ぴちぷにょ

 
 8月27日――
 

 夏休みも残りわずかとなったある日の出来事。

 キャンプも終わり日常に戻り、今日もソニアは下宿先であるラムリーザの部屋で、テレビゲームに夢中になっていた。

 いつもの格闘ゲームで、いつも通りにコンピューター相手に淡々とハメ攻撃を繰り広げている。もちろんラムリーザは対戦を受けないので、戦いはコンピューター相手に飽きるまで続くのだ。

 テレビ前のソファーには、ソニアを中心にして左右にラムリーザとココちゃんが並んでいた。ココちゃんとは、ソニアが実家から貰ってきたぬいぐ――クッションの名前である。

 ラムリーザは最初はソニアがプレイするゲームの画面を見ていたが、余りにも単調な戦いが続くのですぐに見ていて面白くなくなり、ソニアにちょっかいを出して遊ぶようになった。

 ソニアの足に手を伸ばし、ミニスカートから伸びるむき出しの太ももに触れた。ソニアは反応せずに、ゲームに夢中になっている。胸の先端などを刺激したらすぐに反応するが、太ももを触られてもなんともないそうだ。

「ぷにょ」

 その時ラムリーザは、ソニアがそう呟いたように聞こえた。

 確かにソニアの太ももはぷにぷにだが、「ぷに」ではなく「ぷにょ」とは何か?

「ぷにょとは何か?」

 すぐに自然と思ったことが口に出ていた。

「ぷにょってなぁに?」

 ソニアはテレビの画面から目を離さずに答えた。画面では女性キャラがソニアの操作する緑色の軍服に、画面端に追い込まれて同じ攻撃を喰らい続けていた。

「さっき『ぷにょ』って言わなかったか?」

「あたしそんなこと言ってないよ」

「変だなぁ、確かにそう聞こえたんだけどね」

 ラムリーザは、今度は太ももを揉みながら「ぷにょ」と言ってみた。ぷにょぷにょの太ももと言えば、ぷにぷによりも柔らかく聞こえないかい? ――と誰に同意を求めているのだろうね。

 そのまま今度は、太ももの付け根と膝の近くを交互に揉みだした。やはり付け根の部分の方が、より柔らかく感じる。

 その時ふと思い出した。制服の靴下――サイハイソックスで覆われた部分と、むき出しの部分を揉み比べた時の感触を。

 ラムリーザは、あの感触をもう一度味わいたいと思い、ソニアにお願いしてみた。

「ねぇ、制服の靴下を履いてもらえないかな」

 我ながら割と変態チックな要求だと思うが、ここは学校など公衆の場所でなく、下宿先の屋敷の自室だ。ソニアと二人きりで何をしようが、誰にも迷惑はかかるまい。

「やだ、あれ鬱陶しいから履かない」

 しかし靴下嫌いのソニアは、すぐに要求を突っぱねた。

「もったいないなぁ、あれを履くと足がより美しく、可愛くなるのに」

 ラムリーザは、夏休みに入る前に、ジャンから「ブルマニーソ」なる言葉をメールで聞いていた。ジャンによると、この太もも丈の靴下を履くと「ニーソ萌え」とか言って、一部では人気があるらしい。そこでそれに乗っかってみたわけだ。

 ラムリーザ的には、見た目では靴下を履いているのよりも素足の方が好きだ。しかし、例の揉み比べに関しては素足の状態では少し物足りないと感じる部分が出てきてしまっているのだ。

 本当に欲望と言うものは際限がない。人は、貪欲に勝利を求めるものである。

「そうなの?」

 美しいとか可愛いとか言われて、ソニアは少し反応する。彼女の中では、靴下を履く嫌さと、ラムリーザに可愛いとか言われる嬉しさが、まるで天秤のように揺れているようだ。

 だからラムリーザは、もうひと押ししてみる。

「靴下を履いたソニアが見てみたいなぁ。そしたらもっと可愛がれるのに」

 正確に言うと、見るよりも揉みたいだけなのだが、嘘も方便である。

 ラムリーザは立ち上がり、洋服棚から靴下を持ってきて、ソニアの前に置いた。

「だったら履いてあげる」

 ソニアはラムリーザに乗せられて、ゲームを一時中断して靴下を履きだした。

 そして十数秒後、ソニアの足は太ももの半ば辺りまで黒い靴下で覆われた。

キャラクター画像提供元 ドビーキャンバス [Android]

「これでいいの?」

「ぷにょ」

 ラムリーザは答える代わりに、先程出てきた変な呟きをしながら、太もものむき出しになったところを揉むのであった。

 それを聞いたソニアは一瞬変な顔をしたが、すぐにゲームの方へと興味が戻っていってしまった。

 ここからが、ラムリーザにとってのお楽しみタイムである。

 まずは、靴下に覆われた部分を揉んでみる。靴下の繊維が適度に硬く、ちょっと硬めな太ももの揉み加減だ。手には少し硬いものを揉んだ感触が残った。

 続いてその感触が消えないうちに、今度はむき出しの部分を揉んでみる。

「ふあぁ――」

 ラムリーザは、思わず感嘆の声が出てしまう。

 最初にむき出しの部分を揉んだ時より、少し硬い感触を味わった後だと、より柔らかさが強調されるのだ。それはまるで、スイカに塩をかけた方がより甘さを感じるかのように。

 思わず痙攣するように、小刻みに手を動かして揉んでしまう。悶えるほど気持ちが良いとは、まさにこのことだ。

 続けてもう一度同じ感触を得ようとする。先程と同じように、靴下で覆われた太ももを揉んでから、むき出しの部分を揉んでみるのだ。

「ふおぁっ!」

 ラムリーザは、思わずソニアに抱きついてしまう。これは危険だ。まるで脳内に麻薬が分泌されたような感触でも味わっているかのような状態である。

「なっ、何?!」

 ソニアはびっくりしてラムリーザの方を振り返る。

「可愛い、可愛い」

 ラムリーザはソニアを抱きしめたまま、そうつぶやく。

「もー、ラムったら……」

 ソニアは少し口を尖らせた後、再びゲームに戻っていった。

 一方ラムリーザは一通り悶えた後、再びソニアの太ももに手を伸ばした。

 この靴下で覆われたピチッとした感触。そしてむき出しのぷにょっとした感触。この組み合わせは、恐らく誰も辿りついたことが無いであろう前人未踏の秘境だった。

 そしてこの場合「ぷに」ではなく「ぷにょ」であるところが大事なのだ。「ぷにぷに」というより、「ぷにょぷにょ」という方が、より柔らかさを感じる。むき出しの太ももだけを揉むとぷにぷになのだ。そこにピチッとした感触を合わせることで、「ぷに」ではなく「ぷにょ」となるのだ。

「ぴちぷにょ」

 ラムリーザは小さく呟いた。

「ぴちぷにょ?」

 すぐにソニアはオウム返しをする。

「うん、ぴちぷにょ。これは僕だけが辿りつけた秘境だね」

「なにそれずるい、あたしも行きたい」

「じゃあやってみろよ」

 ラムリーザは、ソニアにも同じ感触を楽しんでもらおうと、先程まで自分がやっていた行動を伝授してやった。

 ソニアは同じように行動してみたが、不思議そうな顔をしているだけだ。

「ぴちっとした感触がするだろ?」

「うん、靴下を履いている感触がする」

「それからこっちを揉むと、ぷにょっとした感触がするだろ」

「うん、する」

「それが良いんだよ」

「どう良いの?」

 ラムリーザは力説したつもりだが、ソニアはきょとんとしているだけだ。

「わからないかなぁ? まずはここを揉む、そしてこっちを――ふあぁぁっ!」

「ラムが壊れた……」

 どうやらいつもはソニアが奇行を繰り広げているが、今日はラムリーザがその担当を引き受けてしまったようだ。

「まずは、ぴちが入り、今度はぷにょ――ふおぁっ! これがぴちぷにょ!」

「何かラム変」

「ぴちぷにょって至高だよな」

「あたしぴちぷにょなんて知らない」

「これだよ、ぴち――ぷにょ――ううむ……」

 ラムリーザは、再び悶えてソニアに抱きついた。

 ソニアは妙な顔をしながら、何度かラムリーザがやっていた行動を真似てみる。しかし、何度やってもラムリーザの言っている「良さ」が分からないようだ。

「靴下を履いている感触と、柔らかい感触しかしない」

「ソニアちゃんにはこの良さが分からないんだ、気の毒に……」

「何それラムずるい! 太もも取り上げる!」

「ダメだ! それはダメだ!」

 ソニアはラムリーザを押しのけようとするが、ラムリーザはソニアの太ももを掴んで離さない。

 押し合いへし合いをしながら、ラムリーザは太ももの揉み比べを再び実行している。

「もー、靴下脱ぐ!」

「脱いだら今日は一緒に寝てあげない」

「むー……」

 ソニアにとって、ラムリーザと一緒に寝られないのは死活問題だ。こう言われてしまうと、黙って従うしかなかった。

「それとも、太ももじゃなくておっぱいを揉もうかな」

「ダメ! それはダメ!」

 なんだか台詞が先程と逆になっている。

「じゃあ大人しく太ももを揉まれなくちゃ」

「ふえぇ……」

「ふあぁ……」

 ソニアにふえぇと言わせながら、再び揉み比べ、通称ぴちぷにょを実施してラムリーザも似たようなことを呟いてしまう。

 

 こうしてラムリーザの中で、ソニアの太もも揉み比べは「ぴちぷにょ」という名称で浸透してしまった。

 ソニアには辿りつけない、ラムリーザだけの秘境。それがぴちぷにょ。

「男には自分の秘境があるんだよ。例えるなら、靴下を履いた太ももと、むき出しの太ももを揉み比べるようなぴちぷにょ」

「ラム卑怯! あたしも自分の秘境を作る!」

「股の奥にある洞穴かな?」

「ラムの馬鹿! もー、あっち行って!」

 ぴちぷにょのもたらす効果で、ラムリーザはどんどんおかしくなっていく。今度はソニアの太もも半ばにある靴下のラインに沿って指を動かしている。これもまた、指先で半分ずつピチっとしたところとぷにょっとしたところが味わえるのだ。揉み比べに対して、これは触れ比べというのだろうか。

 ソニアはラムリーザを押し続けるが、山のようにびくともしないラムリーザは、淡々と「ぴちぷにょ」を楽しんでいるのであった。

「ダメだな、今度はこうだ」

 そう言いながら、今度はソニアの膝の辺りに手の甲を当て、そのままスライドさせて太ももの付け根当たりまで滑らせてみた。

 これもまた、ラムリーザを唸らせそうな感触だ。靴下の少しざらっとした感触が手の甲に伝わり、それはやがてむき出しになっている部分である滑らかな肌の感触に変わるのだ。スイカの塩と似たような物、対比効果によってより滑らかさを感じるのだ。

 揉み比べ、触れ比べ、ソニアの履くサイハイソックスの効果で、ラムリーザはどんどん快感の海へと沈んでいくのだった。

 

 ぴちぷにょ――

 

 流行るかな?
 
 
 
 




 
 
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Posted by 一介の物書き