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リゲルとロザリーンを近づけよう

 

 月初めの週末には、オーバールック・ホテルで月一のパーティが行われることが習慣になっている。

 最初は、地元有力者の子息が、高校入学前の顔合わせ目的で行ったものだが、思ったよりも好評だったために毎月のイベントにした、という背景があった。そういうわけで、今では社交の場となっているのだ。

 そこには、ラムリーザとソニアも参加していた。

 

 ラムリーザにとっては久しぶりのパーティだ。

 これまでは三回参加していて、最初の四月と五月に親と一緒に自家用車でホテルまで向かい、六月にはホテルまでの路線が開通したというのもあって、リゲルの計らいで電車で向かっていた。

 七月は学校の試験直前というのもあって中止。八月は自動車教習合宿に行っていたので参加していなかった。

 こういった具合に、絶対に参加しなければならないというイベントではないが、社交の場として他の生徒の参加率は、何気に高かったりしているのだ。

 

 さて、今回は電車で行くか車で行くかという話になった。自動車を運転できるようになったので、移動手段が増えたのだ。

 そこで、リゲルの提案で車で行くことになった。リゲルは、自家用車であるビートルといった、丸っこくてカブトムシを連想させるような車を気に入り、いずれは自分のものにしようと考えていたりするのだ。

 乗る座席は決まっていた。

 自分の女以外の女は助手席に乗せないというリゲルのポリシーにより、ラムリーザが助手席。ソニアとロザリーンが後部座席に乗ることになった。

 車を走らせると、すぐにソニアが前部座席に乗り出してくる。いつものミニスカートと違い、ロングドレスということもあって、下着丸出しという醜態は避けられている。しかし、大きな胸を突き出すという行為には変わりは無い。

 たゆんたゆんと揺れる胸、リゲルのような冷静な者じゃなければ、運転を続けることは精神的に困難かもしれない。

 なにしろ顔の横で胸が揺れているのだ。迷惑この上ない。

 今回も、またソニアは「ロックミュージックをかけて首を振りながら行こうよ」と提案したが、リゲルはすぐに古典音楽をかけてまったりとした雰囲気を作り出した。

 ラムリーザとロザリーンは和んでいたが、ソニア一人、むーんと不満そうな顔をしているのだった。

 ラムリーザの中では、今回のパーティには目的を作っていた。

 それは、リゲルの父にロザリーンを紹介してみるというものだった。

 先月夏休みのキャンプで、リゲルから去年までの話を聞くことができた。それは、去年まで付き合っていた彼女を、身分が合わないという理由で親に無理矢理引き裂かれた話だ。

 それはそれで酷い話なのだが、いつまでも過去に囚われていたのでは前に進むことができない。

 そういうわけで、最近リゲルと仲が良い首長の娘であるロザリーンを紹介してみるのだ。これならば、身分が違うなどと言われることは無いだろう。

 

 ホテル前に到着して、会場に歩いて向かう途中、ソニアは段差に足を引っ掛けて前のめりに転んでしまった。

「いいから!」

 ソニアは、心配して駆け寄ろうとするラムリーザを制して言った。多少ヤケクソ感が入っている。

「足元ちゃんと見ろよ」

 リゲルは笑みを浮かべて、無理難題を投げかけてきた。ソニアは、胸が大きすぎて足元が見えないのだから、無理な話だ。

「ちゃんと見てるわよ!」

 すくっと立ち上がって、できもしないことを再びヤケクソ感漂わせて言い放った。しかし……。

「あ、そこ金網……」

 ラムリーザが言いかけたが遅かった。

 足元の見えないソニアは、ハイヒールで金網の上に足を踏み出した。そのため、細いヒールが金網の間にズボッと刺さってしまったのだ。

「えっ? な、何これ?」

 ソニアは突然の出来事に慌てふためいて尻餅をついてしまった。ラムリーザが軽くため息を吐く横で、リゲルは笑いをこらえているようだ。

 ラムリーザはソニアの手を取って立ち上がらせたが、ソニアは足を取られたままだ。

「ぬ、抜けないよ、ふえぇ……」

「やれやれ、しょうがない奴だな」

「先に行ってるぞ」

 ソニアの足元に屈みこんだラムリーザを放っておいて、リゲルはロザリーンを連れて、先に会場入りしていった。

「ほら抜けた、これで大丈夫――って、ぬおっ」

 ラムリーザが立ち上がろうとした時、ソニアの大きく突き出た胸に下から頭をぶつけてしまった。その勢いでソニアはふらついて、また尻餅をついてしまうことになる。

「ラムの馬鹿っ、ふえぇ……」

「す、すまんすまん」

 再びソニアを起こすために手を伸ばしながら、全く難儀なおっぱいだな、再びラムリーザはそう思うのだった。

 

 会場内、いつものグループが出来上がり、いたるところで雑談が行われていた。

 ソニアがいつも通り食事を堪能しているので、ラムリーザのグループは、自然と食卓付近が定位置となっていた。

「えっと、リゲルの親はどこ?」

 ラムリーザは早速話を切り出した。まずはリゲルの親に会わなければならない。

「父ならあそこに居る。何をする気だ?」

 ギロリとリゲルはラムリーザを睨みつける。やはり親との仲は悪くなっていたか。

「挨拶しに行こう、ロザリーンもおいで」

「待てっ、お前っ……。ちっ……」

 ラムリーザがロザリーンを連れて行くと、リゲルも仕方なく後を追うのだった。ソニアは一人、チキンにかぶりついているが、今回は必要ないので十分ご馳走を堪能するがよい。

 よく見ると、リゲルの父親は誰かと話しをしていた。見たことある顔、首長だ。これは都合が良い。

 ラムリーザは二人に挨拶をして、次にリゲルとロザリーンをそれぞれ紹介してみた。すると、思わぬ方向から返事が返ってきた。

「君がリゲル君か。ローザがお世話になっているようだな」

 誰だろう、感じの良い好青年って雰囲気だ。ここに来ているということは、同じ学校の生徒かな?

 ロザリーンと同じ濃いめの金髪を短く整えていて、すこし優しそうで、それでいて真面目そうな男性だ。

「ん、そういうことになるな」

 リゲルの普段通りの冷めた対応にも、軽く笑いながら返してくる。

「そう固くならなくていいさ、リラックスリラックス。自分はローザの兄、ユグドラシルだ。リゲル君、よろしくね」

「よろしく」

 リゲルは素直に挨拶を返して手を差し出す。ロザリーンの兄なら見下す対象にならないといったところか?

 しかし、ロザリーンに兄が居ることはラムリーザはこれまで知らなかった。聞いた話では、ラムリーザ達より一つ上で、同じ学校の二年生だそうだ。

「君は誰だい?」

 ユグドラシルは、今度はラムリーザの方へ興味を向けてきた。

「ふっ、やはりそうなるか」

 リゲルはユグドラシルの反応に、少し笑いを浮かべた。しかしこれも仕方が無い。この地方では、ラムリーザはまだ無名のようなものだった。

「え? 知ってないとまずい? ん~、ん~……。いや、やっぱり初対面だ。自分やばい?」

「安心してください、初対面です。僕はラムリーザ・フォレスター、この春ここに着たばかりです」

 ラムリーザは、ユグドラシルがこれ以上不安にならないように、ことさら初対面を強調して自己紹介してあげた。

「ラムリーザ君ね。フォレスター……、フォレスターって、ひょっとしてあのフォレスター?」

「『あの』が何を指しているかわからないけど、父はラムニアス・フォレスターです」

 ユグドラシルが少し慌てた素振りを見せたので、ラムリーザは父の事を話してみた。

「帝国宰相! うーわ、大物! ローザお前、こんな人と知り合ってたのかよ」

「落ち着いて兄さん、こんな人って、ラムリーザさんは面白くて頼りになるし、友達に慕われているいい人ですよ」

「ふーん、ローザは恵まれているなぁ。それで、ラムリーザ君とリゲル君、どっちが本命?」

「どっちが本命って、そんな……」

 ロザリーンは、食事を止めていつの間にかラムリーザの傍にやってきていたソニアを目にして口ごもった。ソニアの強い視線は、ラムリーザを本命と言えば攻撃すると言った輝きを見せていた。

 ただ、右手に持ったままの骨付き肉が、ソニアをなんだか妙な雰囲気に作り上げている。

「あれ、また新しい人だ。そっちの、え~、その~、お~、胸が不自然な娘は誰?」

 ユグドラシルの口調が怪しい。ソニアの胸を表現する言葉を捜していたようだが、うまく表現できなかったみたいだ。そしてその表現はよくなかった。

「不自然な胸って何よ!」

 出た。ソニア得意の大声。初対面でも容赦ない。一つ上と分かっても容赦ない。

「うおっと、怖い怖い。そのー、大きすぎる……、ダメだ」

 ユグドラシルは、ソニアの胸を的確に表現できない。言いかけた大きすぎるという表現も、おそらくアウトだろう。

「もういい!」

 アウトだった。

 ソニアは怒ってそっぽを向いてしまった。

「落ち着け、はい深呼吸。そして挨拶、はいっ」

「すー、はー、すーは、はー。ソニア・ルミナスです」

「ユグドラシル・ハーシェル。で、このでか……、娘は何?」

「僕の恋人です。将来結婚します」

 ラムリーザは、ここにリリスが居たら「でか娘?」と突っ込んでくるだろうなと思いながら、ソニアとの関係をそのまま語った。

 そのラムリーザの言葉に、さっきまで不機嫌だったソニアは、パッと顔を輝かせてラムリーザに寄り添ってくるのだった。

「なんだぁ、ラムリーザ君には先約が居たのか。ローザも残念だな」

「残念だなんてそんな、私は気にしていません」

 ロザリーンは、相変わらずソニアの視線を気にしながら言葉を選ぶ。ラムリーザ絡みになると、ソニアはうるさくなるから仕方ない。

「しかしすごいな、ラムリーザ君の恋人か。何? 大臣とか帝国騎士団長とか?」

「こいつはすごくない。ただの使用人の娘だ」

「うるさい!」

 ユグドラシルの間違った推論をリゲルが正し、そのことに対してソニアは不満をぶちまける。事実なのだから仕方ないだろうに。

 不機嫌になったり愉快になったり、本当に感情表現が豊かな娘だ。

 

 こうしてラムリーザは、リゲルの親にロザリーンを紹介したが、食いついてきたのはロザリーンの兄だったわけである。まだ話は始まっていなかったようだ。

 
 
 
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