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ブルマニーソ! うひょ! 失神! いや、わけわからんね

 

「なんか最近つまんない!」

「そうね、補習ばかりで全然部活に出られないし」

 ソニアとリリスは、ここ数日間ずっと不機嫌だ。

 それは、試験の結果が悪かったため、毎日放課後に補習をやらされているからだ。もっとも、自業自得ではあるが。

「君達が勉強しなかったからだろ? ソニアはずっとゲームやっていたし、リリスも試験前に一体何をやっていたんだ?」

「マインビルダーズ……」

「一人でかよ……」

 マインビルダーズとは、先月六人で一緒にやっていた箱庭ゲームだ。

 ラムリーザは、買った当日以降はプレイしていなかったが、リリスは一人で黙々と続けていたようだ。

「全く二人には困りますわ。あなたたちが来ないから、私がメインボーカルやらされたり、ドラム叩かされたりして大変なのですわよ」

「えっ? ユッコがドラム? やだよあたしラムのドラムじゃないとベース弾かないよ!」

「だったら早く補習をクリアして戻って来い」

 次は体育の時間なので、体操着に着替えながらそんな話をしていたりした。

 

 

「二人組みで柔軟体操するんだ」

 体育教師の掛け声で、体育の授業は始まった。

 ラムリーザはリゲルと組もうとしたが、後ろからソニアに手を引かれる。毎回ソニアは、ラムリーザと組みたがってくるのだ。

「またこのパターンか? ソニアは他の女の子と組めよ。ロザリーン、いいかな?」

 リリスはユコと組んでいるので、ラムリーザはロザリーンを呼びつけて頼み込む。

 周りを見渡しても、男女で組んで体操しているところは一つもない。そのような中で、ソニアと身体を密着させる度胸はラムリーザには無かった。というより、そんな度胸は必要ない。

「やだ、ラムと組む。ローザがリゲルと組んだらいいんだ」

「我侭を言うな」

 ラムリーザは、いつものようにソニアの背中を押してロザリーンに押し付け、自分はリゲルと組んで準備体操を行った。

 

 今日の体育の授業内容は、バレーボールの練習だった。といっても、試合をして遊ぶだけだ。

 そして、まずはクラスの女子を二組に分けて、女子の試合から始まった。

 見たところ、どうやらソニアとリリスはそれぞれ別のチームになったようだ。

 そこでリリスは、チームのアタッカーに、余計な入れ知恵を働かせる。

「狙うのはソニアの正面とか足元。そこを狙っていたら簡単に勝てるわ」

 これは、先日に海でビーチバレーで遊んだ時に使った、ソニアの大きな胸のために対処し辛い所を攻めるという、若干陰湿な作戦だ。

 だがソニアも危険は避けてきた。自分はトスかアタック役に徹すると言い張って、前列に立ちレシーブ役はやらないようにしていた。

 このような事情により、試合は荒れることなく淡々と進んでいった。

 ラムリーザは、ぼんやりと試合を観戦しながら、この光景をジャンが見たら喜ぶだろうな、とか考えていた。

 そこで、ソニアがアタックを打ち込もうと飛び上がったところを、こっそりと携帯型情報端末キュリオで撮影する。そして、そのままジャンに『俺の嫁』というタイトルでメールを送ってみた。

 するとすぐにジャンから、『お前最高! ブルマニーソうひょ! ソニアじゃなくてリリス希望!』と返事が返ってきた。ジャンは、よっぽどリリスが気に入ったようだ。だがそれには、『リリスにはプライバシーがあるからダメだ』と返しておいた。

 

 女子の試合が終わり、ソニアはラムリーザが盗撮しているとは知らずに戻ってきた。

 ソニア達は、飛んだり跳ねたりの運動で、靴下が太ももの位置からずり落ちている。

 リリスやユコは、自分の手で直したが、ソニアはラムリーザの隣に座ると、ラムリーザの足の上にどかっと自分の足を投げ出してくる。

 ラムリーザが「なんぞ?」と言って、眉をひそめてソニアの顔を見ると、「ラムが直して」と投げやりな感じに答えてくるのだ。

「お前なぁ……」

 ラムリーザはため息を吐きながら、ソニアのずり落ちた靴下を、太もも半ばまで持ち上げてあげた。

 それを見たリゲルの「シュールな光景だな」という呟きに、「うるさいよ」と返しておくのであった。

 

 授業の後半は、男子の練習試合だ。

 試合が始まったところで、ソニアはぼんやりとラムリーザを見ていた。

 そこにリリスが、こっそりと背後に回る。そして、ソニアの胸に攻撃を仕掛けてきた。そう、帝都で見せたメルティアのように。

「えっ? 何?」

 リリスの突然の行動に、ユコは驚きの表情を見せる。だが攻められたソニアは驚くどころではない。

「やっ、ひゃあんっ、な、やめっ、メルティアやめてっ、やんっ、……ってリリス、なんでっ」

「これがええんねーってね。ソニアとの距離の取り方がわかってきたわ、くすっ」

「メ、メルティアのやつ、リリスに余計なことを吹き込ん……ひゃうっ」

「ごめんねぇ、ビーチバレーでは痛い目にあわせちゃったりして」

 リリスは、後ろからソニアの大きな胸を抱え込み、胸の先端を指の間に挟みながらむにむにと揉みしだく。ソニアは抵抗できずに、ついに涙目になってしまった。

「やめっ、ふっ、ふえぇ……」

「ふーん、ソニアって胸で感じやすいんですのね。いろんな意味で弱点ですわね」

 ユコも面白そうに、ソニアの胸を突っついてみたりする。

「全く、どういう食事をしていたらこんなに――」

「こほん!」

 突然脇から大きな咳払いが聞こえ、リリスとユコはびっくりして手の動きを止める。

「あ……」

 二人が振り向いた先には、怒った顔で睨みつけているクラス委員のロザリーンの姿があった。

「風紀委員じゃないけど、そういう行為は感心できないわ」

 ロザリーンは、静かに、しかし厳しい口調で言った。

 リリスは、「仕方ない」と言って、最後にソニアの胸の先端をつねりあげてから手を離してあげた。

「ひゃああんっ!」

 そのためにソニアは、大きな喘ぎ声をあげてしまうことになったのだが……。

「全く、破廉恥なことしてないで試合を見てなさい」

 リリスとユコは、素直にしたがって試合の観戦を始めた。その一方で、ソニアは胸を抱えて俯いて、ピクピクと震えているのだった。

 

 ラムリーザのチームは、長身のリゲルをアタッカーとして試合を進めていた。

 途中まで、特に何も特別なことは起こらない平凡な試合だったが、そのうち敵チームのアタッカーが、遊び半分に後衛潰しを仕掛けてきた。

 その男子生徒は、運動神経はあったが少々乱暴な性格でもあったのだ。

 彼のアタックで放たれたボールは、地面を目指さずに生徒の頭や胸を狙って飛んできた。

 後衛の一人は、思いっきり胸にボールをぶつけられてうずくまる。

「どうだ、このノックアウトアタックの味は」

 敵のアタッカーは、悪びれる様子もなく、ニヤニヤしている。

「なんか変な空気になってきたね」

「ラムリーザ、あいつは俺達を潰す気だ。気をつけろよ」

「そうは言うけどねぇ……」

 ラムリーザはサーブをしてゲームを再開するが、再びノックアウトアタックとやらで、後衛がまた一人やられてしまった。

 その様子は、観戦中のソニア達にも伝わっていた。

「あれ、なんかやばくない?」

「潰しにかかってますわね」

「ラムに何かあったら許さないんだから」

 三人の不安は的中し、次はラムリーザが狙われてしまった。

 ラムリーザは、相手の放ってきたボールがまっすぐ自分の頭目掛けて飛んできているのはわかった。だが避ける間もなく頭に直撃し、その瞬間目の前が暗転した――。

 

 

 

「あっ、やったな!」

 ラムリーザが意識を失って倒れてしまったのを見て、ソニアがコート内に飛び出してきた。リリスとユコも後に続く。

「ラム! しっかりして!」

 ソニアは、ラムリーザを心配して駆け寄ったが、すぐに攻撃してきた敵のアタッカーに突っかかっていった。そして、体育館中に響き渡るような大声をぶっ放す。

「ちょっと! そこまですることないでしょ!」

「な、なんだよ。ちょっと頭にボールが当たったぐらいで、普通失神するかよ」

「するの! ラムは頭弱いの!」

 その男子は、ソニアの甲高い大声に、少したじろいでいる。
荒ぶるソニア
 そこにリリスもやってきて、「力に訴えるやりかた、野蛮人ね」と髪をかきあげながら静かに冷たく言い放つ。

「野蛮人だと? 根暗吸血鬼は黙ってろ!」

「くっ……」

 リリスは、普段は何を言われても余裕な態度を取っているが、何故か今回は彼の一言で唇をかんで俯いて目を逸らしてしまった。

「ええ、あなたは野蛮人ですわ」

「ラムに何かあったらあんた責任取れるの?! 何が起きても知らないよ! 社会から抹消されるかもだよ!」

「なんだよそれは……」

 彼は三人の女の子に責められ、しかもソニアに大声で物騒なことを言われたりして、居心地が悪くなったりしてきた。そして、「すまんかったよ!」とめんどくさそうに言い放った。

 ソニア達が責めている間、リゲルは失神したラムリーザを抱え挙げて、保健室に運び込もうとしていた。

「あなたたちもそのくらいで許してあげなさい。彼、すっかりふてくされちゃってるよ」

 ロザリーンに言われて、「ふん」「ふん」「べーだ」リリスとユコは鼻を鳴らし、ソニアはあかんべーをして、ラムリーザを運んでいるリゲルを追いかけていった。

 

 

 数時間後、ラムリーザは保健室のベッドで意識を取り戻した。そして、「あー、またやっちまったか……」と一人呟いた。

 しばらく経って休み時間に差し掛かった時、ラムリーザの取り巻き、じゃなくてハーレム要員、じゃなくて……何でもいいや、ソニア、リリス、ユコの三人が保健室に現れた。そして、ラムリーザが起きているのを見て喜んだ。

「心配かけてごめんよ。僕は少し頭が弱いところがあるから」

「頭が弱いのはソニアのことじゃなくて?」

 リリスは、場がしんみりしてしまうのをなんとなく嫌がって、いつものようにソニアをいじくる。当然ソニアは、「なんでよ!」と大声を出すことになる。保健室なのに……。

「その頭が弱いは勉強ができないということであって、それならリリスも人の事――っとまあどうでもいいや。僕の場合、知能的じゃなくて物理的に弱いというか……、ちょっと頭に強い衝撃が走ると、今回みたいに簡単に意識を失ってしまうんだ」

「それは、怪我ですの?」

 ユコは心配そうに聞いてくる。

「どうだろう、いつからそうなるようになったのか覚えてないんだよね。今回も、何が起きたのか覚えてなくて、気がついたらここに居た……と」

 ラムリーザの記憶では、ソニア達がバレーボールやっていて、ジャンにメールを送ったという所で途切れていて、その後何が起きたか記憶に残っていない。

 そこでリリスは、試合中にボールが頭にぶつかったということを説明した。

「ああ、そういうことか。気をつけなくちゃね」

「そんなことよりも……」

 リリスは何か思い悩んだ素振りを見せて言葉を続けた。

「……ラムリーザは私のこと、その、根暗吸血鬼に見える?」

 ラムリーザは、一瞬リリスが何を言っているのか分からなかった。

 根暗吸血鬼――。

 一度クラスメイトからその言葉を聞いたような記憶があったが、それが何を指しているのかすぐには思いつかなかった。

 不安そうな顔でこちらを見ているリリスから視線を逸らし、ユコの方に視線をやる。ユコはラムリーザと目が合うと、小さくため息を吐いて目を逸らした。

 ラムリーザは、そのユコの表情を見て、その言葉はリリスの過去のイメージなのだと察した。

「違うだろ、リリスは妖艶なる黒髪の美女じゃないかな?」

 リリスは、ラムリーザに否定してもらえて表情をぱっと明るくさせた。そして、「ありがとう!」と言って、ベッドの上で身を起こしているラムリーザに抱きついた。

「こっ、こら! ラムに抱きつくな!」

 ソニアはリリスに後ろからしがみついて、ラムリーザから引き剥がそうとする。しかし、リリスはラムリーザの服をつかんで離れようとしない。

 さらにソニアはリリスのスカートを掴んで捲り上げ、お尻を握っても、それでも離れようとしない。

 逆にリリスは、後ろから掴みかかってくるソニアを、押し返すように蹴ってきた。

「こっ、このぉ!」

 ソニアはよろけそうになったが、リリスの突き出してきた足を掴んでバランスを取り戻す。

 そしてリリスの足を睨みつけて、履いているサイハイソックスに手をかけて、ぐいっとずり下ろしてやったのだ。

「ちょっと! なにすんのよ!」

 そこでようやくリリスはラムリーザから離れた。ソニアの放った突拍子もない攻撃に驚き、若干声がひっくり返っている。

「なによ、この泥棒猫!」

 ソニアは攻撃が効いたことに気をよくして、さらに反対側の足のサイハイソックスもひっぱってずり下ろしにかかった。

「やっ、やめてよこの変態乳牛!」

「……ったく、これじゃ寝てられないな」

 ラムリーザは、ソニアとリリスがやりあっている方とは反対側からベッドを降りて、立ち上がった。

 ソニアに感化されてか、リリスもなんだか感情的になって声を荒げている。他に休んでいる生徒が居なかったのが不幸中の幸いであった。

「もう大丈夫ですの?」

 ユコが心配そうに駆け寄ってくる。

 ラムリーザは「大丈夫」と言って、ユコを制する。あまり近づけると、ソニアの攻撃が今度はユコに向きかねない。

 そして、保険医の先生にお礼を言って、さっさとこの場を立ち去ることにした。この状況であまり長居はしないほうがいいだろう。

「ほら、ソニアも行くぞ」

「あっ、ラム」

 ソニアはラムリーザの方を振り向いたが、すぐにリリスの方に視線を戻した。

 リリスは左足のサイハイソックスを直して、今度は右足に取り掛かっている。

 ソニアは再びリリスに駆け寄り、直し終わった左足のサイハイソックスを再びずり下ろしてから、保健室を出て行こうとするラムリーザの方に駆けていった。

「な、なんなのよ……」

 保健室には、呆然とするリリスが一人、取り残されてしまった。

 
 
 
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