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他の学校の文化祭に遊びに行くのもいいもんだ

 

 休日の朝、リゲルは朝食後のアップルティーを飲みながらくつろいでいた。リンゴの香りのする茶を口に運び、一息つくのがお気に入り、朝の至福の時間だった。

 リンゴを頭に思い浮かべると、なぜか友人ラムリーザがリンゴを握り潰している姿を想像してしまい、我ながら妙なものだと思い軽く笑う。

 そこに、リゲルの父が仕事に出かけている姿が目に入り、思わず目を逸らす。

 ミーシャとの出来事以来、リゲルは父親との間の心を閉ざし、事務的な会話以外一切やらなくなっていた。

 もっとも、父親のほうは、ただの反抗期だと思っているようだが、リゲルは父親がミーシャ一家にやったことを忘れられず、許せなかった。

 しかし、今大切なのはロザリーンだ。

 リゲルは、最近始めた朝一の挨拶メールをロザリーンに送るために携帯電話を手に取った。

 ちょうどその瞬間、通話の着信音がなった。誰だと思って画面を見ると、そこには中学時代の友人の名前が表示されていた。

「よう、リゲル久しぶりだな」

「レグルスか、久しいな。どうした?」

 電話の主レグルスは、リゲルの中学時代の友人である。高校に入ってからは連絡してなかったが、今日珍しく久しぶりに連絡してきたのだ。

「俺なぁ、お前に感化されて今年から学校でグループ組んでバンド始めたんだわー」

「偶然だな、俺もだ」

「おろろ、ミーシャが居なくなったらバンドか。まぁ、踊り子ちゃんと遊ぶのもいいが、バンドで演奏するのもいいよな」

「ミーシャの話はよせ……」

 リゲルは、むっとした声で返事をした。ミーシャは自分の中だけの思い出箱にしまっておきたいのだ。

「あぁ、すまんすまん。ところで今日は、うちのガッコの文化祭なんだけど、リゲル暇?」

「暇と言えば暇だな」

「それはよかった。で、だ。リゲルもバンド始めた言ってたけど、やっぱりギター?」

「そうだな」

「少しぐらいはドラムできない?」

「少し叩いてみたが、やっぱり興味なかったな。で、ドラムがどうした?」

「実は、うちのメンバーのドラマーが、今日突然熱出して寝込んでしまってだな――」

 

 

「――というわけだ」

 場所は変わって、ラムリーザの下宿している屋敷の自室。

 朝食を終えて、ソニアが格闘ゲームで対戦をしようと言ってきて、それを丁寧にお断りしたところにリゲルから電話がかかってきたのだ。

「つまり、その熱出しちゃった人に代わって、僕が代役で叩けばいいんだね?」

「そうだ。中学の時の俺のツレの頼みなんだ、無理言って悪いが……」

「まあ叩くぐらいはいいよ。ジャンの店で代役何度かやったことあるし。でも、こっちはいいのか?」

 ラムリーザの傍には、ゲームを一旦中断したソニアが引っ付いてきている。ラムリーザが出かける雰囲気を示したので、近くに寄ってきたのだ。

 リゲルは、すぐにソニアの事だと理解して答えた。

「好きにしたらいい。すでにこっちも客付きだ」

 そういうわけで、この日はリゲルの中学時代の友人が通う学校の文化祭へ遊びにいくことになったのだ。

 

 ラムリーザ達は出かける準備をして屋敷の前で待っていた。他所とはいえ学校なのだから、休日だが制服に着替えていた。

 しばらくして、リゲルの運転する車が現れた。今日はお気に入りのビートルではなく、大き目のバンでやってきている。

 車から降りてきたリゲルが、車の方に手招きすると、助手席からロザリーンが、そして後部座席からユグドラシルが現れた。

「おはようラムリーザ君、パーティーぶりだね!」

「あ、もてないロザ兄だ」

「おはようございます、ユグドラシルさん。ロザリーンもおはよう。で、リゲル、これはどういうこと?」

「ロザリーンを誘いに行ったらついてきた」

 ユグドラシルは、自分を付録のように扱われて、ちょっとむっとした感じで答える。

「ファルクリース学園の文化祭に行くんだろ? 自分も今年は文化祭実行委員長だから、他所のがどんなのか偵察して、良い所は盗んでやろうってことさ」

「それは良い考えですね。あ、ソニア、リリスとユコも呼んで」

 ラムリーザはふと思い、せっかくだからリリス達も呼ぼうと思ってソニアに連絡させた。

「なんだ、あいつらも呼ぶのか?」

 リゲルは、ラムズハーレムメンバー終結を想像して、うんざりしたような感じで言った。ソニアとリリスの口喧嘩はもう飽き飽き。

「せっかくだし、友達だろ?」

「好きにしろ」

 リゲルは強く否定はしなかった。あの二人はロザリーンにとっても友達だ。自分の好みだけで押し通すのは良くないと判断したのだ。

「ところで――」

 ラムリーザは、少し迷いがあることに関してリゲルの意見を聞いてみた。

「――レフトールはどうしよう」

「うむ……」

 リゲルは少し考えて答えた。

「まだ早いな。女共の警戒心と嫌悪感が取れるまでは、ほどほどの付き合いがよかろう」

「そっか、それじゃあそうしよう」

 その話をユグドラシルが聞きつけて、二人の話に加わってきた。

「え、レフトールってあのレフトール? ラムリーザ君、不良になっちゃったのかい?」

「ちっ、違いますよ。その、なんというか、ねぇ?」

「いろいろあって、あいつは今ラムリーザ派になっている」

 話に困ったラムリーザに、リゲルが横から救いの手を差し伸べる。うん、つまりそういうことなんだ。

 ユグドラシルは、なんだかよくわからないが感心した様だ。

「すごいな、さすがラムリーザ君だ。レフトールかぁ、一度話してみたいけど、やっぱり怖い?」

「先輩は首長の長男だから大丈夫だぜ。最初に、そう言えば何の問題も無い」

 リゲルは、ニヤリと笑って言った。権威主義のレフトールなら、首長の長男と来れば思いっきり下手に出てくるだろう。

「そうなん? なんだかよくわからないけど、大丈夫なのだったらそれでいいか」

 こうしてラムリーザ達が雑談をしていると、ソニアに電話で呼び出されたリリスとユコもラムリーザの屋敷前に到着した。

 挨拶もそこそこに、リリスとユコも会話に加わってきた。自然と二人の関心は、会ったことの無い珍しい人に向けられることになった。

「この人誰?」

 リリスは、ユグドラシルに誘うような目つきを向けて尋ねてきた。その視線を見て、ユグドラシルはどぎまぎする。やはり美女に弱いというのは事実か。

「ロザ兄だよ」

「ロザニイさん?」

 ソニアの説明では、きちんと伝わらない。

「私の兄、ユグドラシルです」

 ロザリーンの紹介で、ようやく伝わることになった。

「よろしく、自分はヘリコプターマン・ユグドラシルと言います」

「ぷっ、それじゃあ私は、ミートボール・ユコですの。よろしくですわ」

「何だその肩書きは……」

 ラムリーザにはよくわからなかったが、二人はすぐに打ち解けたようだ。

「それで、そっちの黒髪の美女は誰?」

「リリスです、よろしく」

「根暗吸血鬼だよ」

 要らん事を言うソニアの、胸で死角になっている脛をリリスは蹴飛ばした。今日も、顔を合わせて早々喧嘩を始める二人を他所に、ユグドラシルは驚いて尋ねてきた。

「えっ? えっ? この娘が噂の根暗――こほん、うそだろ?」

「実は……、そうなんですの……」

 ユコは、隠しても仕方が無いといった感じで、遠慮がちに答える。ラムリーザも、少し決まりが悪くて、ユグドラシルから目を逸らしながら頷く。

「なんで、なんで? この娘が? いや、違うだろ? 自分は以前遠目に見たことあるけど、地味で俯き気味で、やぼったいイメージの娘だったけど、今見たら全然違う、すごい美人じゃん?」

 地味どころか、爆弾娘ソニアと張り合っているのだ。

 鬱陶しいので、ラムリーザは、二人の喧嘩をやめさせて、再びユグドラシルの前に連れてくる。

「リリス君? 君は本当にあの根く――、リリス君?」

「女子三日会わざれば刮目して見よ」

 リリスは得意げに言うが、何か違う。いや、まあいいか。

 その隙を突いて、ソニアはリリスの脛を蹴飛ばそうとしたが、リリスはひょいとかわす。

 むっとするソニアに、リリスは「ちゃんと見ていればかわすのも簡単よ」と言って、また場を荒らそうとするのだった。

 やれやれとばかりにラムリーザは、ソニアをリリスから引き剥がし、後ろから抱えて持ち上げる。

「やーん、下ろしてよぉー」

「馬鹿なことやってないで、あまり遅くなっても困るから行くぞ」

 運転席から呼びかけるリゲルに答えるように、いつぞやと同じようにラムリーザはソニアを抱えたままバンに乗り込むのだった。

 

 

 私立ファルクリース学園は、ラムリーザ達が住むポッターズ・ブラフから、帝都側へ三駅行った街フライクリークにある。リゲルやロザリーンが住んでいる街アチェロンの隣町だ。

 リゲルやロザリーンがこの高校を選ばなかったのは、リゲルに関しては天文学部の有無、ロザリーンは兄が帝立ソリチュード学院を選んだから同じところにしただけである。そのユグドラシルは、帝立高校だということで選んだのだ。もっとも名家の者は、帝立学校を選ぶ傾向にあるのだが。

 

 学校の駐車場に着いたところで、ユグドラシルは提案してきた。

「ここからは自由行動にしないかな? 自分はゆっくり楽しむというより、いろいろと見てまわりたいのでね」

 ユグドラシル的には、言ったように文化祭を楽しむというより、いろいろと調査して回りたいという気持ちが大きかったのだ。

 別行動しても、いざとなったら携帯電話で連絡できるから問題ないだろう。

 ソニア達もそれでいいと言って、快くユグドラシルを送り出したのだ。

「で、僕の仕事は?」

 ラムリーザにも、文化祭を楽しむ以外にドラマーの代役という仕事があった。リゲルは、腕時計を見て答える。

「十一時からだから、一時間はのんびりできるな」

「わかった、それじゃあ行くぞ」

 そういうわけで、ラムリーザ達六人は祭りの中へ飛び込んでいった。

 

「あっ、いかめしだ!」

 ソニアは、生徒がやっている屋台にいかめしを見つけて駆け寄っていった。

「これ買って!」

「小遣いあげただろ?」

「もらってない!」

「おっと、十月分忘れていたか。ってもう十月終わるじゃないか、はい五十銀貨どうぞ」

 ソニアは、ラムリーザからお金を受け取ると、早速いかめしを購入してかぶりついている。

 せっかくだから右へ倣うか、といった具合に、リリス達もいかめしを手に取るのだった。

「ソニアもこう見るとやっぱり庶民的だな」

 ラムリーザは、リゲルと二人で少し後ろからソニア達を眺めていた。

「ふっ、ただのいかに小麦をふかしたものを詰め込んで味付けしただけのものに、あそこまで夢中になるとはな」

「リゲルはいかめし嫌い?」

「どっちかと言えば、蟹の方がいいかな」

「それまた豪勢な」

 蟹は、寒い国でよく取れるので、年中温暖な帝国ではほとんど取れない。だから、外国からの輸入に頼った贅沢品でもあったのだ。

「俺はな、蟹の名産国の北国の大学に行くつもりだったんだよな」

「そうか……」

「いや、気にするな。今は、お前と新しい街を作るほうが興味深くなっているから」

「ありがとう」

 ラムリーザがリゲルとそんな会話をしている一方で、ソニア達はいかめしをほおばりながらファルクリース学園の制服について話し始めていた。

「そういえば、私達の学校はブレザーだけど、ここはセーラー服ですのね」

「中学の時は私達もセーラー服だったよね、って――」

 そう言いかけてリリスは、ソニアにいたずらっぽい目を向けてきた。

「ソニアあなた、セーラー服だったら、ボタンとか無いからサイズ合わせたら普通に着れるのじゃないかしら?」

 そう言いながらもリリスはニヤニヤしている。

「ふん、どうせ胸のサイズに合わせたら、ぶかぶかになっちゃうんだ。だからもうおしゃれなんか嫌い」

「ごめん、想像したらニヤニヤが止まらない」

 リリスは、ソニアから目を逸らして、口元に手をやって笑いをこらえる。

「でも、その収まりきらない胸よりは、ましかもですね」

 ロザリーンは、ソニアのはだけた胸を見ながら、うんざりしたようにつぶやいた。

「1メートル」

「5kg」

 リリスやユコは、ソニアをからかうように好き放題言ってくる。

「また喧嘩になるからやめなさい。ところで、選べるならどっちにします?」

 ロザリーンは、リリス達を制してソニアに尋ねてくる。ソニアは、自分の胸元と、周囲の女子生徒が着ているセーラー服を見比べながら、悩んでいた。

「うーん、まだセーラー服の方がましかなぁ……、こんな収まりきらないのよりは、ぶかぶか、うーん、でもここのセーラー服の色は赤かぁ。ラムは緑が好きだから、今の方がいいだろうなぁ。あー、胸に合わせたぶかぶかのブラウス……、いや、それなんかやだなぁ。あ、それよりも!」

 ソニアは、もっと大事なことを思い出して、セーラー服を着た女子生徒の足元に目を向ける。

「裸足とか認められているんだったらこっちの方が――って、ここも?!」

 ソニアの目は、すぐにうんざりとしたような色を見せてきた。

 セーラー服のえりの色と同じ赤色のミニスカートで、今ソニア達が履いているのとさほど丈は変わらない。ただ、その下、靴下は色は白とソニア達とは色違いだが、どの娘も丈は太もも半ばまで伸びている。

「まっ、なっ、なんでどこもかしこもニーソなのよ!」

 裸足を好んでいて、足を出しておきたいソニアは、不満の声を上げる。

「だって、今はニーソがブームなんですもの。おしゃれでいいと思いますわ。嫌がっているのはソニアぐらいですの」

「帝都で通っていた学校は、素足でサンダル履いてても文句言われなかったよ! 田舎はやっぱり自由が無いのねーえっ!」

「補足しておく――」

 ラムリーザは、ユコ達が帝都に変なイメージを持たないように、説明しておくことにした。

「帝都で僕らが通っていた学校はね、貴族の子息令嬢が多く通っていたんだ。というより、そういった階級向けの学校かな。そういうのもあって、指定の制服もあったけど私服も認められていたんだ。そういうわけで、特に令嬢は豪華なドレスで通ってたりしていたものなんだよね。彼女らにとって、自慢のドレスを見せびらかすいい場になっていたんだ。それを利用してこいつはっ――」

 ラムリーザは、ソニアの尻を叩いて話を続ける。

「逆方向に利用して、ミニスカ生足で好き勝手振舞っていたわけだ」

「なによー、ラムだってあたしの足が奇麗で好きって言ってくれたじゃないのよー」

「今だから言うけど、おっぱいが大きいの隠すためにだぼだぼな上着着てミニスカ素足、確かに足は奇麗だったけど、全体像を見たら今思えば変だった」

「なっ……」

 ソニアは、ラムリーザに言い切られて絶句する。

「そりゃそうですのね。バストが大きいと、隠そうとするほうが返って不自然になりますわ。開き直ったほうがいいと思いますの。ただでさえソニアは規格外なのですから」

「規格外言うな! 呪いの人形!」

「風船おっぱいお化けは、不恰好な服で世を忍びつつ露出狂やってたのね、こまるわ。くすっ」

「うるさい根暗吸血鬼!」

「はいそこまで、ほら次行くよ」

 ラムリーザは、騒ぎ立てるソニアをリリス達から引き剥がすと、次の見物場所へと移動していくのだった。

 
 
 
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