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リア充になりたいと高望みする幼馴染

 

「あたし、リア充になりたいなぁ」

 

 九月に入ってからの学校生活の再開。まだ夏真っ盛りで暑いが、ここエルドラード帝国は、比較的快適な気候に恵まれていた。

 夏季には北に高気圧が発達しがちで、北からの涼しい風がよく吹いている。逆に冬季に入ると、南に高気圧が発生することが多く、南からの暖かい風が吹くことが多いのだ。

 こうした気候風土により、夏は涼しく冬は暖かいという、暮らしやすい国であった。

 

 ラムリーザとソニアは、今日も涼むために校舎の屋上を訪れていた。

 天文部に所属しているリゲルが屋上の鍵を持っているということがわかったので、こうして鍵を借りては屋上に行くことが多くなったのだ。

 屋上では涼しい北風が吹いていて、ラムリーザとソニアは、その快適な空間を堪能していた。

 そこに、冒頭の台詞だ。

 二人並んで、鉄柵に肘を突いて遠くを眺めていた時に、突然ソニアが呟いたのだ。

「リア充?」

 ラムリーザは聞き返す。あまりにも唐突過ぎるその台詞は、また奇行か? と思わせるのに十分だった。

「うん、リア充。周りの人に爆発しろと妬まれるぐらい、恵まれた環境にあるってこと」

「ふーん、爆発ね。そんな危険なものは、僕はゴメンだな」

「ラムはリア充、いや?」

「ソニアがリア充になったら爆発するんだろ? それは困る。だからならなくていいよ」

 ラムリーザ自身は、リア充という言葉は以前ジャンから聞いていたので、それがどのようなことを意味するのかということを理解していた。

 そういうわけで、ソニアがリア充になりたいと言う気持ちもわかっていた。ただ、どう見てもソニアはリア充だろという気がしていたので、まともに取り合わずに適当にボケ返していたのだ。

 ただ一言、「お前十分リア充だろ」これを言ったら負けだと勝手に自分の中でルールを決め込んだりしていた。

「あーあ、リア充になって、青春を謳歌してみたいなぁ」

 そんなことを呟くソニアは、現在ラムリーザの右隣に引っ付いていて肩を抱き寄せられている。

 これは、ソニアはリア充の意味を取り違えているということか? それとも突っ込み待ちか?

 ラムリーザ的にはどっちでもよかったが、あえて突っ込みを入れずに話を進めてみた。

「それじゃあ、まずは恋人を作らないといけないね」

 どちらかと言えば、これはボケにボケ返しの部類だろう。ソニアにとってラムリーザは何なのかという根本を無視している。

「うん、あたしがリア充になるために、ラムも協力してね」

 はてさて、これはどういうことだろうか。ソニアはどのような協力を期待しているのか。

 ラムリーザの取るべき行動は、協力して恋人を探せばいいのか、それとも協力するという名目で恋人になってあげればよいのか。

 というより今のラムリーザの立場は何なのか? 夏休みに帰省した時、ソニアに言われたように「変人」なのだろうか、とか思っていた。

 そう思いつつ、まだ突っ込みは居れずに話を進めてみることにした。

「協力してあげるから、ソニアの恋人にしたいタイプを教えてくれないかなぁ」

 ちなみに、こんな会話をしている二人の状況は、お互いべったりと引っ付いて、ラムリーザはソニアの右肩に、ソニアはラムリーザの左腰に手を回した状態で、お互いの額をごっつんこ引っ付けあっている状態である。こんな状況でこの会話、やっぱり二人とも爆発したらいいかもしれないね。

「えーと、優しくてー、あたしが困っていたらすぐに助けてくれてー、一緒にゲームしてくれて、夜一緒に寝てくれる人かな。あ、やっぱりお金持ちがいいね。それとリンゴを素手で握りつぶせる人」

「ソニアは高望みだな。そんな都合のいい男がすぐに見つかるとは思えないねぇ……って、リンゴはどうでもいいような……、妙な趣味だな、怪力男が良いのか?」

「ラムならきっと見つけてくれる」

「見つかるといいね、白馬に乗った王子様が」

「早く見つけてあたしをリア充にしてね」

「善処する」

「ラム!」

 ソニアは突然叫んできた。ラムリーザを振りほどいて、一歩離れて睨みつけてくる。その顔は、不満でいっぱいだ。

 ラムリーザは、めんどくさそうに「何ね?」とだけ答えた。ソニアの望むとおりに答えていたのだから、怒られる筋合いはない。

「いい加減に突っ込んでよ!」

 やはりボケ続けていて突っ込みを待っていたようだ。

 ラムリーザは、それに対しては何も答えずに、大あくびをしてぼんやりと視線を遠くの景色に持っていった。

 ラムリーザのそんな態度に、ソニアはますます声を張り上げて非難してくる。

「ラムはあたしの恋人って自覚は無いの?!」

 自覚とか言う以前に、告白の儀式を実施したのはラムリーザの方なんだけどね。そういうわけで、ラムリーザは今日は徹底的にずれた返事をすることにした。

「ん~、だって僕はいじわるだし、ソニアが困っていても放置するし、ハメキャラしか使わないソニアとはゲームしたくないし、夜は一人で寝るし、リンゴ握りつぶすなんて野蛮なことできないし~」

「ラムの馬鹿! もう嫌い!」

「やったわ、ついに破局した」

 その時、突然後ろからリリスの嬉しそうな声がした。

 ラムリーザが振り返ると、ちょうど屋上への出口からリリスとユコの二人が出てきたところだった。丁度やってきたところに、ソニアの怒声が聞こえたようだ。

 ソニアは、二人の登場に気がつくと、すぐにラムリーザの傍に再び引っ付いてくる。リリス達の前では、しっかりと恋人アピールしたいようだ。その顔には、誰が破局するか、とでもいうような気持ちがにじみ出ている。

「ふー、やっぱり屋上は風が気持ちよくて涼しいですわねー」

 ユコは、大きく伸びをしながら言った。

 リリスとユコの二人が、ラムリーザの方へ向かって歩き出したとき、一瞬だけ強い風が吹いて二人のスカートをふわりと持ち上げた。

 リリスは今日も黒い下着、ユコは今日は花柄ですか、ありがとうございます。

 ラムリーザは、ぼんやりと二人を見ながらそう考えていた。

「見た?」

 リリスはスカートを押さえ、ラムリーザの目をじっと見つめて言った。

 それに対してラムリーザは、あえてそっけなく答えた。

「何を?」

「何をって、んもう、知ってるくせに」

 少しむっとしたように答えるリリス。だがラムリーザは表情を変えない。いや、ここで表情を変えたら負けだ。

「見たよ!」

 突然叫んだのはソニアだ。

「下着に性格が表れるらしいって話はほんとうみたいねー。リリスは腹黒で、ユコは脳内お花畑、ふんだ」

「なっ、なんですの?!」

 ユコは怒り、リリスも反撃してきた。

「それじゃあソニアはノーパンね」

「な、何よそれ!」

「何も考えていない、能天気爆乳娘、くすっ」

「うるさい! 根暗吸血鬼!」

 ラムリーザはもう一度あくびをすると、遠くアンテロック山の山頂をのんびりと眺めていた。あの山の頂を利用して、何かイベントでもできないかな、とか思いながら。

 

 

「交換日記やりましょう」

 この日の放課後、ユコはカバンから一冊のノートを取り出しながら言ってきた。そして、ノートのタイトルに「交換日記」と大きく書いた。

「交換日記?」

 ソニアは不思議そうに尋ねる。日記は知っているが、交換するという概念はなかったのだ。

「一人ずつ交代で日記を書いていくのですわ」

「苦労せず人の日記が読めるなんて面白そう、あたしもやるわ」

「あなたの日記も読まれるんだけどね」

 リリスはくすっと笑って、ユコが持っているノート、日記帳を受け取った。しばらくペラペラと何も書かれていない日記帳を見ていたが、何故か受け取った日記帳を、何故かラムリーザの目の前に置いてきた。

「そういうわけで、ラムリーザからお願いね」

「ちょっと待て、君達四人でやるんだろ? なぜ僕に渡す?」

「誰が四人でやるって言ったかしら? ここは『ラムリーズ』のリーダーであるあなたに先陣を切ってもらうわ」

 勝手に巻き込むな……。ラムリーザはそう思ったが、一度受け取ったものを突き返すのも悪いと思い、素直に日記帳をカバンにしまった。

 

 

 夜、下宿先の屋敷の自室にて。

 ソニアは飽きもせずに格闘ゲームをやり続けている。ぬいぐるみのココちゃんを抱きかかえて、相変わらずハメキャラを使いコンピュータ相手にハメ技ばかり繰り出している。

 ラムリーザはソニアの座っているソファー後方のテーブルに向かっていて、リリスから受け取った交換日記のノートを広げていた。

 日記を書くのはそれほど難しいことではないが、これは回し読みされること前提の日記となる。そのため、あまり変なことは書けない。変なこととは何か? というのもあるが……。

 そこでラムリーザは、真面目に書くのもつまらないし、ネタに走ることにした。それこそ変なこととなるかもしれないが、気にしない。

 

――今日、新しいことがわかったんだ。どうやらソニアはリア充になりたいらしくて、恋人を探しているみたいなんだ。ソニアの要望では、金持ちで優しくて困っている時に助けてくれて一緒に寝てくれる男がいいらしい。さすがに僕はそこまで立派な男じゃないので、よかったらみんなで探してあげてくれないか? 非リアなソニアを助けてやってくれ。ついでに僕もハメキャラ使わない恋人募集中――

 

 これでよし、と。

 そこまで書いて、ラムリーザはノートを閉じて鞄に戻した。

 こんなことを書いていたら荒れるのはわかっていたが、真面目に書くのもめんどくさいし、あえて爆弾を投入することにしたのだった。これで荒れたことにより、交換日記が無かった事になるのも、それはそれでいい。

 そんな事を書かれているとは知らないソニアは、今夜もサイコ投げとダブルニーハメを駆使して、コンピューターをいたぶり続けているのであった。

 
 
 
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