home > 物語 > > 知名度の低さによる歪み問題

知名度の低さによる歪み問題

 

 ラムリーザとリゲルの二人は、ソニア達にジュースの買い出しを頼まれて、自動販売機の前へやってきた。プールに来ているということで、二人とも上半身裸だ。

「ふむ、裸をまじまじと見つめたいわけではないが……」

 リゲルはラムリーザの上半身を見てつぶやいた。

「お前、上半身妙にごつくないか? 筋肉がというか、皮膚が硬くなってないか?」

「うーん、ソフィリータや先生との格闘技の練習で、かなりボディ食らってきたからね。どうしても頭ガードするからボディが開くんだわ。あ、ソフィリータは妹の名前ね。遠慮はしてくれるけど、開き直ってボディ鍛えたら? って話になって、わざと打たれたりしてみてたんだよ」

「ちょっと触るぞ……。うむ、なるほどな……」

「たぶん多少の攻撃なら、ボディに食らっても平気だと思う。試しに一発打ってきてみてもいいよ」

 リゲルはコツコツとこぶしでラムリーザの腹をつつく。それから首を振って遠慮してきた。

「いや、やめとく。こぶし壊しそうだ……。このボディにリンゴ潰しにあのパンチ力。でもヘッドはダメ、なんなんだお前は」

 ラムリーザは言われてみて我ながら妙だなと思いながら、適当にジュースを選んで購入する。購入した缶を持っているところに、リゲルが「潰すなよ」と冗談を言ってきた。

「いや、それは無いって……」

「あ、俺ちょっと便所行くから、先に戻っていてくれ」

 というわけで、ラムリーザは缶ジュースを抱えてみんなの所に戻っていった。

 

 

「ねぇねぇ、俺達と遊ばない? 君美人だね」

「へっへっへっ」

 ラムリーザ達が戻ってくると、ちょうどソニア達が三人のチャラそうな同年代の男子に囲まれている所だった。要するに、ナンパされているわけだ。

「そんなんと遊ぶのなら、ラムに付きまとうな!」

 ソニアは三人の男子と遊ぶことには否定的で、微笑を浮かべているリリスに文句を言う。

「それは困るわね、どうしようかしら」

 迷ってみせるリリスに対して、男子はさらに声をかける。キーキーうるさいソニアよりは、物静かなリリスの方が扱いやすいと思ってか、ソニアの方には嫌らしい視線を向けるだけであまり声はかけない。

 しかし、それはリリスにとってあまりよくない言葉だった。

「いいじゃんか、根暗吸血鬼と遊んでやるって言ってるんだ」

 そう言ってリリスの手を強引につかもうとしてきた。リリスはスッと手を引いて厳しい口調で言い返す。

「私は根暗吸血鬼じゃないんだけど。誰かと勘違いしてないかしら?」

「なんだお前、リリスだろ?」

「あなたの知ってるリリスは死んだわ」

「わけわかんねーこと言ってねーで、いいからこっちこいよ!」

 とうとう絡んできた男子は、いらいらした感じでリリスの手をつかんで引っ張ってきた。彼にとっては、リリスはただの根暗吸血鬼であり、遊んであげると言っているのだから大人しく従え、とでも言いたいのだろう。

「離して!」

「こらっ、何してる!」

 そこに丁度ラムリーザ達が戻ってきたということだ。

 しかし、リリスの手をつかんだ男子は、ラムリーザを見ても「ん? 何だお前は?」と言っただけで、乱暴を止めようとしない。

「その緑色の娘は僕の恋人、黒髪と金髪二人は友達だから乱暴しないでくれると助かるんだけどね」

 ラムリーザは、このような人達とこれまでに帝都で接してきたように話しかけてみる。しかし返ってきた返事は、ラムリーザがあまり経験したことのないものだった。

「おー、お前は何? 自分が正しいみたいな顔をしてハーレム築いてんの? なんなん? 生意気だぞ、死ぬの?」

「生意気と言われても困る。うちのバンドのメンバーだし、勝手に連れて行くな」

 三人の男子の意識がラムリーザに集中した所で、ソニアとリリスとユコはラムリーザの後ろに逃げ込んだ。一方ロザリーンは、リゲルを探すためか、その場を離れていったようだ。

「おいおいお前モテモテだな、俺達にも分けろよ」

「嫌がってるからダメだ。彼女達が望むのならいくらでも分けてやるが、どうやら彼女達は僕を選んだようだ。だからダメだね」

 ラムリーザは手で追い払うような仕草を見せながら言う。しかしそうすることで、彼らはいきり立ってしまったようだ。

「てめぇ、ふざけんなよ?」

 そう言いながら、ラムリーザの方へと詰め寄ってくる。

「ちょっとやめてよ……」

 いつも強気なソニアが不安がっている傍で、リリスとユコは「リンゴ潰し」だの、「140ギガパンチ」など言いながら、ラムリーザの後ろに隠れたまま自信満々な態度をとっている。

 三人の中の一人が、とうとう腕を振り上げてしまった。ラムリーザは落ち着いて上段に構え、その腕を受け止める体勢を取った。

「こら!」

 そこに鋭い氷の刃のような低い声が突き刺さってきた。ロザリーンに手を引かれたリゲルが現れたのだ。

「うっ、リゲルか……」

 リゲルの姿を見た三人は、少し顔をしかめて見せた。

「ふっ、確かお前らレフトールの取り巻きだったな? レフトールは元気にしているか?」

 リゲルは、大胆不敵な笑みをうかべて、今にもラムリーザに殴りかかろうとしている三人を、冷たい視線で見つめていた。

「やばいぞ、どうする?」

「なんで根暗吸血鬼とリゲルが一緒なんだよ」

「いや、あの爆乳は知らんけど、あの中に首長の娘が居ただろ? その仲間じゃね?」

「ならあのハーレム野郎は誰だよ……」

 などと小声で話し合っている。

 しばらく話し合った後で、一人がリゲルに尋ねてきた。

「えーと、このハーレム野郎はリゲルのダチ?」

「そうだが、どうした?」

 リゲルは腕を組んだまま、当然といった感じに答えた。それを聞いた三人は、それ以上絡む事はせずに、この場を立ち去っていった。

「運がよかったな、今日はMPが足りないみたいだ」

 そんな捨て台詞を残しながら……。

 

 

「ふー、助かったぁ」

 ソニアは、ジュースを飲みながら大きく伸びをする。

「あいつらむかつくわ。根暗吸血鬼呼ばわりしつこいねー」

 リリスも、以前のようにショックを受けるわけではなく、少々うんざりしたような感じでソニアに続く。

 そこでラムリーザは、少しでも慰みになるようなことを言ってあげた。

「ま、それだけ美人になったってことだ。ホントに根暗吸血鬼――、あ、ごめんよ――ならば相手してこないだろうしね」

 リリスはラムリーザに誘うような微笑を浮かべて答えた。

「ふふっ、ラムリーザ。私をしっかりと捕まえていないと、フワフワと飛んで行っちゃうぞ」

 リリスの色目に、すぐにソニアが噛み付く。

「ラムは捕まえなくていい。リリスが勝手にフワフワ飛んで行くのを眺めてたらいいんだ」

 リリスは、座ってるソニアの前に移動して見下ろしながら言い返す。

「フワフワ飛ぶのはあなたじゃなくて?」

「な、なによ!」

 ソニアはすぐに立ち上がってリリスをにらみつける。しかしリリスは、ソニアが立ち上がってると、すぐにいたずらっぽい目つきで見つめながら言った。

「よーく見て、かわすなりガードするなりしなさいね」

 そう言いながら、リリスはゆっくりと勢いを付けて、ソニアのすねを蹴飛ばした。

「痛っ! 何すんのよ!」

「フワフワ飛びそうな風船おっぱいお化けは、足元がお留守よ、くすっ」

 リリスの言うとおり、ソニアの足元は、巨大な胸のせいで死角になっているのだ。リリスはゆっくりと蹴飛ばしたのに、ソニアは何もリアクションを取らなかった、いや、取れなかったのだ。

「このぉ――」

 ソニアは、怒ってリリスの太ももに手を伸ばしかけたが、そのまま固まった。残念ながら今のリリスは素足で、ソニア得意の謎の靴下攻めができない。

 そこでソニアは、残っていたジュースを口に含むと、一気にリリスの顔面目掛けて噴出してやったのだ。

「ぶっ、何すんのよこの変態乳牛は!」

 やいのやいのと騒ぎ出した二人を、ロザリーンはうるさそうにしてプール目掛けて突き飛ばしてやった。

「なっ、何よこの仮面優等生!」

「仮面って何のこと? とにかく、ちょっと頭冷やしなさいね――ってちょっと!」

 そのロザリーンをユコは後ろから突き飛ばして、「生き残ったのは私ですわ!」と謎の勝利宣言をするのだった。

 にぎやかになった四人を尻目に、ラムリーザはリゲルに話しかけてみた。

「それよりも、リゲルって喧嘩強かったんだね。あいつらリゲルの姿を見て立ち去って行ったし」

「まぁあいつらはたいしたこと無いが、それだけじゃない――それよりもだ、俺はお前が不安だ」

「なんで?」

「お前は実際の立場にあるべき知名度が無さすぎる。その歪みが俺は気になって仕方が無い」

「どういうこと?」

 ラムリーザには、リゲルの言うことがよくわからなかった。知名度とか言われても、まだ正式に領主になったわけではないし、そういうものはこれから作っていくものだ。そもそもこの地に滞在するのも、今の学校に通っている間だけだ。

 だからラムリーザは、きょとんとした顔で尋ねるだけだった。

「俺なら、例えばお前と非好意的な関係だったとしても、突っかかっていったりしないし、ましてや手など上げん。さっきのやつらみたいに暴力振るってこようとするなど、愚の骨頂だ」

「そりゃあ暴力はよくないよ」

 そこに、他のみんなをプールに突き落とした後で一人プールサイドに残っていたユコが割り込んできた。

「リンゴ潰したり140ギガのパンチのラムリーザ様が負けるわけありませんの」

「ラムリーザに暴力で勝ってどうする?」

 リゲルは、ユコを冷ややかな目で見据えて聞き返す。リゲルに睨まれる形になって、ユコは少し慌てた感じで言い返す。

「な、何ですの? 勝てるのはいいことじゃないですか。それに、ラムリーザ様は負けませんわ!」

 必死なユコを見て、リゲルはフッと笑いラムリーザとユコの二人から顔を背けてつぶやくように言った。

「ウサリギやレフトールがどうなろうが、俺の知ったことじゃないがな。ま、精々がんばってフォレスター家に歯向かうんだな……」

 リゲルはそれだけ言うと、プールサイドのデッキチェアに腰掛けたまま目を閉じた。

 

 

 一休みの後は、ソニアとリリスのバトルという展開になった。

 争いの原因は、いつものようにユコがまた一つ楽譜を完成させたので、そのリードボーカルの座を賭けてということだ。

 プールに来ているということで、今回は泳ぐことで決着を付けることになった。

 リリスなどは、ソニアが不利になるような要素を探し出してやろうとしたが、さすがに水泳ではリリスが特別有利になる点は見当たらなかった。

 プールを一往復泳いでみたが、ソニアとリリスはほとんど泳ぐ能力に差が無くて、ほぼ同時にゴールするというデッドヒートだった。そういうわけで、速度で勝負するのはやめにして、どちらが長いこと泳ぎ続けることができるか、という勝負方法に変更することにした。リリスの提案で、一定の速度を保つことを条件とするために、一往復差をつけることができたらその地点で勝ちというルールも追加された。

 これは、ソニアの大きすぎる胸が浮き輪代わりになるかもしれなくて、純粋に泳ぎ続けるだけだとリリスが不利になるかもしれないとリリスは考えたからだ。

 そういうわけで、ユコの合図で二人は泳ぎ始めたが、スタート直後からどちらも譲らず全力疾走――、いや全力疾泳か?

 しかし、スタミナ面も二人は互角だったようで、十分、二十分と経過していくがどちらも諦めず、差も開かない。

 二人ともすごいな、というわけでラムリーザは泳いでいる姿を見続けていたが、そのうち飽きて滑り台で遊び始めてしまった。

 ユコも、滑り台で遊んでいるラムリーザが楽しそうで、ロザリーンに審判役を交代してもらって滑り台に向かうのであった。

 

 一時間後――。

 

 ソニアとリリスはまだ泳ぎ続けていた。しかし、二人とも限界が見え始めていた。

「あれ、そろそろやばくないですの?」

 ユコの不安そうな声で、ラムリーザとリゲルは緊急時に備えて泳いでいる二人を監視し始めた。

「アホだな、あいつら」

「まぁ、何かに対して一生懸命になれるのはいいことだと思うよ」

 そして、ソニアとリリスはほぼ同時に限界を迎えてしまった。完全に疲れ果てて、ブクブクと沈んでいってしまったのだ。

「あ、沈みましたわ」

「やれやれだ」

 ラムリーザとリゲルは一緒にプールに飛び込んで、救出に向かうのだった。

 水の中でぐったりとしている二人を担いでプールから上がり、今日はこれで帰ることにした。とりあえず、これ以上遊ぶのは無理だろう。

 

 女子達の着替えには何故か三十分以上かかり、建物の入り口前に出てきたときには既に夕焼け空だった。

「着替えさせるの大変だったのですよ!」

「まったく、ソニア胸大きすぎ。嫌味ですか?」

 ほとんど動けなくなっていたソニアとリリスは、着替えるのを手伝ってもらわなければならないほどであり、それゆえに時間がかかったようだ。

 ソニアの着替え担当を受け持ったロザリーンの大きすぎ発言にも、ソニアは反論する元気も無い。

 更衣室から出てくるまでは、それぞれユコがリリスを、ロザリーンがソニアを抱えていたが、今は二人ともラムリーザ一人で抱えている。

 リゲルが駐車場からビートルを持ってくるまで、二人ともずっとぐったりしていた。

「全く、やりすぎだ、馬鹿」

 帰りの車内では、ラムリーザがソニアとリリスの二人を抱えたまま後部座席に乗り込んだりするので、一人はぶられているユコが不満そうにしていたりするのだった。

 結局どっちが勝ったかは不明。後日別の方法で決着を付けることになるんだろうな。

 
 
 
Sponsored Links



 
 
 前の話へ目次に戻る次の話へ

Digiprove sealCopyright secured by Digiprove © 2016
新しい記事
古い記事

return to page top

©発行年-2018 らむの夢日記