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秘技、エターナル・ライディーン! んん? よっわ!

 

「ここの駅前に、ゲームセンターがあるんですの。一度みんなで行ってみない?」

 この日の放課後、ユコは部活が始まってしばらくした後で提案してきた。要するに、みんなで出かけようってことだ。

「そういえば、みんなゲーム好きだけど、ゲームセンターには行かんの?」

「えーと――」

 ラムリーザの問いに、ユコはちょっと言いにくそうに視線を斜め下に向けて言葉を続けた。

「――ゲームセンターは、不良のたまり場ってイメージだから、怖いんですの……」

 ユコはリリスと一緒によく出掛けているが、そういった理由でゲームセンターに二人で行ったことはなかったりするのだ。

「あたしはラムと一緒に帝都で何回か行ったことあるよ。別に普通の遊び場所じゃん」

 空気を読まないソニアが不思議そうに言う。それに対してユコは憤慨して答えた。

「ラムリーザ様と一緒なんだから怖くなんかないでしょ?! ソニア、あなたはとことんずるいですの!」

「そうね、ソニアはずるいわ。それは否定しない」

「な、何よ二人して……」

 声を荒げるユコに、リリスも参戦して一緒にソニアを責める。二人掛かりの攻撃を喰らって、ソニアは少し言葉に詰まってしまった。

「リゲルはどうなんだい?」

「ん、俺はたまに行くことはあるけどな」

「よし、それじゃあ今日はこれからゲームセンターに行くか」

 ラムリーザは、リゲルも誘ってゲームセンターに行くことにした。最近はリゲルも多少は丸くなって、音楽活動以外の部活でのイベントにも多少は参加してくれるようになっていた。そこにロザリーンの存在が大きいというのがあったりするのだが。

 ユコが怖くて行けない、ラムリーザが一緒に行くのだったら行けるというのなら、ついて行ってあげようという気になったのだ。

「ラムリーザ様とリゲルさんが居てくれたら平気ですわ」

 ユコは、嬉しそうにみんなを先導して街に繰り出すのだった。

 

 ポッターズ・ブラフ駅前のゲームセンター、『ゲーマーズ・ヘヴン』は、どこにでもあるような普通のゲームセンターだ。ワンプレイ銀貨一枚というのは帝都でも同じで、高くもなく、それでいて安くもないのだった。

「一度これがやってみたかったんですの。ユーナのイベントで……っと、なんでもないですわ」

 ユコはメダルゲームに興味があったようで、早速銀貨をメダルに交換して始めている。

 筐体の上部からメダルを投入して、いい所に落ちると何枚かのメダルが下から落ちてくる仕組みだ。

 単純な仕組みのゲームだが、ユコは一心不乱になってメダルを次々に投入している。

 ラムリーザは、ユコの隣に腰かけて、一枚メダルを拝借して同じように投入してみた。

 チャリンと落ちたメダルは、せり出してきた壁に押されて他のメダルを押し、それによって押し出されたメダルが三枚ほど筐体の下から転がり出てきた。

「ま、こんなもんか」

 ラムリーザは、とりあえず一枚のメダルを三枚に増やしてユコに返すと、周りを見渡した。

 

 見たところ、リゲルはロザリーンと二人でエアホッケーで遊んでいるようだ。二人で円盤をパコパコ打ち合っている。

 ソニアを探すと、ソニアはリリスと一緒にパンチングマシーンで勝負しているみたいだ。荒っぽいやつらだ。

 二人が遊んでいるパンチングマシーンは、『ジーフォース・ティターン』とい名前で、パッドを殴りつけた際の速度や打撃力に応じて『ギガ』という単位で数字が表示される仕組みになっている。

 交互に打ち合っているようだが、新記録が出るたびに押しのけて挑戦しているのだ。大体60ギガ前後の勝負だが、筐体によって数値や単位が異なっているので、ラムリーザ自身も打ち込んでみなければ、それがどの程度の威力なのかわからなかった。

 しばらくの間、メダルゲームをやっているユコの隣で、ソニア達の様子を眺めているのだった。

 二人とも、一部を除いてほぼ同じ体系なので、筋力にも差が無いのかどちらかが圧倒しているわけではない。いい勝負で交代で続けていた。

 その時、ソニアがラムリーザの方へやってきた。

「ユッコ、一発でいいからあれ殴ってみて」

 ユコも参戦させようというのだろう。だがユコは否定的だ。

「いやですの。私はあなたたちみたいな野蛮人じゃないですわ」

「別に人を殴るんじゃないから関係ないじゃないのー」

 ソニアは、嫌がるユコを無理やり立たせて引きずっていこうとした。

「ああもう! ラムリーザ様、そこ見張っててくださいね」

 そういうわけで、ユコはパンチングマシーンの方へ行き、ラムリーザはユコの場所とメダルを監視することになってしまった。とりあえず一枚拝借してもう一度投入してみたが、今度はうまくいかずに一枚もメダルは出てこなかった。

 

「秘技、エターナル・ライディーン!」

 

 嫌がっていた割にはなんだか乗り乗りで、たいそうな技名叫んで、ユコはパッドを思い切り殴りつけた。あいかわらずちょっとした所に妙な芝居を打つ娘だ。

 しかし結果は48ギガ。技のイメージとはうらはらに、それほど威力は無かったようだ。

「弱いね」

 リリスは微笑を浮かべて呟いた。

「何ですの! 私は華奢なの。あなたたちみたいなゴリラ女じゃないですわ!」

 ユコはそう吐き捨てて、メダルゲームへ戻っていった。まあ、ユコの体つきはソニア達二人より劣っている。それほど力が無くても不思議じゃないだろう。

 だがユコの一言は、リリスの煽りを生み出してしまったようだ。

「ソニアはゴリラじゃなくて、牛なんだけどね」

「何でよ! 誰が牛よ! あたしが牛だったら、リリスはカラスじゃないの!」

 ソニアは憤慨した勢いをそのままゲームに持ち込み、数歩後ろに下がって助走をつけながら叫んだ。

 

「ハリケーンミ○サー!」

 

 そのまま勢いに乗せてパッドを殴りつけた。どうでもいいが、助走をつけてのプレイは禁止されてなかったっけ?

「それ、牛の超人だから、くすっ」

 リリスはさらに煽ってきたが、結果は70ギガ。助走をつけた分威力が増したようだ。

「やった、70到達! どや!」

 そのままどや顔でリリスの方を振り返ったりしていた。

 その時である。

「女子供が粋がってるじゃねぇよ」

 荒っぽい声がして、三人組のガラの悪い男性が現れた。こういうのがあるから、ユコは一人で行きたくなかったんだね。

「何よ! だったらあんたはどうなのよ!」

 リリスは黙り込んでしまったが、ソニアはこういう時も強気だ。70ギガと表示されているボードを指さして、三人を挑発している。

 ラムリーザは、言い合いぐらいなら放っておこうと考えた。もし乱暴を働きだしたらいつでも飛び出せるように身構えてはいたが。

 ソニアの挑発を全然気にすることもなく、一人が前に出てソニアを押しのけてパッドを強打した。明らかに先程までとは衝撃音が違う。だがまあ仕方ないだろう、女性の力で敵うわけがない。

 記録は100ギガ。

 ソニアは悔しそうにして黙り込んでしまった。いや、そこで悔しがっても仕方ないって。

「まあざっとこんなもんだ。女子供はあっちのジャングルジムででも遊んでなって」

「ふっふっふっ」「ふっふっふっ」

 三人組も煽ってくる。大人げないやつばかりだ。

 そこにリゲルがやってきた。いつの間にかエアホッケーは終わったようだ。

「むっ、リゲルか?」

 どうやらリゲルの事は三人には知れ渡っているようだ。これが知名度というやつか。

「ちょっとそこ通るぞ」

 リゲルは何も関心がない風を装って、突然パッドを殴りつけた。衝撃音からしていい勝負か?

 記録は112ギガ。

「うわ、やった! なんだたった100ギガなんだね。どや! 112ギガだぞ!」

 ソニアは自分が打ったわけじゃないのに、一人調子に乗って自慢し始めた。

「……馬鹿か」

 リゲルはそんなソニアを、いつもの冷めた目で睨み付けている。

「くっ、リゲル、そいつはお前の女か? 踊り子ちゃんじゃなかったのか?」

「こんな下品な女、知らんな」

 リゲルはさらに鋭い目でその男性を睨み付けると、そのままパンチングマシーンの前から立ち去っていった。そのまま格闘ゲームの方へ行き、乱入してプレイし始めた。

「ちょっと待って? 今下品な女って言った?!」

「うるさい女だな……」

 三人組の中で、一番体格のいい男性がソニアを押しのけてパッドを殴りつけた。パッドはさらに激しい音を立てて叩きつけられる。

 記録は120ギガ。

「う……」

 ソニアは再び言葉に詰まってしまった。自分よりも50ポイントも多い記録に少し脅えているのか、一番体格のいい男性をチラチラとしか見ることができない。

 調子に乗ったり落ち込んだり、ソニアも忙しい事やっている。

 

「ちょっと、勝手にメダル取らないでよ!」

 ラムリーザは、隣に座っているユコが突然不満そうに声を張り上げたのを見て、いつの間にかリリスが傍に来ていることに気が付いた。

 リリスは、ガラの悪い三人と関わりたくなかったようで、リゲルが立ち去ったあたりでパンチングマシーンから離れていたようだ。

 リリスはユコの文句を気にも留めずに、奪い取ったメダルをラムリーザと反対側の筐体に投入する。残念ながら、メダルの落ちた場所が適当すぎて一枚も返ってこないという結果になったが。

「ねぇ、ラムリーザは見てるだけなの?」

 リリスは先程から何もしていないラムリーザに問いかけてきた。

「まあね、パンチングマシーンぐらいで一喜一憂しているソニアを見ているのが面白いかな」

 男性には敵わなくて普通だろうに、得意げになったり悔しそうにするソニアを見て、面白いというよりはむしろ苦笑いしていた。

 それでも、ちょっと雲行きがおかしくなってきたのも事実だ。

「ほれほれ、お嬢ちゃんも殴って見なよ。いや、その不自然なおっぱいで叩いた方が記録でるんじゃないかな」

「ひゃっひゃっひゃっ」

「なっ、何が不自然よ!」

 それでもソニアはくじけずに、パッドを殴りつける。しかし残念ながら記録は68ギガ。

「よっわ」

「あれ、元気なくなったねー」

 ラムリーザは、ここらで援護射撃しておくかと考えた。なんだかソニアが必要以上になじられ始めている。

 そういうわけで、ラムリーザは席を立ち、パンチングマシーンの方へ向かって行った。

「あ、ラム……」

 さんざん罵倒されて意気消沈しているソニアが、困ったような視線をラムリーザに向けてきた。

「誰だお前は?」

「ココちゃんというものです、お見知りおきを」

 やはりリゲルと違って知名度無いな、とラムリーザは思いながら適当に返事する。とっさに出たココちゃんという名前が何なのか、少しだけ思いめぐらせて、例の白いぬいぐるみだということを思い出した。

「ぷっ」

 ココちゃんという名前にソニアが噴き出す。よかった、少しは機嫌が戻ったようだ。

 しかし問題はこれから。ラムリーザが記録を出せなかったら、ソニアはますます落ち込んでしまうだろう。しかし、逆に勝ってしまったら調子付かせるだけという結果になるのも見えていた。

「ちょっとごめんよ」

 そう言って、パッドの前に立ち、右手の拳を思いっきり握りしめる。次に右足を一歩引いて、左手を前に突き出して構えを整えた。

 帝都の実家で、何度か妹のソフィリータと組み手をしたことを思い出す。また、格闘技に興味を持った妹の指南役をしてくれていた、身辺警護のレイジィが言っていたことを思い出す。

 打ち付ける瞬間、左手を引いて力を込める……っと。

 頭の中でイメージしながら、ラムリーザは力強くパッドを殴りつけた。

 

 バターン! ガタッ!

 

 叩きつけられたパッドの勢いで、筐体自体が震えて音を立てた。

 ソニアは、その激しさに「うわっ」と小さく呻く。

 記録は堂々たる145ギガ。

「…………」

 三人組は、唖然として立ち去っていってしまった。

 その後ろ姿を見て、ソニアの表情がみるみるうちに満面の笑みを浮かべていく。

「きゃー、やっぱりラム最高だぁ。強い男ってラムみたいなのを言うんだよねーえっ。あんた何? 120? よっわ!」

 去っていく三人組に聞こえるように、わざと大声で叫ぶ。だが三人は振り返ることもなく、ゲームセンターから立ち去っていった。

 完全にソニアは調子付き、リリスも「ラムリーザって強かったんだ……。そっか、リンゴ握りつぶすんだもんね……」と呟き感心している。

「ユッコの三倍のパワー、ユッコが一番よっわ」

 ソニアは自分が「よっわ」、と言われて悔しかったのか、その言葉を連発し、今度はユコに対して得意げに使う。

「いいんですの! 私はラムリーザ様に守ってもらうんだから、余計な力は必要ないんですの」

「エターナル・ライディーンより、ココちゃんパンチの方が三倍強いんだよね」

「う、うるさいですわ――」

 そこでユコは言葉に詰まってしまうが、リリスがすぐに耳元で何かをささやいた。それを聞いたユコは、大声を張り上げてソニアを挑発する。

「――一メートルの牛怪人! バッファロー・ガール!」

「なっ――!」

 ラムリーザはやれやれと肩を落とした。ソニアを元気づかせたら、今度は内紛を勃発させてしまった。

「はいはい、ちょっとごめんよ」

 そこに救世主となるのかどうかわからないが、ロザリーンがパンチングマシーンの前に立った。

 そこでまさかの150ギガパンチを出すのか?

 ロザリーンは綺麗なフォームで一発パッドを殴りつけた。

 記録は72ギガ。

 よかった、普通だ。

「よっわ――、じゃなくて、72?!」

 ソニアは一瞬ラムリーザと比較して煽ろうとしたが、すぐに自分の記録を上回っていることに気が付いて声が裏返った。

「ええと、ラムリーザさんには当然敵わないけど、ソニアさん? えーと、よっわ」

 ロザリーンにしては珍しい煽り文句――おそらくネット文字だと語尾に大量の草を生やしているだろう――を放ってから、リゲルがプレイしているゲームを見るためにその場を離れていった。

 よく言ってくれた! とラムリーザは心の中でガッツポーズをする。これでソニアも大人しくなるだろう。

 

「エターナルフォースブリザード!!」

 

 ゲームセンターに居る客の何人かが、パンチングマシーンの方へ振り返る。

 ソニアはロザリーンに負けたことが納得いかなくて、ユコみたいな謎の技を叫びながら再び叩き始めた。

 しかしなかなか70ギガに到達することができない。

「ラストスパイラルアゲイン!」

「バーニングサラマンドルバニッシュ!」

「ミスティックシャドウエクスプロージョン!」

 ソニアは大声で謎の技を連発する。かっこいいような響きを持たせているつもりだろうが、64、58、52とどんどん記録は落ちている。これは、ゲーム風に言えばパワーがピークを越えて減少していっているのだろう。

 とうとう肩で息をし始めた。もう限界だろう。

「くっそー、ここは最強の技で……」

 ソニアは大きく振りかぶって叫んだ。

「ココちゃんパンチ!」

 ソニアとしては、最高記録を出したココちゃん、もといラムリーザにあやかったつもりなのだろうが……。

「よっわ」

「くすっ」

 ユコがからかい、リリスも噴き出す。その記録は最低記録の45ギガ。

「ふえぇ……」

 

 結局この日は、ココちゃんことラムリーザの出した145ギガの記録を超えるものは、現れなかったのであった。

 
 
 
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