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風船おっぱいお化け

 

 定期試験後に数日間の休みがあるのは、前回の試験の時と同じだ。

 今回も、週の前半三日に試験が実施され、後半三日が休みになったのだ。

 ラムリーザ達は、前回と同じように部室に集まり、この休みはどうすごすかという話し合いをした。リゲルもロザリーンと付き合うようになってからは、多少丸くなったようで、こういったレクリエーションに以前と比べて快く参加してくれるようになったのだ。

 その結果、夏も終わるし一度はプールに行っておこうという話になったのである。

 待ち合わせ場所は、いつも通りラムリーザの下宿している屋敷前だ。今は車があるから、わざわざ駅やバス停まで行く必要がなくなったのである。

 

 この日の朝、ラムリーザとソニアは朝食を済ませてから出かける準備を始めていた。

 ソニアなどは、気が早いのか既に水着姿だ。巨大な胸を包み込むには頼りない緑色のビキニが危うい。

 服の下に着ていけば、プールで着替える時間が早くなって、それはそれでよいと考え、ラムリーザは特に何も言わずにいた。しかし……。

「さてと、行こっかー」

「待て、その格好で出るな……」

 ラムリーザは、ソニアが水着のまま部屋から出て行こうとしたので慌てて止める。

「てへっ、やっぱりダメ?」

「そのくらい気付け、というかわざとかよ……。しかし、下着でうろつくのは恥ずかしいのに、水着だとなぜ平気なんだろうね。どっちも大して変わらないじゃないか」

「それじゃあ、今度下着だけで一緒に散歩してみる?」

「……どうしてそういう話になる。とまあ、のんびりしてないで服を着て行くよ」

 というわけで、水着の上から普段着を着て、着替えを鞄につめて出発。

 

 ラムリーザとソニアが下宿している屋敷は、学校からも駅からも歩いて二十分ぐらいの所にある。駅から学校までは歩いて十分ぐらいの距離で、学校は屋敷からより駅からの方が近かった。駅から一番近いというのが、その学校を選んだ一つであったのだが。

 リリスとユコは、お互いに隣同士の家に住んでいて、屋敷までは歩いて十五分ぐらいの近さにあった。ただ方角の関係で、学校までの時間はそれほど変わらなかったりする。

 リゲルとロザリーンは、ラムリーザの住んでる町の駅から帝都方面に二駅離れた住宅街に住んでいる。一駅向こうがエルム街というこの地方一番の繁華街で、二駅向こうが住宅街ということだ。

 これからみんなで行こうとしているプールは、帝都側と反対である新開地方面へ北西に向かい、車で約十五分という所にあった。こそは、高峰アンテロック山のふもと付近に位置していた。

 

 ラムリーザがリリス達とと合流してしばらく経った頃、リゲルお気に入りのビートルが登場した。助手席にはロザリーンが座っている。

 到着するなりロザリーンは、自分の席をラムリーザに譲ろうとしたが、ラムリーザは「そのままでいいよ」と言ってロザリーンを押しとどめた。

 かつてリゲルは、助手席に乗せる女は自分の彼女しか乗せないと言い張ったことがあり、ソニアを突っぱねてラムリーザを乗せたことがあった。しかし今は、ロザリーンがリゲルの彼女の地位を獲得している。ラムリーザは、空気を読んで自分は後部座席に乗り込もうとしたのだ。

 その時気がついた。

「ん? この車の後部座席に四人も乗れるのか?」

 ビートルはそれほど大きな車ではない。後ろに四人が乗るには、かなり窮屈だと思われる。

 夏休みにキャンプに行ったときは、大きなバンに乗っていたので、後ろに四人が乗っても十分なスペースがあったのだ。

「しまった、バンで来ればよかった」

 リゲルは自分の頭をくしゃくしゃとかき回しながら言った。

「さて、どうする?」

「ソニアが留守番で」

 ラムリーザの問いに、リゲルは何も悪びれずに即答する。

「なっ、なんでよ!」

「だったらソニアは、後ろのトランクに丸まって乗ったらどうかしら、くすっ」

 リリスも調子に乗ってソニアをいじりだす。

「だったらトロッコ引っ張って、そこにリリスが乗ったらいいじゃないの!」

「はいはい、落ち着こうね」

 ラムリーザは、ソニアを後ろから抱きかかえて言った。片腕でひょいと持ち上げる。

「やーん、下ろしてよぉー」

 ソニアがじたばたともがくのを無視して、ラムリーザはユコから順に後部座席に乗り込むよう指図した。リリスに真ん中に入ってもらい、ラムリーザはソニアを抱きかかえたまま最後に乗り込んできた。

 四人並ぶのは厳しくても、三人ならなんとか乗り込むことができる。そういうわけで、ラムリーザはソニアを抱きかかえることで、実際に座席に座るのを三人に抑えたわけだ。

 乗り込むまではもがいていたソニアは、ラムリーザに抱っこしてもらっている形になってることに気がついて上機嫌。リリスなどは、「場所代わる?」とか聞いてくるが、ソニアは「絶対に嫌!」と答えるのだった。

 今回はキャンプと違い、荷物は着替えぐらいなので鞄も小さく、後ろのトランクにまとめて入れることができたのだ。問題なし、プールに向けて出発!

 

 

 ポッターズ・ブラフ市民プール。

 学校は試験明けの休日となっているが、世間では平日なので人は多くない。若者がちらほらいるのは、ひょっとしたら同じ学校の生徒かもしれない。あとは、おじいちゃんおばあちゃんがウォーキングしているぐらいだ。

「ソニアのおっぱいに視線が集中、くすっ」

「100の5kgですものね」

「うるさい!」

 プールサイドに集まるや否や、リリスとユコはいつものようにソニアを挑発する。もうお決まりのパターンだ。そんなに人が多いわけではないので、集中するほどの視線は無い。

 ソニアはそんな二人を振り切って、一人プールに飛び込んでいった。

「あ、準備運動――」

「こら、飛び込み禁止と書いてるぞ!」

 ラムリーザとロザリーンの注意が同時に飛び交う。

 しかしソニアは、全く耳を傾けずに「あー、胸が楽」とか言いながらパシャパシャやっている。つまり、また水から上がったときに重いと言ってへたれこむのだろう。

 

 しばらくの間、適当に泳いだり水をかけ合ったりして遊んでいた。

 リリスのお気に入りなどは、ラムリーザに足の裏から持ち上げてもらって、思いっきり水面からジャンプすることだった。ラムリーザの桁外れの腕力ならではの遊び方だ。身体が完全に水面から飛び跳ねるので多少危険だが、リリスは空中でクルリと回ったりして楽しんでいた。

 そこにトラブル発生!

 泳いでいた小学生ぐらいの子供が、ソニアの胸に頭から衝突!

「うわっ」

 ソニアはびっくりしてのけぞり、リリスはくすっと笑って言った。

「クッションがあってよかったね」

「なっ――」

 ソニアがリリスに突っかかる前に、子供が真顔でソニアの巨大な胸を指差して大声で叫ぶ。

「うわーあっ、何この風船みたいなおっぱい!」

 それを聞いて、リリスやユコは吹き出してしまう。

「なっ、おまっ――、おんどりゃあ!!」

 ソニアは一瞬うろたえた後に、顔を真っ赤にして子供相手に怒鳴りつけた。あまりの理不尽さに、どこの言葉かわからない台詞を口にしていた。

「わーん、風船おっぱいお化けが怒ったーっ!」

 子供は一目散に逃げ出す。リリスやユコは、もうニヤニヤが止まらなかった。おそらく新しいネタを仕入れることができたのだろう。

「もうやだ! 休憩!」

 ソニアはそう叫ぶと、プールから上がるために手すりに向かっていった。そのまま身体を水面から持ち上げたところで動きが固まってしまう。そしてそのままへなへなとうつぶせにかがみこんでしまった。

「重いのね、1メートルの風船おっぱいお化け、くすっ」

「重いんですのね、5kgの風船おっぱいお化け」

「うるっさいわね! ふえぇ……」

 ソニアは、大きな胸をかかえてなんとか立ち上がると、そのままふらふらとプールベンチに向かっていって横になるのだった。

 

 ソニアが一人プールから上がっていったので、他のみんなも一旦ここで休憩することにした。

「ねぇ、ジュース買ってきてよ」

 ソニアはラムリーザに買出しを要求する。その様子を見て、リゲルはフッと鼻で笑って言った。

「使用人が主人に雑用を頼むか、あべこべだな」

「なによー、あたしは使用人じゃないよ、ラムの恋人! 婚約者よ!」

「ジュースぐらい自分で買いに行け」

「だってぇ……」

 ソニアは胸を抱えたまま動こうとしない。重たくて動きたくないのだろう。

「そうよ、婚約者は先走りすぎですわ!」

 ユコもリゲルに同調してソニアを攻め立てる。

「なんで先走りなのよー」

「今現在の恋人は、ソニアで別にかまいませんわ。でも、将来の妻が誰になるかどうかはまだわからないですの」

「こ、こいつ……、寝取る気だ……」

 ソニアは、ユコをにらみ付けながら言ったが、ユコはすまし顔で知らん振りだ。そんな二人は置いといて、リリスもラムリーザにジュースの買い出しを依頼してきたので、仕方なくラムリーザは席を立つのだった。

「やれやれ、領主様とやらが、こんな平民の使い走りか。威厳もへったくれも無いな」

 リゲルはそう冷やかしながら、自分も席を立ち、ロザリーンに何が欲しいか聞いている。

「まぁ、公の場ではそうやってたらあまり良くないかもしれないけど、私的な場所ではリリス達とは友人で居て欲しいからな」

 リゲルは苦笑いを浮かべ、ラムリーザと共に買い出しに向かうのだった。リリスは、友人という扱いに不満がありそうだが、ひとまず今はそれでいい。

 ラムリーザは、ソニア達四人に声が届かないところまで来たときに、リゲルに尋ねてみた。

「平民のミーシャが頼んできた時は、リゲルも聞いてあげていたんだろ?」

「当然だ、お前は間違ってない」

 やはりリゲルは根は優しい、ラムリーザは改めてそう思うのだった。

 
 
 
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