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強力のラムリーザと知略のリゲル、どちらが勝つか(大袈裟)

 

 ドォン、カッ、ドドドォン、カッ――。

 

 ラムリーザの叩く、重厚なフロアタムの音と、クローズドリムショットの乾いた音が部室に鳴り響く。

 ユコが新たに楽譜を仕上げた「THE SECOND ACT」という曲のリズムパターンを、ラムリーザは演奏していた。

 というのも、部室内の簡易ステージ上で、ソニアとリリスはどちらがボーカルをやるのかということでもめているからだ。

「あたしが歌うの! 握力勝負であたしが勝ったじゃない!」

「あれはエロゲソングを賭けた勝負で、この歌は関係ないわ」

「ふん、どうしてもやりたいと言うのなら、右手で腕相撲して決めるということで!」

「勝手に勝負内容決めないで。そうねぇ、ローキック合戦とかどうかしら? 十回蹴りあって、どちらがより多くヒットできるかで競うの」

「何その野蛮な勝負、もっと平和的に右手で指相撲で決着!」

「立ったまま、足元に置いたビー玉を、一つずつ右から左にどっちが早く多く運べるか勝負しましょう」

 ソニアは右手での勝負に固執し、リリスは足元での勝負に固執している。リリスは左利きだし、ソニアは胸が大きすぎて足元が見えない。だから、お互いに勝負を受けようとしないので、話が全然先に進まない。

「この歌、サビの部分は二人ですの」

「そこは、高音域ソニアで、低音域リリスで行こうね」

 ステージ上で言い争いが展開されている中、ラムリーザとユコの間では、平和的な空気が流れている。

 ソニアとリリスが一歩も引かないので、ラムリーザはいいかげんにしろと思って口を挟んだ。

「揉めても仕方ないだろ? 最近リリスの歌が多いから、たまにはソニアでいいじゃないか?」

「ダメよラムリーザ、勝負は勝負。ソニアが歌えないのは、ビーチバレーが下手だったり、身体がオヤジのようにカチコチで棒くぐりができないからなのよ。悪いのはどんくさいソニア、エロゲソングでも歌ってたらいいわ、くすっ」

「うるっさいわね、ちっぱい!」

「とりあえず口論はやめなさい。ボーカルは後回しでいいから、ひとまず演奏ができるようにしようね」

 最近握力勝負をやったばかりだ。また何かの機会に勝負すればいい。もっとも、リーダーのラムリーザが決めてしまうという手もあるのだが……。

 そういうわけで、ソニアとリリスは一旦口論を止め、演奏に専念することにしたようだ。

 ソニアなどは、リリスに対して「ふんっ」と鼻を鳴らしてステージを下り、ラムリーザの傍に引っ付いてきたりする。

「いやいや、そんなに引っ付いたら叩くのに邪魔だって」

 

 ドォン、カッ、ドドドォン、カッ――。

 

「オールヴィス、オールヴィス――」

 ラムリーザのリズムに合わせて、ユコハシンセサイザーの音を重ねながらコーラスパートを歌う。

 ラムリーザは、演奏を続けながらユコに尋ねた。

「オールヴィスって何だろうね?」

「異国の言葉ですわ」

「意味は?」

「さぁ……」

 まあいいか。ラムリーザは、深く考えないことにした。

 

 ドォン、カッ、ドドドォン、カッ――。

 

「二つの世界が重なるとき、そこに見えてくるユートピア――」

 暫定的に、今回はユコが軽く流しながら歌っている。

 ラムリーザはユコを見つめながら、ユコもいい声しているのだから、ユコの歌にするのもありだな、とか考えていた。

 ソニアはユコを見つめるラムリーザの視線に気がつき、不満そうに肩をぶつけてくる。

「なんね……」

 リズムを乱してしまい、ラムリーザはソニアに批判のまなざしを向ける。ソニアは、口を尖らしてプイと顔を背けるのだった。

 その時、ラムリーザの携帯電話が着信を表す音を発した。

 ロザリーンからの連絡で、そろそろ部活動対抗リレーが始まるようだ。

 ラムリーザは演奏を止め、メンバーを促してグラウンドへと向かっていった。

「なんで文科系なのにリレーに出なくちゃいけないんですの?」

 運動が苦手なユコは、不満をラムリーザにぶつけてくる。

「気にしない気にしない。参加することに意義があるということで。さあいくぞ」

 ラムリーザは、ユコの肩を叩いて景気づけると、先頭に立ってグラウンドの中央へと駆けて行った。

 

 

 グラウンドの中央、リレーに出る選手たちが集まるところに行くと、そこには部活の先輩であると同時に生徒会長のジャレス、部長のセディーナがいた。久しぶりに見た気がする。それと、リゲルとロザリーンも集まっていた。

「お待たせ。やっぱり僕がアンカーのリゲル案で行くのかな?」

 ラムリーザの問いに、リゲルは少し困ったような表情を浮かべて答えた。

「いや、伝えるの忘れていた。俺はお前とは組めない、敵になる」

「なっ……」

 そこにジャレスが近づいてきて話しかけてきた。

「丁度六人だね。一番走者は俺で、二番走者はセディーナ。後はロザリーンから聞いている順番で行こう」

 それは、その後リリス、ユコ、ソニア、ラムリーザと続く順番である。

「それじゃあなんでリゲルとロザリーンもここに居るんだろう? 敵になるって……」

「彼らは天文部として参加することになったんだ。負けるなよ」

 ジャレスの説明に、リゲルは頷いてみせる。

「どうなってるんだ……」

 それは、元々は運動部十一チームで、一回のレースで六チームずつ走ると一チーム足りないので、ジャレスが生徒会長権限を発動して軽音楽部を穴埋めのチームとして参加させたのだ。

 ここまでは、以前リゲルから聞いた内容だ。

 しかしその後、軽音楽部が出ると知った他の文化部の一部が、軽音楽部が出るならうちも出るとか言い出したのだ。その結果、さらに六チーム増やして、計十八チーム参加することになった。

 六チームずつ予選を三回行い、上位二チームが決勝レースに進むということだ。

 そいういことで、リゲルとロザリーンは、天文学部のチームとして参加することになったのだ。

「どっちにしろ僕がアンカーなのは変わりないのね。先輩か部長がアンカーやればいいのに」

「いやいや、部長はセディーナだけど、実質活動してるグループのリーダーはラムリーザじゃないか。だから、君がアンカーということで」

「しっかりがんばってね」

 ジャレスもセディーナも丸投げだ。

 ラムリーザは、軽く溜息を吐いて、この理不尽な現状を受け入れることにした。

「予選と決勝? 二回も走るなんてめんどくさー」

 ソニアが文句を言ってくるが、大丈夫、安心しろ。どうせ運動部には勝てない。運動が苦手なユコを抱えたチームに負けるぐらいなら、運動部の看板を下ろしてもいいぐらいだ。

 まぁ、恥ずかしくない戦いができたらいい。ラムリーザは、ただそう思っていた。

 

 ドォン!

 

 スタートの合図で、第一走者のジャレスは飛び出していった。

「まずいなぁ」

 ラムリーザは思わず小さくつぶやいた。

 ジャレスは、生徒会長をこなすだけあって、文武両道。一位を走る陸上部の後を追って、二位につけている。

 いい勝負になればなるほど、アンカーの責務は重大なものになってしまう。

 ラムリーザは、ビリ争いをすることになって、気分的にのんびりしていられると思ったのに、これでは当てが外れてしまい、余計な緊張感を感じていた。

 第二走者のセディーナも、それなりに運動ができるようで、二位の座を維持している。

 だが、一位には差をつけられ、三位がすぐ傍まで迫ってきていた。

 下がれ、下がれ。

 ラムリーザは、ただ一人後ろ向きな念を送りつけていたりするのだった。

「ラム!」

 突然ソニアが、ラムリーザの耳元で大声を出す。

「な、なんね?」

「負けろって思ってるでしょ!」

「なんでわかる……って、そうじゃなくてだなぁ」

「なんか顔が不満そうなんだもん。ラムってあまりそういう表情しないから、すぐわかるのよねー」

 さすが幼馴染、よく見ている。

「それじゃあソニアは勝ちたいのか?」

「んや、二回も走るのめんどくさいから、三位でいい」

「お前も負けろって思っているじゃないか……」

「あたしはいいの、リーダーじゃないから。リーダーは弱気になったらいけないの」

「はいはい」

「次はリリスね、こけろ!」

「お前なぁ……」

 そういうわけで、第三走者はリリスだ。

 しかし、ここからは明らかに運動部とは見劣りするメンバーになっていた。

 リリスは運動はできる方だが、それはユコと比べた場合であって、抜群というわけではない。

 そういうわけで、順位を落として三位になってしまう。

 さらに、第四走者のユコは、どちらかと言えば運動が苦手な方だ。

「ユコもこけろ」

 ソニアは相変わらず応援しないが、応援したところでどうこうなる問題じゃない。

 結局ユコは、まだ余裕があった四位の選手にも追いつかれて、五位に転落してしまったのだ。

 予選三組は、それぞれ運動部四チーム、文化部二チームに分かれていた。やはり運動部には敵わない、まあこんなところかといったところだ。しかし、せめて文化部同士の対決には勝っておきたいところだ。

 ユコがなんとか五位で戻ってきそうなので、ソニアで挽回しようじゃないか。

 ラムリーザはそう思ったが、ソニアと一緒に待っている第五走者の中に、ロザリーンが居ることに気がついた。

 この組の文化部相手は天文学部だったようだ。

 ソニアはリラックスした感じで大きくのびをしているが、ロザリーンとソニアだったら、負けるだろうなぁ……。

 ユコが戻ってきたとき、まだ六位とは少し差があった。

 ロザリーン相手にソニアは逃げ切れるか? っと思ったが、ソニアは走り出すなりすぐにスピードが落ちてしまう。あれではユコとそんなに変わらないのではないだろうか。

 ソニアは、運動神経はあるのだが、身体がその能力を阻害していた。片手で大きな胸を押えて走っているので、全然スピードが出ない。普通のフォームで走ると、胸が揺れて痛いのだ。胸のせいで、ユコ並みの走りしかできないソニアだった。

 ロザリーンは、どんどん差をつめて、ソニアに追いつきそうだ。

「お前と俺とでは、新しい世界を作っていこうとしている者同士なのに、こうして最下位争いするとはな」

 アンカーが待っているスタートラインに並んだとき、隣に立つリゲルがそうつぶやいてきた。

「こうなることはわかってたんだけどねぇ。リゲルの知略でなんとかしてくれ、ここから僕が挽回できる方法はあるかい?」

「ない」

 ラムリーザの参謀は、明確な作戦を立てることもなく、玉砕しろと言ってきた。

 ソニアを見ると、しっかりとロザリーンに追いつかれてしまっている。このままでは最下位も夢ではない。そんな夢見たくないけどね。

 いろいろ考える必要も無く、ソニアは普通に最下位になってしまった。

 これでいい。これ以上悪くはならない。ラムリーザは、かえって気が楽になったりしていた。

 ソニアは、苦しそうな表情で戻ってきた。いや、苦しいというより胸が痛いのだろう。

 ラムリーザはバトンを受け取り、気楽な気分で走り始めた。

 ジャレスとセディーナ、両先輩以外はみんな順位を一つずつ落としてきたのだ。ということにより、ラムリーザに責任は全く無い。

 そのおかげでラムリーザは、リラックスしていて身体が軽かった。

 なんとなく調子が良くて、前を走るリゲルを捕らえることができそうになってきた。

 しかしリゲルも最下位はごめんだとばかりに速度を上げる。

 二人は並び、デッドヒート――ただし最下位争い――が繰り広げられることになった。

 四位とは大分開いているので、これ以上順位が上がることはないだろう。

 そのまま終盤までもつれ込み、ラムリーザとリゲルはほぼ同時にゴールすることになにった。

 いい勝負だった、ただし五位争い。順当。まあよい。

「はぁ、ふぅ……、ソニアとユコの代わりに、リゲルとロザリーンが入っていればもっといい勝負ができたと思うんだけどなぁ……」

 息を切らせながらラムリーザはつぶやく。

「ふぅ……、来年はそうするか……、はぁ」

 リゲルも、ラムリーザに刺激されて無理してしまい、普段の冷静さはどこへいったのやら、汗びっしょりになって荒い息を吐いている。

 お互いにそうつぶやきながらも、ラムリーザとリゲルはお互いの健闘を称え合って満足していた。ただし、五位争いの最下位争い。

「ラムリーザを敵に回すのもおもしろいな」

「リゲルの知略を攻略しろか、厳しいなぁ」

「ふん、お前の腕力も俺の知略も、かけっこには役に立たんな。それでも、俺達が組めば怖いものは無い」

「ん、かけっこでは勝てないけど、そういうことにしておこう」

 結果は順当なものだが、非常に充実した戦いとなった。

 こうして部活動対抗リレーは終わり、体育祭は幕を閉じたのであった。

 

「いや、ちょっと待って」

 ラムリーザは、帰り支度をするために教室へ戻ったときに聞いてみた。

「えーと、どこが優勝したのかな? うちのグループ?」

「知らない」とソニア。

「興味ないわ」とリリス。

「忘れましたの」とユコ。

 ソニア達はラムリーザと一緒にほとんど部室に居たから、そう答えるのも仕方ない。

 ラムリーザは、ロザリーンの方を振り返ったが、ロザリーンは「本当に知りたいのですか?」と言って話してくれない。

「いやまぁ、うん、まあいいか」

 ラムリーザは、気にしないことにした。

 参加した種目では楽しめたし、それ以外の時間はいつもどおりのんびりと部室で過ごせた。

 これでいい、これでいい。

 
 
 
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