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お山の大将が選んだ道

 

 レフトールとウサリギの二人は、別に仲間意識は持っていない。それぞれ独自の集団をつくり、ただこの地方の領主の娘であるケルムに対する忠誠心だけで動いていた。

 二人は、どちらがよりケルムに気に入られるか、行動の根底にはただそういう思惑があるだけだった。

 このように、これまでは二人にとってケルムが全てだった。

 しかし、最近はその勢力争いに変化が生まれてきているのだ。

 そう、一連の襲撃事件を経て、レフトールがラムリーザ派に鞍替えしてしまったのだ。

 より強いものに従うという考えを持っているレフトールは、一地方の領主よりも帝国宰相の方が権力が上だと瞬時に判断し、さらにラムリーザの圧倒的な腕力を目の当たりにしたため、ケルムよりラムリーザの方が総合的に強いと判断したのだ。

 レフトール自身はそれでいい、むしろラムリーザと打ち解けようとフレンドリーになっているが、その子分共はどうしたものか、といった具合になっていた。

 それについては、大半はレフトールについて行くという話になっていた。

 まず、レフトールは子分を大切にするタイプで、仲間達と和気あいあいやっているので、あまり子分は離れない。それと、ラムリーザに手を握られて痛い思いをした副将的存在マックスウェルや、夜の決闘で、ラムリーザの周辺警護に当たっていた戦闘のプロ、レイジィにやられた者は、ラムリーザの敵に回ることを恐れて、レフトールについて行くという選択を選んだ。

 僅かだが、ケルムに恩義があった者は、ウサリギについた者、つるむこと自体を辞めてしまった者と居たが、それはほとんど少数派だ。

 

 昼休み、レフトールが子分二人と食堂で昼食を取っていると、そこにウサリギがやってきた。

 ウサリギは、レフトールに冷たい視線を送りながら尋ねてくる。

「お前、ケルムから離れるって本当か?」

 レフトールとウサリギは、共通の目的があったから二人が本気でぶつかることはなかった。しかし、その目的がずれてしまったことで、今後ぶつかる可能性が高まってしまう。

 だがレフトールは気にしていなかった。ラムリーザが、弱点はあるものの本気で強いからだ。だからレフトールは、悪びれもせずにあっさりと答えた。

「そうだね」

「お前……、癒し猫会合はどうするんだよ」

「ん~、パス。いや、今後はもう出ないな。お前の好きにやってくれていいぜ」

「ふん、そういうことか。じゃあお前と権力闘争することも無くなったわけだ。精々大人しくしておくんだな」

 レフトールは、ウサリギの皮肉に対してニヤリと笑って答えた。

「俺、ラムさん派、いや、ラムリーザ派になったからよろしく」

「ラムリーザ? 誰だそいつは?」

「知らないならそれでいいぞ。ラムさんに手を出して勝手に社会的抹消されたらいいぜ。ああ、その前に俺が黙っていないけどな」

 ラムリーザの事を知らないウサリギは、フッと鼻を鳴らしてレフトールを挑発する。

「お前がそんなわけのわからん奴に取り入るような馬鹿とは思ってなかったぜ。そういえば大怪我していたな、そいつにやられたのか? お山の大将レフトール様も落ちたもんだな、ふっふっ」

 ウサリギは、言いたいだけ言うと、レフトールの前から立ち去るのだった。

 その後姿に、レフトールは小さくつぶやいた。

「さて、最後に笑っていられるのは、果たしてどっちかな」

 ウサリギに言われ放題で終わったレフトールを、二人の子分は不満そうな目で見つめていた。不満だけでなく、この選択で正しいのかという不安の色も含まれているようだ。

 するとレフトールは、テーブルに肘をついて右手を立てて広げ、その指先を左手でクネクネと動かして見せるのだった。

「ようやくテーピングが取れた。たたが一地方領主の娘と、宰相の息子、どっちが上かお前らも考えろよな。それと、腕を本気で掴まれたマックスウェルならわかってるだろ? ピートもあいつのボディガードみたいなやつにやられただろ? あいつ、いやラムさんは本物だって」

「そ、それもそうだな」

「う、うん」

 二人はそういうと、少しは安心したような目をレフトールに向けるのだった。

「ラムさんは強い。弱点は俺がカバーすれば、怖いもの無しだ」

 レフトールはそれだけ言うと、食事を再開するのだった。それにレフトールは気がついていた。学校用務員の肩書きで、ラムリーザの警護に当たっていたあの男が学校に入り込んでいるのを……。

 

 

 同時刻、軽音楽部部室にて。

 昼休みも惜しんで練習しようとしていたラムリーザ達は、また違った来客を迎えている真っ最中だった。

「あっ、アフレコだ!」

 ソニアは楽しそうに叫ぶ。

 そう、電脳部のメンバー、クラスメイトのデドロワとガーディアが、台詞収録のために部室を訪れていたのだ。ステージにおいてあったマイクをテーブル席に持ってきて、そこで収録しようとしていた。

 ラムリーザとリゲルは、暇なのでドラムとギターで合わせて練習しようとしたが、雑音が入るとの理由でデドロワに止められてしまっていた。

「いや、ここ軽音楽部の部室だよね? なんで演奏したらダメなんだろう」

「お前が妙な仕事を引き受けるからだろ?」

「妙とは何だ?! お前もギャルゲー好きだろ?」

 リゲルが妙な仕事と言うので、デドロワは反論してくる。だがリゲルは、フッと笑って言いのけた。

「ギャルゲーは興味ないな。エロゲーならやるけどな」

「いや、それ自慢にならないって」

「いや、リゲルは分かっている奴だ」

 それぞれ別の感想を述べるラムリーザとデドロワ。どうしてこうなった? リゲルってこんな奴だったっけ?

「清らかさが足りない会話しているねーえっ!」

 ソニアはそう叫び、デドロワも昼休みの時間がもったいないということで、早速台詞収録を始めることにした。

 ラムリーザとリゲルは、仕方なく収録状況を見守るのであった。

 

「さて、今日はエッチシーンの収録だ」

「いや、いかんだろそれは」

 ラムリーザは、思わず突っ込んでいた。そもそもR18はやらないという約束だったはずだ。

「あぁん、ふえぇ……」

 調子に乗るソニアを、ラムリーザは後ろから叩く。

「ふぅん、ソニアはラムリーザとやってる最中、そんな声だすんだ、くすっ」

 リリスも余計なことを言い出すので、ラムリーザは「帰ってもらおう」と言って電脳部の二人を追い返すことにした。

「冗談、冗談だってば。ほら、この台詞を読んで、最後の告白シーンだぞ。ではユナから行ってみよう」

 デドロワは、リリスのことをユナと呼ぶ。ゲームの中ではそういう名前なのね。

 そいういわけで、リリスは原稿を手に取り、マイクに近寄って語り始めた。

『待ってた――、いや、ごめんなさい。こんな所に急に呼び出したりして。私は今日から変わるの。今までの私は、自分の才能に酔って人を見下してばかりいた。誰から見ても嫌な女だったでしょうね』

 そこまで一気にしゃべり、一息つく。

「よくわかっているじゃない、謙虚さの足りないリリス」

 思わずソニアは突っ込みを入れてしまい、すぐに「こらぁ、茶々を入れるんじゃない」とデドロワに怒られてしまう。

 リリスは、ジロッとソニアを睨みつけるが、すぐに次の台詞を語りだした。

『でも、いつの頃からかあなたに恋していると気がついたの。でも私は吸血鬼、人間とは付き合えないのかもしれない……』

 吸血鬼とか言っているが、いったいどんなゲームなのだろう? ラムリーザは、電脳部が作っているのは恋愛シミュレーションゲームだと思っていたが、その世界設定がわからなくなっていたりした。

「うん、吸血鬼はラムと付き合えないよ。だから付き纏わないでね」

 ソニアはいちいち一言入れる。雑音は後の編集で消すとして、リリスは台詞を読み続ける。

『でも、あなたに嫌われるなんて聞きたくない!』

 リリスは、意図的にラムリーザの目を見つめて言った。ラムリーザに告白しているつもりなのだろうか?

 そこまで聞いたところでデドロワは、「ここで実は僕もユナのことが――」という台詞が入るんだよと教えてくれる。

「実は僕もユナのことが――」

 ラムリーザは、なんとなくつぶやいてみながら考える。告白されるタイプか、ソニアも好きだから連れて行ってと言ってくれれば、この春にあまり悩む必要は無かったのかもしれない。

「ユナ幸せになってねー、リリス振られたねー、ユナに寝取られたねー、ざまーみろ――ひゃうん!」

 またソニアが余計なことを言うので、ラムリーザは今度はソニアの大きな胸を横からボヨンと殴りつけてみるのだった。

「なっ、何を?!」

「ちょっとは静かにしてなさい、デドロワ達が困ってるだろ?」

「むーん……」

 ソニアは、ぷいと横を向いて不貞腐れてしまった。

「改めて、こほん――『実は僕もユナのことが』」

「いや、主人公の声は要らないから」

「そ、そうか……」

 だが、一瞬でもラムリーザに合いの手を入れてもらえたリリスは嬉しかったのか、より感情を込めて次の台詞を続けた。

『本当? 私の夢は叶ったのね?! うれしいわ、私はもっと好かれるいい女の子になるよう、努力するわ』

「OK」

 デドロワのOKサインで、リリスの収録は終了した。リリスの演じるユナパートは、これですべて終了したことになった。

 だが、ソニアはまたしても要らん事を言う。

「かくして、ユナ……じゃなくてリリスは、クリボーと正式に付き合うことになったのでした、めでたしめでたし。よかったねー、馬鹿みたい、ははっ」

 リリスはむっとして、席を立ちソニアの後ろに回りこむ。テーブルの上のマイクを掴んでソニアの口元に寄せ、開いているほうの手で、ソニアの膨らみの激しい胸を揉みしだいた。

「あっ、ひゃあんっ、くっ、やめっ、ふえぇ……」

「はい、今のあえぎ声も録音できたかしら?」

「一応……」

「効果音に使ったらいいわ、くすっ」

 いや、使えないだろう。使ったらR18になってしまう。

 ソニアは憤慨して、後ろに立つリリスの方へと向き直ると、靴下を太もも半ばから足首まで思いっきり下げてやるのだった。またやるか……。

 そしてお決まりの怒声――。

「何すんのよこの変態乳牛!」

 後はもうぐちゃぐちゃ。

 昼休み終了の予鈴がなるまで、ソニアとリリスは低レベルな罵り合いを続けていたのだった……。

 
 
 
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