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竜虎相搏つ、ただしどちらが竜でどちらが虎かは不明

 

 駅の裏、人気の無い公園。

 ラムリーザがそこに付いた時、レフトールは既にやってきていた。

 お互い3メートル程離れた場所に向かい合って立つ。

「逃げずによくきたな」

 レフトールは、にやりと笑って言った。

「別に今日は逃げてもよかったんだけどねぇ」

「なんだと? 情けない奴だな」

「逃げてもソニアは僕の傍から離れていかないし、僕は別に君を脅威だと思ってない」

 リリスやユコはまだよくわからないが、ソニアに関しては長い付き合いだ。この程度のことで関係が壊れるわけが無い。

 しかしレフトールは、一度勝っているにも拘らずラムリーザが平然としているのが気に入らなかった。

「やはり記憶失うというのは、本当の事みたいだな……」

「もう一度確認しておくけど、こんなのやめないか? 君と僕が争う理由が全くわからないんだけど」

「頼まれたんだから仕方ないだろ?」

「誰に?」

「お前には関係ねーよ」

「そうか、それじゃあ仕方ないね」

 ラムリーザは、できることなら争いは避けたかったが、レフトールにはそのつもりは無さそうだった。しかも、レフトールは普通に戦おうとはしなかった。

「顔面殴って気絶させたのでは意味が無いから、やりたくは無いが非常手段を取らせてもらうぜ」

 やりたくないのだったら、戦い自体やめればいいのに、とラムリーザは思う。

 レフトールは少し離れた茂みのほうを振り返って呼びかけた。

「おい、お前ら仕事だぞ!」

 しかし、仲間を呼び出すことはラムリーザの想定内だった。以前リゲルから、常に二三人でつるんでいると聞いていたので、今夜も一人で来るとは考えていなかったのだ。

 だから、先に手を打っておいた。

 その為、レフトールが呼びかけても誰も現れることはなかった。

「お前ら!」

「あー、悪いけど、あそこの茂みに居た連中なら、もう動けないと思うよ」

「なんだと?」

「レイジィ、お疲れ様」

 ラムリーザがそう言うと、レフトールの呼びかけた茂みから一人の男が出てきた。

 その男はそれほど年配といった感じては無かった。しかし学生って感じでもない。年は24~25といったところか。

 細身で背は高く、目つきは鋭く相手は逃さないといった感じを受け取ることができた。

 のんびりした目つきのラムリーザとは正反対だ。

「誰だこいつは?!」

 レフトールは、想定外の出来事に声を上げる。

 レフトールの考えではこうだった。単純で簡単な方法だが、ラムリーザが頭を殴って失神させることが無意味である以上、これしかなかった。つまり、仲間を使ってラムリーザの動きを封じたところに、頭以外を徹底的に痛めつけるつもりでいたのだ。

「我が牙」

 ラムリーザは短く答えた。ただし、たった今思いついた名前である。

「何が我が牙だ、お前厨二病か?」

「あ、やっぱりそうなる?」

 その時、公園の入り口から二人の男子生徒が入ってきた。

「レフトールさん、遅れちまったわりぃ」

 二人はそう言って、ラムリーザとレフトールの方へと近づいてきた。

「おっ、丁度いい。遅れてきて正解だ。お前ら、こいつを捕まえろ」

 レフトールは、遅れてきた仲間にラムリーザを押えるように命令した。

 ラムリーザも遅れずに、レイジィの方を見たまま、黙って指先で指示する。

 レイジィは、音も無く滑るように移動して、二人の男子生徒の首筋へ手套を叩き込む。

 それで終わりだった。

 二人は倒れそうになったが、すぐにレイジィは二人を抱えるとその場を立ち去っていった。

「なっ、何者だこいつは?!」

 レフトールは、さすがにこの男、レイジィは手練れだということがわかった。それも並大抵な相手ではない、かなりの物だ。

「レイジィ。僕の周辺警護をやっていた者さ。強いよ」

「周辺警護って、お前何だよ?!」

「ラムリーザ・フォレスター……、知らないよね。もう一度聞くけど、こんなのもうやめない?」

「ふざけんな、お前は俺に勝てるとでも思ってんのか?」

「やってみなくちゃ、わからない。まぁ、レイジィけしかけてもいいけど、それじゃあかっこ悪いよね」

 こうして、誰が望んだのかわからないが、ラムリーザとレフトールは一対一で戦うことになってしまった。

 

 リゲルの話では、レフトールは足技に定評があるらしい。

 そこでラムリーザは、これはソフィリータとの稽古なんだと考えることにした。

 勝てるかどうかわからないが、ここは勝ってソニアやリリス、ユコを安心させてあげたいという気持ちは強かった。

 後は、いかに頭を狙われないようにするか……。

 ラムリーザの思いはそのくらいだ。

 一方レフトール。

 ラムリーザの言ったことが正しければ、頭に衝撃を与えて気絶させたとしても、記憶に残らないのだから自分の怖さを思い知らせることはできない。

 だったらここは、得意の蹴り技で「内臓ぶちまけて死ねや」と言ったところだ。

 レフトール自身、ラムリーザに対する恨みは無かった。むしろ知らない相手だ。

 だが、ハーレムを潰せと命令されたので、従っているだけだった。

 それは置いておくとしても、今日ラムリーザを見ただけで、取り巻きの美女を侍らせているのが気に入らなかったし、やつけたあとも平然としているのがまた気に入らなかった。

 突然現れた男が気味悪かったりしたが、ここで引き下がるわけには行かない。

 いろいろな思いが交錯して、ここに戦いが始まった。

 

 

 ラムリーザは、ゆっくりと上段に構える。

 レフトールから見ると、その構えはボディのガードを捨てて、ヘッドを守っているように見えた。弱点をカバーする形の構えだ。

 その構えは、レフトールにとって好都合だった。元より頭を狙う気はなかったのだ。

 ラムリーザも、こうすればわざわざ頭を狙ってくるとは考えなかったし、頭を狙ってきてもすぐにガードできる。むしろ、レフトールがボディを打ってくるのを待っていた。

 これまでに、妹のソフィリータの練習に付き合ってきた時に、開き直ってボディ鍛えをやってきたのもあったし、プールでリゲルに上半身を見られたとき、ごついと言われたりしたので、ボディの打たれ強さに賭けてみようかと思ったのだ。

 あとは、ゲームセンターで叩き出した140ギガのパンチが、実際にはどれだけの破壊力を持つか、である。

 それほど格闘経験があるわけではないので、そのぐらいしか手は思いつかなかった。

 

 レフトールは、ラムリーザのがら空きのボディ目掛けて鋭い蹴りを放ってきた。

 一方ラムリーザは、レフトールの動きに合わせてボディ打たれること前提、相打ちとなる形で右ストレートを全力で打ち出してみた。防御を捨てたカウンターだ。

 つまり、両者の攻撃はほぼ同時、レフトールの鋭いミドルキックがラムリーザの右脇腹に命中。ラムリーザのパンチはレフトールの鼻っ柱に命中した。

 その結果、レフトールは派手に吹っ飛ばされてしまった。レフトール自身は、蹴りを放っただけだが何故だか飛ばされて、鼻が熱い……。

 ラムリーザは、多少の痛みはあったが、耐えられない痛さではない。さすがに体重がある分、ソフィリータの蹴りより重みがある。だが、鍛えた壁の方が上だったようだ。

 やはり、ゲームセンターでトップレベルの記録をたたき出すパンチは、並みの威力ではなかった。

 

 ラムリーザは、再びゆっくりと上段に構えなおして、レフトールの次の攻撃を待った。

 下手に動くより、捨て身のカウンターを狙う方が確実だと、最初の攻撃でわかったのだ。

 レフトールは立ち上がり、もう一度鋭い蹴りを放ってきたが、結果は一緒だった。

 ラムリーザはレフトールに好きなようにボディを打たせて、カウンターのパンチを放つ。並みのパンチではないので、レフトールも大変だ。

 攻撃が終わると、ラムリーザはまたゆっくりと上段に構えなおす。頭だけは打たせない。

 レフトールは、作戦を変えることにした。このままカウンターを食らい続けていると、先にやられるのは自分の方だとわかってしまった。それほどラムリーザのパンチは、堅くて鋭かった。

 二発で少しだけ朦朧としてしまっているのに、蹴られているはずのラムリーザは平然としている。

 そこで今度はハイキックを放ってみた。うまくすれば、ガードを突き崩せるかもしれない。

 頭を狙って勝ったところで、ラムリーザの記憶には残らない。だが勝ちは勝ちだ。

 しかしラムリーザは落ち着いていた。

 左方向から飛んでくるレフトールの右ハイキックを左手で受け止めると同時に、右手で足首を掴んでやった。

 そのまま右手を高く掲げ上げ、空いた左手で膝裏を突き飛ばす。

 再びレフトールは、仰向けにひっくり返ってしまうことになってしまった。

 レフトールは、屈辱を感じていた。ラムリーザはどっしりと構えたままなのに、自分は転倒させられてばかりだ。

 今度は、蹴りを囮にして殴りつけることにした。左でミドルキックを放つが、これは囮。本命は右ストレートだ。

 ラムリーザは、最初の蹴りにこれまでと違って勢いが無いので、これは連続攻撃だなと悟った。

 蹴りのガードはせずに、次の攻撃を待つことにする。

 レフトールの視線が蹴りではなくてラムリーザの顔を見ている。ここにくるのだろう。

 ラムリーザの予想通り、レフトールは右手で殴りかかってきたので、ガードではなくて左手で拳を受け止めてやった。逃がさないぞ、とばかりにがっちりと掴んで離さない。

 レフトールは掴まれた右手を引こうとしたが、ラムリーザに掴まれた拳はびくとも動かなかった。

 なんて握力だ……、レフトールはそう思い、昼間屋上でラムリーザに掴みかかっていった子分を思い出して眉間にしわを寄せた。

 彼は、ラムリーザに掴まれた腕がしびれたと言っていた。

 まずいと思って、やぶれかぶれに左腕でパンチを放ったが、そちらもラムリーザに受け止められる結果となってしまったのだ。

 両手の拳を掴まれたレフトールは、焦ってしまい、蹴りを放って逃げようとしたが遅かった。

 ラムリーザは、この機会を利用して、レフトールの腕にダメージを与えてやろうと考えた。拳が使えなくなると、蹴り技だけになり対処が楽になる。

 レフトールの表情に、苦悶が浮かび上がる。

 ラムリーザは、両手に全力で力を込めて、レフトールの拳を潰しにかかったのだ。

 レフトールは、声にならないうめき声を上げて、その場に膝を着いた。

 リンゴやゴムマリを破壊する、ラムリーザの圧倒的な握力。それが、レフトールの拳を破壊しようとしているのだ。

 ラムリーザは、この攻撃がレフトールに効いているとわかって、ここでとことんやっておこうと考え、歯を食いしばり全力を腕に込めた。

 

 ゴキリ――。

 

 そんな鈍い音が聞こえたような気がした。

 レフトールは、「あ……、う……」と小さく声を漏らし、その場にうなだれてしまった。

 拳の破壊は、レフトールの戦意をも破壊してしまったようだ。

 ラムリーザは、ゆっくりと手を離したが、レフトールは立ち上がってこない。

 よく見ると、レフトールの指が、変な形にゆがんでしまっている。

 レフトールは膝を突いたまま動かない。

 そこでラムリーザは、念には念を入れて、最後の仕上げをすることにした。逆にこちらから恐怖を与えてしまえば、今後突っかかってくることはないかもしれない。

 なんだか自分が悪役っぽいな、と思いながら、レフトールの顔面を右手で掴みあげる。このまま、可能なところまで持ち上げてやろうと考えたのだ。

 全力を上げて持ち上げてみたところ、なんとレフトールの身体を右手一本で吊り上げることができてしまったのだ。顔面を鷲掴みにしたまま持ち上げる。知らない間にこんなに力がついてしまっていたのか、とラムリーザは思った。

 レフトールは反撃する気力は無いようだ。

 そこでラムリーザは、レフトールに言って聞かせた。

「君は三つの罪を犯した。わかるかい?」

「…………」

「一つ、僕に暴力を振るったこと。僕は君に何もしていないのに……、って今更いいや。そして二つ、僕の彼女や友達を不安にさせた。これはもっと許せないね。そして最後に、君はこの街のイメージを汚したよ。この街は、のんびりしていて過ごしやすい場所だなと思っていたけど、君のせいで怖い面もあるってことを知らされたよ、全く……」

 レフトールを片手で持ち上げたまま、ラムリーザは静かに語った。その最中、ラムリーザは掴んだ右手の手のひらを、何かが滴っていくのを感じた。夜の公園は暗くてよくわからないが、汗でも流れているのだろうか……。

 語り終わると、右手を開いてレフトールを開放してやった。ドサッと落ちて、レフトールはその場に座り込んでしまう。

 レフトールはもはや、これ以上戦うことはできないだろう。うなだれたまま動かない。

「以上、小競り合い終わり。これ以上絡んできたら、兄さんに連絡するからね。どうなっても知らないよ」

「くっ……、貴様……、ゆるさんぞ」

「困ったなぁ。そこまで僕が気に入らないのか? 僕も馬鹿じゃないんだ、どういったところが気に入らないのか言ってくれたら直すよ」

 レフトールはラムリーザの問いには答えなかった。実際は答えられない、答えたらいけないことになっているのだが、ラムリーザは知っているわけはなかった。

 だから、せめてやめて欲しいことだけ述べておくことにした。

「とにかく、僕は良いとしても――いや、良くないけど、彼女達は嫌がっているんだ。彼女達を怖がらせるのだけはやめてくれないかな?」

「お前……、あの手練れのボディガードみたいな奴、何なんだよ……」

 レフトールはラムリーザの頼んできたことには答えずに、戦い前に聞いてきたことを再び尋ねてきた。

「レイジィ、僕の周辺警護。最初に言わなかったっけ?」

「周辺警護って、お前いったい何者だよ……?」

「ラムリーザ・フォレスター。どこかで知って絡んできたんだと思うけど、違うのかな?」

「知らねーよ、そんな奴……」

「だよねぇ、地方だしなぁ。まあいいや、とりあえずあまり遅くなるとソニアが心配するから、僕はもう帰るね。それともまだ続けるかい?」

 ラムリーザは、座り込んでいるレフトールの顔面に再び右手を伸ばしてみる。するとレフトールは、掴まれる事を恐れたのか、ズルズルと後退するのだった。

 ラムリーザはその様子を見て、軽くため息を吐いて人気の無い夜の公園を立ち去るのだった。

 

 

 ラムリーザが下宿先の屋敷に戻ったとき、既に二十一時を回ろうとしていた。

 屋敷の入り口を上げると、玄関ホールに座り込んでいるソニアが目に入った。

「あれ? こんなところで何をしているんだ?」

 ラムリーザが声をかけると、ソニアはガバッと顔を上げ、ラムリーザの方へと駆けてきた。

「ラムだ! ラムが帰ってきた! ふえぇ……」

「ふえぇじゃない」

 そういってソニアの頭を撫でようと右手を持ち上げた瞬間、指先から血が滴り落ちているのに気がついた。

「あ……」

 二人はラムリーザの右手を見たまま言葉を失っていた。

 しばらく沈黙が流れた後、ソニアが恐る恐ると言った感じで口を開く。

「ラム……、怪我したの?」

「い、いや、別に右手は何とも無いよ?」

「じゃあ、これ何?」

 右手の指先から手のひら、そして肘まで血が流れた跡が残っている。

「蹴られたのは胴体だけだし、何だろうね……」

 ラムリーザは、もう疲れていたので深く考えるのはやめにして洗面所に向かい、一緒についてくるソニアに尋ねてみた。

「ところで晩御飯は食べた?」

「まだ食べてないよ! ラムが心配で食欲なんて出なかったよ!」

「しょうがない奴だな。それじゃあ手を洗ったら食堂に向かうか」

 

 こうして、ラムリーザが望んだわけではないが、レフトールとの一騎打ちは終わったのであった。

 
 
 
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