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しつこい人達

 

「少しは涼しくなってきたねー」

 登校中、ソニアは大きく伸びをして言った。

 十月も半ばを過ぎ、南国といえども暑さは影を潜めてきていた。

 ラムリーザとソニアの二人は、昨日は珍しく学校を休んだので、二日ぶりの登校だ。

 昨日は、朝一でラムリーザの母親ソフィアに学校を休むよう言ってきたので、ラムリーザはその通りにしたわけだ。そこにソニアは、「ラムが行かないなら行かない」を発動して休みに付き合ったりしていたのだ。

 登校している二人の後ろ、少し離れているが目の届く範囲に一人の男が周囲を警戒する目つきで二人を眺めていた。ラムリーザの周辺警護を再び始めたレイジィが見張っているのだ。

 ラムリーザは、これまでは警護は要らないと言っていたのだが、昨日母に言われて、日常生活に影響が無い範囲でということで、警護させることにしたのだった。

 

 この日は、教室についていつものメンバーが顔を見合わせても、誰もしゃべらず気まずいムードが漂っていた。

 ロザリーンは一応「もう大丈夫ですか?」と聞いてきたので、ラムリーザは簡単に「大丈夫」とだけ答えてあげた。

 リゲルは、ラムリーザと目が合った瞬間、腕を組んだままうなずいたが、リリスとユコに至っては、何をどう話せばいいのかわからないようで、ずっと黙ったままだ。だが、目はきょろきょろと泳いでいる。

 しかし実に気まずい。ラムズハーレム崩壊か?

 もっとも、崩壊したところでラムリーザのこれからの人生には何の影響も無い。実際ソニアは何も変わっていないわけだし……。

「空気悪いなぁ、屋上行こうよ」

 ソニアは沈み込んだ雰囲気を嫌がってか、ラムリーザの袖を引っ張って言った。

 とくに断る必要も無いので、ラムリーザはリゲルから鍵を借りて行くことにした。

「屋上、大丈夫か?」

 鍵を渡しながらリゲルは尋ねてくる。ラムリーザが襲われた場所が屋上なのだから、リゲルが心配してくるのも無理は無い。

「たぶん、大丈夫。ひょっとしたら報復あるかもしれないけどね」

 一昨日、ラムリーザはレフトールを迎撃している。それで大人しくしてくれたらいいのだが、報復の可能性も考えていたほうがいいだろう。

「報復?」

 リゲルは一昨日の話を知らないので、眉をひそめてラムリーザを見つめてきた。

「あー、うん。あー、えーと、まぁね、一応用心しておかないとね」

 ラムリーザは言葉を濁して、教室を出て行くソニアの後を追っていった。あまり事を大きくしたくなかったというのもあり、自分だけが知っておけば良い事だと判断したのだ。

 リリスとユコは、お互いに顔を見合わせて、ラムリーザ達の後を追うことにしたのだった。

 

 屋上は、やっぱり風が心地よくて快適だ。

 その雰囲気によって気分が落ち着いたのか、ユコは恐る恐るラムリーザにいろいろと尋ねてきた。

「あの、ラムリーザ様? 昨日は大丈夫でしたの? その、一昨日の夜は……」

 そういえば、リリスとユコがラムリーザを最後に見たのは、一昨日の放課後にレフトールと夜の公園で決闘するといった話だった。その話を聞いておいて、昨日はラムリーザが学校を休んだのである。

「あー、その話ね。昨日はちょっと親に休むよう言われて休んでいただけ。ソニアは別に関係ないのに休んだだけ。だからもう気にしなくていいんだよ」

「あの、決闘の話は……」

「ん~、こうして今無事に居るわけなんだけどなぁ」

「そうなの! もうその話はいいの!」

 なぜかソニアは語気を強めてその話を終わらせようとする。

「でも……」

「ラムは許してもらったの、だから終わり!」

 ラムリーザはなんだか話がおかしいと思った。許してもらえたのかな、とかそういう話にはならなかったはずだが……。

「いや、そうじゃなくてね――」

 ラムリーザがとりあえず本当の話をしておくかと思ったとき、突然校舎側から声が聞こえてきた。

「あ、またハーレム作ってやがる」

 四人が振り返ると、またガラの悪い生徒が五人ほど屋上に来ていたのだ。だが、その中にレフトールの姿は無い。子分だけをよこしたというのだろうか。

「しつこいよぉ」

「そうね、しつこいわね」

 ソニアとリリスは、口々に不平をこぼす。

 その一方でラムリーザは、五人に背を向けて遠くを眺め始めた。もう相手にしないと決めたのだ。

「おいお前、シカトしてんじゃねーよ。一昨日はよくもやりやがったな」

「あ、やっぱり決闘はあったのね」

 五人はやられた風なことを言っているが、とくに目立った外傷は無い。

「お前が相手しないのなら、こいつらもらっていくからな」

 そう言いながら、一人が歩み寄ってきてリリスの手を取ろうとした。しかしすぐにリリスはその手を払いのけた。

「馬鹿にしないでね、ラムリーザには手を出させないわ」

「やれやれ、もう出てくるなよと言ったのに、レフトールはどうやら言うことを聞かなかったみたいだね」

 ラムリーザは、後ろからリリスの肩を掴んで下げさせる。そして、リリスに触れようとした生徒の前に立った。

「ラムリーザ……」

 リリスはそんなラムリーザの姿をかっこよさを感じていた。しかしその一方で、これでやられちゃうのだから残念な気持ちもあったりしたのだった。

 よく見ると、ラムリーザはこの男子生徒は見覚えがあった。一昨日屋上で掴みかかってきた生徒だ。

 彼は、右手の指に包帯を巻いていて、テーピングしているようだ。

 掴みかかってきた手の指を、逆に握り返したのだった。その時、結構強く力を込めていたので、右手指を痛めてしまったようだ。

 ラムリーザは、ゆっくりと男子生徒の方へ手を伸ばす。すると、男子生徒は掴まれないように一歩下がるのだった。

「おっと危ない、こいつの手だけは危険だからな」

 しかしラムリーザは、別に掴もうとしたわけではなかった。そのまま突き出した手で、五人の背後を指差した。

「またあの人にやられるよ。いいのかな?」

 五人はハッと振り返った。

 校舎への入り口傍に、いつの間にか一人の男が壁にもたれるように立っていた。細身で背は高く、目つきの鋭い男だ。

「あっ、こいつは一昨日の……」

「おい、やばいよ。お前あいつに一撃で気絶させられたんだぜ」

「えっ、あいつが?」

「お前もその後にやられたんだぜ」

「ぬ……、マックスウェルがやられた後の記憶が無いのはそういうことか……」

「やばいぜ、どうする?」

 五人は慌てた感じで口々になにやら言っている。

 その一方でリリスとユコにしてみれば、わけがわからない。謎の男一人に不良の集団が慌てているのだ。

「あれ? レイジィさんがなぜここに?」

 緊張した空気の中、ソニアだけは普段どおりだった。

「ああ、一昨日からこっちに来ているんだ。ソニアにはまだ話してなかったな」

「そっかー、もう安心だ! こりゃ不良共! あの人はプロだよ、逃げたほうがいいんじゃないかなぁ」

 ソニアは急に元気になって、五人を挑発しはじめた。

「プロって何だよ、気味が悪い。逃げろ!」

 別に挑発されたからではないだろうが、五人は一斉に校舎の中へと逃げて行ったのだった。

 五人が居なくなると、レイジィはすっと建物の影へと消えていった。

 やれやれ顔のラムリーザの傍らで、リリスとユコはポカーンとしている。

「な、何ですの? さっきの人……」

「ん? レイジィ? ラムの護衛やってた人だよ。そっかー、不良が絡んでくるようになったから、また護衛につけることにしたんだね」

「それって、用心棒みたいなものですの?」

「んー、そんな感じかなぁ」

「ふーん、さすがラムリーザ様なんですのね……」

 ユコに対して、得意げに答えてあげるソニアだった。

 ひとまず難は逃れられることができた。ラムリーザは、再び手すりにもたれて遠くの景色を眺め始めた。

 

 再び、屋上への出口が開く音が聞こえ、一人の女子生徒が現れた。

「あれ? 何故?」

 などと困ったような声も聞こえる。

 リリスとユコも、「あれ?」といった感じだ。

 ただ一人ソニアだけは、「うわっ、やばっ」と慌てたような声を上げる。そして、ボタンが留まらなくてはだけている胸を腕で隠しつつ、もう片方の手で靴下がずれていないか急いで確認するのだった。

「ケルムさん?」

 ラムリーザが声をかけると、現れた女子生徒、ケルムは「あら、場所を間違えたみたい」と言って、逃げるように校舎内へと駆けていくのだった。

 

 校舎の屋上には、夏の終わりを迎えたかのような心地よい風が流れ続けていた。

 
 
 
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