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音源が壊れたのでダンスパーティで生演奏するよ

 

 日が暮れた頃、グラウンドでは文化祭最後のイベントであるダンスパーティの準備が進められていた。

 グラウンド中央に木を積み上げて、大きなかがり火を作ろうとしている。

 ユコが言っていた噂では、後夜祭のダンスパーティで踊ったカップルはうまく行き、そこでキスをしたカップルは、永遠の幸せを約束してくれるとのことだが、どういったものやら。

 

 ラムリーザは、リゲル、ジャンの二人と、他に誰も居なくなった部室で談話していた。

 つい数十分前までは賑やかな空間だったが、今は祭りの後といった感じで寂しい。

 ソニア達は、喫茶店が終了した後、メルティア達に学校を案内して回るとか言い出して出て行ってしまい、ここにはもう居ない。

「グラウンドで何を始めるんだい?」

 ジャンの問いに、ラムリーザは興味なさそうに答えた。興味がないというよりは、ユコの噂話もあってめんどくさいと考えているようなものだ。

「後夜祭でダンスパーティやるんだってさ」

「ふーん、ラムリーザは参加しないのか?」

「相手が居ない。学校の伝説がどうのこうの言ってたけど、今更ソニアと踊ってもなぁ」

「なんだそりゃ」

 そこでラムリーザは、ユコの言っていた噂話をジャンに聞かせるのだった。

「なるほどね。伝説の樹とか、伝説の山とか、そんな類のものか。そんな伝説って誰が言い出すんだろうねぇ」

「だろ? ソニアと踊るというのも今更だし……、まぁ、ソニアが踊りたいと言うのなら拒絶する理由はないけど、どっか行っちゃったしなぁ」

「うーむ、それじゃあ俺はちと狙ってみるかな?」

「ん?」

「いや、こっちの話」

 ジャンは一瞬何かを考えたようだが、ラムリーザに探られそうになると、すぐに普段の表情を取り戻して何もなかったように振舞う。

 ラムリーザは、部屋の隅に押しやられているソファーに腰掛けているリゲルに話しかけた。そのソファーは、いつもなら部室の中央に置いていて、雑談部と化す場所になっていた。

「そうだ、リゲルはロザリーンと踊ればいいんじゃないかな?」

 リゲルは、眉間にしわを寄せて少し考えていたが、すぐに頷いて立ち上がった。

「そうだな、そうするか。それじゃあ俺はロザリーンを探しに行くからな」

 そう言い残して、リゲルは部室から立ち去っていった。

 リゲルも本当に変わった。以前のリゲルなら、ダンスパーティなど鼻で笑っていただろう。

 グラウンドを見ると、かがり火の準備は完了したようだ。火が付き次第、ダンスパーティは始まるだろう。

「ラムリーザ、ソニアが居ないのなら俺が相手をしてやろうか?」

「ジャンも変わったなぁ。女に飽きて男に走るようになったかぁ」

「実はラムのことが……」

「ジャン……」

 二人はゆっくりと顔を近づけ――。

「そういえばさ、今度S&Mというコンビを……って、SMじゃないぞ、それぞれの名前の頭文字を取っただけの、俺とお前のJ&Rみたいなもんだ」

「急に話を変えるな!」

 ラムリーザは、調子に乗って近づけた顔をのけぞらせながら思わず大声を出す。

「お前がその気になってどうする。でさ、そのコンビだけど、結構見所あるぞ。二人組みの女の子で、ダンスと演奏するんだけど、そのダンスの娘がまた可愛いんだ。ちなみに演奏の娘はお前の――」

 

 ガチャッ

 

 突然部室のドアが開き、ジャンは言葉を止める。

 外からは、息を切らしたユグドラシルが駆け込んできた。

「こうして邪魔が入るのが、ラブコメの定番で、ある」

 ジャンは、何か達観した感じで言ってのける。いや、ラブコメって……。

「邪魔が入る前に、普通に話題を変えたような気がするけどなぁ」

「ラムリーザくん!」

 雑談している二人のところに、ユグドラシルは駆け寄る。

「どうしたんですか? そんなに慌てて」

「音源が壊れた……」

 そういえばかがり火の準備ができたのに、なかなか始まらないなとラムリーザは思っていたりしたのだ。

 始まらない理由は音源のトラブルだったか。そういえば体育祭の時から、音源の調子はよくなった。ここに来て、とうとう壊れてしまったのだろう。

「どうするんですか? 中止?」

 中止になった方が、ラリムーザ的にはめんどくさくなくて良い。だが、ユグドラシル的にはそうもいかない。

 しかし、音楽がかけられなければダンスはできない。

 そこでユグドラシルが提案したのが、ジャレスやセディーナと協力して自分達で演奏してしまおうということだった。

「自分もバイオリンで参加する。忙しいのにわざわざ時間を割いて体育館でバイオリンの独演会やった自分、大勝利!」

 なんだかよくわからないが、拳を天に突き上げてガッツポーズしてみせるユグドラシル。

 いや、大勝利なのは良いが、本当の勝負はこれからではないだろうか? 文化祭のラストイベントが成功するかどうかの瀬戸際じゃないか。

「それはすごいですね」

 ラムリーザは他人事のように答えたが、ユグドラシルはさらに言ってきた。

「そこでラムリーザくん、君にも参加して太鼓やってもらう。そこのスネア、外して持っていけるだろう?」

「ええっ? 急に何ですか……」

「頼む頼む頼む、やっぱり打楽器もないと盛り上がらないよ。急いでくれ、頼むっ」

 ユグドラシルは、手を合わせて頭を下げている。まぁ、焦っているよな。

 ラムリーザは、そこまで頼まれて断るのも気が引けたので、「わかりました」と言ってステージに戻ってスネアを台から外す。

「はい、これがベルト。吹奏楽部から借りてきた」

「用意が良いですね、さすがユグドラシルさん」

 ラムリーザは、スネアにベルトを引っ掛けると、肩から吊り下げて準備した。

「これでラムリーザと踊れなくなったかぁ」

「悪い、他の娘探してくれ――って、冗談じゃなかったのか?!」

 笑い合いながらラムリーザとジャンは、先を急ぐユグドラシルの後を追うのだった。

 ラムリーザは、これでもまあいいかと思う。これで、伝説とやらに付き合う必要がなくなったというものだ。

 

 

 グラウンド、ダンスパーティ会場にて――。

「お待たせ致しました。これより文化祭最後のイベント、ダンスパーティを始めたいと思います。みなさん、ゆっくりと甘い一時をお過ごしください」

 文化祭実行委員長ユグドラシルの挨拶で、ダンスパーティが始まった。

 ジャレスとセディーナのギター、ユグドラシルのバイオリン、ラムリーザのドラムからなる軽快な音楽が、楽しい雰囲気を作り出していた。

 

「あ、ダンスパーティ始まったね」

 校内をうろうろしていたソニアは、窓からグラウンドを見て気がついたように言った。

「ふーん、ダンスパーティやるんだ。ソニアたん一緒に踊る?」

「いや!」

 ソニアは、メルティアの誘いを一蹴する。

「行けずねぇ。折角おっぱい揉み揉みダンスをしてあげようと思ったのに」

「何それ気味が悪い! そんなダンス一人でやってたらいいじゃないの! あたしはラムと踊るんだから!」

 ソニアとメルティアが不思議な言い合いをしていると、そこにリゲルが現れた。

「よし、見つけることができた」

「どうしたのよ、氷柱リゲル」

「ふん、下品な女に用は無い」

「なっ、おっ、まっ、誰が下品よ!」

 リゲルは、狼狽するソニアをうるさそうに手を振って追い払うと、ロザリーンの方へと向き直った。

「ロザリーン」

「はい」

「ダンスパーティ行くぞ」

「はい喜んで、というわけでみんなまたね」

 ロザリーンは、ソニア達に手を振ると、そのままリゲルの手を取ってグラウンドのダンスパーティ会場へと向かっていった。

 その様子を見ていたソニアは、むむむと唸ってキッと上空を見つめて言った。

「ラムとダンスしなくちゃ!」

 その直後、ラムリーザを探して駆け出す。

「そうね、ラムリーザとダンスしなくちゃ」

「ラムリーザ様と!」

 ソニアと同時に、リリスとユコも駆け出した。残されたメルティアとヒュンナは、ぽかーんとして去っていく三人を見つめているのだった。

「って何よ! なんであんたたちもついてくるのよ!」

「文化祭のダンスパーティで踊り、キスをしたカップルは永遠に幸せになれる。これは寝取るチャンスですわ!」

「寝取る言った! こいつ堂々と寝取る言った! ちょっとリゲル、待ってよ!」

 ソニアは、グラウンドへと向かっていったリゲルに追いついて、後ろから声をかけた。

「リゲル、ラムはどこ?!」

 リゲルは、うるさそうに「部室」とだけ答えると、そのままソニアを無視してロザリーンと共に校舎から出て行った。

 それを聞くと、リリスとユコは当然のように部室へと駆け出すのだが、なぜかメルティアまでついていくのだった。

「ちょっと! なんでメルティアまで行くのよ!」

「ソニアたんから、ラムたんを奪うチャンス」

「くっ、どいつもこいつも……」

 ソニアも必死で追いかけるが、巨大な胸が邪魔すぎてうまく走れず、どんどん差を広げられてしまう。

 こうして一同は、元居た部室へとまっすぐ戻っていくのだった。一人残されたヒュンナは、仕方なくダンスパーティ会場へ見物に行くことにしたようだ。

 

 ソニア達が部室に戻ったとき、既にそこには誰も居なかった。

 最後まで残っていたラムリーザは、ユグドラシルに頼まれてダンスパーティ会場で演奏をしている真っ最中だ。

「むむむ、ラムはどこに行っちゃったのよ……」

 そんな事情を知らないソニアは、一人地団駄を踏んでいる。その隣で、リリスは何かを思いついたように、ポンと手を打って言った。

「ラムリーザを最初に見つけた人がダンスできるというルールで、正々堂々と勝負しましょう」

「いいですわ」

「よくない!」

「よいよい!」

 リリスの提案に、ユコとメルティアは同意して、ソニアは反対している。そりゃあそうだろう。ソニア以外にとってはダメで元々、ソニアだけ奪われるというリスクがついているのだから。

「多数決で決まり、はいスタート!」

 リリスはそう叫ぶと、真っ先に部室を飛び出していく。その後を、ユコとメルティアも追いかけて出ていった。ソニア一人、部室に取り残されることになってしまった。

「勝手にしろ。どうせラムはあたし以外とキスしないはず。精々一緒に踊ってくれる所までが関の山ね」

 ソニアは、ふんと鼻を鳴らすと、部室の中を見渡した。今日は、ここで一日中ラムリーザと一緒に演奏していたのだ。

「ラム、どこに行っちゃったの?」

 ソニアは、誰も居ないドラムセットを見つめてつぶやいた。なんだか寂しくなって、「ふえぇ……」と声が漏れる。

「ラムの嘘つき、ずっと一緒に居てくれると約束したのに……」

 ソニアはドラム椅子に座り、何気なくスティックを叩きつけようとした。しかしそこで、叩こうとしたスネアドラムが無いことに気がついた。

「太鼓が外れてる……?」

 ソニアは、ある事に気がついて窓辺に駆け寄った。グラウンドから聞こえる音は生演奏だ。スネアドラムの音も聞こえる。

「ラムはあそこだ!」

 ソニアは確信に近い気持ちを得ると、急いでグラウンドへと飛び出していった。

「ラム! 今行くよ! ラムはあたしと踊るべき! あんな根暗吸血鬼や、呪いの人形、清らかさが足りない変態女なんかとダンスするなんて許さないから!」

 ソニアは、ダンスパーティの演奏会場へと駆けていくのだった。

 
 
 
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