい受け答えだ。

「というのは冗談として、これってゲームだよな?」

 ラムリーザは、念を押すように聞いてみる。

「「ゲームよ」」

 それに対して、二人は同時に答えたのであった。

 そこで、ラムリーザは結論を出した。

 

「僕はお嬢様を選ぶよ」

 

 ラムリーザの答えを聞いて、二人は得意げな表情を浮かべたり、絶望的な表情を浮かべたり。

「さすがね。ラムリーザは分かってる」

「なんで?! ラム、幼馴染だよ?! あたしだよ?!」

 選ばれたヒロインは余裕を見せ、選ばれなかったヒロインは言動がおかしくなる。

「いや、さっきゲームって言ったじゃないか。なんでお前が出てくるんだよ。ゲームなら、高性能のキャラとか、ボーナスアイテムの方が重要なんじゃないかな?」

 ラムリーザは、普通にゲームとして有利な方を選んだつもりだった。

 というよりリリスの説明は、いかに自分の推すキャラが有利かということに重点を置いてきたのに対して、ソニアの説明は感情論でしかない。

 物語としてなら感情移入は大事とも言えるが、ラムリーザはその物語を詳しく知っているわけではない。

 だから、キャラクターとして有能だと思う方を選んだのだ。

「ラムはお嬢様を選んで、幼馴染のあたしは捨てちゃうんだ……ぐすっ」

 納得の行かないソニアは、涙声で訴える。

「だからゲームの話だろ? それとも何か? 心理テストか何かの話だったのか?」

「いいえ、ゲームよ。ラムリーザはいい選択をしたわ」

「ふ、ふえぇ……」

「ったく、めんどくさい! だったらお前は気が強くて僕をぐいぐい引っ張っていってくれるのか?」

「あたし引っ張る! ラムを助ける!」

「ラムリーザの足を引っ張るのね、くすっ」

「うるさい、効率厨!」

 どうやらこのままでは論争は終わりそうにない。

 ラムリーザは、さっさとこの話に決着をつけて終わらせることにした。基本的に騒いで迷惑になるのは、声が高くて響くソニアの方だ。だから、この場合ソニアを黙らせれば問題ない。

「わかった。よくわからないけどわかった。やっぱり幼馴染の方がよさそうだ。そっちを選ぶよ」

「ほんと? やった!」

 ソニアはとたんに元気になって、ソファーに腰掛けたまま不思議な踊り(上半身バージョン)を踊りだす。いつものことながら、感情が表に出やすい娘だ。

 その一方でリリスは、ラムリーザに意見をころっと変えられて、眉をひそめて軽く睨みつけてくる。

「ラムリーザ、結局あなたはどっちなのよ」

 ラムリーザは、一言「知らん」と答えて、さっさとその場を立ち去って自分の部屋に帰っていった。

 

 その後の談話室の様子はと言うと……。

「で、結局どっちを選ぶのが正義ですの?」

「性能のいいお嬢様キャラに決まっているでしょう?」

「ラムが幼馴染選んでくれたから、それで十分満足」

 というように、ソニアが大声を張り上げなくなったので、ラムリーザのやり方は間違っていなかったということである。

 
 
 
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