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作詞家になろうリトライ

 

「ココちゃん!」

「誰?!」

 この日の朝食後、ラムリーザとソニアの二人は、いつものように部屋でまったりとしていた。そこで、突然ソニアが誰かの名前を叫んだのだ。

 ラムリーザが驚いて振り返ると、ソニアは例のずんぐりとしたぬいぐるみを抱きかかえているのだった。

「えっと、そのぬいぐるみがココちゃんということなんだね?」

「いや、ココちゃんはぬいぐるみじゃない、クッション!」

「そ、そうか……」

 ラムリーザ的には、ぬいぐるみだろうがクッションだろうがどうでもいい。ただ、ソニアがクッションだと言うのなら、別にそれでよかった。

 最終的にソニアは、「クッションらしくしろ!」と言い放って、ココちゃんをソファーの上に投げ落とすのだった。今さっきまで可愛がっていたのに、なんだこの心変わり様は。

 そもそもソニアが不機嫌になるぐらい求めたクッションらしさとは、どういった物を言うのだろうか。ラムリーザは、一瞬ぬいぐるみとクッションの違いについて考察しようとしたが、すぐにどうでもいい、という結論に到達して考えるのをやめた。

 ぬいぐるみ? クッション? どっちでもいいや。ココちゃんを放り出したソニアは、これまたいつものようにゲーム機の電源を入れ、格闘ゲームを開始した。テレビの前にぺたりと座り、ラムリーザの方を振り返って言う。

「ラムもゲームしようよ」

「ああ、そうだな」

 ラムリーザはそう呟いて、テレビの前のソファーに座ってコントローラーに手を伸ばしかけたが、すぐにその手を引っ込めた。

 テレビ画面には、ソニアの選んだ緑色の軍服姿の格闘家、ヴェガがこちらを恐ろしい表情で睨みつけている。ソニアは、またこのインチキ臭いキャラを選択しているのだった。

「やっぱりいい、一人でやってろ」

 ラムリーザはソファーを離れ、テーブル席に移動した。そこで先日リリスが置いていったファッション雑誌を広げるのだった。

「むー……、ラムの臆病者!」

「言ってろ」

 ソニアは口を尖らせて抗議してきたが、ラムリーザはさらりと受け流して雑誌を読み始めた。うむ、これをソニアに着せてみたいな、とか思いながら。まぁ、可愛らしい服は、大きな胸のせいで大概はソニアに着せることはできないのだが。

 

 二人は、しばらくの間雑誌読みとゲームを続けていた。

 と、その時、二人の携帯電話が同時にメールを着信した音を発した。同時に鳴ったということは、グループメールだろう。

 ラムリーザが携帯電話の画面を見てみると、そこにはリリスからのメールが届いたことを表示していた。内容を見ると、『久しぶりに学校行って部活しよう』とのことだったので、ラムリーザは『OK』と返事しておいた。特に断る理由も無いだろう。

 テーブル席から立ち上がって、ソニアも誘ってみる。というより、同じ内容のメールが来ているはずだが、ソニアは戦闘中でメールは放置しているようだ。

「ソニア、部活だ。学校行くぞ」

「行かない」

「何だよお前は、ここの所嫌がってばかりだな。そんなに部活でみんなに会うのが嫌か?」

「リリスとユッコは会ったばかり。リゲルは怖いから会いたくない。ローザは……」

「ロザリーンは嫌い?」

「いや、だって……、学校行くってなったら、あの胸の入らないブラウス着たり、長くて鬱陶しい靴下履かなくちゃダメなんでしょ?」

「そんなしょうもないことで……」

 ラムリーザは、ソニアのしょうもない理由に言葉を失った。だが、すぐに発想の転換をして、ソニアを褒めてみようと考えてみた。嫌な物を嫌と思わせなければあるいは……。

「でもね、制服姿のソニアの胸元って、僕はセクシーでいいと思うよ。それに、なんだっけ、ニーソって言うのかな? それも可愛いと思うよ」

「えっ? そう思ってたの?」

 ラムリーザは制服に着替えながら「そうだよ」と答えた。

 ソニアは、ラムリーザにセクシーだとか可愛いだとか言われて、悪い気はしなくなった。そういうわけで、ゲームを切り上げてもそもそと制服に着替え始めるのであった。

 

 

 登校中、ラムリーザはソニアの肩に手を回し、抱き寄せながら歩いている。真夏真っ盛りで日差しも強いが、暑さも気にすることなく二人はベタベタだ。

「今日もいい天気ねー」

「能天気かぁ」

「誰が能天気よっ」

「あれ、ちがったか?」

「暢気なのはラムの方でしょ?」

「僕が暢気なら、お前の胸は生意気だということになるぞ」

「何それー、ラムの頭とあたしの胸関係ないじゃん」

 久々の投稿だが、どうも生産性の無い会話をしている。

 ときおりラムリーザはソニアに頬ずりしてみたりする。ソニアが「ほっぺちゅりちゅりちてー」と言うから(言ってない)やっているのだ。そんな感じにいちゃいちゃに夢中になっていて、後ろから駆けて来る二人の足音に気がつかないでいたのだった。

「おはよ」「おはようございます」

 二人の女生徒が現れ、挨拶してくる。リリスとユコだ。

「ひゃうっ」

「おはようさん、今日も二人とも美しいねぇ」

 ソニアはびっくりしたが、ラムリーザは落ち着いてお世辞を混ぜながら挨拶を返した。

 ラムリーザは二人が現れたので、ソニアの肩から手を離す。二人きりの時と、そうでない時の在り方をわきまえて、切り替えているつもりなのだ。

 そしてソニアは、二人が歩きながら読んでいるゲーム雑誌を覗き込むように、二人の間に首を突っ込んでいる。

「何かおもしろいゲーム出たー?」

 ラムリーザは一人、三人の後をついて行くのであった。

 

 

 ほぼ一ヶ月ぶりの軽音楽部の部室である。

 集まったメンバー六人は、いつものように部室中央にあるソファーセットに腰掛けて一休みしている。ただし、一ヶ月ぶりだというのに、特にいつもと変わらない。

「なんだか一ヶ月ぶりって気がしませんわね」

「まぁね、毎週ライブで会ってるし、自動車教習合宿の時もこんな感じだったからね」

「今日は何をしようかしら?」

 誘ってきたリリス本人は、特に何も考えずにメールを発信したようである。じっとラムリーザの方を見つめている。まぁ、集まるのは悪くないのだが。

「みんなどうぞ考えてて。私は演奏してBGM担当しますわ」

 ユコはソファーから立ち上がると、持ってきたキーボードを準備して音楽を奏で始めた。このキーボードは、先日リリスの誕生日の日に、帝都の楽器屋で購入した新しいシンセサイザーだ。ギターの音を出したり、ストリングスの音を出したり、いろいろと音を変化させて弾いている。

「折角だから、自作の歌を作りませんか?」

 ロザリーンは提案してきた。だが、歌詞作りとなると、自動車教習合宿で試しに書いてみたが、ユコに使えないと言われたばかりだ。

「うーん。みんなでこの前の合宿の時に作った歌詞の、良いところだけ抜き取って組み合わせるとかしたら、なんとかならないかな?」

 ラムリーザは、楽譜の入ったユコのファイルから、あの時の歌詞を書いた紙を取り出しながら提案してみる。てっきりもう捨ててしまっていると思ったが、ユコはそのまま保管していたようだ。

 ユコは、シンセサイザーの演奏を中断してソファーに戻ってきた。そして「やってみる」と言って、五枚の紙を眺め始めた。

 だが、リリスの歌詞は、ただゲームの台詞を抜粋しただけだから使い物にならない。ソニアの歌詞は、電波ソング過ぎてどうしようもない。ラムリーザの歌詞は、天国のくだりを何とかすれば、得体の知れない気味悪さは消えるかもしれない。しかし、ロザリーンの歌詞はただの料理レシピだし、リゲルの歌詞に至っては、ユコは理解できなかった。

「やっぱり無理……、宇宙やばい……」

 ユコは力なく呟き、リゲルはその様子を見て「ふっ、無学め」と軽く笑う。「ぷんっ」とユコは鼻を鳴らしてリゲルから顔を背け、再びシンセサイザーをいじり始めた。

 いろいろと音を作り出せるようで、音を出しては調整を繰り返している。

「そこを何とかするのよ、任せて」

 リリスはそう言って五枚の紙を並べると、新しい紙を用意して歌詞のミックス作業に取り掛かった。ゲームの台詞を抜粋して歌詞を作ったリリスは、今度はみんなの歌詞を抜粋して作り上げているのだ。

 ラムリーザは、リリスの作業様子をじっと見守りながら、隣に座っているソニアの緑色の長い髪を、手にとってサラサラさせたりしたりしていた。

 その時、突然部室内にドラムの音が鳴り響いた。

 ラムリーザは、ついにユコがいざという時の自分の代役を勤めてくれる気になったか、と思った。だが、振り返った目の先、ドラムセットは無人だった。

 今、部室内で演奏しているのはユコだけだ。そう、ユコがドラムの音を弾いていた。

「え? ユコ、それ何?」

「それ? ああ、これですね。このシンセでドラムの音を出せるみたいですの」

 ユコはラムリーザの質問に答えると、今度はちゃんとした8ビートのリズムを弾き始めた。それから、「あ、これなら」と呟いて、六月にラムリーザが叩くことのできなかった『奇跡の大海原』のリズムパターンを演奏しはじめた。

「ラムリーザ様、これならフロアとリムを叩きながら、ハイハット連打できますわ」

「ん、その曲はユコにドラムを任せよう。僕はトライアングルでも叩いておくよ。しっかし、最新のキーボードは高性能だね」

「ええ、これでしたらラムリーザ様の代役を勤めて見せますわ」

 ユコは得意げに力強く答えるのだった。しかし、そうなると気に入らない人が一人居る。

「やだよ! ラムのドラムじゃないと、あたしベース弾かないよ?!」

「どうぞご勝手に。それじゃあソニアはカスタネットでもお願いしますわ。それとも鈴がいい?」

 ソニアの文句に、ユコはいろいろとリズムパターンを変えながら挑発行為で返してきた。騒ぎになるってことを理解していないのだろうか。いや、わざとか?

「だったらマラカスする! マラカスでユッコの頭を叩きまくって演奏する! チクチキブン、チクチキブン!」

「落ち着けソニア。ユコがドラムやる時は、僕が何らかの理由で仕方なく参加できない時だよ」

 ラムリーザは、いきり立つソニアを抱き寄せ、再び髪の毛をサラサラさせながら落ち着かせた。

 だがソニアは、「ラムが出られない時は、あたしもラムが出ないからという理由で出ないから!」と言い出す始末である。なんて我侭な……。

「あのなぁ……」

「お静かに――」そこにリリスが口を挟んできた。「――できたわ」

 その言葉を聞いて、ユコはドラムを弾くのを中断してソファーに戻ってきた。そのままユコは、リリスから歌詞の書いた紙を受け取って読み始めた。

 

 

これは私の物語

天国では全てが上手くいく

宇宙は光のエネルギーに満ちた火の玉、ビッグバンになった

 

ねぇ 一緒に素敵な夢を見ようよ

私はもう笑っているわ

そのうちなんとかなると思っていればいいのさ

 

みなさんいいですか?

一ミリのビーズが 一秒の一兆分の一の一兆分の一の百億分の一の間に広がるぐらい

私の愛は 限りなんてありえないの

 

そのうちなんとかなる

多目のオリーブオイルでしっかり両面焼きましょう

時の流れに身を任せているだけでいいのさ

 

青い空 広い海 コンドン・ブルーの出来上がり

こんなのでいいの? いいですとも!

これで世界は自分だけのもの

 

 

「よけいわからないですわ……、そもそもストーリーになってないし……、料理とか宇宙とか混ぜたってダメ……」

 ユコは、落胆したかのように机に突っ伏してしまった。素材がダメだと、どう繕っても微妙なものにしかならない良い例である。それでも何故かユコは、新たに仕上がった歌詞を、丁寧に保管するのであった。

 

 しばらくそろって演奏の練習をした後、一同は再びソファーに集まっていた。今でも結局半分は雑談部なのかもしれない。リゲルも雑談を聞いてくれたりするようになったし、これは朱に交わったということだろうか。

「もう夏休みも半分以上終わったね」

 夏休みも残り二週間ぐらいである。いや、まだ二週間あるとも言えるか。

「ラムリーザ様とかって、別荘とか無いんですの?」

 ユコの問いに、ラムリーザはさらりと「あるよ」と答えた。さらにリゲルとロザリーンも「ある」と答えたのだった。

「な、何このブルジョア集団……」

 その反応に、リリスは絶句したのである。

 しかしラムリーザは、うちの別荘は行くならもっと前から準備が必要で、すぐには行けないことを説明した。

「なぜですの?」

「南海の孤島なんだ」

 行くなら、夏休み中そこで暮らすぐらいの規模のものにする予定でもあったのだ。

 ロザリーンも家に連絡していたようだが、今は親戚が使っているとのことだった。

「じゃあリゲルさんの所はどうですの?」

「少し待ってろ」

 リゲルはソファーから離れて、どこかに電話を掛け始めた。同じく別荘の使用状況を確認しているのだろう。

 しばらくして、リゲルは電話を終わらせてみんなの所に戻ってきて言った。

「喜べ。ソニア以外使っても良いそうだ」

「ちょっと何でよ!」

「うちの別荘は静かな場所なので、声が百デシベル超えるうるさいやつは使用禁止なのでな」

 リゲルはにやりと笑って、ソニアの怒声に対応した。百デシベルを超える声って、いったい何なんだろうね。

 冗談はさて置き、リゲルは別荘の管理人に連絡を取ったところ、すぐに使えるようにしてくれるとのことだった。さらに、家で使う業務用バンも用意できるとのことで、移動手段も問題無いと言ってきた。

 別荘は、人里離れた山中にあり、交通の便はなく自分達で自動車を使うしか行く手段がなかったのだ。これで、ラムリーザがこの夏休みに入って早々に、車の免許を取ろうと言った意味がでてきたというわけだ。

「それじゃあ明日はキャンプ? 合宿? の準備に当てるとして、明後日出発ということにするね」

 ラムリーザの締めで、今日の部活は終了したのであった。

 
 
 
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