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フォレストピアの夜明け

 

 この数日間、ラムリーザは学校が終わると新開地に向かうというのを繰り返していた。

 普段住んでいるポッターズ・ブラフ地方から新開地へ向かうには、電車で一山超えるだけなので、片道30分もかからない。ものすごく近い隣地なのだ。

 今日は、新開地の食糧確保という目的で、さまざまな分野の人材と会うことになっていた。

 帝国宰相ラムニアス・フォレスターの息子ということでネームバリューもあり、農業、畜産業、治水などの従事者を十分に集めることができた。

 ラムリーザは、リゲルとソニアを連れて新開地へ向かい、彼らを上手く纏め上げようとしていた。今日は、初めての顔見せとなっていた。

 方針は主にリゲルが考え、ラムリーザからそれを通達するという流れにしていた。

 ソニアは特に居ても居なくても問題ないのだが、留守番は嫌というわけでついて来ているだけだ。

「ソニア、制服乱すなよ。竜神殿の使者と会った時みたいなことしたら置いて帰るからな」

「わかってるよぉ」

 行きの電車の中で、ラムリーザはソニアに念を押す。

 ソニアは、学校から出るとすぐに靴下をずり下ろす癖があった。真面目な会合なのに、ミニスカ生足では締まらない。ただでさえ大きすぎる胸がブラウスに収まらなくて、胸が半分はだけた形になっているのでなおさらだ。そういうわけで、ずらした地点で放置決定ということで話を決めていた。

 今の所、ソニアは普通にしているが……。

 

 

 新開地に着いて、周囲を見渡す。

 完成した倉庫と道を挟んで、大きな建物が建設開始したところで現在土台を作っている。

 これが、ジャンの言う「シャングリラ・ナイト・フィーバー二号店」になるのだろう。帝都シャングリラにあるわけではないのに、シャングリラと名前が付くのは……、まあいいか。

 顔見世の場所と決めていた倉庫内にある大きめの会議室に向かうと、既に多くの人が集まっていた。

 中には、ラムリーザ達とは少し違った人種の人もやってきていた。

 彼らは隣国シロヴィーリの使者だ。新開地の開発ということで、宰相ラムニアスの取り計らいで隣国にも従事者を集める話を持っていっていたのだ。

 食料分野から、早速異国文化を取り入れるというところがおもしろかったりする。

 

 話し合いの前に、ラムリーザからの一言ということになったが、そんな話は聞いていなかったので挨拶文は用意していない。

 ラムリーザ的にはいきなり話し合いに入っても良かったのだが、普通なら初顔見せなら挨拶は必要だろう。

「こんばんは……」

 とりあえず定番の挨拶をするが、その後が続かない。

 見かねたリゲルが、ノートの切れ端に何かを書いてラムリーザに手渡した。リゲルは機転を利かしてカンニングペーパーをとっさに作り上げたのだろう。

 ラムリーザは、安心してそこに書かれた文章を力強く読み上げた。

「私はラムリーザ! 幸運にもこのフォレストピアを導くことになった領主だ! ……って、ええっ? なにこの芝居掛かった台詞!」

 周囲から失笑が漏れる。言わせたリゲルもくっくっと小さく笑っている。

「領主様ばんざーい! ラムリーザ様ばんざーい!」

 ソニアも調子に乗って合いの手を入れてくる。ラムリーザ様って、それはどこのユコだ?

「いやちょっと待って、街の名前もまだ暫定名称で非公式なんだけどっ?!」

 しかし、この茶番で場の緊張は無くなり、みんな活き活きと話し合いを始めるのだった。

 

 エルドラード帝国で主に生産しているのは麦で、主食はそれをこねて作るパンや団子というものになっていた。

 そこで、シロヴィーリの使者は「我が国の主食になってている『米』というものも作ってみよう」と言い出して、水田の作り方を説明しはじめるのだった。

「ああ、技術的なことは僕に説明しなくていいよ。生産者に聞かせて作るようにしたらいい」

 何をどのくらいの割合で、どの辺りに耕地を作るか。ラムリーザが決めるのはそれだけでよかった。

 エルドラード帝国は、南国で年中温暖な気候に恵まれていた。そういうこともあって、この時期からでも耕して生産すれば、来年の春、本格的に移転するまでに食料の確保は可能だというのだ。

 西に広がる平野に流れている大小様々な川を利用して、主食目的で麦畑、それに合わせて試験的に米作りとなる水田を作る事が決まった。

「穀物だけでいいのか?」

 リゲルはラムリーザに確認を求めてきた。リゲルは先程から、用意した手帳にいろいろと書き込んでいる。後で書類として生産量見込みを纏めるのだ言う。

「ああそうだった、えーと、野菜の人! 野菜作ってくれる方はどなたですかー?」

 ラムリーザの呼びかけに、ソニアと話をしていた中年男性が返事をする。

 ソニアと会話って、その人もデレデレした顔をしているし、雑談している場合じゃないのだけどね!

 ラムリーザは、困ったオヤジだ、と思いながら呼び寄せて話を聞き、リゲルはその内容を書き留める。

 次に家畜業者。

 アンテロック山脈西の山のふもとあたりの草原を利用して、牧場を作ればいいだろう。そこで繁殖させていけば、肉類や乳製品にも困らないはずだ。

 過剰生産分を保管する倉庫は既にできているし、シロヴィーリにとって珍しいものは輸出してもいい。

「なんか、マインビルダーズみたいだね」

 ソニアは、畑や牧場の話を聞きながらつぶやいた。それを聞きつけて、リゲルは馬鹿にしたように笑う。

「ふっ、これは現実だぞ。ソニアはゲームの中でしか考えられないようだがな」

「うるさいっ! リゲルもゲームの知識でラムに指示出しているくせに」

「お前がプレイしている生産性の無いゲームとは違うからな」

「とりあえずリゲルも煽らない、ソニアもカッカしない」

 ラムリーザは、また口喧嘩しだす二人を抑えることになった。全く、ソニアは誰が相手でも騒ぎ出す、困ったものだ。

 しかし、これにて食糧生産に関する話し合いは終わった。

 地図を元にラムリーザが生産物ごとの大まかな区画割りをし、後は作業者に開墾から任せることになった。細かい数値はリゲルが記録している。後で正式な書類に仕上げるという話だ。

 

 話し合いが終わったので、ラムリーザ達は会議室のある倉庫を出て、駅前に出てきた。夏が終わり、秋にさしかかろうといった季節で、夜風が涼しくて心地よい。

 しばらく立ち止まって休んでいると、ソニアがかがむのを見て、ラムリーザは目を光らす。

 ソニアは、その視線に気がついて顔を上げてきた。

「なぁに?」

「いや、約束を破るのかなぁと思ってね」

「そんなことしないもん」

「ところでラムリーザ、倉庫の向こうに建てている建物は何だ?」

 リゲルは、建設中の工事現場を見て言った。

「えーとね、シャングリラ・ナイトフィーバーの二号店で間違いないと思う」

「何? あのライブ会場をここにも建てるのか?」

「二号店を作るんだってさ。ほら、ライブの日に一度僕が支配人室に一人連れて行かれたことあるだろ? あの時ジャンと話したんだ」

「なるほどな、これはおもしろい」

 リゲルは、新開地開発に対して、さらに強い興味を持ち始めていた。これまでは、友人ラムリーザの作る街という認識しかなかったのだが、だんだんここに住みたいと考え始めていた。

 それに、ラムリーザはリゲルを参謀にすると言っていろいろと頼ってくれる。それがまた心地よいと感じていた。

 これまではシミュレーションゲームで領土経営しかやったことはなかったが、現実に街を作るのはもっとおもしろいだろう。

 リゲルは、これまでのことを思い返していた。

 この春、恋人同士だったミーシャと引き離されてやさぐれるて居た所に、気さくに話しかけてきた奴。そっけない態度で接していたら、空気を読んで深入りしてこない機転の持ち主だった。人のためにギターを弾くのをやめようかと思っていた矢先に、軽音楽部に誘ってくれた奴。こんな自分とつるんでいても面白くないだろうと思っていたのに、気にせず付き合ってくれた奴。新しい世界を作ろうと言って、ロザリーンと近づけてくれた奴。

 リゲルは、ラムリーザとこれからも共に歩んでいくと強く心に誓ったのだった。

「おなかすいたなぁ、早く帰ろうよぉ」

 一緒にいる女はウザいが、最近はリゲルも彼女を煽るのを楽しんでいた。

 そこでリゲルはふと思い出したことをラムリーザに聞いてみた。

「大学と天文台を忘れていないか?」

「あったね、そういう話。計画帳を作って記録しておかないとね」

「ん、それも作っておこう。まぁ、その二つは二年後にできていたら良いか」

「結構大きいから、早いうちに取り掛かった方がいいかも」

「そうだな、次にやることはそれでいこう」

 大学は、ラムリーザ達の進学に合わせて完成させて、一期生という形で入学する予定だ。天文台も、その大学の天文学部設立に合わせて使うことになるが、研究は早くから開始してもいい。

「天文台は早く仕上げてもいいね。でも僕は天文学のことはよくわからないから、それはリゲルに全面的に任せるよ。やっぱり山の頂上付近がいいのかな? 土地の使用は認めるから、お願いするね。僕が口を出すことも無さそうだし」

「任せておけ」

 リゲル自身が使うために作るのだ。全面的に任されるという事は願ったり叶ったりだ。

 リゲルの夢物語も、今始まったばかりかもしれない。

 

「フォレストピア……か」

 リゲルは虫の音しか聞こえない、夜の中でつぶやいた。

「うん、フォレストピアで行こう」

 ラムリーザとリゲルは、どちらからともなく肩を組んで、まだ見ぬ理想のユートピア、フォレストピアの夢を描きながら、満天の星空を眺めていた。

 
 
 
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