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ややこしいことになってきました

 

 学校の、院長室にて。

 ラムリーザの通っている学校の名前は、「帝立ソリチュード学院」である。そして、その学校を取りまとめているのが院長先生コルプルスだ。

 私立学校とは違い、帝立の学校には帝国の学芸省から派遣されたものが院長なり校長なりを務め、学校自体が帝国によって管理されているのだ。

 それ故に、帝国と密接な関係に有り、権力者は帝立学校に子息を入学させたがる傾向にあった。

 

 だがそれは同時に、学校は帝国に逆らえないという面もあったのだ。

 

 

 この日、学院長は、帝都からの使者を院長室に迎えていて、物々しい雰囲気に包まれていた。

 その中で、学院長は困ったような顔をしっぱなしで、弱気になっている。それは、迎えた客の存在が大きかったからだ。

 帝国宰相夫人と、帝国宰相予備役補佐官の二人がやってきて、ここ数日の間に起きた事柄について説明を求めてきたのだ。

 それは、「帝国宰相の息子が、この学校で暴力沙汰に巻き込まれた」という疑惑についてだった。要するに、屋上でラムリーザがレフトールに保健室送りにされたことだ。

 帝国宰相夫人が、ラムリーザの母親ソフィア。一緒に来た補佐官が、兄のラムリアースだったりする。むしろ今回の場合、補佐官の方が主要人物になっているが……。

 元々ソフィアは、今回の騒動について詳しくは知らなかったのだが、ソニアがラムリアースに助けを求めたことで、騒動が公になってしまったという経緯もあった。

 ラムリアース曰く、「弟に手を上げる奴はゆるさん」といった意気込みで、学校へ乗り込んできたのだった。

 ラムリアースは、ラムリーザからのメールで片がついたことは知っていた。ただ、片がついたかどうかはそれも重要だが、もう一つ重要な点があってやってきたのだ。ラムリーザに手を上げた、この事実が重要で、許せないのだった。

 それと、ソフィアは主にラムリアースが暴走しないよう押える役としてついてきたようなものだった。

 

 一通り、学院長からの弁明を聞いた後で、ラムリアースは凄んでみせる。

「学院長。今回はラムリーザが自分で撃退して片をつけたようだから見逃してやる。だがな、また同じ事を引き起こしてみろ。その時は、お前は管理責任無しと判断してクビだ。代わりに他の者をよこす。お前は一生閑職だ、いいな?」

「も、申し訳ありません……。以後、しっかりと監視して、二度とこのような不祥事は起こさないと誓います……」

 学院長は、土下座しそうな勢いで、ラムリアースに許しを請うのだった。

「そうだ、レイジィだ。レイジィを付けろ。彼を自由に学校内に入れるようにして、ラムリーザを警護させる。それでいいな?」

「しかし部外者を校内に――」

「何か適当な役職与えて入れたら良いではないか、そんなことにも頭が回らんのか? やっぱり代わるか? お前ではダメだな」

「わ、わかりました。その者には後で正式に契約して……」

「最初からそう言え」

 今のラムリアースには、ラムリーザとソニアが夏休みに帰省した時のような、優しくて頼りがいのある青年というイメージは無くなっていた。いっちたい彼に何が起きたというのだろうか……?

 

 ソフィアは、ラムリアースを落ち着かせると、今度は自分が学院長に話を持ちかけた。

「そういえばそろそろ文化祭? 学園祭でしたっけ? あるのでしたね」

 学院長は、「は、はい」と完全に怯えたように頷いた。

「いろいろと物入りですよね? これを使って盛大にやったらいいでしょう」

 ソフィアは、何かが入った袋をテーブルの上に置く。ジャラリと乾いた音が、学院長室に響いた。

「金貨を千枚ほど用意しました。生徒達のために、使ってあげてください」

「あ、ありがとうございます」

 これらの話をした所で話し合いは終わり、ソフィアとラムリアースは引き上げて行った。

 

 

 放課後の軽音楽室の部室にて。

 ラムリーザ達は、いつものように部屋中央にあるソファーに陣取って雑談をしていた。雑談部だ。

 しかし、ライブ活動や、カラオケ喫茶に向けての練習もきちんとやっているので、休憩をかねた雑談は問題無しとしていた。

 リゲルもこれまでは窓際に立っていて、ソファーに近寄ることは無かったのだが、最近は他のみんなとの距離が近くなっていた。今日も同じようにソファーに座って、そこでギターをBGM代わりに奏でていたりした。以前は窓際に一人で立ってギターを鳴らしているだけだったのだ。

 グループの密接度はより強固なものになっていた。

「あ、それはこんにゃくの音楽ですのね」

「そうだ、よくわかったな」

 ユコがよくわからない専門語でも語ったのだろうか。こんにゃくの音楽って何のことだろうか。しかしリゲルには通じているようだ。

「清らかさが低い会話の様な気がするよ」

「そうね、そんな所かしら。この二人が通じ合う話題と言えば、そんなものよね」

 一方ソニアとリリスも専門語を語っている。まだ徳を気にしていたのか。

 そこでリゲルは、話題が変な流れになっているのを察して話題を変えてきた。

「そういえば今日の昼、学院長室からお前をもっとかっこよくしたような奴が出てきたけど、似てたが兄弟か何かか?」

「僕はかっこよくないんだね。でもそれだけの情報だとわかんないよ」

「そいつの連れは、伴侶にしてはかなり年上に見えた。いや、二人とも目元がお前に似ていたな、恍惚とした目というかなんというか……」

「あっ、それたぶんソフィア様だ。じゃあ一緒に居たのはラム兄だよ。わぁ、部室に遊びに来てくれたらいいのに~」

 リゲルの挙げた特徴で、ソニアはすぐにわかったようだ。長くいっしょに過ごしてきただけあって、特徴は掴んでいる。

「おそらくそうだね。やれやれ、ソニアが兄さんに連絡するから、ややこしいことになってきた気がするよ……」

「ああ、レフトールの件か。しかし母はともかく兄が乗り込むか?」

 リゲルは、そこまでやるか? といった感じで聞いてくる。

「やるよ、兄さんは」

 そこでラムリーザは、兄ラムリアースについて語り始めた。

 ラムリアースは、ラムリーザにとって人生の鏡と言って尊敬している。禁忌に触れなければ、ものすごく気のいい兄さんなのだと。

 その点は、夏休みにほんの少しだけ出会うことのできたリリスとユコも、同じような印象を受けたと同意してきた。

「その禁忌とは?」

 ラムリアースが許せないことは、フォレスター家の名誉を汚されることだった。

 例えばラムリーザに暴徒が手を上げてくる。それは、その暴徒がラムリーザ、延いてはフォレスター家をなめているということに繋がる。そうラムリアースは考えているのだ。

 数年前にも今回と同じような事件が発生したことがあった。

 帝都でラムリーザが暴徒に襲撃されたとき、ラムリアースは酷く憤慨してしまった。その結果、やりすぎとも言えるぐらいとんでもないことを、権力を最大限に使ってやったのだ。

 その暴徒は、本人含めて三親等、ことごとくを見せしめとして国外追放としてしまったのだ。しかも友好国ではなく、どちらかと言えば粗野な国へ。

 それだけではない。

 その暴徒の親兄弟勤め先にも理不尽な圧力――例えば取引先を強引に変えさせて利益を落とさせる等――をかけ、フォレスター家の名誉を汚すものが、他人を含めてどれだけ損害を与えるかということを知らしめたのだ。

 フォレスター家に歯向かうものが、どういった末路を遂げるか見せ付けたのだ。

 明らかにやりすぎな感はあるが、ラムリアース自身は名誉をとことん重視していた。

 夏休みに見せた、頼りがいのある兄貴の知られざるもう一つの顔であった。味方には最大限に世話を焼き、逆に敵には最大限の攻撃をする。これがラムリアースの本質である。

「だから、俺は言っただろうが。知名度と身分の隔たりが悲劇を生み出す、と。レフトールはお前を知らんから手を上げた。それがどういう結果をもたらすか知らずに、馬鹿な奴だ。権力者に逆らわないをモットーにしているやつが、権力者に手を上げた。ほんと馬鹿な奴だ」

 リゲルは呆れたように言い放った。ラムリーザをやつけると、巨大な力を持ったバックボーンが出てくることは想像できていた。それが、弟思いの兄貴だったわけだ。

「だから、僕はソニアに兄に連絡して欲しくなかったんだよ。こうなることわかってたんだろ? いや、わかっててあえてやったんだろうな……」

「だって、あいつ許せなかったんだもん!」

「まあいいか。今回は自力で撃退したから『名誉は守ったよ、兄さん』ってところだからね。前の時みたいに、大騒動にはならないはずだよ」

 確かに今回は、「相手を教えろ」の後に迎撃したことを伝えたら、それ以上追求してくることは無かった。結果ではなく、行為のみに絞られているため、「今回は見逃す」といった話になったのだ。

「それで、お前が勝てなかったらどうなってた?」

 リゲルの問いに、ラムリーザは答えることはできなかった。もしそうなれば、二度目の見せしめが発生していたかもしれない。

「でもね、だから簡単には負けないようにしたんだよ」

 最初の時も、ラムリーザが負けなければ大騒動に発展することは無かったかもしれない。

 大騒動に懲りたラムリーザは、自分の存在をもっと重要視しようと考えるようになり、丁度格闘技にはまっていた妹ソフィリータに付き合う形で、すこしは鍛えようとしたわけだ。

 表向きには、ドラムの演奏をするためのトレーニングという形にしていたが、その裏にはこういった事情があったりしたのだ。

 そこで得ることができたのが、打たれ強い身体――ただしボディのみ――と、驚異的な腕力というのである。

 今回は、それらのおかげでレフトールに勝てたようなもので、トレーニングも無駄にはならなかったということだ。

「何はともあれ――」

「レフトールの話はおしまい。リゲルさんの演奏しているこのBGMの楽譜作りますわね。ちょうどメンバーのパートで表現できるので、できたらみんなで合わせましょう」

 リゲルが話を続けようとしたところで、ユコに割り込まれてこの話は終わらせることになった。

 あまりおもしろい話じゃないので、これでやめておいてもいいだろう。

「どうせエロゲの音楽でしょう?」

「清らかさの足りない音楽!」

「何ですの?! じゃああなたたちのパートは要りません! ベースは私が弾きます。ギターパートは別にピアノでも良いですわ!」

「選り好みはダメだぞ。あと、歌以外は文化祭が終わってからにしてね。というわけで、次の曲を練習するぞ」

 ラムリーザの合図で雑談部は終わり、カラオケ喫茶に向けての練習が再開されたのであった。

 
 
 
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