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キャンプ場にて、自由気ままな昼下がり
- 公開日:2016年8月18日
8月21日――
クリスタルレイク――。
そこは山中の森に囲まれた湖。真夏日だが、高度もあり木陰は涼しい。
湖は楕円形をしていて、対岸がかろうじて見えるぐらいの大きさだ。徒歩でぐるりと回って、三十分ぐらいの大きさだろうか。
寝泊りするコテージは、木造の小屋って感じで湖の北側にある。コテージからは、日が昇って沈むまでが一望できるようになっている。
コテージから近い湖のほとりには桟橋があり、小型の手漕ぎボートが停泊してある。
湖面は波もなく透き通っていて、夏の日差しを反射して、まるでクリスタルのようにキラキラと輝いていた。
車をコテージの脇に駐め、荷物を一通り車から下ろしてコテージ前に並べた後、一同はコテージの前に集まっていた。
自然に、ラムリーザと他のみんなが向かい合うような形になる。一応グループのリーダーという認識は、すっかり定着しているようだ。
ラムリーザは手を縦に振って、リゲルを除く四人をそこに座らせた。リゲルは、腕を組んで横からその様子を見ている。こうして見ると、まるでキャンプの指導員みたいな感じだ。
だがラムリーザは指導員でもなんでもない。一同を意のままに動かしてみたものの、バンド活動ならともかく、キャンプとなると何を指示すればいいのかわからない。
そもそもここはリゲルの別荘だ。リゲルから、何がどこにあるのか等を聞くのが筋じゃないのだろうか。
そう思いながらも、ラムリーザは女の子達の期待するような視線を受けて、仕方なく口を開いた。
「えーと、それではこれからキャンプを始めるに当たって、オリエンテーリングを行います」
「えっ?」「えっ?」
しかし、リリスとユコが、同時に疑問の声を上げる。
「いきなり宝探しするの?」
ソニアはなんだかワクワクしているような感じで尋ねてくる。
その一方でリゲルとロザリーンは、真顔でラムリーザの顔をじっと見つめている。
「あれ? 僕は何か変なこと言った?」
なんだか様子がおかしいので、ラムリーザはリゲルに尋ねてみた。そもそもここはリゲルの別荘だ。リゲルの方から説明を……、とまあ二回目になるので言わないでおこう。
「オリエンテーションだろ?」
リゲルは、いつものように淡々と間違いを指摘してきた。
ラムリーザは、もう無理だと思った。ふと視線をコテージの方に向けると、コテージの西側へ少し行った所に小さな小屋があり、その前に中年の男性が立っていた。
「リゲル、あそこに居る人は誰?」
「ああ、ここの管理人だ。彼に連絡して、ここを使えるようにしてもらったのだ」
「それじゃあ挨拶しておかないとね」
ラムリーザは、再び四人の方を振り返って、適当なことを言ってこの場を切り抜けることにした。
「ソニア、前へ」
ラムリーザに呼びつけられて、ソニアは立ち上がってラムリーザの隣にやってきた。ラムリーザは、傍に来たソニアの肩をぽんと叩いて言葉を続けた。
「注意事項などは、これからソニアの配る『キャンプのしおり』を各自しっかり読んで理解しておくように」
ラムリーザはそう言い残して、キャンプ場の管理人の所に向かっていった。リゲルも、一緒に挨拶しておくのか、ハーレムに取り残されるものかと考えたのかは、彼自身にしかわからないが、ラムリーザについて行くのだった。
管理人のおじさんは、どこにでも居るような、これといった特徴のないおじさんだ。
ラムリーザは、手を差し伸べて握手しながら言った。
「ここの管理人さんですね。これから数日間お世話になります。何かと迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いします。帰る時には、みんな無事で元気に、お世話になりましたと言えるようにしたいと思っています」
管理人のおじさんは、「うむ」と手短に答え、リゲルの方を見て軽く笑みを浮かべた。
「リゲルくんの友人は、若いもんにしては礼儀正しいな」
「ラムリーザはただの庶民じゃないから。帝国宰相の次男坊で、領主になるような奴だ」
「ほぉ、さすがリゲルくんの友人、すごいね」
「ラムリーザです、どうもよろしくです」
「はいはい、こちらこそよろしく。それじゃ、早速だが、発電機やボイラーの場所とか教えておくぞ」
こうして、ラムリーザとリゲルは、別荘の各種施設を見て回ることになった。
自家発電気があって電気が使える様だし、露天風呂まであるようだ。
次にコテージの中も案内してもらった。玄関から入ると、広いリビングになっていて、寝室は二人部屋が二つと、四人部屋が一つあった。とりあえず女子四人に大部屋を使ってもらい、ラムリーザとリゲルの二人で、二人部屋を使うことにした。
さらに地下室があり、そこにはワインの樽もあったが、まだ高校生なのでこれは不要だろう。
「ん、食材は冷蔵庫に移しておかなければな」
リゲルは、今気づいたように言った。そういえば忘れていたようだ。
二人は、コテージ前に並べた荷物から食材を運び込み、冷蔵庫の中に保管した。
一方その頃。
ラムリーザとリゲルがいろいろ作業していた時、ソニア達は何をやっていたかというと。
「ソニア、早くキャンプのしおり配ってくれないかしら? 待っているんだけど」
「そ、そんなの持ってないよ!」
「さっきラムリーザが、ソニアが配るって言ったじゃないの」
去り際に言い残したラムリーザの置き土産のせいで、ソニアは理不尽な責めを受けていたりした。リリスに詰め寄られて、ソニアはおかしなことを言い出したりする。
「知らないよ! だいたいキャンプのしおりって何? しおりって高望みするわ、一緒に帰ったら友達に噂されて恥ずかしいなどと抜かす、許し難い幼馴染じゃないの!」
「何を言い出すのかしら……」
「あたしだったら、ラムと帰ってる所を噂されても、むしろ誇らしいんだけど!」
「わかったから、しおりを出しなさい」
そんなもの無いとわかっていつつ、リリスは意地悪げにソニアの方に手のひらを差し出して催促する。
「嫌! リリスなんかには絶対あげない!」
ソニアは、リリスの手を叩くと、そのまま自分の荷物を持ってコテージに駆け込んだ。それからさっさと水着に着替えると――。
「海だーっ!」
一人叫びながら、湖に飛び込んでいった。
「いや、そこ湖だから……」
というわけで、残されたリリス達も水着に着替え、湖で遊び始めたのであった。
初日の昼過ぎは、こうしてラムリーザとリゲルはキャンプ場の見回り、ソニア達女性陣は湖で遊んで過ごしていた。
一通り荷物をコテージ内に運び込むと、ラムリーザはソファーに座り込んで一息つき、リゲルはその隣に座って持ってきたギターを奏で始めた。
ラムリーザもしばらく休むと、自分も持ってきた折り畳み式電子ドラムを広げてみるのだった。
「変わった物持ってきたな」
「持ち運びに便利なドラムなんだってさ。リリスに聞いて買ったけど、広げてみるのは今が初めてだったりして」
「ほう、使ってみろ」
リゲルに急かされて、ラムリーザは軽く叩いてみた。シンプルだが、音はそれっぽく出るようである。そこでリゲルは適当に奏でるのをやめて、ラムリーザと合わせることにした。ちょっとしたフォークソングっぽいものを始めたのだ。
それからしばらくの間、二人の歌声が、コテージの中を満たしていた。
「そういえば、こうしてリゲルと二人っきりで歌うのって、初対面のパーティ以来だね」
「ああ、そういえばそうだな」
二人は、四月にオーバーロック・ホテルで行われた、初パーティの事を思い出していた。あの時も、リゲルのギターに合わせて、二人で歌ったものだ。
「僕が音楽やってなかったら、ひょっとしたらあの日も挨拶だけで、それっきりになってたかもしれないね」
「そうかもしれんな。で、お前が音楽やるきっかけは、あいつか……」
「そうだね、ソニアに感謝しなくちゃね」
リゲルは、「フン」と鼻を鳴らすと、次の曲に取り掛かった。
こうして、キャンプ初日の昼下がりは、各自好き勝手に遊びながら過ぎていくのだった。
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